第四十話「状況整理」
冒険者ギルドを出た俺たちは、状況を整理するため、近くの酒場へと入った。
もちろん、酒を飲むためじゃない。
今はとにかく、落ち着いて話せる場所が欲しかった。
冒険者ギルドの中にも座って話せる場所はある。
ただ、この町の冒険者ギルドはそこまで広くなく、俺たちが話を聞き終えた頃には、座れる場所は他の冒険者たちで埋まっていた。
だから、近くの酒場に移動することにしたのだ。
店内には昼間だというのに何人か客がいて、酒を飲みながら談笑している者もいる。
俺たちは空いていた四人掛けの席に腰を下ろした。
ラントはというと、いつものように机の上だ。
店のマスターはそんな俺たちを見ても、特に何も言わなかった。
まあ、何も頼まないのも悪い。
「とりあえず、飲み物でも頼むか」
酒は論外なので、水でも頼んでおく。
注文を済ませると、俺たちは向かい合った。
さっきまでいた冒険者ギルドとは違って、ここなら多少は落ち着いて話ができる。
俺は一度頭の中を整理してから、ギルドで聞いた話を二人に説明した。
俺たちが今いる場所。
現在、世界で起きていること。
そして――転移魔法陣が使えないこと。
一通り説明を終える。
「――という感じだ」
しばらく、誰も口を開かなかった。
コルドは驚いている。
ただ、ギレウスほど青ざめてはいない。
……いや。
出さないようにしているのかもしれない。
あいつはプライドが高い。
動揺していたとしても、それを俺たちに見せるのは嫌なのだろう。
ラントはというと――。
さっきのギレウスと似たような感じになっていた。
明らかに動揺している。
まあ、そうなるよな。
とりあえず今は、これからの方針を決めることが大事だ。
「まず、転移魔法陣がどうして使えないのか。それを知る必要があると思う」
俺は三人を見る。
「だから、近くの都市――グランドに向かおう」
俺の提案に、三人は青ざめた表情を残しながらも頷いた。
納得はしている。
ただ、まだ状況を完全には整理できていないのだろう。
当たり前だ。
俺とこいつらでは違う。
俺は転生者だ。
実際の年齢と精神的な年齢はまるで違う。
もちろん、俺だって焦っている。
何が起きているのか分からない。
転移魔法陣が使えない理由も分からない。
これからどうなるのかも分からない。
それでも、ある程度冷静になれる心はある。
だけど、みんなは違う。
人生一周目。
まだ子供だ。
これから色々なことを経験して、そういう精神性に成長していくのだろう。
とはいえ、この空気のまま旅を始めるのも良くない。
どうにか気を紛らわせたいところだが……。
こういう時に大事なのはギレウスだ。
こいつは割とポジティブだ。
ギレウスさえ元気になれば、みんなの空気も少しは変わる。
さて。
どうやってこいつを立ち直らせるか――。
そう考えていたのだが。
それは杞憂に終わった。
しかも、良い意味で。
「……良い方向で考えれば!」
突然、ギレウスが顔を上げた。
「俺達は今、冒険者! 自由に冒険ができるんだ! 先生もいないしさ! なんでもできる!」
「…………」
立ち直るの早いな。
だが――。
確かにそうだ。
今なら何のしがらみもない。
ギレウスには、本来なら団長になるという使命がある。
こいつの家に生まれた以上、それは避けて通れないものなのだろう。
でも、この事件によっては、それすら無くなる可能性がある。
そう考えると――。
俺は意外と、こいつを子供扱いしているのかもしれない。
「まあ、確かにな」
俺もギレウスの言葉に同意する。
「でしょ!」
さっきまでの顔が嘘みたいだ。
ラントも頷いている。
ただ、心のどこかにはまだ引っかかっているものがありそうだ。
それが普通だろう。
コルドは……まあ、比較的冷静そうだ。
よし。
少し空気も変わった。
だったら今のうちに、旅をする上で重要なことを決めておこう。
「じゃあ、まず最初に決めておきたいことがある」
三人の視線が俺に集まる。
「これから四人で行動するなら、絶対に守ってほしいことだ」
「なに?」
ラントが首を傾げる。
俺は人差し指を立てた。
「まずは――報連相だ」
「…………?」
「…………?」
「…………?」
三人が揃って首を傾げた。
……あ。
やべ。
そうだった。
報連相って略語だもんな。
こいつらに分かるはずがない。
「シャウトって、たまに変なこと言うよな」
ギレウスが不思議そうな顔をする。
「いや、違うんだ。これは略してるだけで――」
俺は三人に説明する。
報告。
連絡。
相談。
何かあった時には必ず報告する。
何か伝えるべきことがあれば、きちんと連絡する。
自分だけでは判断できないことや、迷うことがあれば相談する。
これから四人で旅をするなら、これは徹底してもらいたい。
一人の勝手な判断が全員を危険に晒すことだってある。
説明を終えると、三人は納得したようだった。
「なるほど!」
「結構いいじゃん、それ」
ギレウスとラントが感心したように頷く。
「シャウト、頭良いな!」
「まあな」
悪い気はしない。
前世では当たり前のように使われていた言葉なんだけどな。
だが、ここでは俺が考えたみたいになっている。
……ちょっと得した気分だ。
「というわけで、これは全員に徹底してもらう」
「分かった」
「俺もいいよ」
ラントとギレウスは軽く了承してくれた。
問題は――。
「何故、我がそのようなことをしなければならん」
やっぱりこいつか。
コルドは露骨に嫌そうな顔をしていた。
「我は一人でも生きていける」
……プライド高いなぁ。
こういうところだろうな。
学校に通わされた理由。
たぶんこいつ、何でも一人でやろうとするタイプだ。
「まあ、そう言うなって」
俺はできるだけ下手に出る。
「俺はみんなで無事に帰りたいんだ。そのために必要だと思ってる」
「…………」
コルドはしばらく黙り込んだ。
やがて、仕方なさそうに息を吐く。
「……仕方あるまい」
よし。
これで一つ目は決まった。
すると、ラントが口を開いた。
「じゃあさ」
机の上に座ったまま、俺たちを見渡す。
「リーダーも決めておこうよ」
「リーダー?」
確かに。
リーダーは大事だ。
報連相をするにしても、最初に状況を把握する人間はいた方がいい。
もちろん、全員に伝えるのでもいいし、順番だって誰からでもいい。
ただ、グループのトップが状況を把握しているのとしていないのでは雲泥の差だ。
「私はシャウトがリーダーでいいと思う」
ラントがさらっと言った。
その瞬間だった。
「我はこいつの下にはつかんぞ!」
コルドが大声を上げた。
酒場に響き渡る声。
周囲の客たちが一斉にこちらを見る。
「…………」
「…………」
「…………」
おい。
「静かにしろよ!」
ギレウスが小声でコルドを注意する。
「お前は少し周りを気にするべきだぞ」
まさかギレウスが注意する側になるとは。
コルドは周囲から向けられる視線に気づいたのか、気まずそうに口を閉じた。
まあ……。
俺がリーダーなのは嫌らしい。
俺のこと、あんまり好きじゃなさそうだしな。
「別にリーダーっていっても、命令するとか、そういうのじゃないぞ」
俺はコルドに説明する。
「俺が上から全部決めるわけじゃない。何か決める時はみんなで相談する。その上で、最後に俺が話をまとめる。そんな感じだ」
「…………」
「だから、俺の下につくとかじゃない」
コルドは腕を組み、少し考え込んだ。
「……ならば、構わん」
渋々といった様子だが、了承してくれた。
これで二つ。
俺たちの中での決まりができた。
報連相を徹底すること。
そして、リーダーは俺。
さて。
次は――。
「パーティ名も決めるか」
冒険者として活動するなら、これは必要だろう。
「パーティ名!」
ギレウスの目が光った。
……なんだ、その反応。
さっきまで青ざめてた奴とは思えないぞ。
「何か良いのあるか?」
俺がみんなに聞く。
「我は何でも構わん。お前たちが決めろ」
コルドは興味なさそうに答えた。
まあ、こいつはそう言うと思った。
「私も別に何でもいいよ」
ラントも続く。
「ダサくなければ」
「じゃあ俺が考える!」
ギレウスが勢いよく手を挙げた。
嫌な予感がする。
「アルティメットドラゴンキラー!」
「…………」
「…………」
「…………」
いやいやいや。
ダサすぎるだろ。
俺だけじゃない。
ラントもコルドも同じ顔をしている。
「却下」
「えっ!?」
秒だった。
少し可哀想だ。
というか――。
こいつ、意外と子供じゃん。
いや、実際子供なんだけど。
「じゃあ、何がいいんだよ!」
ギレウスが不満そうに頬を膨らませる。
「うーん……そうだなぁ……」
俺は腕を組んで考える。
冒険者パーティ。
四人。
分かりやすくて、覚えやすくて……。
「プラズマ……」
考えている途中で、ふと口から出た。
「それかっこいいね!」
ギレウスが即座に食いついた。
「いや、まだ考えてる途中だったんだけど……」
ラントを見る。
特に反対している様子はない。
「私はいいと思う。短くて分かりやすいし」
コルドも何も言わない。
反対はないらしい。
……まあ。
悪くないか。
「じゃあ、プラズマにするか」
こうして――。
俺たち四人の冒険者パーティ。
その名前は、
《プラズマ》
に決まった。




