第81話 おうちへ帰ろう
「……以上が、今回の冒険の内容です」
エミルは長い話を終えると、ティーカップを手にお茶を飲んで、のどをうるおしました。
エイルとシロンは、そんな彼女の話に耳をかたむけながらも、お皿の上に盛られたクッキーをばくばく食べていました。
シュガーとスノーベルも、クッキーを両手で持ってちまちまと食べ進めています。
「なるほど、それはそれは大冒険だったねえ。妖精界かあ、私も行ってみたいもんだよ」
「え、ロウランさん、行ったことないんですか?」
エミルは意外そうにたずねました。
「危険区域には入ったことはあるけど、そういった聖域は、恥ずかしながらおとずれた経験がないな。なにしろ自分で言うのもなんだが、私は好奇心のカタマリだからね。そういう人種は、たいてい結界ではじかれてしまうのさ」
「ああ……」
エミルは苦笑して納得しました。
めずらしい魔法生物たちが暮らす、"聖域"と呼ばれる場所には、よこしまな心を持つ人間が入れないように、結界が張ってあるものなのです。異空間に存在する妖精界も同様で、めったに人間が立ち入れないようになっています。
ロウランは、帽子の上で巣を作る【トゥイート】たちをなでながら、さみしげに言いました。
「この子たちも、聖域の内部を撮影するために訓練したようなもんなんだけどね……やっぱり、リアルな臨場感には、ほど遠いよ」
「そう……ですね」
エミルも王都に住むようになって、"タブレット"でほかの魔法つかいたちがいろんな場所を探検している動画を見たりしていますが……やっぱり、自分の足で冒険してその場所をおとずれる感動には、遠くおよばないと思っているので、ロウランの気持ちはとてもよく理解できるのです。
エイルとシロンも遠い目をしています。きっと、同じ気持ちだということでしょう。
「……ま、それはともかく」
ロウランは、マゼンタの瞳を子どもみたいにキラキラさせて、ビシッと姉妹を指さして言いました。
「よくやったぞ、スターリング姉妹! キミたちのおかげで、この国の平和は守られた! 内容が内容だけに、おおっぴらにはできないが、私は、キミたちに感謝し、おおいに賞賛する!」
「あ……ありがとうございます」
エミルたちは、やっぱりあっけにとられますが……それでも、ほめてもらえるのはうれしいことです。素直に、彼女の言葉を受け止めました。
「さて、これで私の用事は終わりだ。あとのことは、こっちでなんとかしておくから、キミたちは早くおうちに帰って、体を休めたまえ」
「はい。こちらこそ、いろいろとありがとうございました」
エミルは深く頭を下げ、シロンもエイルも、シュガーもスノーベルも、それにならいます。
「礼にはおよばない。いち魔法つかいとして、当然のことをしたまでさ。またいつでも遊びにおいで。本、好きなんだろう?」
「はい! かならず!」
そして姉妹たちは、大樹の図書館をあとにするのでした。
「……」
ロウランは、館長室の窓から、帰路につく姉妹の姿を見下ろしていました。
「しかし、まさか本当に、あんな小さい子たちが、この国のピンチを救っただなんて……」
背後に立つ副館長のデックスが、しみじみといった様子で言いました。
「なにをいまさら。そもそも姉のエイルは、前に国の危機を救ったから、極星魔法つかいになったんじゃないか」
ロウランはあきれて肩をすくめます。
「それは、そうなんスけど……妹ちゃんのほうは、まだ12歳の駆け出し魔法つかいじゃないッスか?」
「血は争えない、ということじゃないか? 功績だけみれば、まちがいなく極星魔法つかいに認定されるレベルだ。だがまだ幼すぎることと、事件の詳細が公表できないから、そうはならないだろうけどね」
「まあ、そうッスね……姉を超えて史上最年少記録を更新したら、それはそれでおもしろいと思うッスけど」
「いまでなくても、そうなる可能性はじゅうぶんにあるさ。というか、それぐらいやってもらわなくっちゃ、困る」
「……あ! そういえば、冒険が終わったら、マスターのチカラを教えるって約束、どうなったんスか?」
「妹ちゃんもいろいろあって忘れてるみたいだからねえ……まあムリもないが。本人が思い出したときにでも、教えてあげればいいさ」
「……おどろいた、ホンキで教えてあげるつもりだったんスね。いつもなら、テキトーな感じではぐらかすのに……オレだって、教えてもらったことないのに……」
「私は約束は守るよ。約束を守ることは、いい魔法つかいの条件だからね。それに……あの子たち……とくに妹ちゃんには遅かれ早かれ、説明する必要があるだろうから、さ」
ロウランは、例によって意味深な笑みを浮かべるのでした。
☆ ☆ ☆
いっぽう姉妹たちは、"大樹の図書館"の外にて。
『……それじゃ、私はここで失礼するわ』
スノーベルが言いました。
スノーベルは、本来のパートナーからの要請で姉妹に協力していた立場なので、役目を果たしたいま、もういっしょにいる理由がないのです。
「今回も、また助けられちゃったね」
エミルは名残惜しそうに言いました。
『今回もって……前回はむしろ、足を引っ張っちゃってたでしょ?』
スノーベルは肩をすくめて苦笑いしました。
『え? そうだっけ?』
「私は、ベルがいないほうがよかった、なんて思ったことないけど」
シロンとエイル、おとぼけコンビはきょとんとして否定します。
それがおかしくって、スノーベルは思わずぷっと吹き出しました。
『……それは、どうも』
このふたりには、何を言ってもムダだと、もうわかっていますから。
『スノーベル……ほんとうにありがとう。あなたがいなかったら、わたし……』
シュガーはもじもじしながら、感謝の気持ちを伝えました。
スノーベルはフッとほほえんで、そっと彼女の手をにぎります。
『感謝するのは、私も同じ。おかげで、女王さまにも許してもらえたしね』
『うん……でも、わたむっ』
顔をあげたシュガーの言葉を、スノーベルは人さし指でさえぎりました。
『……言いたいことはわかる。でも、もう済んだことよ。私たちの物語は、これからはじまるの。……いいわね?』
『……うん。ほんとうにありがとう、スノーベル……』
シュガーは瞳をうるませながら、にっこりと笑顔を向けるのでした。
『それじゃ、また会いましょう!』
「うん! バイバイ、スノーベル!」
『バイバイ、ベルー!』
姉妹はおたがいに手を振り合って、スノーベルと別れました。
「……じゃ、今度こそ、おうちに帰ろうか!」
「『うんっ!』」
エイルのウインクに、エミルとシロンは笑顔で応え――
沈みゆく夕陽の中、カラスの鳴き声とともに、姉妹は帰り道を歩くのでした……
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