↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/87

第二十三話「ひとまず成功?」

ラント・シルマ。


後で知ったことだが、こいつは一年生の時、クラスで最初に雷属性の初級魔術を習得したらしい。


…………全く知らなかった。


というか、そもそも居たのか? というレベルだ。


いや、さすがにそれは失礼か。


一年間同じクラスだったんだから、顔くらいは見ていた。見ていた……はずだ。


ちなみにギレウスは普通に知っていた。それどころか、ラントに雷魔術を教えたことまであるらしい。


…………だったらあいつ、俺にも教えてくれよ。


まあ、俺が聞かなかったのも悪いんだけど。


そんな雷魔術が得意なラントと、俺は《ショックウェーブ》をどうやって発動するのか考えていた。


「なあ、ラント」


「なに?」


「一回、魔力を全力で込めて撃ってみるってのはどうだ?」


俺がそう提案すると、肩の上に座っていたラントが呆れたように俺を見る。


「それ、先生が違うって言ってたじゃん」


「いや、そうなんだけどさ」


中級魔術は、単純に初級魔術へ大量の魔力を込めればいいわけではない。それはさっきの授業で聞いた。


ナージャだって《スプラッシュウォーター》を発動させようとして失敗している。


でも――。


「実験だよ、実験。先生が違うって言ってたとしても、実際にやってみれば何が違うのか分かるかもしれないだろ?」


成功するとは思っていない。


でも、魔力量を増やした《ショック》がどうなるのか。それを実際に確かめれば、《ショックウェーブ》との違いを考える材料にはなるかもしれない。


ラントは少し考え込む。


「…………なるほど」


お。


納得してくれたか。


「じゃあ私もやる!」


「え?」


「実験なんでしょ? 二人でやった方が分かりやすいじゃん!」


「まあ、それはそうだけど」


さっきまで反対していたのに。


切り替え早いな。


俺はラントを肩から降ろし、二人で人のいない方向へ移動した。少し間隔を空けて並ぶと、それぞれ前方へ手を向ける。


「じゃあ、まず普通の《ショック》からやってみるか」


「うん!」


比較するなら、基準があった方がいい。


「《ショック》!」


「《ショック》!」


バチッ!


二つの電撃がほぼ同時に放たれた。


やっぱりラントの方が綺麗だ。


威力が極端に違うわけじゃない。ただ、電撃が弾ける瞬間というか、魔力が雷に変わる感覚というか――俺より無駄がないように見える。


これが雷を得意とする小人族の差なのか?


「次、全力ね!」


「お、おう」


なんかこいつ、急に楽しそうだな。


「ただし、人がいる方向には絶対撃つなよ」


「分かってるって!」


俺たちはもう一度手を構えた。


今度は――全力。


体内から魔力を引き出す。


いつも《ショック》を使う時よりも多く。


さらに多く。


バチッ。


バチバチッ!


俺の手のひらで激しく電撃が弾け始める。隣を見ると、ラントの小さな手の周囲でも電撃が激しく走っていた。


「いくよ!」


「ああ!」


「《ショックウェーブ》!」


「《ショックウェーブ》!」


バヂィッ!!


二つの電撃が同時に前方へ放たれた。


「おおっ!」


明らかにいつもの《ショック》より強い。


音も威力も、さっきとは段違いだ。


…………でも。


「これ……」


「うん」


ラントと顔を見合わせる。


「ただ強い《ショック》だな」


「ただ強い《ショック》だね」


やっぱりダメか。


魔力量を増やしたところで、《ショック》は《ショック》のまま。《ショックウェーブ》にはならない。


しかも――。


「うわ……結構使ったな」


一気に魔力を持っていかれた。


得られた結果に対して、消費が大きすぎる。完全に燃費が悪い。


「やっぱり先生の言った通りだったね」


「だな……」


まあでも、これで一つ分かった。


魔力量を増やすだけでは、中級魔術にはならない。


失敗ではある。


でも、実験としては成功だ。


…………多分。


さて。


次はどうするか。


俺がもう一度考え始めようとした、その時だった。


すりすり。


「…………ん?」


何かが足に当たる。


すりすり。


「…………」


ラントだ。


何故か俺の足に身体を擦り付けている。


…………なんだこいつ。


変態か?


「…………何してんだよ」


俺は思わず少し引き気味に聞いた。


するとラントは不思議そうな顔をする。


「何って、魔力回復」


「…………は?」


「私たち小人族はね、こうやって身体を擦ったりして発生した力を使って、魔力を回復させることができるのよ!」


ラントは何故か自信満々に胸を張った。


「すごいでしょ!」


「へえ……」


小人族ってそんなことできるのか。


身体を擦ることで発生する力。


前世の知識で考えるなら、静電気みたいなものか?


小人族が雷属性を得意としているのも、こういう性質と何か関係があるのかもしれない。


…………いや。


それはそれとして。


「だとしても俺を使うなよ!」


「だってちょうどいいところにいるんだもん!」


「俺は充電器じゃねえ!」


…………なんて言っても、こいつには充電器が何なのか分からないだろうけど。


「もう回復したのか?」


「ちょっとだけね!」


ラントは俺から離れると、自分の手を見つめた。


「よし! もう一回やってみる!」


「また全力で?」


「違うよ。今度は普通の《ショック》!」


「普通の?」


「うん。さっきいっぱい魔力使ったから、ちゃんといつも通り使えるか確認してみる」


「なるほど」


魔力を大量に使った直後だ。


一度、いつもの感覚に戻してみるのも悪くないか。


「じゃあ俺は見てるよ」


「うん!」


ラントは人のいない方向へ向き直ると、小さな右手を前へ伸ばした。


さっきまでと同じ。


特別大量に魔力を込めているようには見えない。本人も普通の《ショック》を使うつもりなんだろう。


「《ショック》!」


次の瞬間。


バヂィィィッ!!


「え?」


電撃が――広がった。


今までの《ショック》とは明らかに違う。


ラントの正面から放たれた電撃が、一点ではなく、まるで波のように左右へ広がっていく。


「うわっ!?」


そして。


その範囲には――俺もいた。


「ちょ、待っ――」


バヂッ!!


「いだだだだだだだだッ!?」


全身に電撃が走る。


身体が勝手に跳ね、足から力が抜けた。


「シャウト!?」


「ビリッ……じゃ、ねえ……」


なんだ今の。


痛い。


というか、痺れる!


威力そのものはそこまで高くなかったのかもしれない。でも、まともに巻き込まれた俺の身体は言うことを聞いてくれない。


「だ、大丈夫!?」


「大丈夫に……見えるか……?」


「ご、ごめん! 普通の《ショック》を使ったつもりだったの!」


「普通の《ショック》で……俺がこんなことになるか……」


「だからごめんって!」


少しして、ようやく身体の痺れが弱まってくる。


俺は地面に座り込んだまま、さっき電撃が走った範囲を見る。


待て。


今の――。


「ラント」


「な、なに?」


「今の……《ショックウェーブ》じゃないか?」


「…………え?」


ラントも今になって気づいたらしい。


二人でさっき電撃が走った場所を見る。


一点ではなく、広い範囲へ放たれた電撃。


しかも、俺まで巻き込むほどの範囲。


どう考えても、さっきまでの《ショック》とは違う。


「多分……《ショックウェーブ》?」


「だよな……」


できた。


いや。


俺はできてない。


ラントも狙ってやったわけじゃない。


というか、発動した本人が一番驚いている。


「なんで今できたんだ?」


「…………分かんない」


「だよな……」


魔力を大量に込めた時は失敗した。


ただ威力の高い《ショック》になっただけだった。


なのに今、ラントが普通の《ショック》を使おうとしたら、突然《ショックウェーブ》が発動した。


偶然とはいえ、何かが違ったはずだ。


でも、その何かが分からない。


「何かいつもと違うことした?」


「してないよ。普通に《ショック》を使おうとしただけ」


「魔力量は?」


「いつもと同じくらい」


「範囲を意識したとか?」


「してない」


「…………」


「…………」


分からん。


なんで成功したんだ?


「とりあえず、もう一回やってみてくれ」


「うん!」


ラントは再び人のいない方向へ手を向ける。


「さっきと同じ感じでいいんだよね?」


「多分」


「多分って……」


「俺も分かんないんだから仕方ないだろ」


「じゃあ、やってみる」


ラントが集中する。


そして――。


「《ショックウェーブ》!」


バチッ!


小さな電撃が前方へ走った。


「…………」


「…………」


「ショックだな」


「ショックだね」


やっぱり。


さっきの《ショックウェーブ》は再現できなかった。


「もう一回」


「うん!」


ラントが再び手を向ける。


「《ショックウェーブ》!」


バチッ!


「…………」


「…………」


また《ショック》。


「なんで!?」


「俺に聞くなよ!」


さっきは確かにできた。


広範囲に電撃が走って、俺まで巻き込まれた。


なのに、再現しようとするとできない。


中級魔術。


思っていた以上に訳が分からない。


「じゃあ今度は俺がやってみる」


「できるの?」


「分からん。でも、さっき見たからな」


俺は人のいない方向へ右手を伸ばす。


ラントが偶然発動させた時の電撃を思い出す。


一点じゃない。


もっと広く。


最初に考えた範囲設定も意識してみる。


魔力を動かし、雷属性へ変える。


バチッ。


「…………よし」


なんとなく。


なんとなくだけど、いけそうな気がする。


「《ショックウェーブ》!」


バチッ!


「…………」


「…………」


「ショックだね」


「言うな」


普通の《ショック》だった。


結局その後も、俺とラントは何度か試してみた。


魔力量を変える。


範囲を意識する。


電撃の広がり方を変えてみる。


ラントが成功した時の状況を、できるだけ再現してみる。


それでも――。


バチッ!


「《ショック》だな……」


「うん」


《ショックウェーブ》は発動しなかった。


一度だけ。


本当に一度だけ、ラントが偶然成功した。


でも、どうして成功したのかは分からない。


そして、その理由を突き止められないまま――。


「はい、今日はここまでにしましょう!」


先生の声がグラウンドに響いた。


周囲で練習していた生徒たちが、一斉に手を止める。


どうやら今日の魔術の授業は終わりらしい。


「結局できなかったね」


「一回できただろ」


「偶然だけどね」


「…………」


否定できない。


俺は自分の右手を見る。


中級雷属性魔術《ショックウェーブ》。


今日分かったこと。


魔力を増やすだけではダメ。


ただ範囲を広げようとするだけでもダメ。


そして――ラントは一度だけ成功した。


ただし、その理由は二人とも全く分かっていない。


しかも俺は、成功した本人ですらない。


…………これ、成功って言っていいのか?


まあ。


ひとまず成功ってことでいいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。