第六十六話「難航」
中央都市エクスカリバーへ到着した。
……のはいいんだけど。
「おい……あいつら、今いきなり現れなかったか?」
「え?」
「どこから来たんだ?」
周囲から声が聞こえてくる。
「……」
……やばい。
場所が悪かった。
オジエ様から、転移魔術を使う時は人のいない場所にしろと言われていたのに。
よりによって、人通りの多い場所に出てしまった。
「と、とりあえず逃げるぞ!」
俺達はその場から急いで離れる。
「本当にいきなり現れたぞ!」
「魔術か!?」
後ろから声が聞こえてくるが、構わず走った。
しばらくして、俺達は人通りの少ない路地へ辿り着く。
「……ここなら大丈夫そうだな」
次からエクスカリバーへ転移する時は、ここにしよう。
「危なかったな」
ギレウスが言う。
「そうだな。気をつけないと」
「オジエ様にバレたらまずいからな」
コルドの言葉に、俺は頷く。
「……確かに」
あれだけ注意されたんだ。
次からは本当に気をつけよう。
「ねえ、シャウト?」
ナージャが俺を見る。
「まず何するの?」
「……」
正直、何も考えてない。
光魔術の使い手がいたなら、その武器の名を冠しているエクスカリバーには何かあるんじゃないか。
そう思ってここまで来ただけだ。
具体的に何を調べるかまでは決めていなかった。
すると、クリスが口を開いた。
「まずは王への謁見はどうだ?」
「王に?」
「ああ。俺の地位と、コルドの第三王子って地位があれば、少しは話してくれるんじゃねぇか?」
なるほど。
確かにそれなら、普通に聞き回るより何か詳しい話を聞けるかもしれない。
でも、本当の歴史について話したところで、オルディン王の時と同じような感じになりそうな気もする。
……まあ、それでも何か知っている可能性はあるか。
とりあえず、俺達は城へ向かってみることにした。
ここが、エクスカリバー城。
全体的に白を基調とした、大きな城だ。
ただ、他の国の城とは明らかに違う部分がある。
それは――普通に入れることだ。
門番はいる。
だが、俺達が近付いても特に止めてくる様子はない。
「……入っていいのか?」
少し疑問に思いながらも、俺達はそのまま城の中へ入った。
中に召使いがいるわけでもない。
城内は綺麗にされているが、よく見ると一般人らしき人達もちょくちょく歩いている。
なんだ、この城。
構造自体は、ほとんどデュランダル城と同じだ。
それなら謁見の間へ行けば、王がいるかもしれない。
そう考え、俺達は謁見の間へ向かった。
しばらく進むと、大きな扉が見えてくる。
扉は開いていた。
そのまま中へ入る。
「……誰もいないな」
王が座るはずの場所には、誰もいなかった。
だが――。
「……あれが」
俺達全員が、同じものを見上げる。
玉座の上。
そこには一本の杖が立てられていた。
そう。
これが――国宝。
光の天賢、アーサーが使っていた杖だ。
しばらく見ていたが、どうやら王はいないらしい。
……というか。
王がいないなら、誰がこの国の政治をやってるんだ?
他国の王や天賢なんかが裏から色々と動かしているのだろうか。
……まあ、そういうことにしておこう。
「王がいねぇなら、何も聞けねぇじゃねぇか」
クリスが口を開く。
「まあ、そうだな。だけど、初めてエクスカリバーを見れたのは大きい」
俺は玉座の上に立てられた《エクスカリバー》を見上げる。
「……試してもいいか?」
「え?」
みんなが一斉にこちらを見る。
「ほんの少量だ」
俺は人差し指を立てた。
以前、火魔術を発動させようとした時、間違って光魔術が出た。
なら、あの時と同じようにやれば出せるはずだ。
あの時の感覚を思い出しながら、指先に魔力を集中させる。
すると、指先が僅かに発光した。
「出た……」
すぐに光魔術を消す。
そして《エクスカリバー》を見る。
「……!」
光っている。
俺はすぐに目に魔力を集中させた。
すると、《エクスカリバー》から一本の魔力の糸が伸びているのが見えた。
その先は――俺だ。
「なるほど……」
これで天賢達は、光魔術の使い手を根絶させたのか。
俺はその魔力の糸を見つめ続ける。
数分が経つと、糸は完全に消えた。
光魔術が使われる。
《エクスカリバー》が反応する。
魔力の糸が現れ、その先を辿る。
そして天翔族である天賢なら、翼で飛んでその場所へ向かい、光魔術の使い手を殺す。
それを繰り返す。
「……なるほどな」
意外と簡単に根絶されるわけだ。
「それが分かったからって、どうするんだ? 何も進んでねぇんじゃねぇか?」
クリスが言う。
「……確かに」
その通りだ。
何も進展していない。
今確認したのは、オジエが言っていた現象と全く同じだ。
光魔術を使えば《エクスカリバー》が反応し、魔力の糸が光魔術を使った者へ繋がる。
それを実際に確認できただけ。
新しく分かったことは何もない。
「うーん……」
俺は頭を抱える。
ここからどうすればいいんだ……。
とりあえず、城内には図書館もあるだろう。
そこになら、何か残っているかもしれない。
それにクリスの《知力の恩寵》があれば、俺達では気付けない何かを掴んでくれる可能性もある。
そう考え、俺達は城内の図書館へ向かった。
「……でかいな」
辿り着いた図書館は、かなりの広さだった。
高い本棚がいくつも並び、その全てに大量の本が詰め込まれている。
ここで王族達は勉強するのだろう。
これだけの本があるなら、少しくらい何か見つかるかもしれない。
俺達は歴史について書かれていそうな本を片っ端から集め、クリスに読んでもらうことにした。
そして――。
結果は惨敗だった。
「……何もねぇ」
クリスが本を閉じる。
本当に何も書かれていない。
城の中にある図書館なら、少しくらい重要な情報が残されているんじゃないかと思っていた。
だが、ここも一般に公開されている図書館らしい。
当然、俺達が探しているような重要な手掛かりなんて、どこにもなかった。
クリスが椅子にもたれかかる。
「いくら俺が《知力の恩寵》持ちだとしても、お手上げだぜ! こんなにも情報がないんだ!」
「……そうだよな」
いくらクリスが頭が良くても、元となる情報そのものがなければどうしようもない。
アーサーが実際にこの国で暮らしていたのなら、少しくらい何か残っている。
そう思った俺が浅はかだったか。
結局、図書館でも手掛かりは見つからなかった。
俺達は城を後にし、街を歩く。
「……これからどうするか」
何も進展しないまま、俺達は広場の方へ向かった。
そこは、転移魔法陣のある広場だ。
だが――。
「なんだ?」
妙に騒がしい。
転移魔法陣の周りに大勢の人が集まっている。
何かあったのだろうか。
俺達も人混みに近付き、様子を窺う。
すると、転移魔法陣の近くに立っていた騎士らしき男が、大声を上げた。
「ジュワユース王国が、突如現れた黒い何かに覆われました!」
「……え?」
ジュワユース王国が?
周囲が一気にざわつく。
騎士はさらに声を張り上げた。
「現在、ジュワユース王国への転移はできません! 原因が究明されるまで、一般の方は絶対にこの魔法陣を踏まないでください!」
そして、強く念を押すように続ける。
「命に関わります! 絶対に近付かないでください!」
隣を見ると、クリスが青ざめていた。
「俺の故郷が……」
そりゃそうだ。
ジュワユース王国は、こいつの故郷だ。
その故郷が今、原因不明の黒い何かに覆われている。
……ん?
黒い、何か。
俺はクリスを見る。
こいつの出身は、確かジュワユース王国。
そしてクリスは、普通の人間には使えないはずの黒くなった転移魔法陣を使うことができた。
「……」
何かが引っかかる。
ジュワユース王国。
黒い何か。
そして、黒くなった転移魔法陣を使えるクリス。
……何か、関係があるのか?
「みんな、少し気になったことがある」
俺は近くにある酒場を指差した。
「あそこの酒場で話そう。今はみんな広場で騒いでる。酒場には誰もいなさそうだ」
「ああ、分かった」
クリスが答え、他のみんなも頷いた。
俺達は広場を離れ、酒場へ入る。
予想通り、中にはほとんど人がいなかった。
俺達は周囲に人がいないことを確認してから、席につく。
「それで、気になったことって?」
ナージャに聞かれ、俺は口を開いた。
「ジュワユース王国で起きてる現象。これはおそらく、クリスが関係してる可能性がある」
「はあ!?」
クリスがギョッとした顔で俺を見る。
「なんでだ!? 俺はジュワユースにいないじゃないか!」
「厳密に言うと、俺も関係してると思うんだ」
「そうなのか……?」
「ああ。俺達には、相対関係にある何かがあると思う」
その言葉に、みんなの表情が変わる。
「俺は《光の恩寵》を持ってる。そして、おそらくクリスには《知力の恩寵》とは別に、もう一つ何かの恩寵があるはずだ」
「もう一つ……?」
コルドが口を開く。
「確かに、クリスが言っていた情報を加味すると、その可能性が一番高い」
「ああ。恩寵の名前までは分からない。だけど少なくとも、天賢様が言ってた《闇》に関係するものなのかもしれない」
「おいおい……」
クリスの表情が引きつる。
「怖いこと言うなよ。闇だって? 俺が世界の敵になるってか? そんなのごめんだぜ!」
「いや、俺は戦うつもりはない」
俺はすぐに否定する。
「平和に解決できるなら、そうしたいんだ」
「それはありがとよ。んで、どう思うんだ?」
クリスがそう言うと、コルドが口を開いた。
「まだ仮説の段階だが、お前達は何か似たような経験をしているんじゃないか?」
「似たような経験?」
「ああ。生まれや育った環境は似ているのか?」
「俺は一般家庭だな。そこまで裕福じゃねぇ。シャウトは?」
「俺は割と裕福だった」
「なら、そこは恐らく問題ではないな」
コルドは少し考え込む。
「生まれる時、お前達には何か特殊なことはなかったか?」
「……」
「……」
俺とクリスは黙って顔を見合わせた。
「こいつ頭良すぎるだろ」
クリスが呆れたように口を開く。
「《知力の恩寵》の俺が霞んじゃうじゃねぇか」
「あくまで仮説だ」
コルドはそう答える。
だが、俺とクリスには心当たりがあった。
それも、二人に共通する決定的なものが。
「……ある」
俺とクリスは迷うことなく答えた。
「何があった?」
俺は一度クリスを見る。
クリスも俺を見て、頷いた。
もう隠す必要はないだろう。
「俺達は、この世界で生まれる前に別の世界で生きてた」
「……別の世界?」
「ああ」
俺は頷く。
「俺とクリスは、別の世界からこの世界に転生してきたんだ」
「転生とは、つまり別の世界から魂だけがこちらに来る……そういう感じのものなのか?」
コルドが尋ねる。
「俺もよく分かんねぇ」
クリスが答えた。
「この世界の文献も漁ったが、転生について書かれたものは何一つありゃしねぇ」
「クリスでも分からないのか」
「ああ。俺自身が転生者だってのに、仕組みはさっぱりだ」
コルドは少し考え込んだ後、再び口を開いた。
「……仮説を続けるぞ」
俺達は黙ってコルドを見る。
「おそらく、本来お前達の体に宿るはずだった恩寵が、《知力の恩寵》と《筋力の恩寵》だったのだろう」
俺なら《筋力の恩寵》。
クリスなら《知力の恩寵》。
「だが、そこに別の世界から来たお前達の魂が干渉した。それによって、本来なら存在しなかった新たな恩寵がお前達の魂に宿った」
「……それが」
「ああ。お前達の二つ目の恩寵だ」
コルドは続ける。
「オジエ様も言っていただろう。膨大な情報量を持つ恩寵が、一人の体に二つ宿ることなど本来あり得ない。普通なら耐えられず死ぬと」
確かに、オジエはそう言っていた。
なぜ俺が二つの恩寵を持ちながら生きていられるのか。
それはオジエにすら分からなかった。
「つまり、お前達はこの世界で初めて《転生》という現象を経験し、その結果、二つの恩寵を手に入れた」
コルドは俺とクリスを交互に見る。
「これは何かの運命だと、俺は思う」
「つまり、俺達が世界の救世主とでも言いてぇのか?」
クリスが冗談めかして言う。
「そこまでは言わない」
コルドはすぐに否定した。
「だが、お前達二人が、この世界の歴史を紐解く鍵であることは確実だ」
コルドは俺達を見ながら続ける。
「まずは、ジュワユース王国で起きた事件の真相について調べなければならない」
確かにそうだ。
クリスの二つ目の恩寵。
ジュワユース王国を覆ったという、黒い何か。
そして、天賢様が追っている《闇》。
まだ何がどう繋がっているのかは分からない。
だが、今の俺達には明確に調べるべきものがある。
「まずはそこからだ」
俺達は、ジュワユース王国で何が起きているのか。
その真相を確かめることにした。
「まずは、ジュワユース王国に行くべきだ」
今ここで考えていても、これ以上のことは分からない。
実際に何が起きているのか、自分達の目で確かめるしかない。
「今日はとりあえず宿を取って、明日の朝から出発しよう」
みんなもそれに同意した。
こうして俺達は宿を取り、明日に備えて休むことにした。
明日からは、ジュワユース王国へ向かう。
そこで一体、何が起きているのか。
そして、この異変にクリスが関係しているのか。
それを確かめるために。
俺達は眠りについた。




