第65話 エイルの強さ、エミルの強さ
『ど、どうしてあいつらが出てくるの!? 生き返ったの!?』
『いえ、たまごから生まれたんだから、転生したのかもしれないわ!』
シロンとスノーベルは、わけもわからず困惑しきりです。
生き返ったも転生したも、たいして変わらないような気もするのですが。
すると、ビターエッガーがそっくり返って答えました。
『ざ〜んねん! どっちもハズレ! コイツらは、お前たちが倒したヤツとは別の個体さ!』
「別の、個体……?」
『ここでネタばらし! 四天王や、お前らが【ニガムシ】って呼んでるヤツらをはじめ、魔王ビターダムの手下はぜーんぶ、オレちゃんが生み出した魔法生物なのさ!』
「『な……なんですって!?』」
エミルたちは、驚愕の声を重ねました。
「そうか、"核卵"の二つ名の意味は……あなたが魔王軍の中核をなす存在ってことだからなのね!」
『ご名答〜! オレちゃんがいるかぎり、魔王軍は無限に生み出される! これが魔王ビターダムの、びっくりドッキリ魔術さ!』
「じゃあ、お前をやっつければ、魔王の手下はもう増えないんだな」
ガキィーン!
エイルの不意の一撃を、ビターエッガーはまたカラにこもって防ぎます。
『そーゆーこと! でも、オマエらにはできっこないね! ごらんのとおり、オレちゃんにキズひとつつけることもできないんだもの!』
ビターエッガーはカラに閉じこもったまま、勝ち誇りました。
しかし……
「「……それはどうかな?」」
姉妹はそろって、不敵でステキな笑みを浮かべます。
エイルの一撃が命中した、たまごのカラをよく見てみると……
『あ……ああっ! バカなっ!?』
カラにこもったままのビターエッガーには見えないはずですが、その感覚で気づいたようです。
そう、たまごのカラの表面には、ほんのわずかですが、キズがついていたのです。
『ウソ……さっきまで、ぜんぜん効いてなかったのに!?』
『いったい、どうして効くようになったんでしょう?』
味方であるスノーベルとシュガーすらも、おどろいていました。
『く……! やっちまえ、オマエら!』
思わず飛びすさり、エイルから距離をとったビターエッガーは、誕生した四天王に命じました。
チョコングは剛腕を振り回し、シガレッタは煙を吐き出し、ミノパイアは超音波を放って、いっせいにエイルへ襲いかかります。
エイルは、それらを軽々とジャンプでかわしました。
「エミル! こいつら、まかせた!」
「うん、まかせて!」
着地したエイルは、三体を無視して、そのままビターエッガーへと突っこんでいきます。
ビターエッガーは、あわててカラにこもりました。
『先に、そのチビを捕まえろ!』
エミルを人質にとり、エイルの動きを封じようというのです。
命じられた三体は、今度は後方にいるエミルへ向かっていきます。
「《ドラゴンフレイム》!」
『がおーっ!』
シロンが大きく口を開くと、激しい炎がほとばしりました。
炎は三体にまとめて浴びせられ、そのまま後方へと吹き飛ばします。
「思った通り……生まれたてだから、そんなに強くない!」
エミルは、自信ありげに笑みをこぼしました。
しかし、そうは言っても、三体が強敵であることには変わりありません。
現に吹き飛ばすことはできても、それほど大きなダメージを与えられたわけではないようです。
エミルには、エイルのようなデタラメな強さはありません。それは、本人がいちばんよく知っていることです。
そして――自分の持つ強さは、"そういうもの"ではないということも。
「シュガー! いくよ!」
『はいっ!』
シュガーは、勇ましく返事をしました。
もう、おそれはありません。いまのシュガーの胸を満たしているのは、故郷をめちゃくちゃにした魔王への怒りです。
エミルが杖を振ると、シュガーは両手から白い光の粒子を放ちました。
きらきらと輝く光の粒子が、シロンの体にふりかかっていきます。
『あまあまパワー、ぜんかーい!』
これにより、シロンは一時的にパワーアップします。甘味のチカラによって、しあわせ物質が高まり、魔法のチカラが強まったためです。
そしてエミルは、今度はシロンに向けて杖をひと振りしました。
すると――シロンの体が、まばゆい光に包まれます。
小さな白いドラゴンの体がみるみる大きくなり、その姿が大きな白いドラゴンへと変わっていきました。《進化変身》という魔術です。
ちなみに、魔術は魔法とはちがいます。
《スイッチ》や、エイルがいまも使っている武器との合体など、魔法つかいが自分のマナによってパートナーに変化や強化をもたらす技術のことを、魔術と呼ぶのです。
そして、これを自由に使いこなせるかどうかが、魔法つかいとして上級者と中級者以下を分かつ、大きな壁とされています。
大きくなったシロンは、口を大きく開きます。
すると、そこへ光り輝く真っ赤な炎が集まっていきました。
「《フランベルージュ》!」
エミルは杖を思いっきり振り下ろします。
それに合わせて、シロンは口内にためた紅蓮の炎を、一気に放ちました!
ゴォォォッ!
三体は、悲鳴をあげることなく……お菓子などの調理に使われるフランベのように、その体を炎に包まれていきます。
やがて炎が消えると、三体の姿も光の粒となって、空へと発散していくのでした。
「生まれたばっかりなのに、ごめんなさい。どうか次は、いい命に生まれ変わってね」
エミルは、天へと昇っていく三体の光を見上げながら、祈りをささげました。
これは、エミルの浄化のチカラによる新たな魔法。ただ命を終わらせるのではなく、魂を解き放ち、安らかな眠りを与える魔法なのです。
しかし、ふつうの魔法生物が相手であれば、こうもうまくはいきません。
これは、あの三体が生まれたばかりで自我が弱く、魂がその体にしがみつこうとしていなかったからこそ、効果を発揮したといえるでしょう。エミルは、それを見抜いていたのです。
(そう、生まれたばっかりだから、罪はない。だから、すぐに生まれ変わってこれるよね……)
エミルは、苦しそうな顔で汗をびっしょりとかきながら、心の中で自分にそう言い聞かせるのでした。
『バ……バカな!? 妹のほうは、たいしたことがないはずじゃないのか!?』
エイルの猛攻をカラで受けながら、ビターエッガーは驚愕していました。
「バカはお前だ。私の自慢の妹を、なめるな!」
ガキィーン!
ニッと笑ったエイルの強烈な一撃を受けて、ついに硬いカラにヒビが入りました。
『ウ、ウソだろ……?』
カラにこもっていて見えませんが、ビターエッガーの顔からは、もはや余裕の色が完全に消えていました。
「エミルのおかげで、私も同じように、この子たちといっしょに戦える……!」
エイルの左右の手に握られた黄金の剣と白銀の剣が、淡い光を放ちはじめました。
まるで、剣と合体している二人の剣の精霊が、よろこんでいるかのようです。
そんな彼女の様子を見て、スノーベルは思い出していました。
エイル・スターリングという少女は、自由奔放でおバカさんだけれど、天性の才能を持っています。
名だたる戦士たちの戦いをあっという間に吸収し、史上最年少で極星魔法つかいの称号までのぼりつめたほどです。
それが今度は、数日前に4年ぶりの再会を果たした妹エミルの……パートナーと心を通わせて戦う姿を吸収したということなのでしょう。
性格は正反対でも、同じ血を分けた姉妹です。ほかの人間よりも、戦い方の模倣はずっとたやすいことなのでしょう。
けれど、わからないことがあります。
だからといって、なぜ急に、まるで歯が立たなかったビターエッガーのカラに、キズをつけることができるようになったのでしょう?
パートナーと心を合わせるようになったとはいえ、それだけで劇的に強くなれるわけではありません。
あれは、いったい……?
「次は、完全にカチ割ってやるぞ」
エイルは、勝ち誇ったように宣言しました。
ビターエッガーも、エミルたちも、誰もが感じます。
あの発言は、ハッタリでも過信でもない。確信に満ちた言葉なのだと。
次の一撃で、あの無敵のカラは完全に打ち砕かれる。誰もが、そう感じていました。
『や……やれるもんなら、やってみろーっ!』
こうなれば、やられる前にやるしかない。
そう判断したビターエッガーは、カラを開き、黒色の火炎を吐き出しました。彼の最大の大技、《ダークビターフレア》です。
これを受けて、原型をとどめられる生きものはいないと、ビターエッガーは自負しています。とくに人間なら、一瞬で消し炭になってしまうでしょう。
「『お姉ちゃんっ!』」
『エイルさんっ!』
かわいい妹たちとシュガーの声援が飛びます。
エイルは、ためらうことなく前へと駆け出しました。
そして、迫りくる黒い炎へ向かって、白銀の剣を横一文字に振り抜きます!
シュバーッ!
美しいきらめきとともに、漆黒の炎がまっぷたつに裂かれていき――
『う……うわあっ!』
ビターエッガーは、あわててカラにこもりました。
しかし、エイルは止まりません。
そのまま黄金の剣を高々と振り上げ――
「もーらいっ!」
ゴシャアァーーーン!
すさまじい一撃が、黒いたまごのカラを直撃しました。
硬いカラは大きく砕け散り、その中にいたビターエッガーもろとも、一刀両断されたのでした。
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