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詐欺師の恋  作者: lahai_roi
11/23

すれ違いと偶然と


一週間もすれば、噂はあっという間に社内に広まった。




内容は、憲子経由で直ぐに知ることができた。






要するに、中堀さんが私の兄ではないことが明るみになったおかげで、以前の噂が再浮上したのだ。






つまり、宏章に振られた次の日に、もう新しい男ができていたと。





お騒がせな阿呆鳥の櫻田の相手の話は、酒のつまみになる。






その上、人の不幸は、蜜の味と言う。





つまらない社会生活において、この手のものは憂さ晴らしの玩具だ。







「ほーんと、男ったらし」






化粧室に入れば、これ見よがしに言われてしまう。




目線が交わらないのが性質が悪い。





まるで、私なんて居ないかのように振舞って。






「自分が非難されるのが嫌で、適当な嘘吐いちゃって。こんな女、佐久間さんも別れて正解よ。」






「ま、どーでもいいけど。社外出ただけ、マシでしょ。」







こそこそ、ひそひそ、チラチラ。





「あ、あれだよ。名前、なんだっけ?なんにでも付いてく馬鹿な…、アルマジロか!」








違うって。





歩いていれば、指を差され、背後から聞こえる声に思わずツッこむ。






しっかし。






脱力しながら更衣室に入り、後ろ手で戸を閉めた。




ラッキーなことに、誰も居ない。




―出所は一体誰なんだろう?




自分のロッカーに寄っかかって、腕を組み考える。





いつもは、色んな目撃者がそれぞれ話して、それが団子状に増えていって全く違う作り話になっていく。




だが、今回は。




憲子の話しによれば、中堀さんの悪い噂(詳しくはまだ知らない)もあるようだから。




どこまで本当かはわからないけれど。




少しは、中堀さんのことを知っている人間ということになる。




でも、誰が?




何のために。





どんなメリットでそれを話したのだろう。




しかも、この時期で。







私への嫌がらせか、それとも…






ガチャ





ドアの開く音に、彷徨っていた思考が戻る。






「櫻田さん。」






心の準備が全く出来ていなかった。




そのせいで、名前を呼ばれた時、微かに震えが走った。







「椿井、さん…」






厚化粧のお局、椿井静華が、厳しい表情でそこに立っていたからだ。



腕組みが固くなるのを堪え、なんとか解いた。









「今日はもう帰るの?」






「あ。。はい…」






定時はとっくに過ぎていたし、憲子も今日は出先で直帰になっていた。




その上会社は今、ものすごく居心地が悪い。







「…そぉ…お疲れ様。」





椿井が、噂を知らないわけがなかった。




私は帰り支度をすることもできず、突っ立ったまま。




口の中はカラカラだった。





そんな私を余所に、椿井はさっさと身支度を整えると、高そうなバッグを肩に掛けた。







「お先に。」






「お疲れ様でした!」






更衣室を後にしようとドアノブに手を掛けた椿井に頭を下げると、椿井の動きがぴたりと止まる。






「…私は、お兄様本人から聞いたから、噂は真実ではないと思っているわ」





「え…」




思いもよらない言葉に顔を上げた時には、パタンとドアが閉まった音だけがして、椿井はいなくなっていた。






そ、そうだった。




危機を脱したにも関わらず、冷や汗なるものは流れていく。





がらんとした更衣室に、私はひとり、額に手をやった。





中堀さんから直接私の兄だと言われた人が、社内には二人いる。






それが、受付の泉川と、お局椿井だった。







「コホ、コホ」





まだ、退いてくれない痛みが喉を刺激する。






「…あー、、どうしよ…」





状況はひどく厄介なものになっている。





こじれ過ぎている。




まぁ、噂なんて、大体そんなものだけど。






ただ、中堀さんの名前が、本名がここまで知れ渡るとは正直思って居なかった。





彼は完璧部外者だ。






それに、彼だって人に知られたくは無いだろう。







「椿井さんが信じてくれててもなぁ…」






着替えを開始しながら、ふぅと溜め息を吐く。







受付の泉川の視線から察するに、彼女は信じていないだろう。





私が何か言われるのは、まだいい。





だけど、このことで、中堀さんに何かあったら嫌だな。







トートバッグを肩に掛けて、更衣室を出た。





「あ。」





人に接触するのを避ける為に、階段で降りている途中、あることに気付く。



そうだ。




中堀さんは、ここに来る時には中堀さんじゃなかった。




黒髪の、スーツの、素敵男子。





金髪の、パーカーの、美青年とはちょっと違う。







「大丈夫かな。」






中堀さんが、佐藤一哉に戻らない限りは、バレることはないと思う。



まず同一人物だとは思われないだろう。




それほど、中堀さんの仕事は完璧だった。





だけど。。。





息切れしながら、最後の一段を下りて、また頭が悩みだす。







噂の発端がわからない限り、気楽に構えている訳にはいかない。





中堀さんのことを本当に知っている人ならば、金髪の中堀さんを知っているだろう。






そうなってくると、断然分が悪い。







―暫く、会社近くで会うのはよしたほうがいいって言っておいた方が良いな。






心の中でそう決めて、階段側から会社のゲートに向かった。






受付はもう居ない。




定時で帰らずに、時間をずらしたのはこのためでもある。





―でも、無駄に心配かけたくないから、噂のことは黙っていよう。





自動ドアを通り抜ければ、冷たい空気が頬を刺す。








「寒い…」







私は臙脂色のマフラーに顔を埋めて、コートのポケットに手を突っ込んだ 。




中堀さんはこれから仕事かな。



メール、しようか。



それで、電話できる時間になったら電話してもらおうか。





なんか、疲れた。




声が、聞きたい。





そんな風に思う自分。結構心が擦り減っているんだなと自嘲し、一歩踏み出した時だった。






「櫻田」





自分を呼ぶ声に、私は反射的に顔を上げる。





「…今、帰りですか。」





気付けば、警戒心丸出しの声になっていた。






「まぁーね。」






会社前の植え込みで、一服していたらしい彼は、にやりと笑って私の前に立つ。




「お前さ、今中堀と付き合ってんの?」




「!?」





まさか彼の口から、中堀さんの名前が出てくるなんて思いもしなかった。





「何、言って…」





「折角さ、俺が佐久間にお前のこと紹介してやったのに、これじゃ俺の面目丸つぶれじゃん?」





しっかりと私を見る彼に、心臓が嫌な音を立てる。






「紹介って…どういうことですか…?」






「櫻田は、都合の良い、聞き分け上手な女だから、手元に置いとくといいよって言ったんだよ。……一人に絞らずとっかえひっかえやってたろうよ。今更好きとか嫌いとかないだろ。」






眩暈が起こりそうだった。





「大人しく社内に居ろよ、櫻田。都合の良い女でいてくれないと色々困るんだよねぇ。」




同時に、肩を掴まれた。




「っ、放してください」





「いいじゃん。俺等だってそーいう仲だったろ?都合良い関係だったじゃん。」





鳥肌が立った。




吐き気がした。






宏章のことにおいても、絡んでいたということか。



去年、宏章と私の間にあった出来事も、知っているのだろう。



二股かけられてるのに、知らないふりをした私は、確かに都合の良い人間だったと思う。





「ほんとに、、止めてください…私急ぐので…」




だけどいつだって、本気で愛されたいと願ってた。





「大丈夫だって。ちゃんと元に戻らせてやるから」






私の反応などお構いなしに、ぐいぐいと引っ張られて方向を転換させられた。





すごい嫌だ。




触られるの、すっごく嫌。




力では勝てないから、叫んでやろうかしら。





すっと深く息を吸い―






「飯山先輩」






聞こえた声は凛としたものだった。





勿論私のじゃ、ない。





「…藤代…」






緩んだ力で、身が軽くなった私が振り返ると、緩い癖っ毛、黒髪眼鏡の、藤代くんが、そこに居た。







「俺、櫻田と今日約束してるんですけど、何か用事ですか?」






約束なんてひとつもしてないけど、藤代くんは飄々と嘘を吐いた。




「何々?藤代ともそーゆー仲なわけ?さすがだねぇ、櫻田。」





飯山はへらりとおどけて返答し、私のことを見下すように視線を交わせる。



かっと顔が赤くなったのが、自分でもわかった。






「違っ…」




「藤代、飽きたらたまには貸せよ。」





「何言ってるんですか先輩。櫻田は先輩の言うような簡単な女とは違いますよ。」




藤代くんの声が、決して大きくはないけれど、何故だかすごく響いた。



「今までの相手が馬鹿ばっかだったから、自分を低く見過ぎて、本気で人を好きになることに臆病になってるから手強いですけど。櫻田はかなり、良い女です。だから馴れ馴れしく触らないでくれます?」





「…お前、本気なわけ?」





飯山が睨み付けるも。





「本気です。だから櫻田が俺のものになったその時は、大人しくしててくださいね。もしも櫻田に何かあったらー」



言いながら、藤代くんは飯山から私を引き離した。




「容赦しませんから」




藤代くんが、にこりと笑う。




「さ、行こう、櫻田」




流れるように向けられた視線にどきりとしながらも頷くと、藤代くんは「先輩、お疲れ様でした」とだけ言って、駅の方角へ歩き出す。





「…藤代!言っておくけど、櫻田の今の相手は俺らよりタチ悪ぃぞ。」






後ろから飯山の声が追いかけてきた。




「お前、守りきれるかな?」








========================





引かれる手が、熱い。




私の頭は、パンク寸前。





「ふじっ…藤代っくんっ、ちょ、ちょっと待って…」





藤代くんが歩くのが速いわけじゃない。




だけど、さっきの飯山との会話が。



動悸を激しくしている。





なのに、藤代くんは前を向いたまま、どんどん歩く。






「ふじ…しろっ、くんっ…ってば!っおわっ」






もう一度呼びかけると、今度は突然止まった。




おかげでちょっと転びそうになって、振り返った藤代くんが支えてくれる。






「あ、ありがと…」





「悔しくないの?」






ちょうど、歩道橋の下。




いつかの、曲がり角、だった。




藤代くんに両腕を掴まれた状態で、挑むような目で、見つめられた。





少し、怒っているようにも見える。






「あんな風に言われて、悔しくないの?」






何も答えない私に、藤代くんはもう一度繰り返す。






「……自業自得、、、だから…」





強い視線に、耐えることなどできずに、俯く。





「ちゃんと、見て。」





なのに、腕を引っ張られて、顔を下げることを許してもらえない。






「自分のせいだから、何なの?」





容赦ない問いかけに、泣きそうだ。





「あんな風に言われても黙ってるの?それで力ずくで連れて行かれて良いの?男の力に勝てるとでも思ってる?」






「そんな…っ」






あー、最悪だ。





会社の奴らになんていわれようとも、泣いたことなんてなかったのに。




涙が、零れちゃった。






「っ、そんな風にはっ…思って、ない」





しゃくりあげるとか、有り得ない。






「―ごめん」






あれ。





あれれ。





なんだ、これ。





さっきまで、腕を掴まれていた筈なんだけど。





今は、藤代くんが、私を抱き締めてる。






「ふじ、しろく…」





「―ごめん。ただの嫉妬だよ。泣かせるなんて最低だ。」






ストレートな藤代くんの物言いに、かぁっと頬が熱くなった。





ど、どうしよう。




なんか、この流れ。




いや、さっきの飯山との話の意味も聞いてないけど。






「ふじ、しろ、、、くん??」






「好きなんだ。」







間髪容れずに、余計なものも一切なく、直球だった。






「ずっと、好きだったんだ。」






どこかで。




携帯が、鳴ってる。




でも、固まって動けない。




抱き締められすぎて、動けない。






今。




藤代くんは、何て、言ったの?






中堀さんとは違う言葉で。




中堀さんとは違う腕で。




涙でぐちゃぐちゃの私を押し付けた胸は、中堀さんの香りとは違うけど、甘い香りが、する。




夏の初めに咲く、クチナシみたいに甘い、香り。





それから。





いつも落ち着いている中堀さんとは違う、割れてしまいそうな、胸の音。





真冬の風すら、わからないくらいに熱を帯びて。






「―うそ、でしょう?」






やがて、くぐもった声が、藤代くんの身体に響く。






「―え?」






「ずっと…す、好きだ、なんて、、嘘、でしょう?」






「…どうして、そう思うの?」






藤代くんは、同期入社だけれど、配属の課が違ったせいもあって、すれ違う際に挨拶する程度の存在で。




噂が流れ出すようになってからは、それすらなくなった。



完全に違う種類の人間で、嫌われていると自覚していた。




今年度から同じ課にはなったけど、自分のことを気に掛けてくれると感じるようになったのは、去年の忘年会の時からだ。





「…だって…私のこと、、嫌ってた…挨拶もしてくれなかったし…」






私が言うと、藤代くんが、ふ、と短く息を吐いた。





「好きな女が良い様に他の男に振り回されてるのを聞いたら、いてもたってもいられなくなるから。無関心でいるしか平常心を保てなかった。」






「!」





「笑えるだろ。俺、そんなキャラじゃないし。これでも何度も諦めようとしたんだ。なのに同じ課になるしな。」






自分自身に心底呆れているというような物言いだった。






「残酷だなって思ったよ。だけど、逆にチャンスかもしれないとも思った。」






「で、でも!私今好きな人が…」






「知ってるよ。」






そこで初めて、藤代くんは私と距離を空けて、視線を交わらせる。






「知ってる。今までだって、ずっとそうだった。」





二度同じ言葉を繰り返し、私を見つめる藤代くんの目は切なさを帯びていた。






「だけどもう、櫻田が傷付いてくの、近くで見てるの限界。偶然が俺に橋渡ししてくれんのを待ってても、無理だから。強引にでも、奪いに行くことに決めたんだ。」







縫い留められたように、藤代くんから目を逸らすことが出来ない。






それでも、力を振り絞り、私は小さく首を振った。





「駄目だよ…私は、、藤代くんをそんな風に見たこと、ない。応えられない。」






下ろしていた手で、藤代くんの胸を押すけど。





「!」






逆に藤代くんの片手で、両手首を掴まれてしまった。







「放し…「中堀、、、さんって…」」







藤代くんは、私から目を逸らしてくれない。








「自分から、櫻田の兄だって言ってなかった?」







「!!!」






なんで。





社内で、中堀さんが直接兄だと言ったのは、多分二人だけの筈なのに。






どうして、藤代くんが知ってるんだろう。







「櫻田はどうしてあの人と知り合ったの?」






息って、どうやって吸うんだっけ。




どうやって吐くんだっけ。






「ふ、、藤代くんには…関係、ない…」






「櫻田。」






駄目だ。




目の動きが、私の動揺を大いに物語っている。




藤代くんと、目を合わせていられない。







「い、いいのっ。放っておいて!」






ありったけの力を籠めて、私は藤代くんを振り払った。




さっきはびくともしなかったのに、この時動いたのは、藤代くんが力を緩めていたせいだろう。





だけど。




そんなの、考えてる余裕は私にはなかった。






「帰る!」





高いヒールを履いてなくて良かった。





上手い捨て台詞も何も思いつかないまま、ついて出た単語だけぶつけて走ったから。





空は晴れていたのに、真っ暗で。




新月なのか、月さえも見えなかった。






「っはぁ、はぁ…」






若くない、と思うのは、走ると直ぐに息切れするから。





駅の光が見えた所で、減速し、最終的にとぼとぼと歩いた。





藤代くんが追いかけてくるかしらと少し心配になったけど、よく考えたら藤代くんは車なんだった。




会社に置いてあるんだろうから、本当に偶然居合わせたあの場所で、私を守るために、合わせてくれたんだ。






そう思うと、溜め息が零れた。




喉に何かがつっかえているような、嫌な気分だ。






「あ―」





鞄の中で携帯が震えたのが伝わって、さっきの着信を思い出した。






「誰だったんだろう。」





表示を確認すると。






「!!!」





中堀さん、からだった。






メールも、一件、入っている。



逸る想いで、開くと。







【時間が出来たら、電話して】






いつも、本文の最後に句点のない、中堀さんからのメールだった。




普段、メールを余りしない中堀さんからの、珍しい電話の催促。







「っつ…」






乾いた筈の涙が、湧き上がってくる。











よりによって。







中堀さんと初めて逢った場所で。






他の人に抱き締められて。





好きだと言われた。






中堀さんから電話があったのに。





私は他の人の腕の中に居たの。





私が好きなのは、中堀さんなのに。






「うっ…ひっ…」






携帯の画面に、ぽたぽたと、涙が落ちて、濡れる。






貴方に会いたいけど。





貴方の声が聞きたいけど。









何故か。






電話を掛け直すことが、できなかった。




========================




翌朝の土曜日。






《…はい》






明らかに眠たそうな、中堀さんの声が、携帯を通して耳に届く。






「あっ、おは、おはようございますっ!!あのっ、昨日はごめんなさいっ、私早くに眠ってしまって…」





私は、ベットの上に正座しながら、思い切り頭を下げた。





只今の時刻、am7:22。




色々考えて結局よく眠れなかった。






《あー、もう、いいよ。具合でも悪かったの?》





中堀さんの反応が悪いものではなかったので、私は聞こえないように隠れて安堵の息を吐く。






「ちょっと風邪気味で…咳だけなんですけどね。」






《忙しいの?最近。》






「…はい、一応決算期が近づいてるので…空生、、さんこそ、風邪はいかがですか?」






《ふっ…まぁまぁ、かな。》







今、笑った。




明らかに、ふって、笑った。



だって、仕方ないじゃん。敬語なのに、名前だけ呼び捨てとかできないし!




恥ずかしいし!






「何ですか、それ。それじゃ心配です」





中堀さんに見えないのは重々承知しているのだけれど、口を尖らせて言えば。






《心配、して。花音。》





「!!!」




顔を真っ赤にさせられた。




《顔、見たい》





中堀さん、どうしちゃったんだろう。




なんて、ストレートなんだ。




私は一人、身悶える。






「えっとえっと、じゃあ今から!今から行きます!!」





《んーん、、、駄目だ…ケイと打ち合わせがある。》





「えーー…じゃ、明日!明日行きます!!」





《明日も、、難しい…》





「……」





なんだ、これ。




新手のいじめか?





私は耳から離した携帯を無言で睨みつける。






《月曜日、夜なら空く》






「月曜!?」





月曜日は、確か私の方が夜が遅くなる。




火曜の朝一で提出しなければならない仕事があった。







「月曜日は、、、仕事がいつ終わるか、わからないんです…」





《いいよ、俺、次の日休みだから、行くよ》





「!?」





う、嬉しい。




中堀さんから会いに来てくれるとか、超嬉しい。





―でも。






「私の家の近くに来てくれますか?」





《…いつ終わるかわからないんでしょ?会社まで迎えに行くよ》






「だめです!!!!」







しまった。




思った以上に大きな声が出てしまった。





気付いても、もう遅い。





《…どうして?》






中堀さんからの当然の反応。






「あ、え、えっと…その、ほら、も、もしかしたら早く終わるかもしれないし…遅くなるかもしれないし…待たせたら、折角良くなった風邪が悪化しちゃうかもしれないし…」





言いながら、この線で行こうと思った。






「だから!私のアパートのポストに鍵、入れておくので。中に入って待っててくれませんか?」





大胆な発想だとは思うが仕方ない。




今は他に案を思いつかない。





固唾を呑んで、中堀さんの返事を待った。






《ん、わかった。そうする》







やった、いつになく素直!





見えないのをいい事に、私はガッツポーズする。





そうと決まったら、部屋の掃除をきっちりしておかねば。





電話を終えた後、寒いのにも関わらず腕まくりをした。







月曜日になれば、中堀さんに会える。






そう思うと、折角の土日、大掃除に明け暮れても、全然苦にならなかった。







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