第三十九話「現在地」
俺たちは換金所を出て、冒険者ギルドの前までやって来た。
建物自体は、アレフにあった冒険者ギルドよりも大きくはない。
とりあえず中に入る。
すると――。
なんか、めちゃくちゃ見られてる。
冒険者たちの視線が、一斉にこちらへ集まった。
…………見るな。
何故そんなに見る。
そう思ったが、すぐに気づく。
いや、待て。
俺たちって子供だ。
そりゃ、こんなところに子供が四人だけで入ってきたら視線も集まるか。
おそらく、学校の実習ルートにここの冒険者ギルドは入っていないのだろう。
アレフの冒険者ギルドでは、俺たちみたいな学生が来ることもあるのかもしれない。
でも、ここでは珍しい。
そんなことを考えていると、一人の男がこちらへ近づいてきた。
「おいおい。こんな所に子供が四人も。ここはお前たちの遊技場じゃないぜ」
男の顔を見て、少し驚く。
…………トカゲ?
なんというか、前世のアニメとかによく出てきたリザードというか。
そんな感じの種族だ。
男の言葉を聞いて、周りの冒険者たちが笑い出す。
…………うるせぇよ。
そんなこと分かってるわ。
別に遊びに来たわけじゃない。
そう言い返そうとした、その時。
「貴様、我を愚弄する気か。我は――」
「――あー! すみません!」
俺は慌ててコルドの言葉に被せた。
危ねぇ!
絶対今、「我はデュランダル王国第三王子」とか言おうとしただろ!
昨日決めたばっかりじゃねぇか!
こんな人の多い場所で王子だとバレたらどうなるか、目に見えている。
俺はそのまま、できるだけ大きな声で続けた。
「僕たち、聞きたいことがあって来たんです! 先輩たちには悪いようにはしませんので! お手柔らかにお願いします!」
「…………」
トカゲの男が俺を見る。
そして、ニヤニヤと笑った。
「あー、そうかい。お母ちゃんにおつかいでも頼まれたか?」
周囲から、また笑い声が上がった。
…………。
とりあえず、ここは流しておこう。
別に喧嘩しに来たわけじゃない。
今は情報を集める方が大事だ。
そんな一悶着もありながら、俺たちはなんとか受付までたどり着いた。
ただ――。
「…………」
コルドがめちゃくちゃ不機嫌になっていた。
顔を見れば分かる。
あれは完全に怒ってる。
そのままコルドは何も言わず、冒険者ギルドの外へ出ていってしまった。
「ちょっと、コルド!」
それを追うようにラントも外へ向かう。
まあ、一人にするのは良くないからな。
ラントが一緒なら、とりあえず大丈夫だろう。
結果、受付に残ったのは俺とギレウスの二人だけになった。
俺たちは受付の人に事情を聞くことにした。
まず知りたいのは――ここがどこなのか。
そして、ここからエクスカリバー王国までどれくらいかかるのか。
俺たちがそう尋ねると、受付の人は奥から大きなものを持ってきた。
広げられたそれを見て、すぐに分かった。
世界地図だ。
「おお……」
あるんだ。
いや、そりゃあるか。
家にあった本でも世界地図自体は見たことがある。
ただ、受付の人は地図をこちらに渡すわけではなく、俺たちから見えるように広げただけだった。
…………多分だけど、先生はこういう地図を持ってたんだろうな。
本来なら、先生と一緒に行動しながら現在地を確認していたのかもしれない。
そんなことを考えていると――。
受付の人が、地図の一ヶ所を指差した。
「今、あなたたちがいるのはここです」
俺とギレウスが、指の先を見る。
「グラム王国という場所の、下の方ですね。だいたいこの辺です」
…………だいたい?
随分曖昧だな。
まあ、世界地図なんだから仕方ないか。
国自体がでかいし、町や集落まで細かく書いていたら、とんでもないことになりそうだ。
受付の人はそのまま、地図の上で指を動かしていく。
「そして、エクスカリバー王国は――」
指がグラム王国から離れ、海を越える。
「この海を渡って、さらに北へ向かったところにあります」
「ここからだと、どれくらいかかりますか?」
俺が尋ねると、受付の人は少し考えてから答えた。
「そうですね。だいたい馬車を使ってになりますが――三年ほど……」
…………。
三年。
…………今、なんつった?
三年?
遠すぎないか……。
ヤバい。
どうしよう。
こんな距離、どうすれば……。
頭の中で色々な考えがぐるぐると回り始める。
そんな時だった。
「三年……って、そんな……俺たち……」
隣から聞こえた声に、俺はギレウスを見る。
顔が青ざめていた。
そのまま言葉が止まり、俯いてしまう。
今にも涙が出そうな顔をしていた。
受付の人も、そんなギレウスを見て申し訳なさそうな顔をしている。
…………ダメだ。
俺もびっくりした。
正直、今すぐどうすればいいのかなんて分からない。
でも、ギレウスがこんな状態なんだ。
俺が冷静にならないと。
何かないか。
三年もかけずに帰る方法。
そこで、ふと思い出した。
――転移魔法陣。
そうだ。
母さんが言っていた。
大きな都市には転移魔法陣があるって。
金さえあれば使える。
俺たちは冒険者だ。
金なら、これから依頼を受けて稼ぐこともできる。
だったら――。
「ここから一番近い都市はどこですか?」
受付の人に尋ねる。
「少々お待ちください」
そう言って受付の人は一度奥へ引っ込み、今度は別の紙を持ってきた。
それを広げる。
「おお……」
さっきの世界地図よりも、かなり細かく書かれている。
どうやら、これはグラム王国の地図らしい。
「ここがミリンです」
受付の人が地図の下の方を指差す。
そして、そこから斜め上へ指を動かした。
「そして、ここが南都市グランドです」
さらに、そのまま真っ直ぐ上へ。
「ここが中央都市グラム。そして西、東、北にも、それぞれグランドという都市があります」
へぇ。
この王国は、都市ごとに全く違う名前がついてるわけじゃないのか。
中央だけがグラム。
その周囲にある都市は、方角をつけて区別しているらしい。
つまり、今示された場所が南都市グランドということか。
「南都市グランドには、転移魔法陣はありますか?」
これならいけるかもしれない。
そう思ったのだが――。
「あるにはありますが……今は使えないようです」
…………え?
なんでだ?
どういうことだ?
「それは、お金が必要とかですか?」
受付の人は首を横に振った。
「いえ。今日の朝に入った情報なのですが、現在、主要都市にある転移魔法陣が黒くなり、使えなくなっているのです」
「黒く……?」
転移魔法陣が?
「どうしてですか?」
「原因は、まだ分かっていません」
…………そうか。
つまり、南都市グランドまで行ったとしても、転移魔法陣を使って帰ることはできない。
他の主要都市も同じ。
となると――。
長旅を覚悟しなければならない。
「…………分かりました。ありがとうございます」
俺たちは受付の人にお礼を言い、冒険者ギルドを出ることにした。
出口へ向かう途中、また何人かの冒険者に笑われた。
…………今は、そんなことどうでもいい。
俺とギレウスはそのまま外へ出た。




