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第三十三話「冒険者登録」

そして今日。


ついに俺たちは、国外へ向けて出発することになった。


俺、ギレウス、コルド、ラント。


四人一組のパーティも決まり、いよいよ実戦授業が始まる。


そんな俺たちの移動方法は――。


「皆さんには、転移魔法陣を使って移動してもらいます」


…………転移魔法陣!


あれを使うのか!


転移魔法陣なら、これまで街へ出た時に何度も見ている。


都市アレフの広場に設置されている、あの巨大な魔法陣だ。


確か、一回使うだけで金貨一枚。


前世の感覚で考えれば、とんでもない金額だったはずだ。


しかも、誰でも好き勝手に使えるような代物じゃない。


それを今回――実際に使える。


…………めっちゃ楽しみだ。


転移って、どんな感じなんだ?


一瞬で景色が変わるのか?


それとも、何か変な空間を通るのか?


異世界に生まれ変わって九年。


魔術も見た。


魔物の存在も知った。


自分自身も魔術を使えるようになった。


それでも、こういう「いかにも異世界」って感じのものには、いまだに少しワクワクしてしまう。


そんなことを考えていると、先生が今日の予定について説明を始めた。


「まず学校を出た後、都市アレフにある冒険者ギルドへ向かいます。そこで皆さんには、正式に冒険者登録をしてもらいます」


冒険者登録か。


父さんと母さんも、昔は冒険者だった。


しかも二人とも、ダイヤモンドまで上がっている。


そんな両親を持つ俺も、今日ついに冒険者になる。


…………授業だけど。


「登録を終えた後、転移魔法陣を使って国境の関所まで移動します。皆さんも、アレフの広場にある転移魔法陣は何度も見ているでしょう。ですが、転移魔法陣自体は国内の様々な場所に設置されており、大きさもそれぞれ異なります」


…………え?


色んなところにあるの?


俺が知っている転移魔法陣といえば、アレフの広場にある巨大なものだけだ。


てっきり、あれくらい大規模な設備じゃないと転移できないものだと思っていた。


「ただし、その多くは国が管理しており、一般には公開されていません。もちろん、存在そのものが完全に秘匿されているわけではありません。特に冒険者など、仕事で各地を移動する者の中には知っている方も多いですね」


なるほど。


完全な秘密というわけじゃない。


存在を知っている人間はいるが、一般人が自由に場所を調べて利用できるようなものでもない、と。


「そして今回、皆さんが転移魔法陣を利用できるのは、王立学校の学習目的として国から許可を得ているためです。利用できるのは私が同行している場合のみですので、皆さんだけで利用することはできません」


王立学校だからこその特別待遇ってわけか。


こうした許可を得られない学校では、実戦授業で遠方へ向かう場合、馬車を使うのが普通らしい。


…………王立学校、すげえな。


冒険者登録。


転移魔法陣。


そして、その先には初めての国外。


実戦授業と聞いた時は不安もあったけど。


今は、それ以上に楽しみだった。


◇ ◇ ◇


そして――。


ここが、アレフの冒険者ギルド。


建物の中へ入ってまず目に飛び込んできたのは、大勢の冒険者たちだった。


武器を腰に下げた男。


大きな杖を持った男。


少し露出の多い衣装を着た女性。


そして――。


筋骨隆々な身体にローブをまとった男たち。


…………ローブの下、どうなってんだよ。


腕なんか俺の胴体くらいありそうなんだけど。


魔術師なのか?


それとも杖で殴るタイプなのか?


前世の感覚だと、鎧も着ずに魔物と戦うのは危なそうに見える。


でも、この世界には魔術がある。


《マジックアーマー》のように、身体そのものを魔力で守る方法だって存在する。


なら、防御力は単純に服装だけでは判断できないのかもしれない。


そう考えると、見た目だけで相手の強さを判断するのは危険そうだ。


…………リリス先輩との一件もあるしな。


そんな冒険者たちを眺めていると、先生が俺たちに声をかけた。


「それでは、順番に一人ずつ登録を済ませてきてください」


先生に促され、一人、また一人と登録窓口へ向かっていく。


登録を終えた生徒たちは、小さなバッジのようなものを手にして戻ってきていた。


あれが冒険者の証なのか?


やがて――。


「次、シャウト君」


ついに俺の番が来た。


「はい」


俺は登録窓口へ向かう。


カウンターの向こう側には、綺麗なお姉さんが座っていた。


俺が前に立つと、お姉さんは慣れた様子で微笑む。


「冒険者登録をご希望ですか?」


「はい」


「王立学校の実戦授業に参加される生徒さんですね?」


「そうです」


「承知しました。それでは、登録の前に冒険者ギルドについて簡単にご説明します」


お姉さんはそう言って、説明を始めた。


「冒険者ギルドは、国や地域を問わず様々な町や都市に存在しています。各地のギルドには魔物の討伐や護衛など様々な依頼が持ち込まれ、冒険者はそれを達成することで報酬を受け取ります」


まあ、ここは想像していた通りだな。


魔物を倒す。


人を護衛する。


その対価として金をもらう。


父さんたちから昔の話を聞いた時にも、似たような話は聞いている。


「そして、冒険者にはランクが存在します」


来た。


これは知ってるぞ。


確か――。


ブロンズ。


シルバー。


ゴールド。


プラチナ。


エメラルド。


ダイヤモンド。


アダマンタイト。


そして最高位の――オートマタ。


父さんと母さんはダイヤモンドだった。


改めて考えると、やっぱりあの二人って相当すごかったんだな。


「冒険者登録をされた方は、原則として全員《ブロンズ》からの開始となります」


やっぱり、いきなり高いランクから始まったりはしないらしい。


「ブロンズの冒険者が受けられる依頼は、基本的にブロンズ、そして一つ上のシルバーまでです。それ以上についてはパーティ全体のランクなどによって条件が異なる場合もありますが、基本的には自分たちのランクから二つ以上離れた依頼を受けることはできない、と覚えておいてください」


なるほど。


新人がいきなり、


『俺、最強だから最高難易度の魔物倒してくるわ!』


みたいなことはできないわけだ。


まあ、当然だよな。


実力も分からない新人に危険な依頼を受けさせて、依頼人も冒険者もまとめて被害を受けたら意味がない。


俺たちは今回、全員ブロンズから始まる。


実戦授業なんだから、最初はそのくらいでちょうどいいだろう。


「また、通常の依頼とは別に、国から冒険者へ招集がかかる場合もあります」


「国から?」


思わず聞き返す。


「はい。ただし、招集に応じるかどうかは原則として冒険者本人の判断に委ねられています」


へえ。


国から直接声がかかることまであるのか。


それでも強制じゃない辺り、冒険者というのはかなり自由な立場らしい。


「以上が基本的な説明になります。それでは、こちらにお名前と種族をご記入ください」


「はい」


差し出されたのは――。


木の板。


…………みたいなものだった。


いや。


違うな。


見た目は木に近い。


でも、触ってみると感触が少し違う。


表面は妙に滑らかで、思ったより硬い。


なんだこれ?


まあいいか。


俺は言われた通り、そこへ名前と種族を書く。


シャウト・ロータス。


人族。


書き終えた、その瞬間。


「…………ん?」


何も書かれていなかった場所に、淡い光が浮かび上がった。


そして――。


次々と文字が現れる。


「おお……」


思わず声が漏れた。


なんだこれ。


すごい。


どういう原理なんだ?


魔道具か?


そこには――。


名前。


種族。


年齢。


ランク。


依頼達成数。


失敗数。


そして一番下には、


《昇格》


という文字が表示されていた。


ただし、今は他の文字と違って黒く沈んでいる。


俺がそれを見ていると、お姉さんが説明してくれた。


「一番下に《昇格》と表示されていますよね?」


「はい」


「その文字が光った時に冒険者ギルドへ来ていただければ、次のランクへ昇格することができます」


なるほど。


条件を満たせば、ここが光るのか。


「ただし、昇格は義務ではありません。条件を満たした後も、現在のランクで活動を続けることは可能です」


「上げなくてもいいんですか?」


「はい。上位のランクになるほど受けられる依頼の幅は広がりますが、必ず昇格しなければならないわけではありません」


へえ。


条件を満たした瞬間に勝手にランクが上がるわけじゃない。


自分で上げるかどうかを決められるのか。


…………面白いな。


俺はもう一度、手元の板を見る。


ランクの欄には――。


《ブロンズ》


依頼達成数。


零。


失敗数。


零。


当たり前だけど、完全に新人だ。


「それでは、こちらの登録板はそのままお持ちください。冒険者としての記録を確認する際に必要になりますので、紛失しないようお願いします」


「分かりました」


登録板。


これが、冒険者としての俺の記録になるわけか。


「それと、こちらもお渡しします」


続いて差し出されたのは、小さなバッジだった。


俺はそれを受け取る。


「こちらは冒険者であることを示すバッジです。現在はブロンズランクですので、ブロンズのバッジになります」


なるほど。


登録板が詳しい記録。


バッジは、冒険者であることと現在のランクを外から確認するための証明みたいなものか。


俺は手のひらに乗せたバッジを眺める。


小さなブロンズのバッジ。


父さんと母さんが持っていたのは、これよりずっと上のダイヤモンドだった。


もちろん。


今の俺と、昔の父さんたちを比べるつもりはない。


俺は今日登録したばかりの新人だ。


それでも――。


「…………冒険者か」


なんだろう。


少しだけ実感が湧いてきた。


学校の授業として参加しているだけ。


この後だって、先生が同行している。


本物の冒険者として一人で生きていくわけじゃない。


でも。


この登録板に書かれている名前は、間違いなく俺のものだ。


シャウト・ロータス。


人族。


九歳。


冒険者ランク――ブロンズ。


「これにて冒険者登録と説明は終了です」


俺が顔を上げると、お姉さんは笑顔でそう告げた。


「それでは、健闘をお祈りしています」


「ありがとうございます」


俺は登録板とバッジを持って、みんなのところへ戻る。


ギレウスたちも、それぞれ同じブロンズのバッジを持っていた。


これで――。


俺たち四人全員。


冒険者だ。


この後は転移魔法陣を使い、国境へ向かう。


そして、その先には。


俺が生まれて初めて見る――国外の世界が待っている。


こうして俺は――。


正式に冒険者になった。

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