↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/87

第三十話「全勝無敗」

あれからも、同じ形式の剣術の授業は数ヶ月にわたって続いた。


真剣を使い、魔術の使用もあり。


相手も毎回変わる。


火、水、風、雷、土。


剣で正面から挑んでくる奴もいれば、魔術で距離を取ろうとする奴もいる。


魔術を牽制に使って、その隙に斬り込んでくる奴。


逆に、剣で俺の注意を引きつけてから魔術を放ってくる奴。


戦い方は人によって様々だった。


「《ファイアーボール》!」


正面から炎の球が飛んでくる。


俺は横へ跳んで避ける。


その直後、炎の向こう側から相手が飛び出してきた。


「うおおおっ!」


なるほど。


《ファイアーボール》は攻撃だけじゃなく、俺の視界を塞ぐためでもあったのか。


でも――。


見えてる。


振り下ろされた剣を自分の剣で受け流す。


相手の身体が前へ流れる。


その隙に横へ回り込み、剣を持った手を狙う。


「っ!」


相手が慌てて剣を引いた。


そのまま俺から距離を取ろうとする。


でも、遅い。


一気に踏み込み、相手の剣を弾き飛ばした。


カランッ!


剣が地面へ落ちる。


俺は相手の首元で剣を止めた。


「そこまで!」


先生の声が響く。


また、俺の勝ちだ。


別の日には、土属性を使う相手とも戦った。


「《ストーンウォール》!」


地面から土の壁がせり上がり、俺の進路を塞ぐ。


正面から壊すこともできる。


《筋力の恩寵》がある俺なら、全力で叩けば突破できるかもしれない。


でも、それをする必要はない。


俺はすぐに横へ走った。


壁はあくまで正面を塞いでいるだけ。


だったら、回り込めばいい。


そう思った瞬間。


壁の横から相手が飛び出してきた。


「っ!」


剣が迫る。


俺は身体を反らして避け、そのまま相手の懐へ入る。


なるほど。


《ストーンウォール》そのものが目的じゃない。


俺の進路を限定して、回り込んだところを狙っていたのか。


だったら――。


剣を振り上げる。


相手も防ごうと剣を構えた。


俺は直前で力を抜き、軌道を変える。


剣同士をぶつけず、その横を抜く。


そして――。


相手の肩の寸前で剣を止めた。


「そこまで!」


また勝った。


そんな授業が、何度も続いた。


相手が変われば、戦い方も変わる。


最初の頃は、剣だけを見ていればよかった。


でも今は違う。


剣。


身体。


空いている手。


魔力の動き。


相手がどの属性を得意としているのか。


次に魔術を使う可能性はあるのか。


見るものが増えた。


考えることも増えた。


それでも――。


俺は負けなかった。


最初の頃は、一勝するたびに嬉しかった。


ナージャに勝った時。


ギレウスに勝った時。


コルドに勝った時。


自分が剣術で成長していることが分かるのが嬉しかった。


魔術では、中級魔術を一度も成功させられていない。


半年間練習しても、《ショックウェーブ》を使えなかった。


だからこそ、剣術で勝てることが余計に嬉しかったのだと思う。


でも。


勝つ回数が増えるにつれて。


その感覚は、少しずつ変わっていった。


また勝った。


今日も勝った。


次も勝った。


最初は嬉しかったはずなのに。


いつの間にか――。


勝つことが普通になっていた。


相手が誰であっても。


どんな魔術を使ってきても。


最後に勝つのは俺。


そんな感覚が、少しずつ俺の中に出来上がっていった。


そして夏の大型休み。


今年は家には帰らず、学園に残ることにした。


理由は一つ。


中級魔術の練習だ。


俺は未だに《ショックウェーブ》を成功させられていない。


ナージャは《スプラッシュウォーター》を使えるようになった。


ギレウスも《ファイアーストーム》を成功させている。


ラントも《ショックウェーブ》を使える回数が増えている。


それなのに俺は――。


「《ショックウェーブ》!」


バチッ!


放たれた雷が標的へ直撃する。


…………。


違う。


ただの《ショック》だ。


「はぁ……」


何回目だよ、これ。


一年生の頃なら、魔術が発動しただけでも嬉しかった。


でも今は違う。


俺が使いたいのは《ショック》じゃない。


《ショックウェーブ》だ。


もう何ヶ月も練習している。


それでも、一度も成功しない。


大型休みの間くらい家に帰ろうかとも考えた。


父さんと母さんにも会いたかったしな。


でも、今回は学園に残ることにした。


もし《ショックウェーブ》が成功した場合、どれほどの威力になるか分からない。


先生が最初に見せた《スプラッシュウォーター》は、何も威力を調整していない状態で標的を粉砕した。


そんな中級魔術を家の近くで練習して、万が一成功してしまったら――。


…………家をぶっ壊しました。


では済まない。


学校なら魔術を練習するための場所もある。


何かあった時に先生へ相談することもできる。


だから今年は、学園で練習することにした。


それでも。


結果は変わらなかった。


「《ショックウェーブ》!」


バチッ!


また《ショック》。


「…………」


なんでだ?


魔力が足りない?


いや。


以前、魔力を大量に込めても駄目だった。


しかも、その時は調子に乗って魔力を使い切り、魔力枯渇まで起こした。


そのせいで成長魔力が半分近くまで落ちた。


あれ以来、無茶な試し方はしていない。


魔力量だけの問題じゃない。


それは分かっている。


でも。


じゃあ、何が足りない?


分からない。


何度やっても。


考えても。


試しても。


答えは出なかった。


魔術では、相変わらず駄目だ。


でも――。


剣術では違った。


授業に戻れば、俺は勝てる。


誰と戦っても勝てる。


魔術で上手くいかない日が続いても。


剣を握れば、結果が出る。


だったら。


別にいいんじゃないか?


魔術が苦手でも。


剣術がこれだけ得意なら、それでいいんじゃないか?


そんな考えが、少しずつ俺の中に生まれていた。


そして月日は流れ――。


俺は三年生になった。


この頃には、クラスの中で俺の立ち位置は完全に決まっていた。


剣術なら、シャウトには勝てない。


誰かにそう言われても、もう否定する気にはならなかった。


だって実際――。


俺は剣術の模擬戦で、一度も負けていない。


力を制御できるようになってから。


俺は誰にも負けていなかった。


ナージャにも。


ギレウスにも。


コルドにも。


それ以外のクラスメイトにも。


剣だけで戦う相手にも。


魔術を使ってくる相手にも。


全部勝った。


このクラスで。


剣術において、俺は誰にも負けない。


そんな存在になっていた。


少し前の話をしよう。


俺たちが三年生になる少し前、生徒会長だったアルマ・ガルドが学園を卒業した。


入学式で初めて見た時から、とにかくデカくて目立つ人だったが、もう卒業か。


時間が経つのは早いもんだ。


そして当然、生徒会長が卒業すれば、次の生徒会長が選ばれる。


新しく生徒会長になったのは――。


見覚えのある女だった。


確か、俺たちの入学式の時にもアルマ先輩の近くにいたはずだ。


その女の名前は――リリス・カルワーネ。


…………なんというか、エルフ感のある名前だ。


いや、名前だけじゃない。


よく見ると、耳が人族よりも長く、少し尖っている。


前世の知識で言えば、どう見てもエルフっぽい。


実際、リリスはエルフと人族の混血らしい。


なるほど。


言われてみれば、人族に近い見た目なのに、耳だけは明らかに違う。


そして、そのリリス・カルワーネが、アルマ先輩の後を継いで新しい生徒会長になった。


とはいえ。


この時の俺にとって、生徒会長が変わったことなんて大した問題ではなかった。


俺は生徒会に入っているわけでもない。


授業で関わることもない。


学年だって違う。


だから。


まさか、この人と剣を交えることになるなんて――。


この時は、考えてもいなかった。


三年生になってからも、剣術の授業は続いた。


そして。


俺の連勝も続いた。


「始め!」


先生の合図。


相手が剣を構える。


俺も構える。


少し前なら、相手がどんな動きをするのか考えていた。


どう攻めてくる?


魔術は使う?


どの属性だ?


最初に距離を取る?


それとも接近してくる?


でも。


この頃には。


そんなことを考える前に、別の感情が浮かぶようになっていた。


…………今回も、俺が勝つだろうな。


実際。


勝った。


次も。


勝った。


その次も。


勝った。


いつの間にか、勝利した瞬間に感じていた喜びも薄れていた。


勝って当然。


そんな感覚になっていたからだ。


むしろ。


少し退屈ですらあった。


もっと強い奴はいないのか?


俺を本気にさせるような奴。


少しくらい、負けるかもしれないと思わせてくれる奴。


そんな相手と戦ってみたい。


そう思うようになっていた。


そんな無敗の日々が続いていた、ある日のこと。


剣術の授業が終わった後。


先生が俺を呼び止めた。


「シャウト君」


「はい?」


「少しいいですか?」


なんだ?


また何かやらかしたか?


最近は力加減もちゃんとしてるぞ。


俺が先生のところへ行くと、先生は少し考えるような素振りを見せてから口を開いた。


「シャウト君は、剣術において非常に優秀です」


「ありがとうございます」


素直に答える。


以前の俺なら、もう少し謙遜していたかもしれない。


でも。


この時の俺は、先生の言葉を当然のように受け取っていた。


だって。


実際に一度も負けていないんだから。


「ですので、ここはひとつ――他の学年の方と手合わせをしてみるのはどうでしょう?」


「他の学年……ですか?」


思わず聞き返す。


「はい。今のクラス内だけでは、シャウト君にとって十分な経験にならない可能性がありますから」


他の学年。


その言葉を聞いた瞬間。


俺の中に、久しぶりに期待が生まれた。


これは――面白そうだ。


正直。


退屈していた。


クラスの誰と戦っても、結果は同じ。


最近では模擬戦が始まる前から、どうせ勝つだろうと思ってしまっている。


でも。


他の学年なら?


四年生。


五年生。


六年生。


もっと上。


俺より長く剣術を学んでいる奴なら、もっと強いかもしれない。


もしかしたら。


少しくらい苦戦できるかもしれない。


「喜んでお受けします」


俺は二つ返事で了承した。


「分かりました。それでは次回、こちらで相手を用意しておきます」


「はい!」


誰だろうな。


上級生なのは間違いないだろう。


剣術が得意な奴か?


それとも魔術と組み合わせて戦う奴?


どちらでもいい。


強ければ。


久しぶりに、本気で戦えるなら。


それだけで楽しみだった。


そして――次の剣術の授業。


俺はいつもより少し早く訓練場へ来ていた。


他の生徒たちも、今日俺が別学年の生徒と戦うことを聞いているらしく、どこか落ち着かない様子だ。


ギレウスが俺の隣へやって来る。


「シャウト、今日なんだよね?」


「ああ」


「相手、誰なんだろうね」


「さあな。でも、先生がわざわざ連れてくるんだから、かなり強い奴なんじゃないか?」


「シャウトでも負けたりして」


「…………俺が?」


思わず笑ってしまった。


「いやいや」


「え?」


「まあ、強いとは思うけどさ」


負ける?


俺が?


…………ないだろ。


少なくとも。


この時の俺は、本気でそう思っていた。


やがて先生が訓練場へ入ってくる。


その後ろには、一人の生徒がいた。


「…………え?」


俺は目を見開いた。


見覚えがある。


長く、少し尖った耳。


人族とエルフ、二つの血を引く少女。


そして。


アルマ・ガルドの後を継いだ、現在の生徒会長。


――リリス・カルワーネ。


まさか。


生徒会長?


先生が俺の相手として連れてきたのは、この学校の生徒会長だった。


周囲の生徒たちもざわついている。


そりゃそうだ。


俺だって驚いている。


でも。


不思議と、怖くはなかった。


むしろ――。


口元が少し緩んだ。


生徒会長。


先生が俺の相手に選ぶくらいだ。


当然、強いんだろう。


だったら。


面白そうじゃないか。


今までの相手とは違う。


ようやく、本気で戦えるかもしれない。


そして――。


もしかしたら。


生徒会長にだって、勝てるかもしれない。


この時の俺は。


本気で、そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。