第七話 「アレフ王立魔導学校」
少年期スタートです、長くなるかも?
春、暖かくなり始めた今日、俺はついにアレフ王立魔道学校へ入学する。
入学試験からしばらく経ったが、あの日言われたことは今でも覚えている。
生体魔力――千。
そして、《筋力の恩寵》を持っている可能性が高いということ。
普通の人族なら百程度らしいから、単純に考えて十倍だ。実際、昔から自分の力が妙に強いとは思っていたが、まさかそんなものを持っているとは思わなかった。
それに、俺には前世で剣道をやっていた経験もある。
魔術も覚えたい。
剣術もやりたい。
せっかく異世界に来たんだ。どっちもできるなら、やらない理由はない。
……まあ、魔術に関しては少し不安もある。
五歳の時、初めて火属性の魔術を使おうとして出てきた、あの謎の光。
熱くもない。
燃えもしない。
結局、あれ以来火属性の魔術は使っていない。
でも、学校なら何か分かるかもしれない。王立魔道学校なんて名前なんだから、魔術に関してはかなり詳しいはずだ。
そんな期待を抱きながら、俺は自分の部屋で荷物を確認していた。
今日から俺は、この家を離れる。
学校の寮で生活するためだ。
アレフ王立魔導学校は、家から毎日通うには少し遠い。通えない距離ではないらしいが、授業で魔力を消費した状態で帰宅することを考えると、子供には負担が大きいそうだ。
特に夜になれば、人族は日光から魔力を回復できない。魔力を消耗した子供を暗い道で長時間移動させるのも危険ということで、基本的に生徒は寮で生活することになっている。
なるほど。
ちゃんと理由があるらしい。
……とはいえ。
「…………これ、どうやって入れるんだ?」
目の前には、荷物と大きな鞄。
服、本、日用品。
必要なものは分かる。
だが、どう入れれば綺麗に収まるのかが分からない。
とりあえず服を畳んでみる。
…………。
なんか汚い。
もう一回。
…………。
さっきより汚くなった気がする。
「…………」
まずい。
ここに来て、とんでもない問題に気づいてしまった。
俺――生活能力がない。
考えてみれば当然だった。生まれてから今まで、着替えも、洗濯も、部屋の片付けも、身の回りのことはほとんどベルトがやってくれていた。
前世では普通にできていたはずなんだけどな。
でも、五年以上も人にやってもらっていると感覚なんて忘れるものらしい。
……いや。
五歳児が一人で全部できる方がおかしいのか?
そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
「失礼いたします」
ベルトだ。
俺の前に広がる荷物を見ると、すぐに状況を察したらしい。
「お困りですか、シャウト様?」
「…………ちょっとだけ」
嘘だ。
かなり困っている。
ベルトは小さく笑うと、俺の隣へ来た。
「では、一緒にやりましょうか」
「うん」
ベルトに教えてもらいながら、服を畳み直して鞄へ入れていく。服はこう畳む。本は重いから下に入れる。すぐ使うものは取り出しやすい場所に。
やってみれば難しいことではない。
ただ、知らなかっただけだ。
荷造りが終わる頃には、最初のぐちゃぐちゃな状態が嘘みたいに綺麗に収まっていた。
…………ほとんどベルトのおかげだけど。
「これで大丈夫でしょう」
「ありがとう、ベルト」
「いえ。ですが、寮では私がお手伝いすることはできませんからね」
「…………そうなんだよな」
それが一番の問題だ。
寮生活。
響きだけなら楽しそうだが、今までベルトに任せていたことを自分でやらなければならない。
着替え。
片付け。
荷物の管理。
…………できるのか、俺。
魔術や剣術以前の問題な気がしてきた。
そんな俺の顔を見て、ベルトは少し笑った。
「シャウト様。何も、最初からすべて一人でできる必要はありませんよ」
「え?」
「分からないことがあれば、人に尋ねる。困った時には、誰かを頼る。それでよろしいのです」
俺はベルトを見る。
「でも、ずっと人に頼ってたらダメじゃない?」
「もちろん、ご自身でできるようになることも大切です。しかし、人に頼ることと、何もせず任せきりにすることは違います」
なるほど。
確かにそうかもしれない。
分からないなら聞けばいい。
できないなら教えてもらえばいい。
そして、いつかそいつが困った時には、俺が助ければいい。
「時には、友の力を借りることも大切です」
「友達か……」
そういえば、この世界に生まれてから同じくらいの年齢の奴とまともに話したことがない。
家にいるのは父さん、母さん、ベルト。街へ出ても、基本的には家族と一緒だった。
前世では普通に友達がいた。
でも、この世界ではまだ一人もいない。
「シャウト様にも、きっと良きご友人ができますよ」
ベルトはそう言って、いつもの穏やかな笑顔を見せた。
「…………うん」
友達か。
どんな奴がいるんだろうな。
魔族とか、天翔族とか。
人族以外の奴とも友達になれたりするんだろうか。
少し楽しみになってきた。
荷物を持って一階へ降りると、父さんと母さんが待っていた。
「準備できたか?」
「うん」
「忘れ物はない?」
「多分」
「多分って……」
母さんが呆れたように笑う。
大丈夫だ。
たぶん。
ベルトと一緒に確認したから。
「それじゃ、行くか」
父さんがそう言って玄関の扉を開ける。
外は暖かく、春らしい風が吹いていた。
今日から、俺の学校生活が始まる。
魔術。
剣術。
寮生活。
そして、まだ会ったことのない同級生たち。
期待もある。
不安もある。
でも、それ以上に楽しみだった。
俺は父さんと母さんと一緒に家を出た。
しばらく歩き、やがて大きな建物が見えてくる。
高い塀。
その向こうに並ぶ、いくつもの建物。
そして正面には、大きな門があった。
門の前には、俺と同じように家族に連れられた子供たちが次々と入っていく。
ここが――。
アレフ王立魔導学校。
俺は大きな門を見上げた。
今日から俺は、ここで学ぶことになる。




