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『オブリビオン・オブ・ライト』 ― 光現す時、闇生まれし ―  作者: サルカニ
第十章 青年期「ナージャ・カルア編」
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第八十三話「変わった歴史」

相変わらず、俺とナージャはジークフリートに稽古をつけてもらっている。


そんなある日。


いつもの修行を終えたところで、ジークフリートが突然こんなことを言い出した。


「カーテナ王国から西へ行くと、《ガラティーン王国跡》があります」


「ガラティーン王国跡?」


初めて聞く名前だ。


「昔、栄えていた王国です」


「王国跡ってことは、今はもう……」


「はい。滅びています」


ジークフリートは少し間を置いてから続ける。


「闇が初めて出現したのは、ガラティーンです」


「え?」


思わず聞き返した。


闇が最初に現れた場所。


てっきりエクスカリバーだと思っていた。


「なるほど……エクスカリバーではないのか」


「はい。ガラティーンが滅び、その後、闇がエクスカリバーへと進行してきたのです」


「…………」


俺の知っている話と違う。


俺の記憶では、天月人が闇に取り込まれていた。


だけど、今の歴史ではガラティーンという王国で闇が出現したことになっている。


やっぱり、俺が知っている歴史と今に伝わっている歴史には違いがあるみたいだ。


単純に長い年月の中で事実が歪んだだけなのか。


それとも――。


俺やオジエが過去へ転移したことも、何か関係しているのかもしれない。


「そして、最初に闇に取り込まれたのが――火の天賢、ガウェインです」


「え!?」


思わず声が出た。


ガウェインが……最初?


やっぱり、俺の知る過去とは違う。


俺が見てきた過去では、天月人が闇に取り込まれていた。


でも――。


もしかすると、天月人が最初ではなかったのか?


その前にガウェインが取り込まれていた?


いや、それならどうして俺が見た過去では、そんな話が出てこなかったんだ?


そもそも闇は、一度誰かを取り込んで終わるものじゃないのか?


誰かを媒体にして、何度も復活する?


「…………」


分からない。


俺とオジエが過去へ転移し、過去に干渉した影響なのか。


それとも、オジエがアーサーに未来のことを伝えたことで生まれた歴史なのか。


あるいは、俺が最初から闇について全てを知っていたわけではなかったのか。


情報が繋がらない。


一つ分かったと思えば、また新しい疑問が生まれる。


謎は深まるばかりだ。


「あのガウェインが負けるとは、私も予想していませんでした」


ジークフリートの表情が僅かに曇る。


「ガウェインが取り込まれた後、アーサーが闇に挑みました」


「アーサーが……」


「はい。しかし、戦いの途中で闇は急激に肥大化していきました。我々が戦った時には、既にかなりの大きさになっていました」


「それって……」


「アーサーの光魔術が原因なのは確実です」


やっぱり。


光魔術をぶつければ、闇は大きくなる。


そこは俺が知っている過去と同じだ。


「そのため、我々は戦っているアーサーを殺そうとしました。このまま光魔術を使わせ続ければ、さらに闇が肥大化すると考えたからです」


「…………」


「ですが、アーサーを殺そうとしたその時――闇が彼を取り込みました」


「え……?」


俺は頭の中で、今聞いた話を整理する。


最初にガウェインが取り込まれた。


その後、アーサーが闇に挑んだ。


光魔術によって闇が肥大化し、それを止めるために天賢達がアーサーを殺そうとした。


そして、その直前にアーサーが闇に取り込まれた。


「その後は?」


「残った我々で闇と戦いました。既にかなり肥大化していましたが、消耗させ続け、最後には勝利しました」


「なるほど……」


順番は違う。


俺が知っている過去とは、明らかに違う。


だけど――。


結末は同じだ。


これって……。


オジエが言っていたことと同じじゃないか。


過程を変えても、最後には同じ結末へ収束する。


俺達が過去に干渉したことで歴史が変わっても、全てが変わるわけじゃない。


違う出来事を辿りながら、結局は同じ結果へ行き着く。


「そして、闇を倒した後――中から四人の死体が出てきました」


「四人!?」


思わず声を上げる。


四人?


どういうことだ!?


俺が知っている歴史では、三人だったはずだ。


「一人目はガウェイン。二人目はアーサー」


そこまでは、今の話を聞けば分かる。


「三人目は、アーサーの娘――モードレッドです」


モードレッド?


誰だ?


アーサーの娘……。


まさか――。


天月人か!?


「そして四人目は……分かりません」


「分からない?」


「はい。人だったことは確かですが、誰なのかは最後まで分かりませんでした」


「…………」


一人増えてる。


俺の知っている歴史では三人。


今の歴史では四人。


しかも、そのうち一人は正体すら分からない。


それも気になる。


だけど、それ以上に――。


「あの、ジーク様……モードレッドって誰ですか?」


「アーサーとグウィネヴィアの娘だよ」


「天月人ですか?」


「あ〜……そんな風に呼ばれてたね」


「…………」


やっぱり。


モードレッド。


それが、天月人の名前なのか。


俺達がずっと《天月人》と呼んできた存在。


そいつには、ちゃんと名前があったんだ。


だけど……。


だったら、四人目は誰なんだ?


ガウェイン。


アーサー。


モードレッド。


そして、正体不明の人間。


俺達が過去に干渉したことで生まれた存在なのか。


それとも、俺が知っている歴史でも、本当は存在していたのか。


過去を知れば知るほど、分からないことが増えていく。


そして何より――。


歴史が変わっているのに、同じ結末へ収束している。


その事実が、妙に引っかかった。


「ねえ、さっきから私、置き去りにされてない?」


「え?」


隣を見ると、ナージャが頬をぷくっと膨らませながら俺達を見ていた。


そういえば……。


俺は自分の知っている過去と照らし合わせることに夢中になって、完全にナージャを置いてきぼりにしていた。


「ごめんごめん!」


俺が慌てて謝ると、ジークフリートもナージャへ顔を向ける。


「ごめんね、ナージャちゃん」


「もう〜……二人だけで分かる話しないでよ〜」


ナージャはまだ少し頬を膨らませたまま、俺達を交互に見る。


「本当にごめんって!」


「ちゃんと私にも説明してね?」


「分かった!」


ナージャはようやく頬を戻すと、納得したように小さく頷いた。


「じゃあ、私から説明しようかな」


ジークフリートがそう言って、ナージャの方へ身体を向ける。


「シャウトくんは、話せないことも多いだろうからね」


「そうなの?」


ナージャがすぐに俺を見る。


「まあ……そうかな〜」


俺は目を逸らしながら、曖昧に答えた。


完全に誤魔化した。


「なんで誤魔化すのよ〜」


ナージャがまた頬をぷくっと膨らませる。


さっき戻ったばかりなのに、また膨らんでる。


「ジーク様に聞いて!」


「え〜……」


「俺からはちょっと説明しづらいんだって!」


ナージャは不満そうに俺を見つめていたが、やがて諦めたように息を吐いた。


「しょうがないな〜……」


そう言って、ジークフリートの方へ向き直る。


助かった……。


俺が過去から来たこと。


オジエが過去へ転移していたこと。


そして、俺が知っている未来のこと。


ナージャに話せないことは、まだまだ多い。


「ナージャちゃんは、この世界の本当の歴史は知らないですよね?」


「本当の歴史……?」


ナージャは少し首を傾げる。


「《天賢伝説》という本なら、読んだことありますが……」


「ああ、あの本ですか」


「それが本当の歴史ではないんですか?」


「違いますね」


「えっ?」


ナージャが驚いたように目を丸くする。


「では、まずそこから説明しましょう」


そう言って、ジークフリートはナージャに本来の歴史を説明した。


古代には、現在失われている光魔術が存在していたこと。


六人の天賢がいたこと。


そして、光と闇、天月人に何が起きたのか。


俺が既に知っている、本来の歴史を一通り話していく。


「――大体、こんな感じです」


「なるほど……」


話を聞き終えたナージャは、少し考え込むように俯いた。


しばらくして顔を上げる。


「じゃあ、オジエ様も言ってたように……その《闇》っていうのが、また復活するかもしれないってことですか?」


「そうです」


ジークフリートが頷く。


ナージャの表情から、さっきまでの柔らかさが消えた。


「そして、それが私達があなた達を鍛えている理由でもあります」


「なるほど……」


ナージャは納得したように何度か頷いた。


「ただし――」


ジークフリートが人差し指を立てる。


「この歴史は一般には公開されていませんから、ナージャちゃん。他の人に喋ったらダメだよ〜?」


「え?」


「喋ったら、天賢が地の果てまで追っかけてくるからね!」


「ええ!?」


ナージャがびくっと身体を震わせる。


「ちょ、ちょっと待ってください! そんなにヤバい話なんですか!?」


「ふふっ、どうでしょうね」


ジークフリートは楽しそうに笑っている。


「ジーク様、脅かさないであげてくださいよ……」


「だって、これくらい言っておいた方が喋らないでしょう?」


「喋りませんよ!」


ナージャは慌てて首を横に振った。


「絶対に喋りませんから!」


「なら安心ですね」


……絶対ちょっと楽しんでるだろ、この人。


「そんな話はさておき、そろそろ大移動としましょう!」


ジークフリートが空気を切り替えるように手を叩いた。


「大移動ですか?」


ナージャが首を傾げる。


「そうです。少し気になることがありましてね」


「なんですか?」


「それは行ってからのお楽しみ!」


「ジーク様……」


またそれかよ……。


「それで、どこに行くんですか?」


「月光族の里です」


「月光族の里……」


ナージャが小さく呟く。


「ここから西へ進むと、《港町ザラポート》があります。まずはそこを目指しましょう」


ジークフリートはそのまま道順を説明していく。


「ザラポートから船に乗り、海を渡って《港町サンポート》へ向かいます。渡航には一日ほどですね」


「そこから月光族の里へ?」


「はい。ただ、ここからザラポートまで恐らく三ヶ月程度。サンポートから月光族の里までも、同じく三ヶ月ほどかかります」


「三ヶ月と三ヶ月……」


俺は指折り数える。


「つまり、半年くらいですか?」


「そうなります」


半年か……。


思っていた以上に大移動だ。


「もちろん、その間も修行は続けますよ」


ジークフリートが笑顔で付け加える。


ですよね……。


二年間しかないんだ。


半年もただ移動するわけにはいかない。


月光族の里を目指しながら、俺達は修行を続ける。


次の目的地が決まった。


「そうと決まれば、移動開始です!」


ジークフリートが西の方角へ身体を向ける。


「ちょうどここはカーテナ王国の西側ですからね。今回は私も歩くので、一緒に向かいましょう」


「ジーク様もですか?」


前みたいに空から見守るわけじゃないのか。


「はい。ただし――」


ジークフリートが俺とナージャを交互に見る。


「道中の戦闘は、あなた達に任せます」


やっぱり、そういうことか。


ただ一緒に移動するだけじゃない。


ザラポートまでの三ヶ月も、俺達にとっては修行の一部ということだ。


俺とナージャは顔を見合わせる。


ナージャも分かっていたようで、小さく頷いた。


「はい!」


「分かりました!」


「では、行きましょうか」


こうして俺達は月光族の里を目指し、まずは港町ザラポートへ向けて歩き始めた。


しばらく西へ向かって歩いていると、ジークフリートが思い出したように口を開いた。


「そうだ。移動中の戦闘ですが、シャウトくんはまだ中級を習得していない属性の魔術を使いましょう」


「え!? 剣術は!?」


思わず腰の剣に手を伸ばす。


「ダメです」


即答された。


「えぇ……」


「あなたは土と火を使ってください」


「火は使えないんです……」


「あら? そうなのか? 珍しいな」


ジークフリートが少し意外そうに俺を見る。


「ならば、土魔術の《ストーンキューブ》で戦いなさい」


「分かりました……」


剣も使えない。


得意な雷魔術も使えない。


そのうえ、使うのはまだ慣れていない土魔術。


完全に修行だな、これ……。


「ナージャちゃんも同じです。風と火を使いましょう」


「分かりました!」


ナージャは俺とは対照的に、素直に頷いた。


……なんでそんなに元気なんだよ。


こうしてザラポートへ向かう道中。


俺は土魔術。


ナージャは風と火の魔術。


それぞれ苦手な属性を鍛えながら、旅を続けることになった。

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