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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 妖精の国のSOS  作者: 稲葉トキオ


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第74話 最後のアイスキャディバー

 エイルの両手ににぎられているのは、巨大なアイスキャンディー。


 それは、ふだんのバニラアイスでも、スイカアイスでもありません。


 エミルの瞳の色をあかるくしたような、透き通る青色のアイスキャンディーでした。


「名付けて……《アイスキャディバー・SSS》!」


 エミルはとくいげに宣言しました。


 エイルもとくいげに巨大なアイスキャンディーをかまえ、巨大化した悪魔を見すえます。


『く……! 生で見ると、ホンットにふざけた武器だぜ……!』


 悪魔はいらだった声をもらしました。


 彼もまた、四天王の目を通じて姉妹の戦いを見てきたので、アイスキャディバーのことも知っています。


 ふざけた見た目に反した、とんでもない破壊力のことも。


『だがなァ! ほかのヤツらには通じても、このオレ様には通じねェぞォオ! チカラを得たオレの肉体は、いまや黒竜にも負けない硬さなんだからなァア!』


 魔王は一転して、勝ち誇ったように笑い飛ばします。


 ですが、ハイになっているあまり、忘れているようです。


 硬さを自慢するわりに、さっきエイルにスッパリ斬り落とされた右手のことを。


『ラアアッ!』


 魔王は残った左のこぶしを、エイルに向かって振り下ろしました。


 しかし――


 エイルはひらりと身をかわし、そのまま悪魔の頭上めがけて飛び上がりました。


 巨大なこぶしは空を切り、悪魔は舌打ちするのでした。


「自分で空飛ぶのって、気持ちいい!」


 エイルは感動のあまり、歓声をあげます。


 むかしエミルといっしょに読んだ、妖精の粉で空を飛ぶ子どもたちの絵本……


 夢にまで見たそれを、いま自分自身で体験できているのが、うれしくてたまらないのです。


『私のチカラだってこと、忘れないでよね!』


 かたわらを並んで飛ぶスノーベルが、すかさずツッコみました。


 もちろん、忘れるわけがありません。


 人間と魔法生物(ワンダー)がチカラを合わせることこそが、魔法つかい(ウィザード)の本質なのですから。


『こいつゥ!』


 悪魔は、自分の顔の目の前まで上昇してきたエイルに、今度は口から光線を浴びせかけようとしました。


 いつものエイルなら、斬り払うところでしたが――


 これも、くるりと身をひねって回避します。


 なぜなら、いま《アイスキャディバー》を形成しているエミルとシュガーのマナは、もう限界。


 一度振ってしまえば、解除されてしまうとわかっているからです。けっして、ムダ使いはできません。


 悪魔は、今度は赤い目から光線を連射してきます。


 しかしエイルは、それさえも華麗な飛行で次々とかわしていきました。


 はじめて空を飛んだとは思えません。


 シロンやスノーベル、シュガーの飛び方を見よう見まねで覚えたのか――とにかく、あいかわらずの天性の才能です。


「お姉ちゃん、ヒーローみたい……」


 残った《妖精の粉(ピクシーダスト)》のチカラで、宙にぷかぷか浮いているだけのエミルもまた、自由に空を舞うお姉ちゃんの姿に感動していました。


 風にたなびくペールオレンジのマント姿が、まさに物語のヒーローのように見えるのです。


 そしてエイルは、悪魔の頭上を取りました。


 アイスキャディバーを、空高くかかげます。


『く……!』


 悪魔は思わず、身をこわばらせました。


 さっきまで自信マンマンだったというのに、失った右手のズキズキとした痛みを通じて、本能的に恐怖を感じたようです。


「お姉ちゃん! シュガー! いっけーーー!!!」


「これで……おしまいだあっ!」


 エミルの力いっぱいの大声援にこたえ、エイルは悪魔の脳天めがけて、アイスキャディバーを思いっきり振り下ろしました!


 ドガアアアアアン!!!


『が……ぎゃっ……!』


 悪魔は、短い断末魔の声をもらしました。


 そして――


 打ち込まれた脳天から、その身体に縦一直線の亀裂が走っていきます。


『バ、バカな……このオレ様が……人間と妖精の小娘なんぞにイィィ……!』


 亀裂が悪魔の股間まで到達すると、その全身は粉々に砕け散っていきました。


 そして黒い粒子となることもなく、そのまま跡形もなく消滅していきます。


 あとに残ったのは――


 短い白髪と、チョコレートのような褐色の肌をした少年の身体だけでした。


「マルコ……!」


 エミルは、思わず声をもらしました。


 彼こそがお菓子職人バディーゴの息子、マルコの本来の姿。


 とりついていた悪魔を倒したことで、ようやく解放されたのです。


 斬り落とされたはずの右手はもちろん、体には傷ひとつ残っていません。


 これは、《アイスキャディバー・SSS》にこめられた、エミルの浄化のチカラによるものです。


 そのチカラが、彼にとりついていた悪魔だけを打ち砕いてくれたのでした。


 ちなみに……SSSとは、"すっきり・爽快・ソーダ味"の略だということは……エミルだけが知る、ヒミツです。


「……ふうっ! やったよ、エミル!」


 エイルはひと息つくと、エミルを見下ろしながら、ニカッと笑ってピースサインを送りました。


「……うん!」


 エミルも同じように、笑顔でピースサインを返した瞬間――


 フッ……


「あっ」


「きゃあ~っ!」


 《妖精の粉》の効果が切れ、姉妹は一気に落下をはじめました。


 合体が解けたシュガーとスノーベルも、いっしょになって落っこちます。


 彼女たちも、もう自力で飛ぶだけの体力も魔力も残っていないのです。


 それはもちろん、マルコの体も同じでした。


 このままでは、みんな地上に激突してしまいます。だれも助からないでしょう。


 ――せっかく黒幕を倒したのに、このまま全滅なんてイヤ!


 全員がそう思い、眼下にシュクレーヌの大地が迫ってきた、そのときでした。


 ぷにゅーん!


 姉妹たちの体は、なにかやわらかいものによって、クッションのように受け止められました。


「これ……マシュマロ?」


 エミルは、一拍遅れて気がつきました。


 墜落するはずだった地面に、なぜか巨大なマシュマロが発生していたのです。


 実にへんてこりんな現象ですが、ここがお菓子の国であることを考えると、それほどふしぎなことではないのかもしれません。


 なにはともあれ、無事に助かったので、みんなホッとひと安心です。


『やれやれ……間一髪、といったところかの』


 すると、年老いた、しわがれた声とともに、だれかがゆっくりとこちらへやってきました。


『ちょ……長老さま!?』


 シュガーは、おどろきの声をあげました。


 現れたのは、姉妹とも面識のある老妖精でした。


 白い髪と長いひげに顔のほとんどが埋もれ、その手には、スナック菓子のような形をした杖を握っています。


 どうやら、彼がこのマシュマロクッションを発生させてくれたようです、


「ご無事……だったんですね」


 エミルは、安堵をにじませて言いました。


 シュクレーヌに戻ってきてから、ほかの妖精の気配をまったく感じなかったので、彼らの安否が心配だったのです。


『わしだけ、じゃがな。ほかの者たちはみな、女王もふくめ、泥人形のような姿に変えられておる』


『そんな……』


 シュガーは瞳をうるませ、口をおおいました。


『案ずるな。元凶が倒されたいま、元に戻すことは可能じゃろう。……ほんとうに、よくやってくれたな』


 長老は、シュガーにねぎらいの言葉をかけました。


 そして、杖を突きながら、ゆっくりとマシュマロの上のマルコのもとへ歩み寄っていきます。


『……ほんとうに、なんと礼を言ったらよいか……この子を、悪魔から解放してくださるとは……』


「『……え?』」


 エミルとシュガーとスノーベルは、そろってぽかんとしました。


 長老の口ぶりは……まるで、マルコが魔王ビターダムの正体だと知っていたかのようではありませんか。


 そして、長老が次にマルコへ放ったひとことは……あまりにも衝撃的なものでした。


『……目を開けなさい、マルコ。わしの……私の息子よ』


「『え……』」


 エイルをふくめた全員が、口をぽかんと開けて、


「『ええええええええええ~~~!?』」


 今回の冒険でいちばんの絶叫をあげました。


お読みいただき、ありがとうございました。

完結まであと10話となります。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、

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