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『オブリビオン・オブ・ライト』 ― 光現す時、闇生まれし ―  作者: サルカニ
第十章 青年期「ナージャ・カルア編」
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第八十二話「修行」

ある日。


俺達はカーテナを出て南へ進み、開けた場所で魔術の練習をしていた。


教えてくれているのは、ジークフリートだ。


あれから、ナージャは水以外の属性も中級まで使えるようになった。


俺も今は、雷が上級、それ以外は中級の魔術を中心に練習している。


もっとも、俺には二年後までの経験がある。


あの頃は雷以外も上級まで使えていたし、天月人との戦いでは、一度だけ天魔級の《ライトニングノヴァ》も発動した。


ただ、あれは怒りに任せて放ってしまったものだ。自在に使いこなせていたわけではない。


上級魔術の習得方法は覚えている。


だからこそ、今はナージャと足並みを揃えながら、一つずつ扱い直していた。今の身体でどれだけ魔力を込め、どう操ればいいのか。それを確かめる機会にもなる。


それに、ジークフリートの教え方は分かりやすかった。


自分ではできているつもりだったことにも、直すところがある。独学では気づかなかった癖を指摘されるたび、教わる意味を感じていた。


「やっぱり、人族は覚えられる魔術の幅が広いね。二人とも、順調だよ」


「ありがとうございます」


ナージャも嬉しそうに頭を下げる。


「そろそろ、便利な魔術の習得を目標にしてみようか」


「便利な魔術?」


「混合魔術だよ」


そこで、真っ先に思い浮かんだものがあった。


「《グラビティ》ですね」


「そうだね。荷物を運ぶ時にも役立つし、覚えておいて損はないよ。もちろん、混合魔術はそれだけじゃない。使い方を覚えれば、戦闘でもできることが増えるんだ」


確かに、素材を運ぶ時には何度も欲しいと思った。


「初級の混合魔術には、補助に向いているものも多い。派手さがなくても、使えると助かる場面はあるよ」


「なるほど……」


「まずは《グラビティ》を使うために、雷と風を上級まで扱えるようになろう。ナージャちゃんは両方、シャウトくんは風だね」


「そこから、二つを混ぜるんですか?」


「うん。一つずつ扱う時とは違う難しさがあるから、魔力操作も一緒に学んでいこう」


「分かりました!」


「私も頑張ります!」


「じゃあ、今の魔力の流れを見せてくれるかな。少し離れて、私に向かって魔術を放ってみて」


俺とナージャはジークフリートから距離を取った。


「ただ強く撃とうとするだけじゃなく、どこへ魔力を集めているかも意識してね」


「はい!」


俺は手を構え、ナージャも杖を向ける。


「《ショックウェーブ》!」


「《ウィンドゲイル》!」


雷と風がジークフリートへ向かっていく。


だが――。


「《マジックレジスト》」


目の前まで迫っていた魔術が、霧散した。


「さすがだ……」


何度見ても凄い。


ジークフリートは俺達へ近づくと、それぞれの魔力の込め方について説明してくれた。


力を込めすぎているところ。逆に、形を維持するための魔力が足りなくなっているところ。


指摘されてからもう一度試すと、さっきとは手応えが違った。


そういえば――。


「ジーク様。《マジックレジスト》は、混合魔術なんですか?」


「いいや。放たれた魔術に干渉して、霧散させているんだ。属性を混ぜるというより、緻密な魔力操作によるものだね」


「魔力操作……」


「分類するなら、《精巧魔術》とでも呼ぼうか。教本には載っていないから、知る機会は少ないと思うよ」


精巧魔術。


聞いたことがない名前だ。


「どれくらい難しいんですか?」


「ものによるね。《マジックレジスト》のような技になると、かなり高度な操作が必要だよ。目安を挙げるなら、全属性の天導級魔術を無理なく扱えるくらいかな」


「天導級を……全属性……」


思っていた以上に遠い。


「ただ、それが習得条件というわけじゃないよ。上級までしか使えなくても、魔力操作に優れた人なら扱える可能性はある」


「階級だけで決まるわけじゃないんですね」


「そう。どれだけ正確に魔力を操れるかが大切なんだ」


ジークフリートは続けた。


「それと、精巧魔術の中には、君達が知っているものもあるよ。《マジックアーマー》や《エンチャント》だね」


「《エンチャント》?」


「シャウトくんが剣に魔力を纏わせているだろう? あれだよ」


「あれですか!?」


俺、勝手に《魔纏剣》って名前をつけていたんだけど……。


ちゃんと呼び方があったのか。


「じゃあ、俺も精巧魔術を使っていたんですね」


「そうなるね。同じ分類でも、何をするかによって難しさは違うんだ。既にできている操作を磨くことも、新しい技を覚えることに繋がるよ」


なるほど。


何も知らないところから始めるわけじゃないのか。


「他には、どんなことができるんですか?」


「魔力で身体能力を高めることもできる。筋力を増強するような使い方だね」


「そんなことまで……」


剣で戦う俺には、相性がよさそうだ。


だが、ジークフリートの表情は真剣になった。


「ただし、強化した力に身体が耐えられなければ、大きな傷を負うことになる。場合によっては、筋肉が弾けてしまうよ」


「……えっ」


「だから、興味があっても勝手に試してはいけないよ」


「分かりました……」


思っていたより、ずっと危険だった。


「他にも、マジックアイテムを作ったり、魔石に魔力を込めたりできるね」


「魔石にも?」


「今着ているローブにも使われているだろう?」


俺は胸元に目を落とした。


寒さを防ぐための赤い魔石が、そこにある。


「そうした魔石には、迷宮で採れたものもあれば、職人が魔力を込めたものもあるんだ」


「店でも、魔石に火魔術が込められていると聞きました」


「そう。それを作る側には、正確な魔力操作が必要になる」


ジークフリートは俺のローブから視線を戻した。


「使用者が魔力を込めることで、仕込まれた魔術が発動するマジックアイテムもあるよ」


「使う人は、その魔術を覚えていなくてもいいんですか?」


「うん。《マジックレジスト》を発動できる物もある。ただ、そういう高度な物は作れる人も少なくてね」


「高いんですか?」


「《マジックレジスト》の物なら、金貨五枚ほどしても珍しくないと思うよ」


「金貨五枚!?」


高すぎるだろ!


気軽に買えるような値段じゃない。


「誰でも持てる物じゃないんですね……」


「そうだね。魔術として覚えるのも難しいし、道具で補うにもお金がかかる。だから、広く使われている技ではないんだ」


俺は自分の手を見た。


魔力操作を磨けば、剣に纏わせるだけでなく、できることが増える。


知れば知るほど、学ぶべきことの多さを感じる。


「でも、今は一つずつだよ」


ジークフリートが笑った。


「まず雷と風の上級魔術。その次に《グラビティ》を通して、混合する時の操作を覚えよう。他の属性も伸ばしながら、精巧魔術を本格的に学ぶ準備をしていくんだ」


「はい!」


「では、続けようか。さっき指摘したところを意識して、もう一度やってみよう」


俺とナージャは頷き、再び魔術を構えた。


それから数日。


午前中は、ジークフリートに魔術を見てもらった。


言われたとおりに魔力を集め、形を整え、放つ。うまくいかなければ原因を聞き、もう一度試す。


ナージャが苦戦しているところは、俺にも覚えがあった。


ただ、先に答えを言うより、ジークフリートの説明を一緒に聞く方が勉強になることも多い。俺自身も、感覚だけで済ませていた部分を見直していった。


午前中の修行が終われば、魔力はかなり減っている。


午後は身体を休め、日光の下で魔力の回復を待った。金が必要な時は、荷物運びなどの街の仕事を受ける。


宿代や食費を確保するために、毎回魔物と戦う必要はない。


ポーションは討伐や探索のために取っておき、普段の鍛錬ではなるべく自然な回復を待つことにした。


そんな生活を続けていた、ある朝。


「今日は、一日休みにしよう」


いつものように練習を始めようとしていた俺達に、ジークフリートが告げた。


「え?」


「たまには遊んでおいで。休むことも大事だし、君達はまだ子供なんだから」


「……いいんですか?」


「もちろん。今日は魔術のことばかり考えなくてもいいんだよ」


丸一日、休みか。


正直、少し嬉しかった。


デート……にはならないにしても、ナージャと一日遊べるかもしれない。


「ナージャは何するの?」


「うーん。特に考えてないかな」


ナージャは人差し指を頬に当て、少し首を傾げた。


「じゃあさ、俺と街を見て回らない? 依頼で通ってばかりで、ゆっくり見たことはなかったし」


「いいね。私も、そういう日があってもいいと思ってたんだ」


そう言って笑ってくれる。


よし!


断られるとは思っていなかったけど、それでも少し緊張していた。


俺達は二人でカーテナへ向かった。


改めて見てみると、本当に大きな都市だ。


住宅街に商店街、カーテナ城。転移魔法陣の広場や、公園もある。


何度も通った道なのに、依頼を気にせず歩くだけで、いつもと違って見えた。


「ナージャ、最近の修行はどう?」


聞いてから、結局魔術の話をしていることに気づく。


ナージャは気にした様子もなく、困ったように眉を下げた。


「《ライトニング》を使いたいんだけど、どうしても《ショックウェーブ》になっちゃう」


「雷を集めておくのが難しいんだよな」


「そうなの。広がっちゃうんだよね」


両手を後ろで組み、ナージャは歩きながら俺を見る。


「シャウトの風はどう?」


「練習中。雷と同じ感覚でやろうとすると、うまくいかなくてさ」


風の上級魔術を使う感覚は、覚えている。


それでも今は、ナージャと一緒に指摘されたところを確かめながら練習していた。


「シャウトでも難しいんだね」


ナージャが少し安心したように笑う。


可愛いな。


なんだか恥ずかしくなって目を逸らすと、その先にアクセサリー屋があった。


せっかくだし、何か贈れないだろうか。


これから一緒に旅をする記念に。


……いや、俺がナージャに贈りたいだけなんだけど。


「あのさ、ナージャ」


「なに?」


「あそこの店、見ていかない?」


「アクセサリー? 何か買うの?」


「良かったらさ……お互いに、似合う物を選んで贈り合うとか。どうかなって」


ナージャが俺を見た。


「いいけど……なんで?」


「え?」


理由を聞かれると、急に言葉に詰まる。


「いや……これから一緒に旅をするし。その、記念みたいな……」


「なんか誤魔化してる?」


ナージャが少し前かがみになり、俺の顔を覗き込んだ。


「誤魔化してないよ!」


「ふふっ。シャウトって面白いね」


可愛いからやめてくれよ……。


「じゃあ、私がシャウトのを選ぶね」


「お、おう」


「私のも、似合うのを選んでよ?」


「分かってるって!」


俺達は店の中へ入った。


ピアス、ネックレス、ブレスレット、リング。


棚には、様々なアクセサリーが並んでいる。


ナージャは早速足を止め、少し前かがみになって一つずつ眺め始めた。気になる物を見つけると手に取り、色や形をじっと確かめている。


俺のために選んでくれているんだよな。


そう考えると、どうしても顔が緩んだ。


俺も、ちゃんと選ばないと。


ナージャには、ネックレスが似合いそうだ。


俺はネックレスの並ぶ棚へ向かった。


値段は様々だった。


生活費や装備のための金に手をつけるわけにはいかない。自分の買い物に使える分を確かめ、高くても銀貨五枚までと決める。


決して安くはない。


それでも、今日は気に入ってもらえる物を贈りたかった。


一つずつ見ていると、淡い青色が目に留まった。


銀色の細い鎖の先に、水滴の形をした石が揺れている。


石を包む銀細工は、流れる水のような緩やかな曲線を描き、その上に小さな雪の結晶があしらわれていた。


水と氷。


ナージャの使う魔術を思わせるネックレスだ。


「そちらが気になりますか?」


店員が声をかけてきた。


「はい。綺麗ですね」


「迷宮で採れた魔石を使っております」


「これ、魔石なんですか」


近くで見ると、淡い青色が一層綺麗だった。


値札には、銀貨五枚とある。


予算いっぱいだ。


少し迷い、もう一度ネックレスを見る。


ナージャが着けているところを想像すると、これが一番いいと思った。


「これをください」


代金を払い、ネックレスを受け取る。


気に入ってくれるだろうか。


少し離れたところでは、ナージャもまだ真剣に選んでいた。


何を贈ってくれるんだろう。


待っている時間まで、楽しかった。


買い物を終えた俺達は、それぞれ選んだ物を隠したまま店を出た。


「じゃあ、俺から渡すね」


「うん!」


ナージャが期待するように両手を合わせる。


俺はネックレスを取り出した。


「これ。どうかな?」


「うわぁ……綺麗!」


ナージャは目を輝かせ、俺の手元へ顔を近づけた。


「高かったんじゃない?」


「大丈夫。ちゃんと考えて買ったから」


「そう? ありがとう。大切にするね!」


ネックレスを受け取ると、ナージャは髪を片手で横へ寄せた。


首の後ろへ両手を回し、留め具を留める。


その何気ない動きに、俺は見とれていた。


「できた」


髪を戻し、ナージャがこちらを向く。


胸元で、淡い青色の魔石が小さく揺れた。


やっぱり似合っている。


ナージャは飾りを指先でつまみ、少し身を乗り出した。


「どう? 可愛い?」


「か、可愛いと思うよ」


「なに、その言い方。普通に言えないの?」


楽しそうに、さらに顔を近づけてくる。


「可愛いって!」


たまらず顔を逸らすと、ナージャが笑った。


「ふふっ」


「笑うなよ……」


「じゃあ、次は私ね」


ナージャは後ろに隠していた手を前へ出した。


「はい。どうかな……?」


焦げ茶色の革で作られた、細身のブレスレットだった。


中央には楕円形の淡い金色の魔石が埋め込まれ、その周囲をくすんだ銀の金具が覆っている。


銀の表面には、花びらと光を思わせる細かな模様が刻まれていた。


派手すぎず、手首を動かしても邪魔になりにくそうだ。


「シャウトって、剣を使うでしょ? これなら着けていても動きやすそうだし……雷魔術も得意だから、色も似合うかなって」


ナージャが少し照れたように視線を逸らす。


俺の戦い方まで考えて、選んでくれたんだ。


嬉しかった。


自分でも分かるくらい、笑顔になってしまう。


「ありがとう! 一生大切にする!」


「一生って、大袈裟だよ!」


「大袈裟じゃないよ。本当に嬉しい」


俺は早速、ブレスレットを着けた。


手首を返し、何度も眺める。


「すごくいいな、これ……」


「そんなに?」


「うん。すごく気に入った」


「そ、そう……?」


ナージャが髪を耳にかけた。


口元が少し緩んでいる。さっきまで俺をからかっていたのに、今度は彼女の方が恥ずかしそうだった。


その様子まで嬉しくて、また手首へ目を落とす。


正直、今日の休みはもうこれだけでも十分だった。


俺がナージャのために選んで、ナージャが俺のために選んでくれた。


同じ物ではないけれど、二人で贈り合った物だ。


これから、ずっと着けていたい。


「この後、どうしようか」


「もう少し見て回らない?」


「そうだな」


俺達は商店街を歩いた。


店先を覗いたり、気になった物について話したりする。


ナージャがネックレスへ触れるたび、気に入ってくれたんだと思えて嬉しかった。


その後、軽食を買って公園へ向かった。


ベンチに座ると、歩いていた時よりもゆっくり話ができる。


こんな時間が、ずっと続けばいいのに。


そう思った途端、あの戦いのことが頭をかすめた。


俺の知る未来では、二年後にみんなを失った。


今度も同じ時に同じことが起きるとは限らない。それでも、何もしないでいると落ち着かなくなる。


今日一日で、何かできるようになるかもしれない。


そんな考えが浮かんだ。


「……休みなんだけどさ」


「うん?」


「少しだけ、魔力操作の練習をしない?」


ナージャが俺を見る。


「ジーク様には、遊んでおいでって言われたよ?」


「そうなんだけど……ちょっと試したいことがあって」


せっかくの休みなのに、俺は何を言っているんだろう。


誘ったのは俺なのに。


「ごめん。嫌なら――」


「少しなら、いいよ」


ナージャが笑った。


「でも、疲れるまでやるのはやめようね」


「……ああ」


休むことも必要だと、頭では分かっている。


それでも落ち着かない俺に、ナージャは付き合ってくれた。


「水の形を変えるコツを聞きたいんだ。ナージャは、どうやってる?」


「私も、そんなに上手じゃないよ?」


「それでもいい。一緒に試してみたい」


「うーん……分かった」


ナージャが手を前へ出す。


「《ウォーターボール》」


手のひらの上に、小さな水球が浮かんだ。


俺も同じように作る。


誰かに向けて放つわけではない。手元で形を変え、魔力の動かし方を確かめるだけだ。


丸い水を伸ばそうとすると、思ったよりも大きく歪んだ。戻そうとして、今度は横に潰れる。


「難しいな……」


「私は《ブリザード》を使う時、作りたい形を思い浮かべるんだ」


ナージャは水球を見つめながら、ゆっくり指先を動かす。


「剣なら、最初から剣を作るつもりで魔力を込める感じかな」


「形を直し続けるんじゃなくて?」


「うん。ただ、今は凍らせないで、それをやるんだよね」


ナージャが俺の手元を見るため、少し身体を寄せた。


近い。


横顔が視界に入って、そちらへ意識が向きかける。


……集中しろ。


教えてほしいと言ったのは俺だぞ。


俺はいつも握っている剣を思い浮かべた。


水球へ魔力を込めると、少しずつ細長く伸びていく。


「おお……」


形はできた。


あとは、このまま維持すれば――。


ピキッ。


「ん?」


水の表面が白く変わり、瞬く間に凍った。


手元に残ったのは、小さな氷の剣だった。


「……あれ?」


「それじゃ《ブリザード》だよ」


ナージャが楽しそうに笑う。


「形はできたんだけどな」


「凍らせちゃ駄目なんだよ」


「分かってるって!」


形を安定させようとしたところで、覚えている魔術の感覚に戻ってしまった。


上級まで使ったことがあっても、こういう扱い方は別なんだな。


俺は手元の魔術を解き、もう一度水球を作った。


今度は、水のまま維持する。


細く伸ばして、剣の形へ――。


ピキッ。


「またかよ……」


隣では、ナージャも同じように試していた。


水が細く伸びる。


俺よりも滑らかに形が変わったが、刃の形が整いかけたところで白く凍った。


「ああ、私も駄目だ……」


「ナージャでも難しいんだな」


「うん。形を保とうとすると、どうしても氷にしちゃう」


二人で出来上がった氷の剣を見て、顔を見合わせる。


なんだかおかしくなって、少し笑った。


「次にジーク様へ聞いてみようか」


「そうだな。どこで操作を間違えているのか、見てもらおう」


精巧魔術を学ぶための基礎といっても、簡単ではない。


ただ、できないことは分かった。


形を作ることと、水のまま保つこと。その二つを同時に意識すると、どこかで崩れてしまう。


何度か試してみたところで、ナージャが手を下ろした。


「今日は、このくらいにしない?」


「……そうだな」


俺も魔術を解いた。


まだ試したい気持ちはある。


でも、ナージャと約束した。疲れるまで続ける日ではない。


ベンチの背もたれへ身体を預けると、ナージャも隣で空を見上げた。


胸元で、青い魔石が揺れる。


俺は手首のブレスレットに触れた。


今日しかできないことだって、あるんだよな。


ナージャと街を歩いて、贈り物を選んで、一緒に笑う。


その時間を守りたいから、強くなろうとしているんだ。


「付き合ってくれて、ありがとう」


「買い物? それとも練習?」


「……両方」


「ふふっ。私も楽しかったよ」


その言葉で、ようやく気持ちが少し落ち着いた。


俺達はしばらく公園で休んでから、また街を歩いた。


気になった店に立ち寄り、日が傾く頃には、以前入った食事処へ向かう。


夕食を食べて宿へ戻り、ベッドに横になると、今日のことが次々と思い出された。


ナージャと歩いた。


アクセサリーを贈り合った。


少しだけ練習をして、一緒に笑った。


「…………」


デート……だったのか?


多分、そう思ってもいいよな?


手首のブレスレットを眺める。


ナージャが俺のために選んでくれた物だ。


それだけで、また笑顔になってしまった。


やらなければならないことは、たくさんある。


今日できなかった魔力操作も、明日また教えてもらおう。


でも、こんな一日まで無駄だったとは思いたくない。


強くなることも、ナージャと過ごすことも。


どちらも、俺が望んでいることなのだから。


俺はブレスレットをそっと撫で、目を閉じた。

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