第五十一話「久しぶりのアレフ」
目を開ける。
最初に目に入ったのは、見覚えのある景色だった。
「…………」
転移魔法陣から降り、改めて周囲を見渡す。
建物も、道も、広場も。全部、覚えている。
「……帰ってきた」
都市アレフ。約二年ぶりだ。
胸の奥から色々なものが一気に込み上げてくる。気づけば、目が熱くなっていた。
「うぅ……」
隣を見ると、ラントはもう泣いていた。ギレウスも目に涙を浮かべている。コルドはいつも通りに見える。
俺達は――本当に、帰ってきたんだ。
広場には大勢の人が集まっていた。どうやら転移魔法陣が突然復活したことで、都市アレフでも騒ぎになっているらしい。騎士や住民達が集まり、辺りはかなり騒がしい。
そんな人混みの中。
「…………?」
見覚えのある二人がいた。
その瞬間、向こうも俺に気づいた。父さんが目を見開く。
「シャウト!!」
「――っ!」
考えるより先に身体が動いた。俺はみんなを置いて走り出す。
「父さん!」
そのまま父さんに飛びついた。強く抱きしめられる。
「シャウト……! シャウト……!」
「父さん……!」
涙が止まらない。母さんも俺達のところへ駆け寄ってきた。
「シャウト……!」
「母さん……!」
母さんまで泣いていた。父さんも泣いている。俺も泣いている。
しばらくの間、何もまともに話せなかった。ただ、父さんと母さんに抱きしめられていた。
「学校から……聞いていたんだ」
父さんが涙を拭いながら話し始める。
「転移魔法陣の事故で、お前達が行方不明になったって……」
「…………」
「もう……生きた心地がしなかった」
母さんの声も震えていた。
二人とも、すぐにでも俺を探しに行こうとしたらしい。家を飛び出してでも。
だけど、それを学校の先生に止められた。
『息子さんは、私達が必ず責任を持って見つけます』
そう言われた。それでも納得できなかった父さんと母さんに、
『シャウトくんは必ず生きています』
そう言って、何度も説得してくれたらしい。
「……ごめん」
俺がそう言うと、二人は首を横に振った。
色々あった。本当に色々あった。
でも、今はもう。
「ただいま」
父さんと母さんが泣きながら笑う。
「おかえり」
「おかえりなさい、シャウト」
その時だった。後ろの方が急に騒がしくなった。
「なんだ?」
父さんが俺の後ろを見る。
「なんだ、あれは……?」
「え?」
振り返る。
転移魔法陣が――黒くなっていた。
「……は?」
さっきまで光っていたはずの模様が、急速に黒く染まっていく。
バチッ!
「っ!」
紫色の稲妻のようなものが転移魔法陣の上を走った。バチバチと音を立てながら、何度も魔法陣を叩く。
そして、光が消えた。
完全に。
「お、おい! どうなってる!」
「分からない! さっきまで使えていたはずだ!」
近くにいた騎士達も、何が起きたのか分かっていないようだった。
あまりにも突然の出来事に、さっきまで流れていた涙もいつの間にか引いていた。
「シャウトくん!」
声をかけられ、振り返る。
先生と、ラント、ギレウス、コルドがこちらへやって来た。
父さんと母さんは三人を見ると、深く頭を下げた。
「君達が……シャウトと一緒にいてくれた子達だね」
「息子と一緒にいてくれて、本当にありがとう」
「い、いえ!」
ラントが慌てたように答える。
「僕達もシャウトには何度も助けてもらいましたから」
ギレウスがそう言うと、コルドも頷いた。
そういえば。
ラント達は、まだ家族に会えていない。
いや――そもそも。
三人の家族は、今回の事故について知っているんだろうか。
都市に住んでいる人なら、時間はかかっても知らせは届くだろう。でも、遠く離れた種族や人々にまで確実に連絡が届いているかは分からない。
三人も、それは分かっているはずだ。
それでも、さっき転移魔法陣から降りた時、ラントは泣いていた。ギレウスだって目に涙を浮かべていた。
家族に会えたからじゃない。
約二年かけて、ようやくここまで帰ってきたからだ。
「一度、シャウトくん達は学校に向かわせることにします」
先生が父さんと母さんにそう告げた。
「分かりました」
また父さんと母さんから離れることになる。でも、さっきまでとは違う。
俺がどこにいるのか、二人はもう知っている。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ」
「行ってらっしゃい、シャウト」
俺達は父さんと母さんに別れを告げ、学校へ向かった。
久しぶりの都市アレフを歩く。
見覚えのある道を進むこと、小一時間。
やがて懐かしい建物が見えてきた。
アレフ王立魔導学校。
「……久しぶりだな」
約二年ぶりの学校だ。
中へ入り、先生に案内されながら進んでいく。
そして、そこにいた三人を見つけた。
ナージャ。
リード。
サリナ。
「お前たち! 無事だったか!」
突然、コルドが走り出した。
「コルド!?」
リードとサリナが驚いて振り返る。
コルドは二人のところまで駆け寄ると、その肩を掴んだ。
「本当に……お前達なのか?」
「何言ってんだよ。俺だよ」
「俺もいるぞ、コルド」
二人の言葉を聞いた瞬間、コルドの表情が崩れた。
「良かった……! 本当に……!」
三人は互いの肩を抱くようにして、何度も無事を確かめ合っていた。
「生きてたんだな……!」
「ああ」
「お前もな!」
三人とも目に涙を浮かべながら、それでも笑っている。
こんなコルドを見るのは初めてだった。
驚いたり、恐怖を感じたりする姿なら見たことがある。オジエと出会った時だって、俺達と同じように圧倒されていた。
でも、こんなふうに感情を露わにして喜ぶコルドは見たことがない。
それだけ二人のことが心配だったんだろう。
俺はそんな三人を眺めてから、もう一人を見る。
ナージャ。
「…………」
一瞬、目を奪われた。
長く伸びた青い髪。
二年前と比べて顔立ちも随分と大人びていて、綺麗になっている。
……なんか。
すごく変わったな。
じっと見ていたせいか、ナージャがこちらに気づいた。
目が合う。
すると、ナージャは俺を見て微笑んだ。
「……っ」
なんだ?
急に恥ずかしくなってきた。
俺は誤魔化すように軽く手を振る。
ナージャも笑いながら手を振り返してきた。
俺も変わったんだろうけど。
みんな、本当に変わったな。
そんなことを考えていた時、ふと思い出す。
「……あれ?」
俺達って。
確か、十二人だったよな?
あの実習では、四人ずつ三つのパーティに分かれていた。
俺、ラント、コルド、ギレウス。
それからリード達。
サリナ達。
今ここにいるのは……。
俺達四人。
ナージャ。
リード。
サリナ。
七人。
「……残り五人は?」
まだ来てないのか?
……トイレにでも行ってるのか?
そう思っていると、先生が俺達の前に立った。
「皆さん」
全員の視線が先生へ向く。
「よく無事で帰って――」
そこで先生が言葉を止めた。
「……いえ。無事では、ありませんね」
「……?」
どういうことだ?
ここにいる俺達は全員無事だ。
残りの五人は、まだ帰ってきてないだけじゃないのか?
「今回の実習に参加した十二名のうち、現在ここにいる七名が帰還しています」
先生の声が重くなる。
「まず、シャウトくん、ラントさん、コルドくん、ギレウスくん。あなた達四名は、全員が無事に帰還しました」
俺達四人を見る。
「次に、リードくんのパーティです」
リードの表情が曇った。
「リードくん、ナージャさん。そして、もう二名の四人で行動していました」
先生が一度、言葉を止める。
「その二名は……帰還するまでの戦闘で命を落としました」
「…………」
死んだ?
一瞬、意味が理解できなかった。
「そして、サリナさんのパーティですが……」
今度はサリナを見る。
「サリナさんは、転移事故が発生した時点で他の三名とは離れ、一人で別の場所へ転移していました」
「一人で……?」
「はい。幸いにもサリナさんが転移した先は遺跡ではなく、都市でした。そのため、無事に帰還することができました」
でも。
それなら残りの三人は。
「他の三名については、現在も行方が分かっていません」
「…………」
七人が帰ってきた。
二人が死んだ。
三人が行方不明。
それで、十二人。
俺は何も言えなかった。
俺達は約二年間。
ずっと自分達は運が悪いと思っていた。
転移事故に巻き込まれて。
知らない遺跡に飛ばされて。
転移魔法陣も使えなくなって。
ここまで帰ってくるのに、二年近くかかった。
最悪だと思っていた。
でも。
違った。
俺達四人は、最初から一緒だった。
目を覚ました時から、ラントも、コルドも、ギレウスもいた。
それが当たり前だった。
四人で目を覚まして。
四人で冒険者になって。
四人で魔物と戦って。
四人で金を貯めて。
四人で旅をした。
だから、考えもしなかった。
同じ転移魔法陣に乗っていたからといって、同じ場所へ飛ばされるとは限らない。
考えてみれば、先生だってそうだった。
あの時、俺達と同じ転移魔法陣に乗っていた。
なのに、先生は俺達とは別の場所へ飛ばされていた。
なんで今まで考えなかったんだろう。
たぶん。
四人でいることが、俺にとって当たり前になっていたからだ。
もし。
あの時。
俺だけが一人で、あの遺跡に飛ばされていたら。
ラントもいない。
コルドもいない。
ギレウスもいない。
一人であの場所から出て。
一人で魔物と戦って。
一人でここまで帰ってくる。
「…………」
想像しただけで、背筋が冷たくなった。
サリナは、それを経験したんだ。
しかも、リード達のパーティでは二人が死んでいる。
残る三人は、今もどこにいるのか分からない。
俺達は四人揃って冒険者になれた。
四人で戦えた。
四人で旅ができた。
そして。
四人全員で、ここまで帰ってこられた。
俺達は――本当に、運が良かったんだ。
「行方不明となっている三名については、教師一同で捜索を続けます」
先生の言葉に、俺は顔を上げる。
「ですので、生徒の皆さんは捜索に加わろうとはせず、学業に専念してください」
三人のことは気になる。
だけど、俺達が闇雲に探したところで見つけられるとは限らない。
「そして、もう一つ。皆さんにお話ししておかなければならないことがあります」
先生の表情が変わった。
「今日、各地の転移魔法陣が少しの間、再び利用できるようになったようです」
今日。
俺達が北都市グランドで転移魔法陣の復活を目の当たりにしたのも、ついさっきのことだ。
あれは北都市グランドだけじゃなかったのか。
「しかし――現在は再び利用できなくなっています」
「…………」
やっぱり。
俺達がさっき目の前で見た、あの現象。
都市アレフだけじゃないんだ。
「この結果を踏まえ、転移魔法陣に何が起きているのか。その原因を究明するため、国を挙げて調査を開始することとなりました」
国を挙げて……。
思っていたよりも、ずっと大きな話になっている。
「冒険者ギルドにも調査依頼は出しています。しかし、現時点では成果に対してどの程度の報酬を支払うのかも決まっていません。ですので、どれほどの冒険者が依頼を受けてくれるかは分かりません」
冒険者は依頼を受けて報酬を得る。
報酬すら決まっていない依頼なら、受ける人がどれほどいるか分からないということか。
「そこで、各王国に存在する王立学校にも、転移魔法陣についての調査依頼が出されています。既に上級生の中には、調査のために旅立った方もいます」
そこまで進んでるのか。
「そして、あなた達のクラスも例外ではありません。希望するのであれば、あなた達も調査に参加することができます」
「……!」
転移魔法陣の調査。
北都市グランドでも、一度は俺達自身で調べようとしていたことだ。
あの時はラントが反対して、その直後に転移魔法陣が復活した。
帰れるなら、それでいい。
そう思っていた。
だけど、俺達が都市アレフに到着した直後、転移魔法陣はまた使えなくなった。
紫色の稲妻のようなものを放って、黒く染まって。
「あなた達以外のクラスメイト八名には、既に説明を終えています。八名全員が、学校に残り学業に専念することを選びました」
先生が俺達を見渡す。
「そして、あなた達にも選ぶ権利があります。このまま学校に通い、授業を受け、卒業を目指す。あるいは休学し、転移魔法陣の調査に参加する」
休学。
つまり、調査を選べば、また学校を離れることになる。
「どちらを選んでも構いません。学校側から強制することはありません。皆さん自身で決めてください」
誰も口を開かない。
先生は少し待ってから、俺達を見渡した。
「では、一人ずつ聞いていきます。まずは――シャウト・ロータス」
「はい」
学校に戻って、遅れている分を取り戻して卒業を目指す。
それも考えた。
だけど、やっぱり俺は気になっている。
黒くなった転移魔法陣。
あの女の声。
転移魔法陣が発する光が、模様を黒くしているという話。
そして今日。
突然復活したと思ったら、また使えなくなった。
さっき俺達の目の前で起きた、あの紫色の稲妻のような現象。
分からないことばかりだ。
だから。
「俺は――調査します」
迷いはなかった。
先生が頷き、次の名前を呼ぶ。
「ナージャ・カルア」
「私も、調査に参加します」
ナージャもか。
「分かりました。では次に――リード・デュランダル」
「俺は学業に専念する」
リードはすぐに答えた。
「学校に残る」
「分かりました。サリナ・デュランダル」
「俺もそうする。勉強が遅れて、魔術の成長も止まってるからな」
サリナも学校に残るらしい。
「ギレウス・オーガ」
「俺はシャウトと同じ!」
ギレウスがすぐに答える。
やっぱりギレウスはこっちか。
「コルド・デュランダル」
「ギレウスと同じだ」
コルドも即答だった。
これで調査を選んだのは、俺、ナージャ、ギレウス、コルド。
学校に残るのはリードとサリナ。
そして――。
「最後ですね。ラント・シルマ」
「…………」
ラントはすぐには答えなかった。
俯いたまま、小さな手をぎゅっと握っている。
俺は何も言わない。
ギレウスも、コルドも。
誰もラントに声をかけなかった。
北都市グランドで、もう一度調査を続けるかどうか話した時。
ラントは言っていた。
『私は反対』
『もう帰ろうよ』
「私は……」
ラントがようやく口を開く。
一度、俺達を見る。
俺。
ギレウス。
コルド。
それから先生へ視線を戻した。
「私は……学業に専念します……」
「…………」
やっぱり。
ラントは、俺達とは違う道を選んだ。
先生はラントの答えを聞くと、静かに頷いた。
「分かりました。それでは、サリナさん、リードくん、ラントさんの三人は、学校に復帰するということでよろしいですね?」
「はい」
「はい」
「……はい」
三人がそれぞれ答える。
「分かりました。では、三人についてはこちらで復学の手続きを進めます」
先生はそう言うと、今度は俺達の方を向いた。
「そして、調査に参加する皆さんには、渡さなければならないものがあります。シャウトくん、ナージャさん、ギレウスくん、コルドくん。前へ来てください」
俺達四人は言われた通り、先生の前へ出る。
そして先生が取り出したものを見て、俺はすぐに気づいた。
「……これ」
笛のような形をした、小さな道具。
見覚えがある。
冒険者実習が始まった時、俺達が冒険者になり、転移魔法陣のある場所へ向かった時に先生が使っていたものだ。
あの時は先生が持っていただけだったけど、今回はそれが俺達一人一人に手渡された。
「これは、転移魔法陣が設置されている古代遺跡へ向かうために使用する道具です」
俺は受け取った笛を眺める。
「古代遺跡の存在や場所は、一般の方々に知られてはいけません。そのため、遺跡へ向かう際には必ずこれを使用してください」
「これ、前にも先生が使ってましたよね?」
「はい。覚えていましたか」
やっぱり、あの時のものと同じだ。
「この道具には、使用者の気配を消す効果があります。一般の方に後をつけられ、古代遺跡の場所を知られることを防ぐためです」
先生は続けて笛を見せる。
「そして、古代遺跡が近くなると、この笛が震え始めます」
「震える?」
「はい。近くに古代遺跡が存在するという合図です。笛が震えたら、一度吹いてください」
「吹くんですか?」
「はい。そうすると、古代遺跡から発せられている魔力の糸と、この笛が繋がります」
魔力の糸。
「繋がった後は、笛に古代遺跡の魔力の匂いが付きます。その匂いを辿れば、魔力がどちらから流れてきているのか分かるはずです」
なるほど。
まず、遺跡に近づくと笛が震える。
そこで笛を吹く。
すると、笛と古代遺跡が魔力の糸で繋がって、笛にその遺跡の魔力の匂いが付く。
後は、その匂いを辿ればいいわけか。
「また、目に魔力を集中させて魔力を可視化すれば、笛と古代遺跡を繋いでいる魔力の糸を直接見ることもできます」
「糸が見えるんですか?」
「はい。細い糸のように見えるはずです。それを辿ってください」
匂いだけじゃなく、直接見ることもできるのか。
「その糸の先に……」
「はい。古代遺跡があります」
俺は手の中の笛を見る。
遺跡に近づけば震える。
震えたら吹く。
そうすれば遺跡と笛が魔力の糸で繋がり、その魔力の匂いが笛に付く。
後は匂いを辿るか、魔力を可視化して糸を辿ればいい。
その先に、転移魔法陣の設置された古代遺跡がある。
「私から渡すものは、これだけです」
先生が俺達四人を見渡す。
「後は自由に行動してください。いつ出発するか、どこから調査を始めるかも、皆さんに任せます。それから、友人との別れや、ご家族へのお話は、それぞれで済ませてください」
「はい」
その後、俺達はその場で解散となった。
先生は学校へ戻り、俺達もそれぞれ寮や家へ帰ることになった。
その前に、俺達はラントと別れの挨拶をする。
「じゃあ、ラント」
「うん」
これからラントは学校に復帰する。
俺とギレウス、コルドは調査へ。
約二年間、ずっと一緒に旅をしてきた。
だから、こうして別々になるのは少し変な感じがする。
「まあ、ずっと会えなくなるわけじゃないしな」
俺がそう言うと、ギレウスも頷いた。
「うん! こっちに帰ってきた時は顔出すよ!」
「俺もそうする」
コルドも続く。
「俺達も時々は戻ってくる。その時はまた会えばいい」
「……うん」
ラントが笑った。
「分かった。待ってる」
その横で、ギレウスが少し遠い目をしてラントを見ていた。
「……?」
どうしたんだ?
そう思ったけど、ギレウスはすぐにいつもの表情に戻った。
「じゃあ、またね! ラント!」
「うん。またね」
永遠に別れるわけじゃない。
都市アレフに帰ってきた時には、また顔を出せばいい。
「じゃあ、またな」
「うん」
こうして。
シャウト・ロータス。
ラント・シルマ。
コルド・デュランダル。
ギレウス・オーガ。
四人で約二年間活動してきた冒険者パーティ――《プラズマ》は、この日をもって解散となった。
ラント、ギレウス、コルド、ナージャは寮へ帰っていく。
俺だけは向かう場所が違う。
父さんと母さんの待つ家だ。
俺もみんなと別れ、約二年ぶりに自分の家へ帰った。
「…………」
久しぶりに見る我が家。
なんだか、少しばかり小さく見える。
というより。
俺が大きくなったのもあるんだろう。
二年前はもっと大きく感じていた気がする。
玄関の扉を開け、中へ入る。
「ただいま」
久しぶりに、この家で口にする言葉だった。
すると、奥から一人の男がこちらへやって来た。
ベルトだ。
俺の姿を見ると、一瞬だけ目を見開き、それからいつもの落ち着いた表情で頭を下げた。
「お久しぶりです、シャウト様。随分と大きくなられましたね」
「久しぶり、ベルト」
ベルトは俺の荷物とローブを受け取ってくれた。
そのまま俺は、父さんと母さんがいるリビングへ向かった。
二人と向かい合い、これからのことを話す。
学校には復帰せず、転移魔法陣の調査に参加すること。
そして――。
「明日には、アレフを立つよ」
父さんと母さんは、やっぱり心配そうな顔をした。
当然だと思う。
約二年間も行方不明になって、ようやく今日帰ってきた息子が、明日にはまた旅立つと言っているんだから。
それでも、二人は俺を止めなかった。
二年前とは違う。
俺は十一歳になった。
冒険者として旅をして、魔物と戦い、仲間と一緒にここまで帰ってきた。
そんな俺の姿を見て、父さんも母さんも心配しながら、我が子の成長に感心しているようだった。
そして最後には、二人とも俺の決断を受け入れてくれた。
「ありがとう、父さん、母さん」
話を終え、自分の部屋へ戻る。
久しぶりの自分の部屋。
久しぶりの自分のベッド。
今日は色々ありすぎた。
北都市グランドから帰ってきて、父さんと母さんと再会して、転移魔法陣が再び使えなくなって、学校へ戻って、仲間達のことを知って、これから進む道を決めた。
ベッドに身体を預ける。
その瞬間、身体から一気に力が抜けた。
俺はそのまま――崩れるように眠りについた。




