第69話 しあわせの青い鳥は告げる
『なにあれ、青い、鳥……?』
『あんなの、シュクレーヌにはいないよ……』
『んー、そういえば、なんかみおぼえがあるような……』
「あれは……ロウランさんの鳥だよ!」
エミルの言う通り、舞い降りた青い鳥は、極星魔法つかいロウランの博士帽になぜか巣を作っていた鳥でした。
一同がおどろいていると、青い鳥は口を開きます。
『やあやあ! スターリング姉妹! キミたちのロウラン・ミルフィオーレちゃんだぞー!』
すると、青い鳥の口から、ピーチクとした声が響きました。
鳥の発する声は、ふしぎなことにロウランの声でした。
「ええっ!? なにこれ!?」
『ふっふ。さぞおどろいていることだろう。このコは【トゥイート】という伝書バードの一種で、あらかじめ録音した声を、本人そっくりの声でおとどけしてくれるという魔法を持っているのさ! 通信機や通信魔法の発達で見かけることは少なくなったが、声をとどけるためなら異空間にだって飛んでいくのは、このコの唯一無二の能力なんだぞ!』
青い鳥から、ロウランの自慢げな声が響きます。
ようするに……この青い鳥【トゥイート】は、世界の壁を越えて飛んでいく、録音機のような役割を果たすようです。
あらかじめ録音した声を出しているのなら、ツッコミは無意味だとエミルは理解し、だまって聞くことにしました。
『さて……このメッセージがとどいているということは、キミたちはまだ魔王と戦っていないか、もしくは負けておめおめと逃げ出したかのどちらかだと思うんだが……』
はたして、その予想は当たっていたので、エミルたちはムッと顔をしかめました。なんたって、腹の立つ言い方でしたから。
『なにしろ、魔王のチカラの源は強い憎しみにある。甘ちゃんのお子さまパーティーじゃ、どうあがいても打ち破れるはずがない。その憎しみの理由を、知らない限りね』
からかうようなロウラン(録音)の声に、エミルたちはさらにイラだちました。
このトリ、焼き鳥にして食べてやろうか――エイルが起きていたら、そう言うでしょう。
『でも、つよいにくしみって、どういうこと?』
そんなシロンの疑問にこたえるかのように、ロウラン(録音)は言いました。
『……さて、その話をする前に……おりこうな妹ちゃんなら、もう気づいてるかもしれないね。キミたちから聞いた情報と、私が調べた情報を総合すると、魔王の正体は……ある人間が魔法生物と融合した存在だ』
はたして、その読みも当たっていました。
エミルたちも、魔王の手下……いえ、パートナーである【ビターエッガー】から聞きだして、知ったのです。
魔法生物と融合したなんて話は信じがたいものでしたが……エイルとわたりあえるほどの魔王のあの強さを考えると、納得するしかありませんでした。
もっとも……彼はそのパートナーの名前だけは、けっして教えてくれませんでしたけれど。
ロウランの録音再生はつづきます。
――むかしというほどむかしでもないが、バディーゴ・ブラックという、チョコレート専門のお菓子職人がいた。
彼は、お菓子コンテストで20年間無敗という、偉大な記録を打ち立てていた。
ところが、ある年。その記録は、ついに途切れてしまった。
そのときのバディーゴの絶望は、推して知るべしだろう。お菓子作りにすべてをささげてきた彼にとって、敗北はすべてを失うにひとしかったのだから。
それでも、周囲の人たちの応援もあり、バディーゴはなんとか再起を決意することができた。
ところが――
敗北のショックからか、はたまた強いストレスからか……バディーゴは味覚障害におちいり、味がまったくわからなくなってしまったんだ。
これには、バディーゴも再び絶望した。味がわからなくなってしまえば、お菓子を作ることなんて、できるわけがない。
そんな彼の前に、救いの天使が現れた。
その名は、マルコ・ブラック。バディーゴの、幼い一人息子だった。
マルコは、味がわからなくなった父親にかわり、自分が味見をすると提案した。
彼は、とくべつすぐれた味覚の持ち主というわけではなかった。それでも、父親が作るお菓子の味なら、誰よりもよく覚えていたからだ。
ワラにもすがりたい思いだったのだろう。バディーゴは息子の提案を受け入れ、親子二人三脚のお菓子作りの日々が始まった……
ところが、その努力もむなしく、再起を誓った翌年のグランプリで、バディーゴはまたしても敗れてしまった。
しかも、相手は前の年と同じ……現チャンピオンだった。
バディーゴは、息子を責めた。負けたのは、お前の味見が正確ではなかったからだ、と。
それからというもの、バディーゴはとりつかれたように、かつての栄光を取り戻せるほどのお菓子を生み出すことだけに明け暮れた。
やがて、一度は再起のきっかけを与えてくれた周囲の人たちも、その狂気ともいえる熱意についていけなくなり、しだいに離れていった。
そして、息子もまた……ほぼ毎日のようにお菓子の味見をさせられることに嫌気がさし、ついには父親のもとから逃げ出したのだという。
すべてに見放され、孤独になってしまったバディーゴ。
彼はやがて、深い失意の中で、行方をくらましたという……
『……そのおかししょくにんが、まおうとなにかかんけいがあるの?』
シロンはがまんできず、もっともな疑問を口にしました。
『……さて、あまりに唐突なうえ、長くなったが、白いおチビちゃんはこう思っているだろう。そんな菓子職人の話が、魔王となんの関係があるのかとね』
『んむっ……!?』
みごと、録音された声に考えを見抜かれてしまったシロンは、たまらず口をふさぐのでした。
「……」
いっぽうで、パートナーのエミルはだまったままです。
『まあ、さすがにあからさまよね』
『うん……わたしにも、わかったよ』
妖精ふたりは、うなずき合いました。
『え? え? もしかして、わかってないの、シロンだけ??』
シロンはみんなの顔を見回しながら、あわあわとしました。
『バディーゴは、菓子作りを得意とする魔法生物をパートナーにした新チャンピオンに対抗するため、同じように魔法生物のチカラをもとめた。その過程で、シュクレーヌの存在にたどりついたようだ』
妖精たちは、やっぱり……と言いたげな神妙な顔つきになります。
シロンもようやく答えがわかったらしく、ハッとしました。
『そして……』
☆ ☆ ☆
――ロウランの録音音声をすべて再生し終えたトゥイートは、ひとやすみとばかりに、今度はエミルのベレー帽の上に止まっていました。
「じゃ……行こうか、シロン、シュガー、スノーベル」
エミルは気合を入れ直すように、乱れたローブを直します。
パートナーたち三人も、顔を見合わせてうなずきました。
「シロ、お姉ちゃんのこと、おねがいね」
エミルは、気を失ったままのエイルを守るように伏せているシロの毛並みを、そっとやさしくなでました。
シロも体力を使い果たしているため、小さく声をあげるだけです。それでも、エミルたちのことを応援し、気づかってくれていることは感じられました。
「……いってきます、お姉ちゃん……」
エミルはあいさつをすると、横たわるエイルの耳もとで、なにかをつぶやきます。
そして立ち上がると、もう一度パートナーたちに向き直りました。
「それじゃ、シロン、スノーベル。指輪の中に」
『うん! エミルのこと、ちゃんとまもるよ!』
『言ってもムダでしょうけど、せいぜいムチャはしないように!』
シロンとスノーベルははりきって言うと、エミルの指輪の中に収納されました。
「さあ、シュガー!」
『……はい!』
エミルが杖を振ると、シュガーは羽から、鱗粉のような……金色の光の粒子を放ちました。
それらはエミルの体にまとわりつくと、彼女の体をふわりと宙に浮かび上がらせます。
これは、《ピクシーダスト》という、絵本でも有名な妖精の魔法。
信じる心を持つ者に、空を飛ぶ奇跡を与える、すばらしい魔法です。
物語が好きな者同士、エミルとシュガーだからこそ習得できたといえるでしょう。もちろん、大妖精たちから与えられたチカラのたまものでもあります。
「さあ……悪い魔王を、止めに行くよ!」
『はいっ!』
エミルとシュガーは、ともに空へと舞いあがり……はるか上空へ消えた魔王を追いかけます。
シュクレーヌをめぐる冒険の最後の戦いが、はじまろうとしていました。
お読みいただき、ありがとうございました。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、
ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




