第八十話「それぞれの旅路」
「よし、振り分けは終わった」
全員の組み合わせが決まったところで、オジエが口を開いた。
「次に、旅のルールを決めておく」
「ルール?」
「ああ。まず、旅に必要な金は己で稼げ。我らは金には困っておらんが、お前達の食費や宿代まで出すつもりはない」
天賢が一緒でも、生活の面倒まで見てもらえるわけじゃないらしい。
「それと、今回の旅では無料宿泊の特権を使うな」
エメラルド以上の冒険者には、宿を無料で利用できる特権がある。その冒険者がパーティのリーダーなら、仲間も恩恵を受けられる。
俺、ギレウス、コルドは既にエメラルドだ。ナージャも、今は俺達のパーティの一員として無料で泊まれる。
だが、今回の旅では全員、自分で宿代を払うということか。
「シャウト、ギレウス、コルド、ナージャ。お前達は現在のパーティを解散する申請もしておけ。これからは別々の組で活動するのだからな」
「……解散ですか」
思わず、みんなの顔を見た。
一緒に旅をしてきたパーティだ。それを解散すると言われると、少し寂しい。
でも、仲間でなくなるわけじゃない。
今は、それぞれの場所で強くなるために必要なことだ。
「分かりました」
オジエは頷き、話を続ける。
「旅に出る三組は、それぞれ二人で依頼を受けて金を稼げ。依頼に記されている推奨人数は目安だ。それより少ない人数で受けてはならんという決まりではない」
「じゃあ、推奨人数が多くても、二人で達成できればいいんですね?」
ギレウスが尋ねた。
「そうだ。ただし、無謀な依頼を選べという意味ではない。自分達に何ができるかを見極めることも、修行のうちだ」
「なるほど……」
「魔術の指導や、戦い方への助言は我らが行う。だが、依頼そのものはお前達の力で達成しろ。本当に危険だと判断した場合には、同行する天賢が介入する」
「分かりました」
教えてもらったことを、自分達で試す。そして、できなかったことをまた学ぶ。
天賢についていくだけでは、強くなれないということだ。
また、天賢達は身分を隠して行動するらしい。街には基本的に入らず、俺達と一緒に宿へ泊まることもないという。
その名や正体が知れれば、それだけで騒ぎになってしまうからだ。
「我らには、お前達の様子を確認できる秘術がある。近くに姿が見えなくとも、状況は把握していると思え」
「ずっと見られてるんですか……」
なんか、それはそれで落ち着かないな。
とはいえ、旅費を自分達で稼ぐのは、エメラルドになる前なら当たり前だった。生活の面では、昔に戻るだけだ。
「旅のルールは以上だ」
オジエは一度言葉を切り、俺を見た。
「それとシャウト。お前は旅をしながら、《光の恩寵》についても研究しろ」
「はい」
自分の力なのに、まだ分からないことが多すぎる。
何ができて、何ができないのか。使うことで、何が起きるのか。
今度こそ、それを知らないまま戦いたくはない。
「ただし、光魔術の使用には《闇》の増加が伴う。それを忘れるな」
「……分かっています」
ただ使って試せばいいわけではない。
その難しさも含めて、向き合っていく必要がある。
「よし。では、各々の出発地点を伝える。まず、ジークフリート組はカーテナ王国だ」
「分かったよ」
ジークフリートが穏やかに答えた。
俺とナージャは、カーテナ王国から旅を始めることになる。
「ローラン組は、このままデュランダル王国から出発しろ」
「任せておけ!」
ローランが胸を張る。
「シャルル組はジュワユース王国だ」
「分かった」
シャルルは短く答えた。
コルドとリリス先輩はデュランダル。ギレウスとラントはジュワユース。
これで、それぞれの出発地点も決まった。
「武器や防具、ポーションなど、必要な物は現地で揃えろ」
「はい」
武器。
その言葉を聞いて、俺は腰の剣に目を落とした。
天月人との戦いで、この剣は壊れた。
俺が前で戦えなくなり、代わりにギレウスが出た。そして――。
柄を握る手に、力が入る。
剣さえ替えていれば、みんなを救えた。
そんなことまでは分からない。
それでも、壊れるところを見ておきながら、同じ備えで挑むわけにはいかない。
今度は、俺の力に耐えられる剣を探そう。
「では、準備のできた組から出発しろ」
オジエの言葉を合図に、それぞれが動き始めた。
俺とナージャも、ジークフリートのもとへ向かう。
これからは、この人から魔術を学ぶんだ。
「ジークフリート様。これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
二人で頭を下げると、ジークフリートは穏やかに笑った。
「ジークでいいよ。毎回そんなにかしこまらなくても大丈夫だから」
「いえ、そんなことは……」
「これから一緒に旅をするんだ。気軽に呼んでくれると嬉しいよ」
「そうですか……」
そう言われても、天賢をいきなり愛称で呼ぶのは難しい。
俺が返事に困っていると、ジークフリートは小さく笑った。
「まあ、すぐには慣れないよね。少しずつでいいよ」
「なるべく頑張ります!」
「はは。そんなに頑張ることでもないんだけどね」
「あ……確かに、そうですね」
呼び方を変えるのに、何を頑張るんだ俺は。
隣でナージャが少し笑っていた。
「ところで、シャウトくん。カーテナ王国へ行ったことはあるかい?」
「ありません」
「じゃあ、今回は私が転移魔術を使うね」
「ありがとうございます」
光魔術を使えば、相対的に《闇》も増える。
俺が使っても、ジークフリートが使っても、それは同じだ。
必要な移動だからといって、代償がなくなるわけじゃない。
黙った俺に気づいたのか、ジークフリートが声をかけた。
「気になるかい?」
「……はい。光魔術を使うことが」
「そうだね。私も、むやみに使いたくはないよ」
ジークフリートは静かに答える。
「それでも、今は君達を送り届けるために使う。ここからの旅で、その時間を大切にしていこう」
「……はい」
使わずに済む場面では、頼らない。
今はそうして、一つずつ考えていくしかないんだ。
「じゃあ、手を繋いで」
俺とナージャは、ジークフリートと手を繋いだ。
周囲に淡い光が現れ始める。
もうすぐ転移する。
俺は最後に、みんなの顔を見た。
ギレウス。コルド。ラント。リリス先輩。クリス。そしてオジエ達。
これからは、それぞれ別の場所で旅をする。
エクスカリバーで合流するのは、二年後を目安にしている。
予定が変わることもあるだろう。その間に、何が起きるかも分からない。
それでも、また会う約束はしておきたかった。
「みんな! また二年後に、会おうな!」
俺の声に、みんなが振り返る。
「おう!」
「もちろんだ!」
「絶対会おうね!」
「君達も、元気でね!」
「当たり前だろ!」
返ってきた声を聞いて、俺は笑った。
繋いでいるナージャの手にも、少しだけ力がこもる。
今度こそ、誰も欠けることなく。
もっと強くなって、またみんなで会おう。
光が強まり、仲間達の姿を包み隠していく。
最後まで聞こえていた声を胸に、俺とナージャは、ジークフリートと共にカーテナ王国へ転移した。
過去編終了です!
次回ナージャ・カルア編!




