間話「歴史」
それは、遥か太古の話。
まだ今とは世界の在り方が大きく違っていた時代。
人々は――光の魔術を使うことができた。
光魔術。
それは、それは便利な魔術であった。
部屋を火よりも明るく照らし、遠く離れた場所へ人を転移させる。
他にも様々なことができ、人々の生活に深く根付いていた。
そして、その光魔術を極めた者がいた。
その男の名は――アーサー。
かつて《光の天賢》と呼ばれた人物である。
アーサーは光魔術において数々の功績を残し、その功績を称えられ、一つの国を設立した。
その国に付けられた名は――エクスカリバー。
アーサーが持つ杖、《エクスカリバー》の名を冠した国である。
アーサーはその国の王となった。
そして、月光族の姫――グウィネヴィアを妻として迎え入れた。
二人は種族こそ違えど、互いを愛し、幸せに暮らしていた。
そしてある日。
そんな二人に、さらに大きな幸せが訪れる。
子供ができたのだ。
二人は喜んだ。
心から喜び、互いを愛し合った。
そして、時は流れ――。
一人の子供が生まれた。
天光翔族と月光族。
二つの種族の間に生まれた、初めての子供。
人々はその存在を――。
《天月人》
そう呼んだ。
だが、彼女には一つだけ奇妙なところがあった。
光の天賢アーサーの娘でありながら――。
なぜか、生まれながらにして光魔術を使うことができなかった。
それでも、アーサーとグウィネヴィアにとっては関係のないことだった。
二人は娘を愛した。
光魔術が使えるかどうかなど関係ない。
大切な自分達の娘として、愛情を注ぎ続けた。
だが――。
周囲の人々は違った。
「気持ち悪い」
そんな言葉を浴びせられた。
天光翔族でもない。
月光族でもない。
そのうえ、光の天賢の娘でありながら光魔術すら使えない。
人々は彼女を異端の存在として扱った。
彼女は傷付いた。
だが、そのことを両親には言えなかった。
一人で抱え込み――。
一人で泣いていた。
それでも。
父と母だけは違った。
何があろうと、二人は娘を愛した。
見返りなど求めない。
ただ、自分達の娘だから。
それだけで、彼女を愛し続けた。
だが、人々の不満は消えなかった。
生まれた時から光魔術を使えない。
異端者を生んだ。
そんな者が、いずれこの国の跡継ぎになる。
それくらいなら――。
クーデターを起こした方がましだ。
そして。
本当にクーデターは起こった。
その混乱の中で――。
アーサーの妻、グウィネヴィアは殺された。
だが、その直前。
彼女は娘を逃がしていた。
「貴方は何も悪くない」
最後まで。
最後の瞬間まで。
グウィネヴィアは娘を愛した。
そして――命を落とした。
アーサーは、グウィネヴィアを殺した人々を恨んだ。
憎かった。
愛する妻を奪った者達を、許せるはずがなかった。
だが――。
アーサーには、グウィネヴィアから言われた言葉があった。
「力ある者は、それを己の欲に使うものではありません」
その言葉を、彼はずっと胸に刻んでいた。
自分には力がある。
だからこそ、その力を怒りや憎しみのために使ってはいけない。
たとえ妻を奪われても。
自分は王なのだ。
王として、この国のために頑張らなければならない。
アーサーはそう自分に言い聞かせた。
しかし――。
そんな彼の思いとは裏腹に、アーサーは王座から下ろされた。
そして、グウィネヴィアが命を懸けて逃がした天月人も行方が分からなくなった。
妻を失った。
王座も失った。
そして、娘さえどこにいるのか分からない。
そんな時だった。
世界が――闇に覆われた。
光が消えた。
町から明かりが失われ、何も見えないほどの暗闇が世界を包み込んだ。
アーサーは、この事態の元凶となった闇を殲滅しようとした。
光魔術を放つ。
何度も。
何度も。
だが――。
一向に闇は倒せない。
それどころか。
闇は、さらに肥大化していった。
そんなアーサーの前に現れた者達がいた。
五人の天賢。
彼らは、この惨劇の首謀者を――。
《光の天賢》アーサーだと思った。
そして。
五人の天賢と、光の天賢。
天賢同士の戦いが始まった。
激しい戦いの末――。
五人の天賢は、アーサーに勝利した。
だが。
その時だった。
膨大な量の闇が――。
アーサーを取り込んだ。
そしてさらに。
ガウェインをも取り込んだ。
それでも残された者達は戦った。
そして、なんとか闇を倒すことには成功した。
だが――。
あまりにも犠牲は多かった。
多くの命が失われた。
そして、この惨劇を二度と繰り返さないため。
一つの決断が下された。
光魔術は――禁忌とされた。
後世へ残すことすら許されない魔術として。
歴史から消されたのだ。




