第78話 大団円……?
『うわっはあ!』
眼下にひろがるお菓子の国を見て、上空のシロンは感激の声をあげました。
「これが……ほんとうの、シュクレーヌ!」
甘いもの好きのエミルは、それ以上に感激しています。ぱあっと、満開の笑顔を咲かせました。
『よかった……もとどおりになって、ほんとうに……よかったっ……!』
シュガーは両手で口をおおい、白い瞳から大粒の涙をこぼしました。
はじめはムリだと思っていた使命をまっとうできたよろこびよりも、愛する故郷がもとの姿に戻ってくれたといううれしさのほうが、胸をいっぱいにしていました。
「さあシロン! 地上に降りて! お菓子の国を、もっと近くで見なくっちゃ!」
シロンの背の上で、エミルが白い体をぽかぽかとたたいて催促しました。
『そうだね! シュガーも、行こう!』
『は……はいっ!』
こうして、役目を終えた三人は、よみがえったシュクレーヌの大地をめざし、降下をはじめるのでした。
☆ ☆ ☆
「エミルー! シローン!」
地上では、エイルが大きく両手を振ってむかえてくれていました。そのそばで、スノーベルも小さく手を振ってくれています。
シロンはゆっくりと着陸すると、もとのチビドラゴンの姿に戻りました。その拍子に、エミルもふわりと地上に降り立ちます。
「おね……」
がばっ!
エミルが呼ぶが早いか、エイルは妹ふたりをぎゅっと抱き寄せました。
「よくやった! ほんとうによくやったよ! ふたりはほんっとうに、私の自慢の妹たちだよー!」
その声は、心の底からうれしそうで……エミルとシロンは、くすぐったい気持ちになりながらも、エイルにされるがままになるのでした。
『やったわね、シュガー!』
『うんっ!』
スノーベルも小さな手を伸ばし、シュガーの大きくなった手とタッチしました。
『これが、お菓子の妖精界シュクレーヌ……たしかに、いろどりにあふれた、よい雰囲気の国ですね』
シュネージアの女王は、まわりを見渡しながら感心していました。無断外出をくりかえしていたスノーベルの気持ちが、少しわかったようです。
『もう、来ることはないと思ってたんだがな……やっぱり、悪くはない』
塩の大妖精シオも、ぽりぽりと頭をかきながら、わずかにほほえみました。
『お菓子の国は、やっぱりこうでなくちゃな!』
炎の妖精王は、うれしそうに胸を張りました。
すると――
『わーい!』
『シュクレーヌがもとにもどった!』
『気分、さいこー!』
魔王によって泥人形に変えられていたはずの妖精たちが、あちこちからひょっこりと顔を出しはじめたのです。
『みんな……よかった……!』
故郷の仲間たちとの再会に、シュガーはうれしさのあまり、また涙をこぼしました。
そのとき、シュガーの服の中にしまわれていたアメ玉水晶が、ふわりと光をまとって浮かび上がります。
そして、なにかに引き寄せられるように、ふよふよと宙をただよいはじめました。その先には……
『……よくやってくれたわね。お砂糖の子』
アメ玉と同じ色の、まっかなツインテールを垂らした大妖精――シュクレーヌの女王が、元気な姿で立っていました。
『女王さまっ!』
『ゲッ!』
シュガーが歓喜の声をあげると同時に、シオがぎょっとした声をあげました。
『あらー? だれかと思ったら、思春期こじらせて出て行った、塩の妖精クンじゃない?』
シュクレーヌの女王は、からかうような半目と声で、シオに詰め寄ります。
『ぐっ……ひ、人ちがいだ』
『ごまかしたってムダよ。妖精なんだから、姿が変わってたってマナの流れでわかるっての』
つっけんどんだったシオが、しおしおとたじたじになる姿に、エミルたちはおかしくなって吹き出すのでした。
『……それはともかく、シュネージアとトロピコルノの妖精王、今回の助力、ほんとうに感謝します。あなたたちのおかげで、シュクレーヌは救われました』
シュクレーヌの女王はうってかわって、ものごしていねいな態度で、二人の王に感謝をささげました。
『私たちは、ほんの少し手助けしただけです』
『シュクレーヌを救った真の英雄は、アンタのトコの妖精と、あの人間の少女たちさ!』
二人の王は、謙遜するわけでもなく、姉妹とシュガーを立てました。
『……そうですね』
シュクレーヌの女王は小さくほほえむと、姉妹たちのもとへと歩み寄りました。
『お砂糖の子……』
『あ……その……シュガー、と呼んでくださいませんか? そう、名付けてもらったので……』
シュガーは照れくさそうに言いました。
『……そう。なら、これからはそう呼ばせてもらうわね、シュガー』
『……はいっ!』
シュガーは、元気よく返事をしました。
その笑顔を見て、シュクレーヌの女王もほほえみ返します。
『この冒険は、アナタにとって、ほんとうに実りあるものだったみたいね。……シュガー、そして人間の方々とパートナーたち、このたびは私たちの国を救ってくれて、ほんとうにありがとうございます。この御恩は未来永劫、忘れません』
シュクレーヌの女王は姉妹に向かい合うと、深く頭を下げました。
「いえ……わたしたちも、すばらしい経験をさせてもらいましたから」
『そうそう! おわりよければ、すべてよし!』
『隣人として、助けになれたのなら、なによりです』
「お礼なら、お菓子いーっぱい食べさせてね!」
姉妹とスノーベルは、四者四様の返事をしました。
『ええ。じゃあお礼に、盛大なお菓子パーティーを開きましょう!』
エイルの言葉にこたえるように、女王が笑顔で提案すると……
『ちょーっと待ったあ!』
エミルの帽子に止まる青い鳥【トゥイート】が、突然そんな大声をあげたのです。
「な……なに??」
エミルをはじめ、全員があっけにとられるなかで、トゥイートはロウランの声で、録音を再生し続けました。
『……あー、この音声は、シュクレーヌが元通りになったときに流すよう命じている。シュクレーヌの王様に進言するよ。いますぐ結界を強化して、人間の立ち入りができないようにしてくれたまえ』
『はい??』
シュクレーヌの女王はなにがなんだかといった様子で、きょとんとしていました。
『スターリング姉妹、キミたちもすみやかに帰還するように。祝勝会でもするつもりだったんだろうけれど、残念ながらあきらめることだ』
「『えーーーっ!?』」
エイルとシロンは、がっかりした声を重ねました。
『ウォルターが、シュクレーヌを管理下に置こうとしている。いまのうちに封鎖しておかないと、たいへんなことになるぞ』
「……!」
ウォルター……その名前を聞いて、エミルはすべてを察しました。
ウォルター・ザントブルグ――エイルと同じ極星魔法つかいの称号を持つ、徹底した合理主義者です。
王国の秩序を守るためなら、法の範囲内でどんな手段も辞さない人で、以前エミルも、貴重な浄化のチカラの使い手として、聖女などとかつぎあげられ、国のえらい人たちの飼い犬として利用されそうになったことがありました。
『シュガーを捕まえようとしたウチの団員の二人をしめあげたら、ウォルターの差し金だったと自白した。人間界に密接に影響を与える妖精界の存在を、あの男が見逃すはずがないってね』
姉妹は、シュガーを捕まえるために彼女に呪いまでかけた、あの二人のことを思い出して、苦々しい表情になりました。
なるほど、ウォルターはシュガーを利用して、シュクレーヌの情報を引き出そうとしたのでしょう。残念ながらそのもくろみは、姉妹の手によってご破算となったのですけれど。
『だから、しばらくシュクレーヌは、人間界と距離を置いたほうがいい。《妖精の抜け道》も、つなげられないようにするんだ。でなければ、欲にまみれた人間たちが、押し寄せてくるぞ』
そのひとことに、エミルとシュガーは、はっと息をのみ、悲しそうな顔を見合わせました。
シュクレーヌとの交流断絶……それはつまり……姉妹とシュガーの、別れを意味していたのですから……
お読みいただき、ありがとうございました。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、
ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




