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第五十八話「デュランダル王国」

デュランダル王国。


とても大きな国だ。


そして、この国は天翔山脈そのものを王国としている


ここまで登ってきて改めて思う。


「……この山、デカすぎだろ」


周囲を見渡せば、どこまでも雄大な山々が連なっている。


これ全部が国なのか。


改めて、とんでもない場所まで来たんだと実感する。


そんなことを考えながら、俺達は門を潜ろうとした。


すると――。


「……っ!?」


門番の一人がコルドを見るなり、目を見開いた。


そして突然立ち上がると、こちらへ駆け寄ってくる。


「も、もしかして……デュランダル王国第三王子、コルド・デュランダル様でお間違いないでしょうか?」


「そうだ」


コルドは門番を見据える。


「我がデュランダル王国第三王子、コルド・デュランダルだ」


……久しぶりだな。


こんな感じのこいつを見るのも。


俺達と旅をしている時のコルドとは、明らかに雰囲気が違う。


その言葉を聞くや否や、門番はその場で膝をつき、深く頭を下げた。


「申し訳ございません! 出国された時とは背丈があまりにも違いましたので、すぐにお姿を判別できませんでした!」


確かに。


コルドもこの四年間で随分大きくなった。


門番が分からなかったとしても無理はない気がする。


だが、門番はさらに頭を下げる。


「王子殿下に無礼を働き、誠に申し訳ございませんでした! 罰なら何でも――」


「良い」


コルドが言葉を遮った。


「我も成長した。表を上げろ」


「は、はい!」


「そなたの行いを許そう」


「……ありがたき幸せ!」


…………。


こいつ。


国だと、普段どんな態度してたんだ?


顔が分からなかっただけで『罰なら何でも』って。


……こいつが学校に行かされた理由、なんとなく分かった気がする。


俺は思わずニヤけながらコルドを見る。


「…………」


コルドと目が合った。


「なんだ! その変な顔は!」


「いや、別に?」


「やめろ!」


怒られた。


すると門番が再び口を開いた。


「ただいま王宮の者にお伝えしてまいります!」


そう言うと、大きく翼を広げる。


次の瞬間。


「うおっ……」


ものすごい速度で飛び立ち、遠くに見える城へ向かっていった。


あれが本来の天翔族の速度か。


やっぱり速いな。


そういえば、昔護衛してくれたヒースさんも速かったよな。


そんな懐かしいことを思い出しながら待っていると、しばらくして遠くから何かが近づいてくるのが見えた。


一人、二人……四人か。


四人の天翔族が、こちらへものすごい速度で飛んでくる。


あっという間に俺達のところまで到着すると、その場に降り立った。


そして四人揃って膝をつき、コルドに頭を下げる。


一番前にいたのは、老人のような見た目をした男性だった。


「おかえりなさいませ、コルド様」


男性が顔を伏せたまま続ける。


「お早いご帰還で、このロトラ、大変嬉しゅうございます」


「良い。全員、頭を上げて立て」


「はっ」


四人が一斉に立ち上がる。


するとロトラと名乗った男性が、改めてコルドの姿を見た。


「大変ご立派になられました。お父様も、さぞお喜びになるでしょう」


「お父様はいらっしゃるか?」


「はい。コルド様が旅立たれた後も、お元気でいらっしゃいます」


「そうか」


コルドの表情が少し緩んだように見えた。


「謁見をさせてもらうことは出来るか?」


「謁見となりますと、明日となります」


「では、それで良い」


「承知致しました」


そこでロトラさんが俺達を見る。


「一緒におられる方々は、ご友人ですか?」


「そうだ。我の友だ」


「そうでございましたか」


ロトラさんは俺達の方へ体を向けた。


「申し訳ございません。申し遅れました。私の名前はロトラ・デュランダル。デュランダル王の側近を任されております。よろしくお願い致します」


王様の側近か。


俺達も自己紹介しておいた方がいいな。


「シャウト・ロータスです」


「ギレウス・オーガです」


「ナージャ・カルアです」


それぞれ自己紹介を済ませる。


「それでは、お荷物をお預かり致します。長旅、お疲れ様でございました。ご友人の方々も王宮へご招待致します」


「え! 良いんですか!?」


思わず聞き返してしまった。


「もちろんでございます。コルド様のご友人を無下に扱うようなことはございません」


王宮に泊まれるのか。


まさか俺の人生でそんな日が来るとは思わなかった。


「お前達の荷物も預けておけ。ロトラ、持てるな?」


「もちろんでございます」


俺達はそれぞれ荷物をロトラさんに預ける。


「それでは、お先に城の客室へ荷物を運んでおきます。皆様はそちらの三人の背中にお乗りください」


それだけを言い残すと――。


「うおっ……!」


ロトラさんは荷物を持ったまま、ものすごい速度で飛び去っていった。


速すぎる。


すると残った三人のうち一人が俺達に声を掛けた。


「我々の背中にお乗りいただきます。城までご案内致します」


「俺は飛ぶ。お前達は乗せてもらえ」


コルドが翼を広げる。


「分かった」


俺とギレウス、ナージャはそれぞれ一人ずつ背中に乗せてもらう。


ナージャを見ると、少し恥ずかしそうにしていた。


前かがみになるのが嫌なのか、少し上体を起こして座っている。


「それでは参ります」


ゆっくりと翼が羽ばたき始めた。


体が地面から離れていく。


「おお……」


どんどん高度が上がっていく。


そして上空から、デュランダル王国の街を見下ろす。


地上から見るのとは全然違う。


広大な街並みが眼下に広がり、その先には大きな城が建っている。


やがて俺達は、その城の前へと降り立った。


「でっか……」


思わず声が出る。


ものすごく大きな城だ。


城壁を潜り、さらに進んで城の門の前までやって来る。


城自体は普通の造りだ。


別に建物全体が透明になっているわけではない。


窓などには普通にガラスが使われている。


ここも学校の寮なんかと同じ技術なんだろう。


それにしても――さすが城だ。


そして門を潜り、中へ入る。


すると。


「おかえりなさいませ! コルド様!」


大勢の騎士達が綺麗に整列し、一斉に大きな声を上げた。


「良い。楽にするがいい」


コルドが答える。


…………。


やっぱり慣れてるな。


そのまま進んでいると、奥からロトラさんがこちらへ歩いてきた。


「お待ちしておりました。客室へご案内致します」


俺達はロトラさんについて城の中を進んでいく。


そして案内された客室へ入った瞬間――。


「……広っ」


思わず声が出た。


物凄く広い。


これで客室なのか?


一室だけで普通の家くらいの広さあるぞ。


ベッドも複数あり、それでもまだ十分すぎるほど空間が余っている。


着替えるための部屋まで別に用意されているらしい。


ナージャも、これだけ広ければ同室でも気にならないようだ。


「皆様のお荷物は、それぞれのベッドの横にまとめてございます」


見ると、確かに俺達の荷物が置かれていた。


あの短時間でもう全部運んだのか。


「長旅、お疲れ様でございました。どうぞ、ごゆっくりお休みください」


ロトラさんは一礼すると、部屋から出ていった。


俺は改めて客室を見回す。


「なあ、コルド」


「なんだ?」


「お前って、こんな部屋に住んでたのか?」


「いや。ここは客間だ。我の部屋はこの半分くらいだ」


「いや、それでもでけぇよ!」


「まあ、そうだな」


コルドは少し懐かしそうな顔をする。


「最初は俺も寮の狭さには苦労したものだ。何もかもが違って、ストレスだらけの毎日だった」


「そうなのか」


「リードやサリナにも迷惑をかけた。一年もすれば生活自体には慣れたがな」


そういえば。


前から少し気になっていたことがある。


「そういや、お前とリードとサリナってどういう関係なんだ?」


「どういう関係とは?」


「あいつら、貴族か?」


「いや。あいつらは貴族でも王族でもない。庶民の出だ」


「そんな奴らが第三王子となんで仲良いんだ?」


コルドは少し考えてから答えた。


「まあ、俺の昔の性格は知ってるだろ」


「知ってる」


よく知ってる。


「基本的に周りの者を見下して生きていた俺に、唯一ずっと同じ対応をしてくれたのが、あの二人だ」


「なるほどな」


「俺が王子だろうと関係なく、ずっとな」


コルドは少し笑った。


「あの二人には感謝している」


「そうだな。一生感謝しないとな」


「ああ。頭が上がらんな」


そんな話を終えると、俺達は久しぶりのまともなベッドに興奮していた。


「最高だ……」


長い旅の間、色んな場所で寝てきた。


だからこそ、このベッドがどれだけありがたいか分かる。


ナージャはロトラさんに風呂の場所を聞き、個室のシャワールームへ案内されていった。


俺達はその間、少しだけこれからのことを話す。


「明日は王への謁見だ」


コルドが俺とギレウスを見る。


「たとえ俺がお前達の友だろうと、粗相のないように頼むぞ」


「分かってる」


「分かってるって!」


ギレウスの返事が軽い。


「…………」


コルドがギレウスを見る。


「まあ、お父様は寛大な御方だ。多少の無礼など気にはしないが、気をつけるに越したことはない」


「そうだな」


俺も相槌を打つ。


いよいよ明日。


デュランダル王に会う。


ここまで四年掛かった。


俺の体のこと。


転移魔法陣のこと。


ようやく、その手掛かりに近づけるかもしれない。


「明日は早い。風呂に入って、もう寝よう」


「賛成」


俺達も順番にシャワーを浴びることにした。


個室のシャワールームも広かった。


しかも客間の近くに複数用意されているらしい。


さすが王宮。


何から何まで規模が違う。


シャワーを済ませ、髪を乾かして客室へ戻る。


そしてベッドに体を沈めた。


「…………」


柔らかい。


最高だ。


長旅の疲れもあったのだろう。


目を閉じた次の瞬間には――。


俺は気絶するように眠りについていた。

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