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第十五話「力の制御」

あれから、三ヶ月の月日が経った。


あの剣術の授業以来、先生たちも俺の筋力の恩寵をかなり危険なものだと判断したらしい。


まあ、当然だ。同じ生体魔力千のギレウスを一撃で壁まで吹き飛ばし、そのうえ木刀まで木っ端微塵にしたんだから。俺だって先生の立場なら、こいつに木刀を持たせて大丈夫なのかと考える。


その結果――俺だけ、剣術の授業内容が少し変わった。


まず、当分の間は木刀を持たせてもらえない。代わりにやらされているのが、相手の攻撃を避ける訓練だ。


相手から攻撃してもらい、それを見てかわす。そして反撃する時は――手刀。


もちろん、本気で叩き込んだりはしない。攻撃を避け、相手に手が触れる直前で止める。いわゆる寸止めだ。


相手の動きを見て攻撃をかわし、自分がどこまで身体を動かせばいいのかを覚える。前世で剣道をやっていた経験もあって、攻撃を避けたり、相手の隙を見つけたりすること自体はそこまで難しくなかった。


問題は、その後だ。


俺の場合、反射的に力を入れてしまうと洒落にならない。だからまずは、攻撃することよりも――止めることを覚えろ。


そういうことらしい。


そして、もう一つ。


「ふっ!」


バンッ!


俺の手刀が、目の前にあるカカシを叩く。


……よし。壊れてない。


今となっては当たり前のことなんだが、最初の頃はこれすら難しかった。


このカカシを使って、自分がどれくらい力を入れているのかを覚える。弱く、少し強く、もう少し強く。指定された強さに合わせて、何度も何度も叩く。


それが、この三ヶ月の俺の剣術の授業だった。


剣術というより、力加減の授業じゃないか?


そう思わなくもない。でも、あの時のことを考えれば文句なんて言えない。


ちなみに――俺に壁まで吹き飛ばされたギレウスはというと。


「シャウトって本当にすごいよね!」


まったく気にしていなかった。むしろ逆だった。


「僕と生体魔力は同じなのに、あんなに力が違うんだよ!? やっぱり恩寵ってすごいんだね!」


目をキラキラさせながら言ってくる。


いや、お前、それで吹っ飛ばされた側だからな? 普通もう少し怖がったりしない?


「僕もあれくらい強くなれるかな?」


「……どうだろうな」


「もっと鍛えないと!」


やる気まで上がっている。


俺としては、あの日から何度思い出しても笑えないんだけどな。


もし打ちどころが悪かったら。もし先生がすぐに治癒魔術を使えなかったら。そう考えると、今でも少し怖い。


筋力の恩寵。


確かに強力な力だ。だけど――強いことと、上手く使えることは違う。


この三ヶ月で、俺はそれを嫌というほど思い知らされていた。


「よし、これくらいなら大丈夫でしょう」


先生のその言葉とともに――ついに俺は、模擬戦で木刀を使うことを許可された。


長かった……。


三ヶ月。剣術の授業なのに木刀を握ることすら許されず、ひたすら攻撃をかわしては手刀を寸止めし、カカシを相手に力加減を覚える日々。


ようやく剣を使える。


「今日のシャウト君の相手は――サリナ・デュランダルです」


サリナ?


前へ出てきたのは、あの三人の天翔族の一人。サリナ・デュランダル。


デュランダルの一族は風属性魔術を得意としている。魔術の授業では何度かその実力を見たことがあるが、そういえば剣術はどうなんだろう。


この三ヶ月、自分の訓練に集中していて、他の奴の模擬戦をそこまで真剣に見ていなかった。だから、サリナがどれくらい剣を使えるのかは正直よく分からない。


油断はしない方がいいな。


俺たちはこの三ヶ月、魔術と剣術の両方を学んできた。俺自身、成長魔力も入学した頃より増えている。


魔力は身体とも深く関わっている。なら、天翔族であるサリナも三ヶ月前より身体能力が上がっている可能性はある。それに相手は、魔術に関しては俺より遥かに扱いに慣れていた天翔族だ。


剣術だって何かあるかもしれない。


俺は木刀を構える。


久しぶりに握る感触。


今度は壊さない。相手も吹き飛ばさない。


三ヶ月かけて覚えた力加減を意識する。


「それでは――始め!」


先生の合図と同時に、サリナが動いた。木刀を構え、こちらへ踏み込んでくる。


…………あれ?


サリナが木刀を振る。俺は一歩横へ動いてかわした。


そのまま反撃――できた。


というより、隙だらけだ。


一度距離を取る。もう一度サリナが来る。振り下ろす。かわす。また隙ができる。


…………弱い。


いや、俺が手加減してるとか、そういう話じゃない。


構えはぎこちない。剣を振るたびに身体が流れる。間合いも甘い。何より、次にどこを狙っているのかが分かりやすすぎる。


魔術の授業ではあれだけ器用だったのに、剣を持つとまるで別人だ。前世で剣道をやっていた俺からすれば、かなり対応しやすい。


さすがにこれ以上続ける意味もないか。


次の攻撃をかわし、そのまま懐へ入る。


力を抑えて――。


トン。


木刀をサリナの胴へ当てた。


「そこまで!」


先生の声が響く。


…………勝った。


思っていたより、ずっと簡単に。


「いやー、やっぱり僕、剣は苦手だな」


サリナは困ったように笑いながら、木刀を肩に乗せた。


随分あっさりしてるな。負けたこと自体は、そこまで気にしていないらしい。


「魔術ならもう少し自信あるんだけどね」


「確かに、魔術の時とは全然違ったな」


「でしょ? 剣って難しいんだよ。近づかないといけないし、相手は動くし」


いや、魔術だって相手は動くだろ。


そう思った、その時。


「サリナ!」


突然、訓練場に大きな声が響いた。


コルドだ。


見るからに不機嫌そうな顔で、こちらへ歩いてくる。


「なんだい、コルド」


「なんだい、ではない! なぜ人族相手にこうも簡単に負ける!」


うわ。始まった。


「いや、シャウト強いよ?」


「そういう問題ではない!」


「そういう問題だと思うけど」


サリナが首を傾げる。


コルドの眉間にさらに皺が寄った。


「我らはデュランダルの名を継ぐ者だぞ! それが、あのようにあっさりと――」


「でも、僕は剣が苦手だからね」


「開き直るな!」


「魔術なら負けないよ?」


「剣でも負けるな!」


無茶言うなよ。


俺は少し離れたところから二人のやり取りを眺める。


というか、コルド。お前が負けたわけじゃないのに、なんでそんなに悔しそうなんだ。


「大体、天翔族である我らが人族に――」


「コルド君」


先生の声が飛んできた。


「種族で相手を判断しないように」


「…………」


コルドが黙る。


「以前も言いましたが、ここでは皆さん同じ生徒です。それに、得意不得意があるからこそ学ぶために学校へ来ているんですよ」


「……分かっている」


絶対納得してない顔だ。


一方のサリナはというと。


「ほら、先生もこう言ってるし」


「お前はもう少し悔しがれ!」


「いやー、やっぱり剣は苦手だ」


「サリナ!」


……なんとなく分かってきた。


同じデュランダルの名を持っていても、性格は全然違うらしい。


俺は騒いでいる二人を横目に、自分の木刀を見る。


壊れていない。


サリナも吹き飛んでいない。


ちゃんと力を抑えて、それでも勝てた。


三ヶ月前とは違う。


少しずつだけど、この力を扱えるようになってきている。


そのことが、素直に嬉しかった。

基礎魔術編終了!


次回から間章「休日編」です!

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