第九話「初めての友達」
入学式が終わった。
会場からは、生徒たちがぞろぞろと退場していく。
保護者たちも同じだ。
俺も人の流れに沿って会場を出ると、入口付近に父さんと母さんを見つけた。
母さんが少しムッとした顔をしている。
ああ。
おそらく、さっきのことだろう。
先に言っておくが、俺は悪くないぞ。
叫んだのはギレウスとかいう奴だ。
「シャウト、静かにしなきゃダメでしょ」
怒っているというほどではないが、母さんにそう注意された。
「別に静かだったよ。隣の奴が叫んだだけだ」
「そうなの?」
すると父さんが俺の頭に手を置いた。
「シャウトが話してた子、おそらく鬼人族の子だろ?」
「うん」
「何かシャウトが言ったんじゃないのか?」
「生体魔力を教えただけだよ」
そう答えると、父さんは「あちゃー」とでも言いたげな顔をした。
なんだよ、その顔は。
「あのな、シャウト」
父さんは俺の頭に手を置いたまま話し始める。
「お前は人族だ。もしお前が魔族だったとして、人族の生体魔力はそこまで高くないって知ってる状態で、いきなり人族から『俺の生体魔力は千だ』って聞かされたら、どう思う?」
「……驚く」
「そうだろ?」
確かに。
俺は入学試験で、人族の生体魔力は百程度が普通だと聞いた。
それを知っている奴からすれば、人族の俺が千なんて言ったら、そりゃ驚くか。
「だから、少しは相手の立場も考えて発言するように心掛けような」
「はい」
父さんは俺の頭を軽くポンポンと叩いた。
「ほら、あそこ。待ってるぞ」
「え?」
父さんが指を差した方を見る。
そこにはギレウスが立っていた。
どうやら俺を待っていたらしい。
「行ってこい!」
父さんに背中を押され、俺はギレウスのところへ向かった。
「シャウト君!」
俺が近づくと、ギレウスがすぐに話しかけてくる。
「何話してたの?」
「少し注意されたよ」
「えー! シャウト君何も悪くないよ! 僕が言ってくるよ!」
そう言って父さんたちの方へ向かおうとするギレウスを、俺は慌てて止めた。
「いいよ。あれは僕も悪いところがあったから」
「そうなの?」
ギレウスは不思議そうな顔をしている。
まあ、こいつからすればそうなるか。
その後、俺たち新入生は先生に誘導され、まず寮についての説明を受けることになった。
寮の部屋は基本的に二人から三人で使う共同部屋。
一階には食堂があり、風呂も同じく一階にあるらしい。
なるほど。
食事は食堂。
風呂も共同。
そして部屋には同居人がいる。
いよいよ寮生活って感じがしてきたな。
…………ん?
待て。
俺はそこで、今さらながらあることに気づいた。
二階。
そうだ。
この学校には二階がある。
いや、それどころか校舎も寮もかなり大きく、上にも何階かある。
俺の家には二階がなかった。
というか、今まで見てきた建物も、平屋のものが多かった気がする。
理由は単純だ。
人族は太陽の光から魔力を得る。
屋根を透明にすれば、室内でも太陽の光を浴びることができる。
でも二階、三階と重なっていたら――。
下の階に光が届かなくないか?
これ、魔力を回復できないんじゃないか?
そんな疑問が浮かんだ直後、まるでこちらの疑問を読んでいたかのように先生が説明を始めた。
どうやら、この学校の建物には特殊な技法が使われているらしい。
上の階があっても、魔力の回復に必要なものだけを下の階まで通すことができるのだとか。
…………。
おい!
そんな技術あるなら普通の家にも使えよ!
俺が心の中で突っ込んでいると、先生の説明は続いた。
どうやら、この技法はどこでも使えるようなものではないらしい。
アレフ王立魔道学校のような大きな施設だからこそ使われているもので、普通の建物ではまず見かけないそうだ。
そもそも、こういった寮がある学校自体が珍しいらしい。
なるほど。
だから俺の家には二階がなかったのか。
そう思って改めて周囲を見る。
校舎も寮も、とにかくでかい。
この世界では、前世のように土地を節約するために上へ上へと建物を伸ばしていく、という考え方自体があまり一般的ではないのかもしれない。
魔力を回復するためには、光が必要になる。
建物一つとっても、前世とは事情が全然違うんだな。
そんなことを考えながら説明を聞いていると、いよいよ寮の部屋が発表された。
俺は――二人部屋。
二人か。
三人じゃなかっただけ、少し気が楽だ。
問題は、もう一人が誰なのかだ。
俺は割り当てられた部屋へ向かい、扉の前にある名札を見る。
一つは当然、
シャウト・ロータス。
そして、もう一つ。
ギレウス・オーガ。
…………。
どこかで見た名前だな。
いや。
さっき会ったばかりだ。
「シャウト君じゃないか!」
後ろから声がして、振り返る。
そこにはギレウスがいた。
「君もここなの?」
「うん。みたいだね」
俺が頷くと、ギレウスは嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、今日から同じ部屋だ!」
「そうみたいだね」
「これからよろしくね!」
ギレウスが笑いながら手を差し出してくる。
俺も、その手を握った。
「こちらこそ、よろしくね!」
その瞬間、ふとベルトの言葉を思い出した。
『時には、友の力を借りることも大切です』
『シャウト様にも、きっと良きご友人ができますよ』
ベルト。
どうやら、その心配はいらなかったみたいだ。
こうして俺には、この世界に来て初めての友達ができた。




