↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 妖精の国のSOS  作者: 稲葉トキオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/84

第68話 立ちあがろう、何度でも

『お……』


「『お姉ちゃんっ!!!』」


 エミルとシロンの絶叫が、玉座の間を震わせました。


 ずっと……ずっと無敵だと信じていたお姉ちゃんが、斬られて、血を流している……


 妹たちにとっては、あらゆる意味で衝撃的な光景だったのです。


 左肩から右脇腹までを斬りつけられたエイルは、その場にドッと倒れてしまいました。


 アイスキャディバーも床に放られ、合体が解けます。


 すると、シュガーとスノーベル、そして剣の精霊グレイセスも、床へと放り出されました。


『へ……へへへ……あーっはっはっはっは! やった! やったぞ! 極星魔法つかい(マスターウィザード)に、勝った! 倒した! オレが! これだ……これなら、アストライトの魔法つかい(ウィザード)全員を、やっつけられる!』


 魔王ビターダムは、エイルが戦闘不能になったことを確認すると、狂ったように高笑いを上げました。


「お姉ちゃん! お姉ちゃんっ!」


『ウソだよね? おねえちゃんが、まけるわけないよね?』


 エミルとシロンは、涙を浮かべながら倒れたエイルに駆け寄ります。


 かろうじて息はあるようですが、傷は深く、このままでは危険な状態です。


 エミルは傷を癒すため、【ソルフェニックス】のレッディを呼び出そうとしますが……


 がしっ!


 その右手を、弱ったエイルの右手が力強くつかみました。


「おね……」


 エミルは目を見張り、声をもらしかけます。


 しかし、つかまれたエイルの手は、すぐに力を失い、ゆっくりとほどけていきました。


 そしてそのまま……完全に動かなくなってしまったのです。


「……!」


 エミルは、最後の力をふりしぼったエイルの手から、なにかメッセージを受け取ったようでした。


 レッディの召喚を取りやめ、キッと魔王をにらみます。


『さて……これでもうお前らにも、この世界にも用はない。もうじゅうぶん、甘味を枯らすことができたみたいだしな』


 魔王は【サーバット】を通じて、人間界のようすを見ていたのです。


 王都から甘味が失われたこと……そして、それによって人々がストレスを抱え、暴動を起こしはじめていることも、当然知っています。


『オレ様に、極星魔法つかい(マスターウィザード)を倒すだけのチカラがあることもわかった。もうおそれるものは、なにもない! 直接人間界に乗りこんで……世界すべてを苦味で満たしてやる!』


 魔王は高らかに宣言すると、エミルたちに右手をかざしました。


『用済みのお前らは……この世界といっしょに朽ち果ててしまえ!』


 そして……苦味のオーラが凝縮された、黒い光線を放ったのです!


「!」


 ドガアァーーーン!!!


 光線はエミルたちに直撃し……すさまじい大爆発が起こりました。


 やがて爆煙が晴れると、カベと床には大きな穴が空き……姉妹たちの姿は、あとかたもなくなっていました。


 消し飛んだのか、それともカベの穴から吹き飛んで落下してしまったのか……


 どちらにしても、生きてはいられないでしょう。


『……さあ、行くぞエッグ。甘っちょろい人間界を、ぶち壊しに!』


 魔王は右手にはめた指輪に語りかけると、宙に浮き上がりました。


 そして、天井を突き破って城の外へ出ると、そのままシュクレーヌのはるか上空へと消えていったのです……



 ☆ ☆ ☆



 シャトー・ビターダムの外周。


 姉妹たちは、生きていました。


 けっして、無事……ではありませんけれど。


『ワゥ……』


 魔王の光線が姉妹たちを飲みこむ、その瞬間。


 エイルの指輪から大オオカミのシロが飛び出し、エミルたちをかばって、穴の空いたカベから脱出させてくれたのです。


「シロ……ありがとう……」


 しかし、その代償は大きく、光線をまともに受けたシロは重傷を負い、ほとんど動けない状態でした。


 エミルは泣きながらシロの毛並みをなで、その身を案じます。


 そして、魔王の気配が消えたこのタイミングで、指輪から【ソルフェニックス】のレッディを召喚しました。再生の炎で、倒れたエイルとシロの治癒をこころみるのです。


 ふたりの負った傷はあまりにも深く……いまのエミルたちのチカラでは、完治させることができませんでした。


 それでも、命の危機を脱することはできたようです。


 エイルたちは、これでひと安心ですが……


『シュガー……』


『ごめんなさい……エイルさんが……わたしのせいで、ごめんなさい、ごめんなさい……!』


 そばでは、我に返って泣きじゃくるシュガーを、シロンがなぐさめようとしていました。


 シュガーは戦いの中で、自分が怒りにとらわれたせいでエイルが致命傷を負い、敗北したことに責任を感じているのです。


 せっかく、これまでの冒険で積み上げてきた自信と勇気も……もろくくずれさり、もとの弱気でおくびょうな妖精シュガーに、完全に逆戻りしてしまいました。


『……』


 スノーベルは、くやしそうな表情を浮かべ、ただうつむくばかりでした。


 エミルにも、シュガーにも、どんな言葉をかけていいのか、わからないのです。


 状況は、絶望的です。


 魔王ビターダムを取り逃がし、頼みの綱のエイルは、もう動けません。


 このままシュクレーヌとアストライトの滅亡を、指をくわえて見ていることしかできない……


 ……けれど、それでも。


 エミルは涙をぬぐって、立ち上がりました。


「……悪いのは、シュガーひとりじゃない」


 放たれたひとことに、全員の注目が彼女に集まります。


「いちばん強いからって、そんなお姉ちゃんに頼り切って、ちゃんと支えられなかったわたしも……だまって見てるしかできなかった、シロンもスノーベルも……今回の負けは、ずっとお姉ちゃんに頼りすぎてきた、わたしたち妹分全員の責任。みんなが悪いの。だから……シュガーひとりに背負わせたりしない」


『エミル……さん……』


 シュガーは、泣きはらした目を見開きました。


 エミルは、ばんと胸をたたいて、力強く言いました。


「でも……わたしたちはまだ生きてる! まだ戦える! 生きてるかぎり、チャンスは無限にある! まだわたしたちは、魔王に負けてなんかない!」


 その声は、ヤケクソになったものではありません。


 絶望の中にあっても、前を向こうとする強い意志に満ちていました。


 そのことを、全員が感じていました。


『雨あがりの、聖女……』


 シュガーは、シュクレーヌの女王から聞かされていた、その二つ名をつぶやきました。


 その名前の由来が、曇天を切り裂く光――どんな絶望の中でも、最後には希望の光で満たすことができる少女なのだということを、シュガーはこのとき、はっきりと理解できたのです。


 エミルはしゃがみこんで、エイルの右手から、剣の精霊たちが宿るふたつのコネクタリングを取りあげました。


「……お姉ちゃんが、最後にくれたメッセージ……それは、あとはわたしたちにすべてを託すってことだった。だから、わたしたちは、それに応えなくっちゃいけない。いままで、お姉ちゃんにまかせっきりにしていた責任を取るために」


 エミルは強い決意を秘めた目で、エイルから外した二個の指輪を、左手の空いた指にはめました。


 最後にエイルがエミルの手をにぎったのは、パートナー契約をゆずりわたす、"契約譲渡"のサインだったのです。


 これで――エミルのすべての指に、コネクタリングがはめられたことになります。


『……フ……フルハンド!? アナタ正気!? いくらなんでも、指輪10個、パートナー10体なんて……本気で死にたいの!?』


 スノーベルは、必死の形相でまくしたてました。


 魔法つかい(ウィザード)は、はめた指輪の数だけパートナーの加護を受けられます。


 しかし、それには限度があるのです。指輪が多ければ多いほど、人間の体にかかる負担も大きくなるからです。


 世間一般の常識では、片手の指の数が限度といわれています。そんな中、両手の指すべてを指輪で満たす人間なんて、前例がありません。


「そのうち一個は、からっぽの指輪だから、だいじょうぶだよ」


『一個なんて誤差でしょ!? 9個の時点でじゅうぶんやばいわよ!? しかも、エイルからあずかった二体は剣の精霊、超高位の魔法生物(ワンダー)よ!?』


「魔王を倒すまで借りるだけだから、平気だよ」


『そういう問題じゃ……むっ』


 スノーベルの口を、エミルのひとさし指がふさぎました。


「スノーベルは、やさしいね。ありがとう。でもわたし……ここで死ぬつもりなんて、ないから」


 エミルはそう言って、パートナーの入っていない左手の薬指の指輪を見せました。


 いまは離ればなれでいる、たいせつな恋人との誓いの指輪を……


「シュガーも、おねがい。もう一度だけ、チカラを貸してほしい。魔王を倒すには、あなたのチカラも必要なんだから」


『ムリ……ムリです……もう……わたしには……わたしなんかには、やっぱり……ムリ、だったんです……』


 シュガーは両目をおおって、ふるふると首を振るばかりです。


 そんな彼女を、エミルはそっと両手でつつみこみました。


「ムリなんかじゃない。あと一歩のところまでは、魔王を追いつめられたじゃない。それに、あなたがいなかったら、ここまで来ることすらできなかった。それはまぎれもなく、シュガーのおてがらだよ」


『でも……魔王には通じなかった! エイルさんにだって、大ケガをさせちゃった! いくらここまでがんばれても、最後の最後にしくじっちゃったら、意味ないんです!』


「まだ……最後の最後にするには早いよ。言ったでしょ? わたしたちは、まだ負けてなんかない」


『……』


 シュガーはすすり泣いたまま、だまっていました。


「シュガーの言いたいことはわかるよ。たとえ生き残っても、お姉ちゃんが動けないんじゃ魔王に勝てない。お姉ちゃんよりずっと弱いわたしじゃ、勝ち目なんてない……そう思ってるんだよね」


『そ、そんなこと……ないです……』


 シュガーは顔をあげて否定しようとしますが……その声はすぐに自信を失い、弱々しくなりました。


「……わたしは、負けるつもりなんてないよ。わたしは、わたしたちだけの強さで魔王に挑む。そして、それを証明するためには、シュガーのチカラが必要なんだよ……」


 熱を帯びたエミルの説得に、シュガーの心が、わずかに動きました。


『そうだよ! シュガー! シュガーのあまあまがないと、まおうのニガニガにかてないんだからね!』


 シロンも、まっすぐなはげましの言葉をおくります。


 シュガーの心は、またわずかに動きました。


 そして、スノーベルがそんな彼女の手をとり、覚悟を決めたまなざしで告げます。


『……私からもおねがい。私もシュクレーヌやアストライトを守りたい気持ちはいっしょだけど……それ以上に、この子たちを死なせたくないの。私もいっしょにがんばるから、あと一回……がんばりましょう?』


 スノーベルの手は、ふるえていました。


 きっと、魔王がこわいのでしょう。


 けれど……それ以上に、エミルたち、大切な人たちの命が奪われることがこわい。


 だから、それでも勇気をふりしぼろうとしているのでしょう。


 シュガーにも、それがはっきりと伝わり……


『……わかり……ました……あと一回だけ……がんばって……みます……』


 シュガーは、自分も友だちである彼女にならおうと、必死に声をしぼりだすのでした。


 エミルたちは、ぱあっと笑顔を咲かせます。


「ありがとう、シュガー!」


 絶望の闇に、希望の光が差しこみはじめた、そのとき――


 幸運を告げる青い鳥が、エミルたちの前に舞い降りたのです――

お読みいただき、ありがとうございました。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、

ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。