↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/87

第四十一話「初仕事」

そして、次の日。

昨日は話し合いを終えたあと、近くの宿を借りて一晩を過ごした。


これからの方針は決まっている。

まずは近くの都市、グランドへ向かう。


ただし、その前に一つ問題がある。

金だ。


俺たちは今、あまり金を持っていない。

これから旅をするなら宿代もかかるし、食事だって必要になる。何をするにしても金は必要だ。


つまり――。

依頼をこなさなければならない。


武器や防具も買い換えた方がいいだろうか?

……いや。

今は変えなくていいか。


最初に貰ったものだし、ある程度は良い物のはずだ。

少なくとも、今すぐ買い換えなければならないほど困ってはいない。なら、余計な出費は抑えておいた方がいい。


そんなわけで現在。

俺たち四人は冒険者ギルドに来ていた。


目の前にあるのは、たくさんの依頼書が貼り付けられた依頼掲示板。


「どれにしようか……」


俺は掲示板を眺めながら呟く。

ギレウス、コルド、ラントも一緒に依頼を探していた。


俺たちが受けられる依頼は、ブロンズかシルバー。

だったら、手っ取り早くシルバーの依頼をやるつもりだ。


というか、そもそもブロンズの依頼は一人でやるようなものが多い。

逆にシルバー以上になると、パーティで受けることを前提にした依頼が増えてくる。


俺たちは四人だ。

なら、シルバーの依頼から探した方がいいだろう。


「何か良さそうなのある?」


ラントが掲示板を見ながら聞いてくる。


「今探してる」


依頼書を一枚ずつ確認していく。

そんな中、掲示板の一角に、明らかに他とは雰囲気の違う紙が何枚か貼られていることに気づいた。


古びた紙だ。

何だこれ。


俺はその中の一枚に目を向ける。

そこには――。


難度、アダマンタイト。


そう書かれていた。


「アダマンタイト……」


当然、今の俺たちには受けられない。

どんな依頼なのか気になって、その内容を読んでみる。


依頼内容は――謎のドラゴンの調査、および討伐。


交易ルートを通る際に近くを通ることになる洞窟。

その周辺に、いつの間にかドラゴンが住み着いたらしい。


ただし、ドラゴンの種類は不明。

そのため危険度を正確に判断できず、アダマンタイト級の依頼として扱われているようだ。


……怖っ。

正体不明のドラゴンって。


そんなものを調べた上で、必要なら倒してこいってことか。

俺なら絶対行きたくない。


そして、さらに下を見る。


報酬――。

大金貨、一枚。


「…………」


ひょええええ。

大金貨一枚!?


この世界の通貨を、俺の前世の感覚で日本円に置き換えると、大体こんな感じになる。


大金貨一枚で、一千万円。

金貨一枚で、百万円。

大銀貨一枚で、十万円。

銀貨一枚で、一万円。

大銅貨一枚で、千円。

銅貨一枚で、百円。

小銅貨一枚で、十円。

そして、一番小さい銅銭一枚で、一円くらいだ。


もちろん、これはあくまで俺が分かりやすいように日本円に置き換えた感覚だ。


つまり、この依頼の報酬は――。

約一千万円。


たけえよ!

一回の依頼で一千万円って。


依頼人は貴族か何かだろうか。

普通に考えたら、とんでもない金額だ。


……いや。

でも、ドラゴンの調査と討伐だぞ?

しかも種類すら分からない。


命を落とす可能性を考えれば、それくらいじゃないと誰も受けないのかもしれない。

危険すぎるし、妥当……なのか?


俺がそんなことを考えていると、隣にいたギレウスが同じ依頼書を覗き込んできた。


「なあ、シャウト」

「ん?」

「俺達もいつか、こんな風にドラゴンとか倒せるようになるかな?」

「無理だろ」


即答した。


「諦めるの早いよ!」


ギレウスが不満そうな声を上げる。


いやいや。

正体不明のドラゴンだぞ。

そんなものを討伐するような冒険者になる未来なんて、今の俺には想像できない。


「ラントはどう思う?」


ギレウスがラントを見る。

ラントもアダマンタイト級の依頼書を見上げ――。


「そうね」


少し考えてから答えた。


「無理だよ」

「ええええ!?」


俺と同じ考えだった。

ギレウスが分かりやすくがっかりする。


何でそんなにドラゴンを倒したいんだよ。


そんな話をしながら、再びシルバーの依頼を探していく。

すると、一枚の依頼書が目に留まった。


「……ん?」


内容を確認する。


依頼――商人の販売補助。

必要人数、四人パーティ。

報酬は――大銅貨四枚。

一人につき、だ。


仕事内容は、一日中商売の手伝いをしてほしいというもの。


「これ、良くないか?」


戦闘でもない。

危険な場所へ向かうわけでもない。

一日商人の手伝いをすればいい。


しかも、ちょうど四人パーティを募集している。

今の俺たちにはちょうどいいんじゃないか?


「これなら俺たちでもできそうだ」


俺は三人に依頼書を見せる。


「これでいいか?」


ギレウスが内容を確認する。

ラントも覗き込んだ。

コルドも特に異論はないようだ。


全員から了承を得た。


「じゃあ、これにしよう」


俺は掲示板から依頼書を剥がし、そのまま受付へ向かう。

受付には昨日と同じように職員が座っている。


俺は依頼書を差し出した。


「こちらの依頼をやりたいのですが」

「少々お待ちください」


受付の人が依頼書を受け取り、内容を確認したあと、俺たち四人を見た。


「四人パーティですね」

「はい」

「では、一人ずつこちらをお持ちください」


そう言って、何かを取り出した。


「……?」


渡されたのは、小さな木の板のようなものだった。

俺たち一人一人に一枚ずつ渡される。


何だこれ?


俺が板を眺めていると、受付の人が説明してくれた。


「こちらは依頼を達成すると、依頼人がこの板に魔力を流します」


魔力?


「すると板に傷が現れます。その傷を依頼達成の証とします」


なるほど。

つまり、依頼人に仕事が終わったと認めてもらったら、この板に魔力を流してもらう。

それをギルドに持ち帰れば、依頼を達成したことになるわけか。


ただ、一つ疑問がある。


「僕たちが魔力を流したら、どうなるんですか?」


もし自分たちで傷を出せるなら、いくらでも不正ができる。

だが受付の人は、すぐに答えた。


「何も起こりません」

「何も?」

「はい。こちらにはあらかじめ依頼人の魔力が込められていますので」

「なるほど……」


どういう技術なのかは分からない。

ただ、少なくとも冒険者側が自分で魔力を流して、依頼を達成したことにはできないようだ。


不正対策はちゃんとしているらしい。


「それと、こちらを紛失した場合、報酬をお渡しすることはできませんので、厳重に保管のほどよろしくお願いします」

「分かりました。説明ありがとうございます」


俺がお礼を言うと、受付の人はニコッと笑った。


さて。

依頼も無事に受けられた。


俺は渡された木の板を無くさないようにしまう。

他の三人もそれぞれ自分の板を保管した。


これが――。

《プラズマ》として受ける最初の依頼だ。


俺たちは冒険者ギルドを出ると、依頼人である商人のもとへ向かった。


やって来たのは、この町の商店街だ。

商店街――と言っても、建物の中に店を構えているところばかりではない。

むしろ、出店の方が多いくらいだ。


道の両側にはいくつもの馬車が止まっていて、そこに積んできた荷物を降ろし、馬車の前に置いた木の机に商品を並べて販売している。


食べ物。

衣類。

見たことのない道具。


様々な商品が並び、あちこちから商人たちの声が飛び交っていた。


「さて……どこだ?」


俺たちは周囲をきょろきょろと見渡す。


依頼人の見た目については、冒険者ギルドの受付で一応聞いてきた。

小太りで、帽子を被っている男性。


……結構曖昧だな。

この人混みの中から、それだけを頼りに探すのは少し大変そうだ。


そう思いながら歩いていると――。


「あ」


それらしい人物を見つけた。


馬車の前に立っている、小太りの男性。

頭には帽子。

聞いていた特徴と一致している。


見た感じ、優しそうなおじさんだ。


「あの人じゃないか?」


俺が指を差す。

三人もそちらを見る。


たぶん間違いない。


俺たちが近づいていくと、向こうもこちらに気づいた。

そして俺たちを見るなり、ぱっと表情を明るくする。


「おお! もしかして君達か! 今日、私の商売を手伝ってくれるのは!」


元気な声だ。

どうやら当たりらしい。


「はい。冒険者ギルドで依頼を受けてきました」


俺たちは全員で挨拶をする。

せっかくなので、それぞれ簡単に自己紹介もしておいた。


「シャウトです」

「ギレウス!」

「ラントだよ」

「コルドだ」


一通り名乗り終えると、商人のおじさんは嬉しそうに笑った。


「なんと丁寧に! ありがとうな!」


気さくな人だ。


俺たちを順番に見たあと、少し珍しそうな顔をする。


「しかし、子供なのに冒険者だなんて珍しいな!」


まあ、そう思うよな。

俺たち自身、好き好んでこの年齢から冒険者になったわけじゃない。


説明すると長くなりそうなので、適当に濁しておこう。


「色々と事情がありまして」

「そうかそうか!」


おじさんは特に深く聞こうともせず、大きく頷いた。


「まあ良い! 冒険者というのは、そういう奴もよくいる! 説明せんでも良い! ハッハッハ!」


豪快に笑う。


……助かった。

細かく事情を聞かれたら、どう説明しようかと思っていたところだ。


それにしても、本当に気さくな人だな。


「よし! 早速だが、君達には二人一組に別れてほしい!」

「二人一組?」

「ああ! やってもらいたいのは、私の販売補助と客寄せだ!」


おじさんは後ろにある馬車を指差した。

荷台には、まだたくさんの荷物が積まれている。


「馬車から積荷を降ろして商品を並べる者と、客寄せをしてくれる者! 二人ずつに別れてくれ!」


なるほど。

二人が商品の陳列を手伝って、残り二人が客を呼び込むわけか。


「分担はそちらで自由に決めてくれ!」

「分かりました」


俺たちは少し離れ、四人で相談を始めた。


さて。

二人ずつか。

誰をどっちにするかだな。


俺は三人の顔を見る。


ギレウス。

ラント。

コルド。


……うん。


「コルドは客寄せには向かないだろうから、商品の陳列を手伝った方が良さそうだな」

「…………」


コルドがムスッとした顔をした。

分かりやすい。


「それがいいと思う!」


ギレウスが即座に同意する。


「私もそれがいいと思うよ」


ラントまで続いた。


「…………」


さらにコルドの顔が曇った。


おいおい。

別に悪口を言ってるわけじゃないぞ。

向き不向きの話だ。


客寄せなんて、知らない人にどんどん声をかけなきゃいけないんだから。

コルドにやらせるより、他の奴がやった方がいいに決まっている。


すると、ラントがコルドを見ながら言った。


「仕方ないでしょ! あんたはプライド高いし、融通が利かないことが多いんだから!」


おい。

そんな言い方したら――。

こいつ怒るぞー。


俺は恐る恐るコルドを見る。


「…………」


あれ?

意外と冷静だ。


顔には思いっきり出ている。

絶対に不満はある。


でも、大声を上げることも、ラントに言い返すこともしなかった。

昨日の酒場で周りから一斉に見られた件もある。


……少しは学んだようだ。


「じゃあ、俺は積荷を降ろすよ」


俺はそう言った。


「力には自信があるからな」


重い荷物を馬車から降ろすなら、俺がやった方がいい。


俺とコルドで販売補助。

そうなると、残る二人は自然と決まる。


「じゃあ決まりだね!」


ギレウスが元気よく言った。


話は早かった。


客寄せは、元気のあるギレウスとラント。

販売補助は、俺とコルド。


こうして俺たちは二手に分かれて、商人の手伝いをすることになった。


それから、俺たちはそれぞれの仕事に取りかかった。


俺とコルドは馬車から積荷を降ろし、商品を机の上へ並べていく。


一方、客寄せを担当するギレウスとラントは――。


「いらっしゃい! 見ていくだけでもいいよ!」

「こっちこっち! 色々あるよー!」


……思った以上に向いていた。


ギレウスの元気な声は人混みの中でもよく通る。

ラントも持ち前の明るさで、通りを歩く人たちへ次々と声をかけていた。


二人に呼ばれて足を止める人も多い。

そのまま商品を眺め始め、気に入った物を買っていく。


客が増えれば、俺とコルドも忙しくなる。


売れた商品の代わりに新しい商品を並べる。

馬車から次の荷物を降ろす。

また売れれば補充する。


それを何度も繰り返した。


最初は山ほどあった馬車の荷物も、時間が経つにつれて目に見えて減っていく。


そして――。

気がつけば、空は夕焼けに染まっていた。


日暮れだ。


俺は馬車の荷台を見る。


「……全部なくなったな」


商品は――全て売れていた。

本当に全部だ。


机の上にも、馬車の荷台にも、売り物は一つも残っていない。

おじさんも信じられないといった様子で空になった馬車を見ている。


やがて――。


「いやあ! 凄いな、これは!」


豪快な声が響いた。


「ありがとう! 今日だけで全部売れちまいやがった!」


おじさんは上機嫌だ。


「数日はかかると思っていたが! さすがだ! ハッハッハ!」

「うおっ」


そのまま勢いよく肩を組まれた。


相変わらず豪快な人だな。

でも――。

悪い気はしない。


俺たちがちゃんと役に立てたということだ。

初めて受けた依頼だったが、どうやら大成功だったらしい。


「よし! そしたら、お前たちが持っている依頼板を出してくれ!」


そうだった。

これが必要なんだ。


俺たちは冒険者ギルドで渡された木の板をそれぞれ取り出す。


「どうぞ」


俺はおじさんに板を差し出した。

ギレウスたちも同じように続く。


「おう!」


おじさんが板に手をかざす。

すると――。


「おっ」


板の表面に、突然傷が走った。

それも、ただの傷じゃない。


何もなかった木の板に、勢いよく円を描くような傷が刻まれていく。

そして――。


綺麗な丸い傷が出来上がった。


これが受付の人が言っていた、依頼達成の証か。


おじさんは残りの板にも同じように魔力を流していく。

四枚全てに丸い傷が刻まれた。


「これで依頼完了だ!」


おじさんが満足そうに頷く。


「あとは冒険者ギルドの受付で報酬を貰ってくれ!」

「分かりました」

「今日は助かった! ありがとう! ハッハッハ!」


俺たちも揃って頭を下げた。


「こちらこそ、ありがとうございました」


初めての依頼だったが、良い人に当たったな。

仕事も無事に終わった。


あとはギルドに戻って報酬を受け取るだけだ。


俺たちは踵を返し、冒険者ギルドへ向かおうとする。


その時だった。


「ちょっと待ってくれ!」


後ろから、おじさんの声が飛んできた。


「ん?」


俺たちは足を止めて振り返る。

おじさんは嬉しそうに笑っていた。


「今日は良い商売ができた! これもお前達のおかげだ!」


そう言うと、おじさんは金の入った袋に手を入れた。


何をするんだ?


次の瞬間。


「ほれ!」


何かが飛んできた。


「うおっ」


反射的に受け取る。

手を開く。


大銅貨だ。


「え?」


俺だけじゃない。

おじさんはギレウス、ラント、コルドにも一枚ずつ大銅貨を投げ渡していた。


四人で顔を見合わせる。


依頼の報酬とは別だよな?


俺たちが戸惑っていると――。


「サービスだ! ハッハッハ!」


おじさんが豪快に笑った。


……なるほど。

今日の売れ行きが良かったから、その分のおまけということか。


大銅貨一枚。

つまり、一人千円分。


依頼の報酬とは別にくれるらしい。

ありがたい。


俺たちは顔を見合わせ――。


「ありがとうございます!」


大きな声で礼を言った。


コルドだけは声を出さず、軽く会釈する。

それでも、ちゃんと礼はするんだな。


おじさんは最後まで豪快に笑いながら、俺たちを見送ってくれた。


その後、俺たちは冒険者ギルドへ戻った。


受付で丸い傷の刻まれた依頼板を渡し、確認してもらう。

問題なく依頼達成と認められ――。


俺たちは報酬を受け取った。


こうして、冒険者パーティ《プラズマ》として受けた最初の依頼。


商人の販売補助は――。

無事、達成することができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。