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『オブリビオン・オブ・ライト』 ― 光現す時、闇生まれし ―  作者: サルカニ
第十章 青年期「ナージャ・カルア編」
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第八十一話「カーテナ王国」

目を開けた瞬間、冷たい風が全身を襲った。


「さむっ!?」


辺り一面、雪景色だった。


地面は雪に覆われ、その隙間からゴツゴツとした岩が突き出している。


「ここ……魔大陸?」


てっきり、カーテナ王国の都市まで直接転移するものだと思っていた。


「天賢様、ここはどこですか?」


「カーテナ王国の近くだよ。都市までは歩いて向かおう」


「都市の中には転移しなかったんですね」


「突然三人も現れたら、騒ぎになるからね」


確かに、それはそうだ。


「カーテナ王国って、どんなところなんですか?」


「魔大陸に囲まれた国だよ。王国の領土内でも、都市や町の外は魔大陸とほとんど変わらないんだ」


ジークフリートが遠くを指差す。


その先には、巨大な壁が見えた。


「あれが中央都市カーテナだよ」


「魔力車は使わないんですか?」


「今回は修行の旅だからね。道中も、自分達で周囲を確かめながら進んでみよう」


「分かりました」


俺とナージャが先に立ち、ジークフリートは少し後ろを歩く。


「魔物との戦闘は、まず二人で対処してみて。私は必要な時に手を貸すから」


「はい」


隣でナージャも頷いた。


これまではギレウスやコルドも一緒だった。二人で前衛と後衛を担うとなると、少し緊張する。


「私達二人で大丈夫かな?」


「無理せず、一体ずつ確実に倒そう。俺が前に出るから、援護を頼む」


「うん!」


ナージャと目が合い、少しだけ胸が高鳴った。


これからは、こうして二人で連携していくんだ。


……いや、浮かれている場合じゃない。ちゃんと周りも見ないと。


「それにしても……寒すぎる」


防寒具なんて持ってきていない。


ナージャも腕をさすりながら歩いていた。


「ナージャ、火魔術は使える?」


「初級までなら使えるよ」


「身体を暖められる魔術ってないかな?」


「中級ならあるけど、私はまだ使えないんだ」


「そっか……」


すると、ジークフリートが声をかけてきた。


「ごめんね。先に寒さへの備えをしておくべきだったね」


彼が俺達へ手を向ける。


「《フレイムメイル》」


暖かな魔力が身体を包み込んだ。


「おお……暖かい!」


「これは中級の火魔術だよ。寒さを防げるんだ」


「ありがとうございます」


ナージャも、ほっとしたように肩の力を抜いた。


俺達は再びカーテナを目指して歩き始める。


雪に覆われた魔大陸は足場が悪く、歩くたびに靴が沈む。しばらく進んだところで、ようやく整備された道に出た。


「やっと歩きやすくなったな」


その時、前方に大きな白い影が現れた。


「魔物!」


巨大な白い熊――ホワイトベアーだ。


俺は剣を抜き、距離を詰めた。


「はっ!」


剣を振るう。


だが――。


「っ!?」


いつもの感覚で踏み込んだのに、思った位置まで刃が届かない。


ホワイトベアーが前脚を振り上げる。


「危なっ!」


慌てて後ろへ下がると、鋭い爪が目の前を通り過ぎた。


力の入り方も、間合いも違う。


そこで、ようやく気づいた。


今の俺は、十三歳の身体に戻っている。


頭に残っている感覚は、あの戦いの頃のものだ。腕や足の長さが違うのに、同じように動こうとしていた。


ホワイトベアーが再び襲いかかってくる。


俺が剣を構え直した、その時だった。


「《ウォーターブレイド》!」


水の刃が飛び、ホワイトベアーの首を斬り落とした。


巨体が雪の上へ倒れる。


「助かった……ありがとう、ナージャ」


「大丈夫? なんだか動きが変だったけど」


「え?」


「いつものシャウトなら、あんなふうに空振りしないでしょ?」


まずい。


「ちょっと雪に足を取られたんだ。踏み込みが足りなかった」


「そう? 気をつけてね」


「ああ」


誤魔化せた……よな?


ジークフリートが歩いてくる。


「慣れない場所では、足場も間合いも確かめてから仕掛けようね。ナージャちゃんは、よく援護できていたよ」


「はい!」


「……気をつけます」


今の身体で、どこまで踏み込めるのか。どの位置からなら剣が届くのか。


早く確かめ直さないと。


俺は剣を収め、歩き始めた。


しばらくすると、前方に複数の白い魔物が見えた。


「ホワイトファングだ」


数匹が、何かを取り囲んでいる。


「あれ、真ん中に誰かいないか?」


「人だよ!」


「誰か! 助けてくれ!」


叫び声が聞こえた。


「ナージャ、援護を頼む!」


「うん!」


俺は剣を抜いて走り出した。


さっきと同じ失敗はしない。


足場を確かめ、目の前の一匹との距離を見る。十分に踏み込んでから剣を振るうと、今度は刃が捉えた。


「《ウォーターブレイド》!」


ナージャの魔術が別の一匹を切り裂く。


俺達は取り囲まれないように位置を変えながら、残りのホワイトファングも倒した。


「た、助かった……ありがとう!」


襲われていたのは、荷物を運ぶ商人だった。


「怪我はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。本当に助かったよ。積んでいた肉の匂いに寄ってきたのかもしれないな……」


商人は荷物を確かめ、深く息をついた。


「俺達もカーテナへ向かうところです。一緒に行きますか?」


「いいのかい? それは助かるよ!」


ジークフリートは少し離れたところで、俺達のやり取りを見ていた。


今の戦いにも手を出さなかった。こうして、自分達で判断していくんだ。


商人と共に歩き始め、俺達はそれぞれ名乗った。


「シャウト・ロータスといいます」


「ナージャ・カルアです」


「よろしくな。ところで……君達は恋人なのかい?」


「え!? ち、違いますよ!」


「はは、そうか。仲が良さそうだったからさ」


思わずナージャを見たが、彼女は前を向いたままだった。


俺としては、そう見えるのは少し嬉しいんだけど。


「それにしても、こんなところで子供二人が戦えるとはね」


「俺達、冒険者なんです」


「冒険者? ランクはいくつなんだ?」


「俺がエメラルドで、ナージャがプラチナです」


「その歳で!?」


商人は目を丸くした。


「もしかして、王立の学校に通っているのかい?」


「はい。アレフ王立魔導学校に在学中です」


「なるほどなあ。それにしたって、大したものだ」


強いと言ってもらえるのは、嬉しい。


でも、それだけでは足りなかった。


あの時、俺は誰も守れなかったんだ。


「依頼の最中だったのかい?」


「いえ。これからカーテナで探すつもりです」


「そうだったのか。なら、いいところで会えたな」


その後もホワイトファングに遭遇したが、俺が前に出て、ナージャが後ろから援護する形で対処できた。


少しずつ、今の身体での間合いも掴めてくる。


ただ、油断はしない。剣が届く位置を、毎回確かめるようにして戦った。


やがて、都市を囲む巨大な壁が目の前に迫ってきた。


門に近づいたところで、ジークフリートが俺達を呼び止める。


「私は街の外にいるね。買い物や宿の手配は、二人に任せるよ」


「分かりました」


『それと、離れている時には、こうして声を届けることがあるよ』


突然、頭の中に声が響いた。


「……っ!」


一瞬、背筋が冷たくなる。


だが、目の前のジークフリートが穏やかに笑っていた。


「驚かせてしまったね。今のは私の秘術だよ」


「頭の中に、声が……」


ナージャも驚いている。


そういえば、オジエも他の天賢達へ連絡を取っていた。あれも、こういう秘術だったのか。


「君達から私へ同じように呼びかけることはできないんだ。ただ、こちらから連絡している間は、声に出して返事をしてくれれば聞こえるよ」


「分かりました」


「思っていることまで聞こえるわけではないから、安心してね」


それは少し安心した。


俺達はジークフリートと別れ、商人と共に門へ向かった。


「君達、ありがとな。これはお礼だ」


商人が差し出したのは、大銀貨だった。


俺とナージャに、一枚ずつ。


「こんなにいいんですか?」


「命と荷物を守ってもらったんだ。受け取ってくれ」


「ありがとうございます!」


「また機会があったら、よろしくな!」


商人を見送り、俺達は中央都市カーテナへ入った。


カーテナ王国で最も大きな都市らしい。


雪国だから建物も大きく違うのかと思っていたが、一般的な家はエクスカリバーとそこまで変わらない。屋根も透明になっている。


「とりあえず、冒険者ギルドに行こうか」


「うん」


ギルドに入り、受付へ向かう。


「すみません。パーティの解散申請をしたいんですが」


「かしこまりました。登録板をお預かりします」


登録板を渡すと、受付の人は確認してから顔を上げた。


「こちらのパーティは、既に解散されていますね」


「え? そうなんですか?」


「はい」


「メンバーの誰かが申請すれば、全員の登録に反映されるんですか?」


「そうなります」


俺とナージャは顔を見合わせた。


「誰かが先にやってくれたのかな」


「そうみたいだな」


誰が申請したのかは分からないが、これで手続きは済んだ。


礼を言って登録板を受け取り、依頼掲示板へ向かう。


今は《フレイムメイル》のおかげで寒くない。それでも、自分達の防寒具は買っておきたい。


まずは、この辺りで受けられる依頼を確認しよう。


「プラチナくらいの依頼で探すか」


掲示板を見ていると、見覚えのある魔物の名前があった。


「ホワイトベアーの毛皮……一体分で大銀貨四枚?」


高い。


道中で倒した一体を思い出す。


あの時は周囲の安全を確かめ、そのまま先へ進んでしまった。素材を運ぶところまでは考えていなかった。


「さっきの、持ってくればよかったな……」


「そうだね」


ホワイトファングの依頼もあった。こちらは一体につき銀貨一枚だ。


数は多かったが、まとめて持ち帰るとなると厄介だ。


「俺達、《グラビティ》は使えないんだよな」


「何匹も運ぶのは大変そうだね」


俺なら重い物も担げる。ただ、数が増えれば抱えきれないし、両手が塞がるほど持てば戦いにくい。


だったら、ホワイトベアーを一体探す方がよさそうだ。


「これにしよう。ただ、暗くなる前には戻ってこような」


「うん」


依頼を手に取り、受付へ戻る。


「これをお願いします」


「推奨人数はプラチナ三人ですが、お二人で受けられますか?」


「はい。俺がエメラルドで、彼女がプラチナです。道中でも一体倒しています」


「承知しました。こちらの受注板をお持ちください」


受注板を受け取り、俺達は街の外へ出た。


ジークフリートと合流して依頼のことを伝え、周囲を探し始める。


だが――。


「全然いないね……」


「探すとなると、見つからないな」


代わりに、ホワイトファングには何度も遭遇した。


「こっちは多いな」


「そうだね。魔術を使ってばかりになっちゃう」


ナージャが杖を握り直す。


「魔力は大丈夫?」


「まだ使えるよ。でも、帰りの分は残しておきたいね」


「ああ。無理そうなら、今日は引き返そう」


ポーションも買い足しておいた方がよさそうだ。


俺達は周囲を警戒しながら、森の方へ進んだ。


そこで、ようやく白い巨体を見つける。


「いた!」


少し離れた場所に、ホワイトベアーが横たわっていた。


動く様子はない。


「寝てるのかな?」


「……待って。周りも見よう」


木々の間へ目を向けた、その時だった。


ホワイトベアーの向こうで、さらに大きな影が動いた。


「アイスリザード……」


ホワイトベアーより一回り大きい。


口を開き、横たわる巨体へ近づいている。


「あいつが倒したのか?」


よく見ると、ホワイトベアーの毛並みには氷が張りついていた。眠っているのではなく、凍りついているらしい。


「食べるつもりなのかな……」


「多分な」


せっかく見つけた獲物だ。


そう思って足を踏み出しかけ、止まる。


素材を取りたいからって、二人でBランクの魔物に挑むのか?


それじゃ、何のために慎重に進んできたんだ。


俺はアイスリザードとの距離と、森の外へ続く道を見た。


ホワイトベアーは、俺達に近い側に倒れている。


「倒し合うのは避けよう。俺があれを運ぶ。ナージャは壁で進路を塞いでくれ」


「……運べる?」


「一体なら。ただ、近づいて間に合わないと思ったら諦める」


ナージャが杖を構えた。


「分かった」


俺は低く身をかがめ、ホワイトベアーへ走る。


近くで見ると、身体は完全に凍りついていた。動かない巨体の下へ腕を差し入れ、一気に担ぎ上げる。


重い。


それでも、持ち上げることはできた。


アイスリザードがこちらへ首を向ける。


「ナージャ!」


「《ストーンウォール》!」


俺達とアイスリザードの間に、土の壁がせり上がった。


その向こうから、壁を叩く音が響く。


「戻ろう!」


ホワイトベアーを担いだまま、俺はナージャと共に走り出した。


木々を抜け、森から離れる。


何度か後ろを振り返ったが、アイスリザードが追ってくる様子はなかった。


「シャウト……ちょっと、待って……」


ナージャの声に、俺はすぐ足を止めた。


「大丈夫?」


「走り続けるのは……きつくて……」


俺はホワイトベアーを下ろす。


荷物を運べるかどうかばかり考えて、ナージャの走る速さまで気が回っていなかった。


「ごめん。急がせすぎた」


「ううん……少し休めば、大丈夫」


周囲を確かめてから、ナージャに水を渡した。


ジークフリートも俺達のそばへ来る。


「戦わずに離れたのはよかったね。ただ、あの魔物の獲物を運び出すなら、追われることも考えておこう。二人とも逃げきれるか、そこまで含めて判断するんだよ」


「……はい」


手を出さずに引き返すこともできた。


今回はうまくいったからといって、これがいつも正しいとは限らない。


俺はナージャの呼吸が落ち着くのを待った。


「次は、走る前にちゃんと相談する」


「うん。私も、きつくなる前に言うね」


二人で戦うなら、相手の状態も分かっていないと駄目だ。


それを、早速教えられた気がした。


しばらく休んだ後、俺達はカーテナへ戻り始めた。


今度はナージャの歩調に合わせる。


「それにしても、アイスリザードって森にもいるんだね」


「俺も、洞穴とか迷宮にいるイメージだった」


知らないことは、まだ多い。


最初に遭遇したホワイトベアーも、開けた岩場にいた。あれが普通なのかどうかさえ、俺には分からなかった。


依頼を受けるなら、相手のいる場所も先に聞いておくべきだったな。


街の手前でジークフリートと別れ、そのままギルドへ向かう。


「依頼の報告をお願いします」


受付で声をかけ、運んできたホワイトベアーを引き渡した。


「凍っているんですが、毛皮の納品に問題はありませんか?」


「状態を確認しますので、少々お待ちください」


待っている間に、気になっていたことも尋ねる。


「ホワイトベアーは、普段どんなところにいるんですか?」


「主に川辺や洞穴の近くですね。森の中でも、川沿いで見つかることが多いです」


「開けた岩場には?」


「普段いる場所ではありませんが、移動しているところを見かけることはあるかもしれません」


「そうですか。ありがとうございます」


それだけでは、最初の一体がなぜあそこにいたかまでは分からない。


今度探す時は、教えてもらった場所を当たってみよう。


「毛皮の状態に問題はありませんでした。受注板をお預かりします」


「はい」


取り出した受注板の表面に、小さな傷があることに気づいた。


いつ付いたんだろう。


森を走った時か、ホワイトベアーを担いだ時か。少なくとも、はっきりとした覚えはない。


「依頼の達成を確認しました。報酬の大銀貨四枚です」


「ありがとうございます」


これで、商人からもらった分と合わせて大銀貨六枚になった。


俺達は防寒具を買うため、商店街へ向かった。


「あの店、入ってみるか」


少し高そうな店だったが、窓越しにローブが並んでいるのが見えた。


「いらっしゃいませ」


「防寒用のローブを探しています。俺は剣を使うので、できれば動きやすい物がいいんですが」


「でしたら、こちらへどうぞ」


案内された先には、厚みや形の違う衣服が並んでいた。


「主にホワイトベアー、イエティ、ギガントマンモスの素材を使った物を扱っております」


「値段はどれくらいですか?」


「こちらのホワイトベアーの物が銀貨五枚。イエティは大銀貨一枚、ギガントマンモスは大銀貨二枚ですね」


たっけえ……!


一番高い物を二人で買えば、大銀貨四枚だ。


ポーションも必要だし、剣を買う金も残しておきたい。


「値段の違いは、素材ですか?」


「はい。イエティやギガントマンモスは、素材の入手が難しいのです。討伐の危険もありますし、特にギガントマンモスは見つけること自体が難しくて」


「大きい分、一体から取れる量は多そうですけど」


「その通りです。ただ、それでも安定して手に入る素材ではありません」


店員は近くのローブを取り、胸元を示した。


「それと、組み込まれている魔石にも違いがあります」


小さな赤色の魔石が縫い留められている。


「この魔石には火魔術が込められていて、衣服の防寒性能を高めているんです」


「素材だけで暖かくしているわけじゃないんですね」


「はい。こちらの商品では、ホワイトベアーの物に約一センチ、イエティに約二センチ、ギガントマンモスに約三センチの魔石を使っています」


なるほど。


値段が高いのには、理由があるらしい。


とはいえ、今は必要な物を揃える方が先だ。


「ホワイトベアーの物を見せてください」


「かしこまりました」


ナージャは、白地に淡い青色が入ったローブを手に取った。片胸には、小さな赤い魔石が組み込まれている。


「私はこれにしようかな」


「似合いそうだな」


「そう?」


ナージャが嬉しそうにローブを広げる。


俺も並んでいる物を確かめた。


やっぱり、防寒用となると布地が多い。今までと同じような軽装は見当たらなかった。


「もっと軽い物はありませんか?」


「この価格帯では、こちらが最も軽いですね」


「分かりました」


俺は白地に黒が入ったローブを選んだ。


試しに羽織り、腕を動かしてみる。裾や袖の感覚には慣れる必要がありそうだが、これなら動けそうだ。


「これでお願いします」


「二点で大銀貨一枚です」


代金を払い、俺達は店を出た。


新しいローブは暖かい。


次に街を出る時は、まずこれを着た状態で剣を振っておこう。身体だけでなく、装備の感覚も確かめないとな。


「ついでにポーションも買おうか」


「うん。青は補充しておきたいね」


今日手に入れた金は、今の買い物で大銀貨五枚になった。


「青を二十個、買っておこう」


「そんなに?」


「二人で使う分だし、今日も結構魔力を使っただろ。持っておけば安心だから」


「確かに」


ナージャは魔術が中心だ。魔力を使い切ってしまえば、戦い方も大きく制限される。


俺も、剣だけで全て対処できるわけじゃない。


「緑も十個にしよう。赤は、今は買い足さなくていいかな」


ポーションを扱う店へ入り、注文する。


「青のポーションを二十個と、緑のポーションを十個ください」


「あいよ! 合わせて銀貨七枚だ!」


大銀貨一枚を渡すと、銀貨三枚のお釣りが返ってきた。


「ありがとうございます」


「毎度あり!」


店を出て、残った金を確認する。


大銀貨四枚と銀貨三枚。


「結構使ったな……」


必要な物とはいえ、金はすぐに減っていく。


宿代も食費も払わなければいけない。これからも、無理のない範囲で依頼を受けていこう。


気づけば、空が赤く染まり始めていた。


街にも少しずつ明かりが灯っている。


剣も見ておきたかったが、急いで決める物ではない。明日、時間を取って探そう。


「そろそろ宿を探そうか。その前に、何か食べる?」


「うん。お腹すいた」


「俺も。あの辺に店がありそうだな」


少し歩くと、庶民的な食事処を見つけた。


俺達はそこで温かい夕食を食べ、その後、近くの宿を取った。


ようやくベッドに横になると、一日の疲れが身体に広がった。


依頼を受け、魔物を倒し、稼いだ金で必要な物を買う。


懐かしい生活だった。


でも、今日だけでも分かったことがある。


今の身体には、まだ慣れていない。ナージャと二人で戦うなら、彼女の魔力だけでなく、体力や歩く速さにも気を配らなければならない。


知っているつもりでも、できていないことばかりだ。


だから、ここから覚え直そう。


次にみんなと会う時には、今より強くなっていたい。


そして、ナージャにも。


あの時のように、失いかけてから伝えるんじゃない。


一緒に旅をして、笑っていられるうちに、ちゃんと気持ちを伝えたい。


買ったばかりのローブを見て喜んでいた顔を思い出す。


あの笑顔を、これからも見ていたい。


そう思いながら、俺は目を閉じた。

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