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第二十四話「分析と検証」

第二十四話 「分析と検証」


俺とギレウスは食事を済ませ、部屋に戻ってきていた。


「で、ギレウスはどうだった?」


「全然ダメだったよ」


今日の授業について話しながら、俺たちはそれぞれの結果を照らし合わせていた。


ギレウスが専攻したのは火属性。当然、今日から練習を始めた中級魔術《ファイアーストーム》にはまだ成功していない。


というか、成功した奴なんて一人もいなかった。


ナージャも失敗。


俺も失敗。


ギレウスも失敗。


ラントだけが《ショックウェーブ》らしきものを一度発動させたが、あれも完全に偶然だ。その後にもう一度やらせてみたら、普通の《ショック》になった。


「…………なんであの時だけ発動したんだ?」


俺はベッドに座りながら、今日の出来事を頭の中で順番に並べていく。


何かあるはずだ。


あの時だけ、普段とは違っていた何かが。


ラントは最初、普通に《ショック》を使えていた。その後、大量の魔力を込めて《ショックウェーブ》を発動させようとしたが、結果はただ威力の高い《ショック》。


そして魔力を大きく消費した。


その後――ラントは魔力を回復させた。


それから、もう一度《ショック》を使った。


そこで初めて《ショックウェーブ》が発動した。


魔力を使う。


減る。


回復する。


そして、また使う。


「…………」


待てよ。


魔力を使うと――成長する。


俺の成長魔力だってそうだった。初めて測定した時は五百。それから魔術を使い続けるうちに、明らかに以前より使える魔力が増えている。


魔力を使えば使うほど、成長魔力は成長する。


そしてラントは、雷属性を得意とする小人族。しかもクラスで最初に《ショック》を習得したほど、雷魔術が得意な奴だ。


魔力を大量に使った。


回復した。


もう一度使った。


得意な属性。


成長魔力。


…………そうか。


「分かった!」


気づいた時には、俺はベッドから立ち上がっていた。


「うわっ!?」


ギレウスが肩を跳ねさせる。


「な、なんだよシャウト! いきなり大きな声出すなよ!」


「悪い。でも、多分分かった!」


「何が?」


「ラントが《ショックウェーブ》を使えた理由だよ」


俺は今日の出来事を思い出しながら、ギレウスに説明する。


「おそらく原理はこうだ。中級魔術を使うには、成長魔力が関係してるんじゃないか?」


「成長魔力?」


「ああ。もっと正確に言えば――成長魔力の上限値だ」


初級魔術が使えるようになったからといって、すぐ中級魔術が使えるわけじゃない。


魔力を大量に込めても、中級魔術にはならなかった。


だったら、必要なのは一度に使う魔力量じゃない。


「成長魔力そのものが一定まで成長してないと、中級魔術は発動できないんじゃないか?」


ギレウスは少し考えてから口を開いた。


「でも、それならラントは?」


「今日のあいつは、一気に魔力を使った。その後に回復して、もう一度魔術を使った」


あの時、何かの拍子にラントの成長魔力の上限値が、中級魔術を発動できるところまで届いたんじゃないか?


しかもラントは、元々雷魔術が得意だ。


だからギリギリ、一度だけ《ショックウェーブ》として成立した。


「今までだってそうだっただろ? 魔術は使えば使うほど上手くなった。それと一緒で、魔力そのものにも必要な成長段階があるんじゃないか?」


「なるほど……」


ギレウスも納得しかけている。


でも――。


「…………ただ」


俺はそこで引っかかった。


こんな話、教本には載っていなかった。


成長魔力が魔術を使うことで成長することは書かれている。だが、中級魔術を発動するために成長魔力の上限値が関係しているなんて説明はなかった。


今日の先生も、そんなことは一言も言っていない。


「教本には載ってないんだよな……」


「じゃあ、違うんじゃない?」


「いや……」


もし本当にこれが条件なら。


もしかすると――。


「先生たちも、知らないんじゃないか?」


俺はそう呟いた。


「…………」


ギレウスから返事がない。


どうした?


そう思って顔を上げると、ギレウスがじっと俺を見ていた。


「……シャウトってさ」


「ん?」


「前から思ってたんだけど……なんか、年齢の割に頭良すぎない?」


「…………」


…………あ。


「急にどうしたんだよ」


「いや、だってさ。僕だったら『なんでできたんだろう』で終わるよ。でもシャウトは、今日起きたことを一個ずつ考えて、成長魔力がどうとか、先生も知らないんじゃないかとか……」


ギレウスは少し首を傾げる。


「たまに、僕と同じくらいの子供と話してる感じがしないんだよね」


…………まずい。


そういえば、こいつとはもう一年以上一緒にいる。


今まで特に何も言われなかったから気にしていなかったが、俺の中身は前世を含めれば当然子供じゃない。


考え方や喋り方に出ていてもおかしくない。


「そ、それはあれだよ」


「あれ?」


「ほら、俺って本読むの好きだろ?」


「うん」


「だからだよ。色々読んでるうちに、考える癖がついたっていうか」


「…………」


ギレウスがじっと俺を見る。


やめろ。


そんな目で見るな。


「それに父さんも母さんも冒険者だったし! 色々聞いてるからな!」


「そうなの?」


「そうそう!」


頼む。


納得してくれ。


「ふーん……」


ギレウスはまだ少し不思議そうな顔をしていたが、それ以上追及してくることはなかった。


危ない危ない。


これからはもう少し子供らしく振る舞った方がいいかもしれない。


…………まあ。


今更な気もするけど。


◇ ◇ ◇


今日もまた、中級魔術の練習だ。


二年生になってからというもの、剣術の授業より中級魔術の授業の方が多い。


おそらく、それだけ中級魔術の習得には時間がかかるということなんだろう。


そう考えると、昨日俺が立てた仮説も案外間違っていないのかもしれない。


俺としては剣術ももっと学びたいところだが……今は目の前のことに集中しよう。


俺が立てた仮説はこうだ。


中級魔術を発動するには、成長魔力の上限値がある一定のところまで成長している必要がある。


初級魔術に大量の魔力を込めても、中級魔術にはならなかった。


実際、俺とラントが大量の魔力を込めて《ショックウェーブ》を使おうとした時も、結果はただ威力の高い《ショック》になっただけだった。


だが、魔術を使えば成長魔力は少しずつ成長する。


ラントは一年生の時、クラスで最初に《ショック》を習得したらしい。つまり、それだけ雷魔術を使ってきた時間も長い。


そのラントだけが、偶然とはいえ《ショックウェーブ》を発動させた。


これが偶然とは思えない。


つまり、今の俺がやるべきことは単純だ。


雷魔術を使う。


とにかく使う。


そうやって成長魔力を伸ばしていけば、いずれ俺も《ショックウェーブ》を発動できるようになる――はずだ。


…………ん?


そこまで考えたところで、もう一つ疑問が浮かんだ。


成長魔力って、属性ごとに違うのか?


いや。


成長魔力そのものは一つのはずだ。


火属性用、水属性用、雷属性用なんて説明は、今まで一度も聞いたことがない。


だったら例えば、水魔術を使い続けて成長魔力を増やしたとしても、《ショックウェーブ》を使えるようになるのか?


それとも――成長魔力そのものは共通でも、魔術を使った経験みたいなものは、属性ごとに別で蓄積されている?


「…………」


分からん。


考えれば考えるほど、新しい疑問が出てくる。


もし後者なら、俺が雷魔術を使い続けることには意味がある。


逆に前者なら、属性なんて関係ない。


とにかく魔術を使って成長魔力そのものを増やせばいいことになる。


…………まあ、いい。


どっちにしろ、今やることは変わらない。


雷魔術を使う。


成長魔力を伸ばす。


そして《ショックウェーブ》が発動するか確かめる。


まずはそこからだ。


「《ショック》!」


バチッ!


前方へ電撃が走る。


もう一度。


「《ショック》!」


バチッ!


今は無理に《ショックウェーブ》を発動させようとはしない。


まずは雷魔術を使うこと。


俺の仮説が正しいなら、これを続けていれば、いつか何か変化が起きるはずだ。


そして隣では、ラントも《ショックウェーブ》の練習を続けていた。


昨日一度だけ成功したんだから、何か掴んでいるんじゃないかと思っていたんだが――。


「《ショックウェーブ》!」


バチッ!


「…………」


普通の《ショック》だ。


やっぱり、本人もまだ発動の仕方を理解していないらしい。


その後も授業は続き――結局、ラントが今日一日かけて《ショックウェーブ》に成功したのは、たったの一回だった。


まあ、一回でも成功しただけ俺よりマシか。


そう思いたいところなんだが。


その一回に――。


「うわああああああ!?」


俺はまた巻き込まれた。


「ご、ごめんシャウト!」


「なんで成功する時に限って俺の方に飛んでくるんだよ!」


「私にも分かんないよ!」


全身に残る痺れに耐えながら、俺はその場に座り込む。


…………最悪だ。


結局、今日の授業では何も掴めなかった。


《ショック》を何度使っても、《ショックウェーブ》になる気配はない。


俺の仮説が正しいのかどうかも、まだ分からないままだ。


まあ、一日で答えが出るほど簡単なら、中級魔術なんて呼ばれてないか。


明日は休みだ。


せっかくだし、少し自主トレでもするか。


授業を終え、ギレウスと寮へ戻る途中、俺は声をかけた。


「ギレウス、明日暇か?」


「明日? 特に何もないけど」


「だったら一緒に魔術の練習しないか?」


「中級魔術?」


「ああ。今日だけじゃ何も分からなかったし、もう少し試してみたい」


「いいよ。僕も《ファイアーストーム》、全然できなかったから練習したかったんだ」


やっぱりギレウスも同じか。


「じゃあ決まりだな」


「うん。どこでやる?」


「グラウンドでいいんじゃないか? 中級魔術の練習なんだし、広い方がいいだろ」


「そうだね」


これで明日の予定は決まった。


俺は雷、ギレウスは火。


専攻している属性は違うが、お互いの違いを見ながら練習できるのも何かの参考になるかもしれない。


「ラントも誘う?」


「…………」


ギレウスの一言に、俺は足を止めた。


脳裏に蘇るのは、今日の授業。


偶然発動した《ショックウェーブ》。


そして、その範囲にいた俺。


まだ身体が少し痺れている気がする。


「いや、やめとこう」


「なんで?」


「あいつ、巻き込んでくるからな」


「でも、わざとじゃないだろ?」


「わざとじゃないから怖いんだよ」


「ははっ、確かに」


ということで、明日の自主トレは俺とギレウスの二人ですることになった。


俺の仮説が正しいのか。


それとも、全く見当違いなのか。


明日はもう少し、何か掴めるといいんだけどな。

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