第八十一話「カーテナ王国」
目を開けた瞬間、冷たい風が全身を襲った。
「さむっ!?」
辺り一面、雪景色だった。
地面は雪に覆われ、その隙間からゴツゴツとした岩が突き出している。
「ここ……魔大陸?」
てっきり、カーテナ王国の都市まで直接転移するものだと思っていた。
「天賢様、ここはどこですか?」
「カーテナ王国の近くだよ。都市までは歩いて向かおう」
「都市の中には転移しなかったんですね」
「突然三人も現れたら、騒ぎになるからね」
確かに、それはそうだ。
「カーテナ王国って、どんなところなんですか?」
「魔大陸に囲まれた国だよ。王国の領土内でも、都市や町の外は魔大陸とほとんど変わらないんだ」
ジークフリートが遠くを指差す。
その先には、巨大な壁が見えた。
「あれが中央都市カーテナだよ」
「魔力車は使わないんですか?」
「今回は修行の旅だからね。道中も、自分達で周囲を確かめながら進んでみよう」
「分かりました」
俺とナージャが先に立ち、ジークフリートは少し後ろを歩く。
「魔物との戦闘は、まず二人で対処してみて。私は必要な時に手を貸すから」
「はい」
隣でナージャも頷いた。
これまではギレウスやコルドも一緒だった。二人で前衛と後衛を担うとなると、少し緊張する。
「私達二人で大丈夫かな?」
「無理せず、一体ずつ確実に倒そう。俺が前に出るから、援護を頼む」
「うん!」
ナージャと目が合い、少しだけ胸が高鳴った。
これからは、こうして二人で連携していくんだ。
……いや、浮かれている場合じゃない。ちゃんと周りも見ないと。
「それにしても……寒すぎる」
防寒具なんて持ってきていない。
ナージャも腕をさすりながら歩いていた。
「ナージャ、火魔術は使える?」
「初級までなら使えるよ」
「身体を暖められる魔術ってないかな?」
「中級ならあるけど、私はまだ使えないんだ」
「そっか……」
すると、ジークフリートが声をかけてきた。
「ごめんね。先に寒さへの備えをしておくべきだったね」
彼が俺達へ手を向ける。
「《フレイムメイル》」
暖かな魔力が身体を包み込んだ。
「おお……暖かい!」
「これは中級の火魔術だよ。寒さを防げるんだ」
「ありがとうございます」
ナージャも、ほっとしたように肩の力を抜いた。
俺達は再びカーテナを目指して歩き始める。
雪に覆われた魔大陸は足場が悪く、歩くたびに靴が沈む。しばらく進んだところで、ようやく整備された道に出た。
「やっと歩きやすくなったな」
その時、前方に大きな白い影が現れた。
「魔物!」
巨大な白い熊――ホワイトベアーだ。
俺は剣を抜き、距離を詰めた。
「はっ!」
剣を振るう。
だが――。
「っ!?」
いつもの感覚で踏み込んだのに、思った位置まで刃が届かない。
ホワイトベアーが前脚を振り上げる。
「危なっ!」
慌てて後ろへ下がると、鋭い爪が目の前を通り過ぎた。
力の入り方も、間合いも違う。
そこで、ようやく気づいた。
今の俺は、十三歳の身体に戻っている。
頭に残っている感覚は、あの戦いの頃のものだ。腕や足の長さが違うのに、同じように動こうとしていた。
ホワイトベアーが再び襲いかかってくる。
俺が剣を構え直した、その時だった。
「《ウォーターブレイド》!」
水の刃が飛び、ホワイトベアーの首を斬り落とした。
巨体が雪の上へ倒れる。
「助かった……ありがとう、ナージャ」
「大丈夫? なんだか動きが変だったけど」
「え?」
「いつものシャウトなら、あんなふうに空振りしないでしょ?」
まずい。
「ちょっと雪に足を取られたんだ。踏み込みが足りなかった」
「そう? 気をつけてね」
「ああ」
誤魔化せた……よな?
ジークフリートが歩いてくる。
「慣れない場所では、足場も間合いも確かめてから仕掛けようね。ナージャちゃんは、よく援護できていたよ」
「はい!」
「……気をつけます」
今の身体で、どこまで踏み込めるのか。どの位置からなら剣が届くのか。
早く確かめ直さないと。
俺は剣を収め、歩き始めた。
しばらくすると、前方に複数の白い魔物が見えた。
「ホワイトファングだ」
数匹が、何かを取り囲んでいる。
「あれ、真ん中に誰かいないか?」
「人だよ!」
「誰か! 助けてくれ!」
叫び声が聞こえた。
「ナージャ、援護を頼む!」
「うん!」
俺は剣を抜いて走り出した。
さっきと同じ失敗はしない。
足場を確かめ、目の前の一匹との距離を見る。十分に踏み込んでから剣を振るうと、今度は刃が捉えた。
「《ウォーターブレイド》!」
ナージャの魔術が別の一匹を切り裂く。
俺達は取り囲まれないように位置を変えながら、残りのホワイトファングも倒した。
「た、助かった……ありがとう!」
襲われていたのは、荷物を運ぶ商人だった。
「怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ。本当に助かったよ。積んでいた肉の匂いに寄ってきたのかもしれないな……」
商人は荷物を確かめ、深く息をついた。
「俺達もカーテナへ向かうところです。一緒に行きますか?」
「いいのかい? それは助かるよ!」
ジークフリートは少し離れたところで、俺達のやり取りを見ていた。
今の戦いにも手を出さなかった。こうして、自分達で判断していくんだ。
商人と共に歩き始め、俺達はそれぞれ名乗った。
「シャウト・ロータスといいます」
「ナージャ・カルアです」
「よろしくな。ところで……君達は恋人なのかい?」
「え!? ち、違いますよ!」
「はは、そうか。仲が良さそうだったからさ」
思わずナージャを見たが、彼女は前を向いたままだった。
俺としては、そう見えるのは少し嬉しいんだけど。
「それにしても、こんなところで子供二人が戦えるとはね」
「俺達、冒険者なんです」
「冒険者? ランクはいくつなんだ?」
「俺がエメラルドで、ナージャがプラチナです」
「その歳で!?」
商人は目を丸くした。
「もしかして、王立の学校に通っているのかい?」
「はい。アレフ王立魔導学校に在学中です」
「なるほどなあ。それにしたって、大したものだ」
強いと言ってもらえるのは、嬉しい。
でも、それだけでは足りなかった。
あの時、俺は誰も守れなかったんだ。
「依頼の最中だったのかい?」
「いえ。これからカーテナで探すつもりです」
「そうだったのか。なら、いいところで会えたな」
その後もホワイトファングに遭遇したが、俺が前に出て、ナージャが後ろから援護する形で対処できた。
少しずつ、今の身体での間合いも掴めてくる。
ただ、油断はしない。剣が届く位置を、毎回確かめるようにして戦った。
やがて、都市を囲む巨大な壁が目の前に迫ってきた。
門に近づいたところで、ジークフリートが俺達を呼び止める。
「私は街の外にいるね。買い物や宿の手配は、二人に任せるよ」
「分かりました」
『それと、離れている時には、こうして声を届けることがあるよ』
突然、頭の中に声が響いた。
「……っ!」
一瞬、背筋が冷たくなる。
だが、目の前のジークフリートが穏やかに笑っていた。
「驚かせてしまったね。今のは私の秘術だよ」
「頭の中に、声が……」
ナージャも驚いている。
そういえば、オジエも他の天賢達へ連絡を取っていた。あれも、こういう秘術だったのか。
「君達から私へ同じように呼びかけることはできないんだ。ただ、こちらから連絡している間は、声に出して返事をしてくれれば聞こえるよ」
「分かりました」
「思っていることまで聞こえるわけではないから、安心してね」
それは少し安心した。
俺達はジークフリートと別れ、商人と共に門へ向かった。
「君達、ありがとな。これはお礼だ」
商人が差し出したのは、大銀貨だった。
俺とナージャに、一枚ずつ。
「こんなにいいんですか?」
「命と荷物を守ってもらったんだ。受け取ってくれ」
「ありがとうございます!」
「また機会があったら、よろしくな!」
商人を見送り、俺達は中央都市カーテナへ入った。
カーテナ王国で最も大きな都市らしい。
雪国だから建物も大きく違うのかと思っていたが、一般的な家はエクスカリバーとそこまで変わらない。屋根も透明になっている。
「とりあえず、冒険者ギルドに行こうか」
「うん」
ギルドに入り、受付へ向かう。
「すみません。パーティの解散申請をしたいんですが」
「かしこまりました。登録板をお預かりします」
登録板を渡すと、受付の人は確認してから顔を上げた。
「こちらのパーティは、既に解散されていますね」
「え? そうなんですか?」
「はい」
「メンバーの誰かが申請すれば、全員の登録に反映されるんですか?」
「そうなります」
俺とナージャは顔を見合わせた。
「誰かが先にやってくれたのかな」
「そうみたいだな」
誰が申請したのかは分からないが、これで手続きは済んだ。
礼を言って登録板を受け取り、依頼掲示板へ向かう。
今は《フレイムメイル》のおかげで寒くない。それでも、自分達の防寒具は買っておきたい。
まずは、この辺りで受けられる依頼を確認しよう。
「プラチナくらいの依頼で探すか」
掲示板を見ていると、見覚えのある魔物の名前があった。
「ホワイトベアーの毛皮……一体分で大銀貨四枚?」
高い。
道中で倒した一体を思い出す。
あの時は周囲の安全を確かめ、そのまま先へ進んでしまった。素材を運ぶところまでは考えていなかった。
「さっきの、持ってくればよかったな……」
「そうだね」
ホワイトファングの依頼もあった。こちらは一体につき銀貨一枚だ。
数は多かったが、まとめて持ち帰るとなると厄介だ。
「俺達、《グラビティ》は使えないんだよな」
「何匹も運ぶのは大変そうだね」
俺なら重い物も担げる。ただ、数が増えれば抱えきれないし、両手が塞がるほど持てば戦いにくい。
だったら、ホワイトベアーを一体探す方がよさそうだ。
「これにしよう。ただ、暗くなる前には戻ってこような」
「うん」
依頼を手に取り、受付へ戻る。
「これをお願いします」
「推奨人数はプラチナ三人ですが、お二人で受けられますか?」
「はい。俺がエメラルドで、彼女がプラチナです。道中でも一体倒しています」
「承知しました。こちらの受注板をお持ちください」
受注板を受け取り、俺達は街の外へ出た。
ジークフリートと合流して依頼のことを伝え、周囲を探し始める。
だが――。
「全然いないね……」
「探すとなると、見つからないな」
代わりに、ホワイトファングには何度も遭遇した。
「こっちは多いな」
「そうだね。魔術を使ってばかりになっちゃう」
ナージャが杖を握り直す。
「魔力は大丈夫?」
「まだ使えるよ。でも、帰りの分は残しておきたいね」
「ああ。無理そうなら、今日は引き返そう」
ポーションも買い足しておいた方がよさそうだ。
俺達は周囲を警戒しながら、森の方へ進んだ。
そこで、ようやく白い巨体を見つける。
「いた!」
少し離れた場所に、ホワイトベアーが横たわっていた。
動く様子はない。
「寝てるのかな?」
「……待って。周りも見よう」
木々の間へ目を向けた、その時だった。
ホワイトベアーの向こうで、さらに大きな影が動いた。
「アイスリザード……」
ホワイトベアーより一回り大きい。
口を開き、横たわる巨体へ近づいている。
「あいつが倒したのか?」
よく見ると、ホワイトベアーの毛並みには氷が張りついていた。眠っているのではなく、凍りついているらしい。
「食べるつもりなのかな……」
「多分な」
せっかく見つけた獲物だ。
そう思って足を踏み出しかけ、止まる。
素材を取りたいからって、二人でBランクの魔物に挑むのか?
それじゃ、何のために慎重に進んできたんだ。
俺はアイスリザードとの距離と、森の外へ続く道を見た。
ホワイトベアーは、俺達に近い側に倒れている。
「倒し合うのは避けよう。俺があれを運ぶ。ナージャは壁で進路を塞いでくれ」
「……運べる?」
「一体なら。ただ、近づいて間に合わないと思ったら諦める」
ナージャが杖を構えた。
「分かった」
俺は低く身をかがめ、ホワイトベアーへ走る。
近くで見ると、身体は完全に凍りついていた。動かない巨体の下へ腕を差し入れ、一気に担ぎ上げる。
重い。
それでも、持ち上げることはできた。
アイスリザードがこちらへ首を向ける。
「ナージャ!」
「《ストーンウォール》!」
俺達とアイスリザードの間に、土の壁がせり上がった。
その向こうから、壁を叩く音が響く。
「戻ろう!」
ホワイトベアーを担いだまま、俺はナージャと共に走り出した。
木々を抜け、森から離れる。
何度か後ろを振り返ったが、アイスリザードが追ってくる様子はなかった。
「シャウト……ちょっと、待って……」
ナージャの声に、俺はすぐ足を止めた。
「大丈夫?」
「走り続けるのは……きつくて……」
俺はホワイトベアーを下ろす。
荷物を運べるかどうかばかり考えて、ナージャの走る速さまで気が回っていなかった。
「ごめん。急がせすぎた」
「ううん……少し休めば、大丈夫」
周囲を確かめてから、ナージャに水を渡した。
ジークフリートも俺達のそばへ来る。
「戦わずに離れたのはよかったね。ただ、あの魔物の獲物を運び出すなら、追われることも考えておこう。二人とも逃げきれるか、そこまで含めて判断するんだよ」
「……はい」
手を出さずに引き返すこともできた。
今回はうまくいったからといって、これがいつも正しいとは限らない。
俺はナージャの呼吸が落ち着くのを待った。
「次は、走る前にちゃんと相談する」
「うん。私も、きつくなる前に言うね」
二人で戦うなら、相手の状態も分かっていないと駄目だ。
それを、早速教えられた気がした。
しばらく休んだ後、俺達はカーテナへ戻り始めた。
今度はナージャの歩調に合わせる。
「それにしても、アイスリザードって森にもいるんだね」
「俺も、洞穴とか迷宮にいるイメージだった」
知らないことは、まだ多い。
最初に遭遇したホワイトベアーも、開けた岩場にいた。あれが普通なのかどうかさえ、俺には分からなかった。
依頼を受けるなら、相手のいる場所も先に聞いておくべきだったな。
街の手前でジークフリートと別れ、そのままギルドへ向かう。
「依頼の報告をお願いします」
受付で声をかけ、運んできたホワイトベアーを引き渡した。
「凍っているんですが、毛皮の納品に問題はありませんか?」
「状態を確認しますので、少々お待ちください」
待っている間に、気になっていたことも尋ねる。
「ホワイトベアーは、普段どんなところにいるんですか?」
「主に川辺や洞穴の近くですね。森の中でも、川沿いで見つかることが多いです」
「開けた岩場には?」
「普段いる場所ではありませんが、移動しているところを見かけることはあるかもしれません」
「そうですか。ありがとうございます」
それだけでは、最初の一体がなぜあそこにいたかまでは分からない。
今度探す時は、教えてもらった場所を当たってみよう。
「毛皮の状態に問題はありませんでした。受注板をお預かりします」
「はい」
取り出した受注板の表面に、小さな傷があることに気づいた。
いつ付いたんだろう。
森を走った時か、ホワイトベアーを担いだ時か。少なくとも、はっきりとした覚えはない。
「依頼の達成を確認しました。報酬の大銀貨四枚です」
「ありがとうございます」
これで、商人からもらった分と合わせて大銀貨六枚になった。
俺達は防寒具を買うため、商店街へ向かった。
「あの店、入ってみるか」
少し高そうな店だったが、窓越しにローブが並んでいるのが見えた。
「いらっしゃいませ」
「防寒用のローブを探しています。俺は剣を使うので、できれば動きやすい物がいいんですが」
「でしたら、こちらへどうぞ」
案内された先には、厚みや形の違う衣服が並んでいた。
「主にホワイトベアー、イエティ、ギガントマンモスの素材を使った物を扱っております」
「値段はどれくらいですか?」
「こちらのホワイトベアーの物が銀貨五枚。イエティは大銀貨一枚、ギガントマンモスは大銀貨二枚ですね」
たっけえ……!
一番高い物を二人で買えば、大銀貨四枚だ。
ポーションも必要だし、剣を買う金も残しておきたい。
「値段の違いは、素材ですか?」
「はい。イエティやギガントマンモスは、素材の入手が難しいのです。討伐の危険もありますし、特にギガントマンモスは見つけること自体が難しくて」
「大きい分、一体から取れる量は多そうですけど」
「その通りです。ただ、それでも安定して手に入る素材ではありません」
店員は近くのローブを取り、胸元を示した。
「それと、組み込まれている魔石にも違いがあります」
小さな赤色の魔石が縫い留められている。
「この魔石には火魔術が込められていて、衣服の防寒性能を高めているんです」
「素材だけで暖かくしているわけじゃないんですね」
「はい。こちらの商品では、ホワイトベアーの物に約一センチ、イエティに約二センチ、ギガントマンモスに約三センチの魔石を使っています」
なるほど。
値段が高いのには、理由があるらしい。
とはいえ、今は必要な物を揃える方が先だ。
「ホワイトベアーの物を見せてください」
「かしこまりました」
ナージャは、白地に淡い青色が入ったローブを手に取った。片胸には、小さな赤い魔石が組み込まれている。
「私はこれにしようかな」
「似合いそうだな」
「そう?」
ナージャが嬉しそうにローブを広げる。
俺も並んでいる物を確かめた。
やっぱり、防寒用となると布地が多い。今までと同じような軽装は見当たらなかった。
「もっと軽い物はありませんか?」
「この価格帯では、こちらが最も軽いですね」
「分かりました」
俺は白地に黒が入ったローブを選んだ。
試しに羽織り、腕を動かしてみる。裾や袖の感覚には慣れる必要がありそうだが、これなら動けそうだ。
「これでお願いします」
「二点で大銀貨一枚です」
代金を払い、俺達は店を出た。
新しいローブは暖かい。
次に街を出る時は、まずこれを着た状態で剣を振っておこう。身体だけでなく、装備の感覚も確かめないとな。
「ついでにポーションも買おうか」
「うん。青は補充しておきたいね」
今日手に入れた金は、今の買い物で大銀貨五枚になった。
「青を二十個、買っておこう」
「そんなに?」
「二人で使う分だし、今日も結構魔力を使っただろ。持っておけば安心だから」
「確かに」
ナージャは魔術が中心だ。魔力を使い切ってしまえば、戦い方も大きく制限される。
俺も、剣だけで全て対処できるわけじゃない。
「緑も十個にしよう。赤は、今は買い足さなくていいかな」
ポーションを扱う店へ入り、注文する。
「青のポーションを二十個と、緑のポーションを十個ください」
「あいよ! 合わせて銀貨七枚だ!」
大銀貨一枚を渡すと、銀貨三枚のお釣りが返ってきた。
「ありがとうございます」
「毎度あり!」
店を出て、残った金を確認する。
大銀貨四枚と銀貨三枚。
「結構使ったな……」
必要な物とはいえ、金はすぐに減っていく。
宿代も食費も払わなければいけない。これからも、無理のない範囲で依頼を受けていこう。
気づけば、空が赤く染まり始めていた。
街にも少しずつ明かりが灯っている。
剣も見ておきたかったが、急いで決める物ではない。明日、時間を取って探そう。
「そろそろ宿を探そうか。その前に、何か食べる?」
「うん。お腹すいた」
「俺も。あの辺に店がありそうだな」
少し歩くと、庶民的な食事処を見つけた。
俺達はそこで温かい夕食を食べ、その後、近くの宿を取った。
ようやくベッドに横になると、一日の疲れが身体に広がった。
依頼を受け、魔物を倒し、稼いだ金で必要な物を買う。
懐かしい生活だった。
でも、今日だけでも分かったことがある。
今の身体には、まだ慣れていない。ナージャと二人で戦うなら、彼女の魔力だけでなく、体力や歩く速さにも気を配らなければならない。
知っているつもりでも、できていないことばかりだ。
だから、ここから覚え直そう。
次にみんなと会う時には、今より強くなっていたい。
そして、ナージャにも。
あの時のように、失いかけてから伝えるんじゃない。
一緒に旅をして、笑っていられるうちに、ちゃんと気持ちを伝えたい。
買ったばかりのローブを見て喜んでいた顔を思い出す。
あの笑顔を、これからも見ていたい。
そう思いながら、俺は目を閉じた。




