第二十七話「剣と魔術の融合」
最近の剣術の授業は、少し変わっている。
前までは木刀を使って、構えや間合い、足運びなんかを中心に練習していた。
俺としては、そっちの方がありがたかった。
中級魔術では半年間まともな成果が出せていなかった
だからせめて剣術くらいは、素直に自信を持てる分野であってほしかったのだ。
なのに――。
「…………なんで剣を投げてるんだ?」
目の前では、生徒たちが短剣を宙へと放り投げていた。
頭には疑問符しか浮かばない。
剣術の授業だよな、これ?
どうやらこれは、投げた短剣などを風魔術で操作し、そのまま対象へ着弾させる技術らしい。
要するに、魔術で剣を飛ばして攻撃するわけだ。
魔法騎士みたいな、そんな感じだろうか。
…………いや。
それなら普通に魔術を使えばよくないか?
《ウィンド》を使えるなら、そのまま風魔術をぶつければいい気がする。
わざわざ剣を投げて、それを魔術で操作する必要があるのか?
風で相手を吹き飛ばした方が手っ取り早そうだし、直接攻撃する魔術なら他にもある。
それに剣は一度投げたら手元からなくなる。
もし操作に失敗したら、ただ武器を捨てるだけだ。
俺にはあまり効率のいい戦い方には思えなかった。
とはいえ、学園がわざわざ授業で教えているということは、使う場面があるということなんだろう。
そんな俺の疑問を見透かしたかのように、先生が説明を始めた。
「《ウィンド》の操作性を高めることで、武器を利用した戦い方の幅を広げることができます」
先生はそう言って、一本の短剣を手に取った。
「例えば、敵に距離を詰められ、身動きが取れない状態になったとしましょう」
先生が短剣を前方へ投げる。
当然、短剣はそのまま地面へ落ちる――かと思ったが。
「《ウィンド》」
落ちかけた短剣が、空中で止まった。
「おお……」
そのまま短剣はゆっくりと向きを変え、先生の周囲を回るように動き始める。
刃先が上下左右へ向きを変えながら、まるで見えない手で掴まれているかのように宙を漂っていた。
「もし魔術が使えなければ、一度投げた武器をその場で利用することは難しいでしょう。ですが、魔術が使えるのであれば話は別です」
先生が軽く指を動かす。
それに合わせるように、短剣が一気に加速した。
ヒュッ!
短剣が宙を走り、離れた場所に置かれた的へと突き刺さる。
「魔術だけでは防がれやすい相手。逆に、武器だけでは距離が届かない相手。そういった状況でも、二つを組み合わせれば選択肢を増やすことができます」
なるほど。
単純に剣の代わりに風魔術を使う、という話じゃないのか。
魔術と武器。
どちらか一つだけで戦うんじゃなく、両方を同時に使えるようにする。
敵が魔術を警戒しているなら武器。
武器を警戒しているなら魔術。
そして両方を組み合わせれば、相手からすれば考えなければならないことが一気に増える。
一度手から離れた剣を、《ウィンド》で再び武器として利用するのもその一つということか。
「まだ皆さんの教育範囲外ですが、これから学んでいく魔術の中には、こうした戦い方に適したものもあります。ですから今のうちに、武器の扱いだけではなく、魔術のコントロールも磨いていきましょう」
「…………」
ちょっと待てよ。
剣術の授業じゃなくて、ほぼ魔術やんけ!
中級魔術がうまくいかない生徒が増えるから、気持ちを切り替えるために剣術の授業を増やしたんじゃなかったのか。
結局ここでも魔術からは逃げられないらしい。
…………まあ、仕方ないか。
この世界じゃ、それだけ魔術が戦いの基本ってことなんだろう。
父さんも前に言っていた。
冒険者の強さは、単純な戦闘力だけで決まるわけじゃない。
危険な状況での判断や、依頼をこなす能力も重要だと。
なら戦い方だって、一つだけできればいいわけじゃないのかもしれない。
剣しか使えない。
魔術しか使えない。
それよりも、状況に合わせて両方を使える方が強い。
そう考えれば、この授業にもちゃんと意味はある。
俺も一応、練習しておこう。
剣術の授業なのに《ウィンド》の練習をするというのは、なんとも変な感じだが、覚えておいて損はない。
俺は短剣を一本手に取り、軽く前へ投げる。
くるくると回転しながら、短剣が宙を進む。
「《ウィンド》」
落下していく短剣へ風を当てる。
フワッ。
短剣は少しだけ軌道を変えた。
だが――。
カラン。
そのまま地面へ落ちた。
「…………難しいな」
風を出すこと自体は簡単だ。
《ウィンド》はもう一年以上使っている。
初級魔術として発動させるだけなら、特に苦労することもない。
だが、短剣を狙った方向へ飛ばそうとすると話が変わってくる。
ただ風をぶつけるだけでは駄目だ。
強すぎれば短剣が回転して変な方向へ飛んでいく。
弱すぎれば今みたいに落ちるだけ。
横から当てれば軌道がずれるし、下から持ち上げようとすると刃先まで変な方向を向く。
「《ウィンド》」
ヒュッ!
「おっ」
今度は少し浮いた。
だが。
クルッ。
「うわ」
短剣が勢いよく回転し、俺から大きく外れた場所へ落ちた。
「…………危な」
もちろん周囲に人がいないことは確認しているが、思った以上に制御が難しい。
先生みたいに空中で止めて、向きを整えて、自由に動かすなんて今の俺にはできそうにない。
何度か試してみるが、結果は似たようなものだった。
浮かない。
浮いても回る。
飛んでも狙った方向へ行かない。
ただ風を出すのと、それを細かく操作するのでは、必要な技術が全然違うらしい。
「なるほどな……」
今までの俺は、魔術を発動できるかどうかばかり気にしていた。
特に最近なんて《ショックウェーブ》が成功しないせいで、成功か失敗かだけを見るようになっていた気がする。
でも。
同じ初級魔術でも、使い方次第でこんなに差が出る。
《ウィンド》を発動できる。
それだけなら俺にもできる。
だが先生みたいに、短剣を自由に操ることはできない。
魔術を覚えることと、魔術を使いこなすことは別なのかもしれない。
…………なんか。
前にも似たようなことを考えたな。
強いことと、上手く使えることは違う。
ギレウスを吹き飛ばした時に学んだことだ。
魔術も同じなのかもしれない。
それにしても――。
俺は地面に落ちた短剣を拾い上げた。
剣を魔術で飛ばせるなら。
剣そのものに魔力を纏わせたりはできないんだろうか。
ほら、某海賊漫画みたいな感じで。
剣に魔力を纏わせて、そのまま斬る。
もしそんなことができるなら、俺の筋力ともかなり相性が良さそうだ。
俺は筋力の恩寵のおかげで、普通の人間より遥かに強い力を持っている。
そこにさらに魔術まで加えられたら――。
単純に考えれば、かなり強い。
剣を魔術で飛ばせるなら、剣そのものに魔力を纏わせるくらいできてもおかしくない気がする。
《マジックアーマー》だって、身体の表面に魔力を纏わせる魔術だ。
だったら、その応用で剣に魔力を纏わせる――。
「…………いや」
俺はそこで考えるのを止めた。
まただ。
少し前までの俺なら、このまま勝手に試していたかもしれない。
剣に魔力を流したらどうなるんだろう。
どれくらい込めればいいんだろう。
そんなことを考えて、その場で実験していた。
でも。
魔力枯渇の件を思い出す。
知らないことを、自分の判断だけで試すのは危ない。
できるかどうかも分からないし、下手に剣へ大量の魔力を流して何か起きても困る。
今度、先生に聞いてみるか。
それなら安全だ。
それに、もし本当にそんな技術が存在するなら――。
少しだけ、楽しみかもしれない。
中級魔術ではずっと失敗続きだ。
でも、剣術と魔術を組み合わせるという考え方には、不思議と興味が湧いた。
剣だけでもない。
魔術だけでもない。
二つを組み合わせて戦う。
この世界では、それが当たり前になっていくのかもしれない。
俺はもう一度短剣を構える。
「とりあえず今は、こっちだな」
軽く放り投げる。
短剣が宙を舞う。
「《ウィンド》」
フワッ。
さっきより少しだけ長く、短剣が空中に浮かんだ。
「お」
次の瞬間には落ちたけど。
…………まあいい。
中級魔術みたいに、一回もできないわけじゃない。
少しずつでも変化が分かる。
だったら――これは続けられそうだ。
とりあえず今は、目の前の授業に集中するとしよう。
中級魔術編終了!
次回剣術編です!




