第十七話「冒険者シャート」
夕食を食べ終え、風呂にも入った。
母さんは今、風呂に入っている。ベルトは食事の後片付けをしていて、俺と父さんは二人で話をしていた。
「父さん」
「ん?」
「ギレウスのことなんだけど」
「ギレウス?」
「俺と同じ部屋の鬼人族の子」
「ああ。友達になったっていう子か」
「うん。そのギレウスが、昔父さんに助けてもらったって言ってたんだ」
父さんは少し考えるような顔をした。
「鬼人族の子供……?」
「赤い髪で、俺と同じくらいの歳」
「…………ああ」
何か思い出したらしい。
「六年くらい前か?」
「多分」
「森で迷子になってた子だな」
やっぱり父さんだったのか。
「ギレウスが、魔物に襲われてたところを助けてもらったって」
「ああ。カブラサーペントだったな」
「カブラサーペント?」
「C級の魔物だ」
C級。
魔物にもランクがあるのか。
「強いの?」
「まあ、それなりにはな。この辺りの魔大陸じゃ、あまり見かける魔物じゃない」
「父さん、一発で倒したって聞いたけど」
「…………あいつ、そんなことまで覚えてたのか」
父さんは少し困ったように笑った。
やっぱり本当なんだ。
「どうしてそんなところにいたの?」
「仕事だよ。当時は冒険者だったからな」
「どんな仕事?」
「森の調査だ」
当時、その森では人が死んだり、怪我をしたりする事件が続いていたらしい。
その原因を調べるため、冒険者ギルドから依頼が出された。
もし危険な魔物が原因なら、その場で討伐することも依頼内容に含まれていたという。
「それでカブラサーペントがいたんだ」
「ああ。調査してる途中で、たまたま襲われてるあの子を見つけた」
なるほど。
ギレウスを助けるために森へ行ったわけではなく、別の依頼を受けていた時に偶然見つけたのか。
「カブラサーペントって、どれくらい強いの?」
「まともに戦うなら、プラチナくらいは欲しいな」
「プラチナ?」
「冒険者のランクだよ」
そういえば、冒険者にもランクがあるんだった。
父さんは俺にも分かるように説明してくれた。
冒険者のランクは、基本的に八段階。
下から順に――。
ブロンズ。
シルバー。
ゴールド。
プラチナ。
エメラルド。
ダイヤモンド。
アダマンタイト。
そして、オートマタ。
「八個もあるんだ」
「ああ。ただ、単純に強さだけで決まるわけじゃないぞ」
依頼をどれだけ確実にこなせるか。
危険な状況で正しい判断ができるか。
冒険者ギルドからどれだけ信用されているか。
そういったものも含めて、冒険者のランクは決められるらしい。
ブロンズやシルバーなら比較的安全な依頼が多く、ゴールドになると魔物の討伐依頼も増えてくる。
プラチナになると、さらに危険な依頼を任される。
そしてエメラルド級ともなれば、危険な魔物の討伐や、何がいるか分からない場所の調査なども任される上位の冒険者になる。
その上がダイヤモンド、アダマンタイト。
そして最高位がオートマタ。
「オートマタって、そんなにすごいの?」
「別格だな」
依頼をたくさんこなせばなれる、というようなものではないらしい。
相応の実力と実績。
その両方が必要になる。
「じゃあ、魔物のC級っていうのは?」
「そっちは魔物の危険度だ」
魔物の危険度は、下からF、E、D、C、B、A、S。
全部で七段階。
これは冒険者のランクとは別物で、魔物そのものの強さや凶暴性、生息地などを総合して決められているらしい。
「じゃあ、C級のカブラサーペントを倒すならプラチナ級くらい必要ってこと?」
「目安としてはな」
必ずしも冒険者ランクと魔物の危険度が一対一で対応しているわけではないらしい。
相性や人数、その場の状況でも大きく変わる。
「ちなみに、あの時の依頼はエメラルド級だった」
「え? カブラサーペントはC級なんでしょ?」
「ああ。でも、何が原因か分かってなかったからな」
何人も死傷者が出ている。
しかし原因は不明。
だからこそ、ギルドも何か危険なものがいる可能性を考え、調査依頼そのものを高いランクに設定していたらしい。
「じゃあ父さん、エメラルド級だったの?」
「いや」
父さんは何でもないことのように答えた。
「ダイヤモンドだ」
「…………え?」
ダイヤモンド。
八段階のうち、上から三番目。
「ダイヤモンド!?」
「ああ」
「それってめちゃくちゃ強いじゃん!」
「まあ、それなりにな」
「それなりじゃないだろ!」
前に聞いた時も「まあ、それなりにな」なんて言っていた。
どこがそれなりなんだ。
「じゃあ、父さんってかなり有名だったの?」
「どうだろうな。知ってる奴は知ってたんじゃないか?」
随分適当だ。
「パーティーとかも組んでたの?」
「組んでたことはある。ずっと同じ奴らと一緒だったわけじゃないけどな。依頼によって色んな奴と組んでたよ」
へえ。
なんだか、父さんの昔の話を聞くのは面白い。
俺が生まれる前。
父さんが冒険者として魔物と戦い、色々な場所へ行っていた頃。
今の父さんからは、あまり想像できない。
「母さんは?」
何となく聞いてみる。
すると父さんは、またあっさりと答えた。
「ウルトもダイヤモンドだぞ」
「…………え?」
…………待て。
「母さんも!?」
「ああ」
初耳なんだけど。
「母さんも冒険者だったの!?」
「言ってなかったか?」
「聞いてないよ!」
なんでそんな重要なことを今まで言わなかったんだ。
「ウルトは後衛だったな。治癒魔術が得意だった」
「治癒魔術?」
「ああ。あいつは天導級まで使える」
天導級。
学校で習った覚えがある。
治癒魔術には、初級、中級、上級、そして天導級の四段階がある。
通常の属性魔術とは違い、治癒魔術には天魔級や天賢級は存在しない。
つまり天導級が最高位だ。
「天導級って……すごいんじゃないの?」
「すごいぞ。大抵の怪我や病気なら治せる。条件次第じゃ、死んだ人間だって助けられる」
やっぱり。
母さん、そんなすごい魔術を使えたのか。
「じゃあ、母さんも魔術がすごく得意だったんだ」
「いや、他の魔術は中級程度だったぞ」
「へえ」
「シャート?」
後ろから声がした。
父さんの身体が固まる。
振り返ると、風呂から上がった母さんが立っていた。
「…………いつからいた?」
「『他の魔術は中級程度だった』辺りから」
「ほぼ今じゃねえか」
母さんは笑っている。
でも、なんとなく怖い。
「私の治癒魔術に何回助けられたか、忘れたの?」
「忘れてないって」
「あなた、治癒魔術使えなかったものね?」
「それとこれとは別だろ」
「別じゃないわよ」
「怪我してたのは俺なんだから、治すのはお前の役目だっただろ」
「その怪我をするような無茶を毎回してたのは誰よ」
「前に出て守ってたんだよ」
「誰が頼んだの?」
「お前が後ろで治癒魔術使えるようにだろ!」
「はいはい」
また始まった。
でも――なんだか楽しそうだ。
父さんと母さん。
二人ともダイヤモンド級の冒険者。
そして、二人は昔から一緒に戦っていた。
俺はそんな二人のやり取りを見ながら、思わず笑ってしまった。




