↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/87

第六十七話「嵐の前」

翌朝。


俺達はジュワユース王国へ向かうため、出発の準備をしていた。


ここからは長い旅になるはずだ。


ただ、その前に一度デュランダルへ飛び、オジエ様に報告しておくつもりだった。


ジュワユース王国で起きた、原因不明の異変について。


俺と同じ部屋に泊まっていたコルド、ギレウス、クリスも準備を終える。


「じゃあ、行くか」


俺達四人で部屋を出ると、そこにはナージャがいた。


どうやら待っていたようだ。


「おはよう」


「おはよう、ナージャ」


全員揃ったところで、俺達はまずデュランダルへ向かうことにした。


宿を出て、人通りの少ない裏路地へ向かう。


周囲に誰もいないことを確認する。


「じゃあ、行くぞ」


俺達は互いに手を繋いだ。


頭の中に思い描くのは、デュランダル王国近郊にある、オジエ様の洞窟。


その光景を鮮明に思い浮かべながら、転移魔術を発動する。


次の瞬間、景色が切り替わった。


目の前には、見覚えのある洞窟の入口。


「着いたな」


俺達は、オジエ様のいる洞窟の前へと転移した。


そのまま洞窟の中へ入る。


奥へ進んでいくと、オジエ様が座っていた。


片手には飲み物を持っている。


「お前達か。どうした? 何かあったのか?」


この反応を見る限り、まだ知らないのだろう。


「昨日、エクスカリバーで聞いた話なのですが、ジュワユース王国で原因不明の黒い何かが都市を埋め尽くしたようです」


「……何?」


オジエ様の表情が変わった。


明らかに驚いている。


「もしかすると、それは……」


オジエ様が途中で言葉を止める。


「はい。俺達も《闇》だと思っています」


「……やはりか」


オジエ様は持っていた飲み物を置いた。


「闇が出現した。ならば、我も対抗しなければならない」


立ち上がろうとした、その時だった。


「オジエ様!」


ギレウスが声を上げる。


「ここは我々に任せてください!」


オジエ様の動きが止まった。


「……そうか。だが、お前達に何ができる?」


「シャウトとクリス。この二人がいれば、何かできると思います!」


オジエ様は俺とクリスを見る。


少しの間、俺達を見つめた後、静かに口を開いた。


「そうか。だが、お前達は弱い」


「……」


「死ぬぞ」


そうだ。


俺達は、天賢に比べれば圧倒的に弱い。


そして、その天賢達がやっとの思いで倒したのが《闇》だ。


そんなものを俺達だけで倒せるなんて、オジエ様は思っていないのだろう。


それでも、ギレウスは続ける。


「《光の恩寵》と、新たな恩寵。この二つを掛け合わせれば、何かできると思うんです!」


「そうか。ならば言ってみろ。何ができる?」


「……」


ギレウスの口が止まった。


当然だ。


何ができるのかなんて、俺達にもまだ分からない。


「……何かしら、俺達にもできるはずです」


俺はオジエ様を見る。


「そのために俺達が生まれたと言っても、過言ではないはずです」


俺とクリス。


同じ転生者でありながら、それぞれが二つの恩寵を持っている。


これに何の意味があるのかは、まだ分からない。


それでも――。


「まずは俺達が《闇》を何とかします。何もできなければ、その時はオジエ様達が助けてください」


「……」


オジエ様は少しの間、考え込んだ。


そして――。


「良かろう」


「……!」


「お前達の行く末を見届けよう」


了承してくれた。


ただ、最後に一つだけ警告された。


「だが、本当に危なくなったら逃げろ」


「分かりました」


俺達はジュワユース王国へ向かうことを伝え、オジエ様の洞窟を後にした。


そして転移魔術を使い、デュランダル王国へ向かう。


そこからジュワユース王国のある西側へ向かおうとした――その時だった。


聞き捨てならない言葉が、耳に入った。


いや。


それはもう、聞き間違いであってほしいほどの、最悪の言葉だった。


「アレフからエクスカリバーへ、黒い何かが進行している!」


「……え?」


俺の足が止まった。


頭が一瞬、真っ白になった。


アレフ。


父さん。


母さん。


ラント。


あいつらは――どうなった?


何も考えられず、その場で固まってしまう。


「シャウト!」


突然、ナージャが声を荒らげた。


「固まってないで! アレフに戻らないと!」


「……あ」


その声で我に返る。


「あ、ああ! そうだな!」


そうだ。


今は考えている場合じゃない。


まずはアレフに戻らないと。


ラントは無事なのか。


父さんと母さんは生きているのか。


それを、この目で確認しなければならない。


俺達はすぐに転移魔術を使った。


思い描くのは、アレフ王立魔導学校の門の前。


次の瞬間、景色が切り替わる。


「……着いた」


学校の前だ。


だが――。


「誰もいない……?」


辺りを見回す。


人の姿はない。


それだけじゃない。


学校にも、周囲の建物にも、特に被害らしいものは見当たらなかった。


「……なんでだ?」


黒い何かが現れたんじゃないのか?


あんな騒ぎになっていたのに、目の前の景色はいつもと何も変わらない。


……いや。


今はそんなことより、ラントだ。


「行くぞ!」


俺達は学校の中へ走った。


今は授業中の時間だ。


だが、そんなこと知ったことか。


ラントの教室は変わっていないはずだ。


廊下を走り、そのまま教室へ向かう。


見覚えのある扉が見えた。


勢いよく扉を開ける。


「ラント!」


俺の声が教室中に響いた。


一斉に全員がこちらを向く。


「……え?」


ラントがいる。


他の生徒達もいる。


先生もいる。


みんな無事だ。


焦っていたのは、俺達だけだった。


「あなた達! 何をしているのです!」


先生の怒鳴り声が響く。


「今は授業中です!」


「す、すみません……」


一体、何が起きている?


アレフに《闇》が出たんじゃないのか?


どういうことだ。


頭が追いつかない。


周りを見ると、みんなも同じような顔をしていた。


すると、先生が俺達の様子を見て口を開く。


「その顔を見るに、何かあったのでしょう。ですが、今は授業中です。終わるまで寮で待っていなさい!」


「……分かりました」


俺達は大人しく教室を出る。


最後にラントを見ると、困惑した表情を浮かべていた。


当然だ。


いきなり授業中に俺達が飛び込んできて、名前を叫んだんだから。


その隣で、ギレウスは安心したような顔をしていた。


ラントが無事だったからだろう。


だが――。


なぜだ?


なぜ、何も起きていない?


その理由を探るため、俺達は転移魔法陣のある広場へ向かってみることにした。


そして、広場へ着いた瞬間。


原因はすぐに分かった。


「……黒い」


転移魔法陣が黒くなっていた。


おそらく、黒い何かは一度ここへ来て、そのままエクスカリバーへ向かったのだろう。


でも――。


「何のために……?」


なぜ、一度アレフに?


最初からエクスカリバーへ向かえばよかったんじゃないのか?


何か目的があってここへ来た?


それとも、ただ間違えただけなのか?


考えても分からない。


俺が黙り込んでいると、コルドが口を開いた。


「仮定の話だが、最初からエクスカリバーへ向かうことが目的だった。しかし、何かしらの理由でアレフへ来てしまった。だから、すぐにエクスカリバーへ向かった……そう考えるのが自然ではないか?」


「……俺もそう思う」


ギレウスが頷く。


「私も」


ナージャも同意する。


クリスも異論はないようだった。


やっぱり、目的地はエクスカリバーなのか?


だとすれば――。


エクスカリバーに何がある?


「……」


一つだけ、思い当たるものがある。


あの城にあったもの。


光魔術を使えば反応する、アーサーの武器。


国宝――《エクスカリバー》。


……杖か?


《エクスカリバー》が危険だ。


今の時点で分かるのは、それだけだ。


すぐにでもエクスカリバーへ戻るべきなのかもしれない。


だけど、その前にラントにも話しておきたい。


できることなら、ラントにも協力してもらいたい。


「ギレウス」


「なんだ?」


「ラントにも協力してもらおうよ」


そう聞くと、ギレウスは少し考えた後、真剣な表情で俺を見た。


「……良いと思う」


ラントは、かつて俺達と一緒に旅をした仲間だ。


一緒に戦った経験もある。


連携だってできる。


ラントが加われば、俺、ナージャ、ギレウス、コルド、クリス、ラント。


六人パーティになる。


これから何と戦うことになるのかは分からない。


それでも、人が多い方が勝てる算段はつけやすい。


「じゃあ、授業が終わったらラントに話そう」


俺達は学校が終わる時間まで、近くの酒場で時間を潰すことにした。


そして、学校が終わる時間になった。


俺達はラントと合流し、まず今まで俺達が知った《本当の歴史》について話した。


光の天賢アーサーのこと。


光魔術が歴史から消されたこと。


そして、かつて天賢達が戦った《闇》のこと。


その《闇》が、今まさに復活した可能性が高いことも伝えた。


「だから、ラントにも一緒に戦ってほしい」


俺がそう言うと、ラントはしばらく黙って俺達を見つめた。


そして、真剣な眼差しで頷く。


「……分かった」


その一言に、俺は少し安心した。


ここ数年、ラントは学業に専念していたらしい。


その間に雷魔術は天導級、風魔術は上級まで扱えるようになっているという。


心強い。


ラントが加われば、俺達は六人になる。


「じゃあ、今日はもう学校終わりだし、また明日にしよう」


そう言って、俺達はラントと別れた。


「俺達も今日は宿を取ろう」


家には帰らない。


帰るのは、全てが終わってからだ。


俺はそう決めた。


――だが。


この時の俺は、まだ何も知らなかった。


まさか、あんなことになるなんて。

忘却編終了です!


次回復活編!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。