第十九話「違和感」
学校の休みは一ヶ月ある。
せっかくこれだけ時間があるんだ。何もせずに過ごすのはもったいない。
ということで、俺は家の庭で魔術と剣術のトレーニングをすることにした。
まあ、トレーニングと言っても、今の俺はまだ六歳。六歳児にできることなんて、たかが知れている。
それでも、筋力の恩寵のおかげなのか、同年代の子供と比べればかなり疲れにくい。剣を振って、休憩して、魔術を使う。それを何度か繰り返すのが、休みに入ってからの日課になっていた。
たまに父さんが仕事の休みの日には、俺のトレーニングに付き合ってくれる。まあ、主に魔術の方だけど。
「父さん、剣は教えてくれないの?」
一度そう聞いたことがある。
「一応使えるけど、人に教えられるほどじゃないからな」
とのことだった。
ダイヤモンドの冒険者だったんだから、俺からすれば十分教えてほしいんだけどな。それでも父さんは、剣術に関しては学校でちゃんと習った方がいいと言っていた。
そんな生活を続けていて、最近一つ感じることがある。
俺――前より魔力が多くなってないか?
もちろん、成長魔力は文字通り成長する魔力だ。身体の成長や、魔術を使うことでも増えていく。
学校に入学してから半年。俺自身も成長しているし、学校では何度も魔術を使ってきた。増えていて当然と言えば当然だ。
それでも、入学試験の時に五百だった成長魔力は、今では倍近くまで増えている気がする。
正確に測ったわけじゃないから分からないけど。
まあ、多い分には困らない。むしろ魔術を使える回数が増えるんだから、ありがたいくらいだ。
そう思っていた。
◇ ◇ ◇
ある日のこと。
その日は朝から、ずっと魔術のトレーニングをしていた。
魔術を使って、休憩して。また魔術を使う。それを何度も繰り返し、気づけば十回以上はやっていたと思う。
「……さすがに、きついな」
身体が重い。立っているだけでも少しつらいし、頭もぼんやりする。
これは――魔力切れだ。
学校で魔力を使った時にも似た感覚はあったが、ここまで使い切ったのは初めてかもしれない。
もう一発、なんて考える気にもならない。
今日は終わりだな。
というか、この状態なら明日のトレーニングも無理だろう。
人族が魔力を回復するには日光が必要だ。今日のうちに使った分を考えれば、明日は一日休んで、しっかり日光を浴びた方がいい。
俺はそう考えながら家に戻った。
外はすでに暗くなり始めている。当然、家の中にも日光はほとんど入ってこない。
代わりに、部屋には何本かのロウソクが灯されていた。
この世界に電球なんてものはない。夜になれば、こうやって火を灯すしかないわけだ。
俺にとっては、もう見慣れた光景だった。
その後はいつも通り。家族で夜ご飯を食べて、風呂に入って、自分の部屋へ戻る。
部屋にもロウソクが灯されている。
これもいつものことだ。
寝る時も、そのまま。
朝になる頃にはほとんど溶けてなくなっていて、ベルトが新しいものに交換してくれる。それも、この家では当たり前の光景だった。
だから俺は何も気にすることなく、ベッドに入った。
目を閉じる。
そして――眠った。
◇ ◇ ◇
翌朝。
目が覚める。
「…………ん?」
身体を起こしたところで、俺は動きを止めた。
おかしい。
昨日、あれだけ魔力を使ったんだぞ?
ほとんど魔力切れになるまで魔術を使った。なら今日は、起き上がるのもつらいくらいになっていると思っていた。
なのに。
「……普通だ」
いや、完全に回復しているわけじゃない。
今から昨日と同じトレーニングをしろと言われれば、さすがに無理だ。魔力が十分に戻っていないことは、自分でも分かる。
でも――それでも多すぎる。
俺は窓の外を見る。
朝日が差し込んでいる。
起きてから、まだ大して時間は経っていない。日光を浴びた時間なんて、ほんの僅かだ。
こんな短時間で、昨日使った魔力がここまで回復するものなのか?
いや。
おかしい。
それだけじゃない。
考えてみれば、入学してから半年で成長魔力も倍近くまで増えている。
身体が成長した。魔術を使うようになった。
理由ならいくらでも考えられる。
だけど――本当に、それだけか?
「…………」
何かがおかしい。
俺は自分の手を見る。
筋力の恩寵。
俺が持っているとされる、特別な力。生体魔力が異常に多いのも、その影響だと言われている。
なら、これもそうなのか?
筋力の恩寵を持っているから、魔力の回復も早い?
……あり得るのか?
そもそも恩寵については、まだ分かっていないことも多いと先生は言っていた。だったら、そういう性質があってもおかしくはない。
でも。
何かが引っかかる。
理由は分からない。
ただ――今まで当たり前だと思っていた何かを、見落としているような。
そんな気がした。
「……まあ、今日は休むか」
考えたところで答えは出ない。
昨日あれだけ魔力を使ったのは事実だ。回復しているからといって、無理にトレーニングをする必要もないだろう。
予定通り、今日は休息に徹することにした。
日光を浴びて、魔力をしっかり回復させる。
それでいい。
そう思って、この時は深く考えなかった。
部屋を出る直前。
机の上に置かれた燭台が目に入った。
昨夜まで灯っていたロウソクは、ほとんど溶けてなくなっている。
いつも通りの光景だ。
もうすぐベルトが、新しいものに交換するのだろう。
俺はそれを気にも留めず――部屋を出た。




