第64話 核卵のビターエッガー
「お姉ちゃん! 《アイスキャディバー》は……」
「いらないよ! シュガーはエミルを守ってて!」
『は、はいっ!』
エイルは左右の剣に、それぞれパートナーの精霊たちを合体させ、黄金の剣と白銀の剣を作り出しました。
そして、そのまま【核卵のビターエッガー】めがけて突撃します!
『ガオーッってな!』
ビターエッガーは、口から《ドラゴンフレイム》を吐いて迎え撃ちました。
わずか1.5メートルほどしかない小さな体からは、とても考えられないほどの規模の火炎です。
しかし――エイルは、すばらしい反応と身のこなしで、ひょいとかわしました。
そのまま体をひねり、右手の黄金の剣で反撃します!
ガキィーーーン!
すさまじい金属音が、城前の広場に響き渡りました。
ですが、ビターエッガーはすかさず、ふたたびたまごのカラの中にこもり、エイルの剣を防いでいたのです。
エイルはすぐさま飛びすさって距離を取りました。
するとビターエッガーは、ぱかっとカラを開き、ほっとしたようにため息をもらします。
『ふうーっ、あぶないあぶない。すごいパワーだが、オレちゃんのカラをやぶるには足りないみたいだな!』
ビターエッガーは、勝ち誇ったようにせせら笑いました。
いっぽう、剣を打ちこんだエイルの右手は、じんじんとしびれています。
これは彼の言うとおり、あのたまごのカラの防御力が、想像以上に頑丈だということを示していました。
後方で戦いを分析していたエミルも、思わず息をのみます。
あれほどの硬さでは、おそらく《アイスキャディバー》であっても、はね返されてしまっていたでしょう。
「うーん……」
エイルは右手に握った黄金の剣をかざしながら、うなりました。
そのやまぶき色の瞳は、じっとビターエッガーを見つめています。
いったい何を考えているのか――それは、今のところ彼女にしかわかりません。
『なにボーッとしてんだ! これでもくらえッ!』
ぱかっとカラを開いたビターエッガーは、またも火炎を吐いてきました。
今度の炎は、収束され、回転しながら一直線に伸びていきます。
強化版の魔法、《ドラゴンブレイズ》です!
エイルは地面を蹴って、一気に駆け出すと――
バシューッ!
両手の剣で火炎を斬り裂きながら、ビターエッガーめがけて突っこんでいきました!
『あいかわらず、メチャクチャな……』
スノーベルは、あきれたような笑いを浮かべます。
前の冒険でも見た光景ではありますが、炎を斬ろうなんて、雪の妖精である彼女にとっては、とても正気とは思えない発想です。
『う、うわっ!?』
ビターエッガーも、さすがにこんな方法で防御と攻撃を同時に行ってくるとは思っていなかったのでしょう。手足をじたばたとさせて、あわてふためきます。
――もらった!
エミルたちは期待をこめたまなざしを送りました。
そして、エイルの鋭い突きが、ビターエッガーの首すじをとらえ――
ガキィン!
……たのですが、すんでのところでカラを閉じられ、防がれてしまったのでした。
黒いたまごの姿となったビターエッガーは、突きを受けた衝撃で、後方へ吹き飛ばされていきます。
『もー! これもダメなのーっ!?』
シロンはぷんすかしながら、手足と翼をばたばたさせました。
「……おかしい……」
すると、エミルがふいに、小さくつぶやきます。
『おかしいって……なにが、ですか?』
シュガーは首をかしげました。
「あの魔法生物、強すぎる……。お姉ちゃんの攻撃がまったく効かないなんて、ありえない……」
『そ、それは大げさじゃない? 相手も自称とはいえ、最強の刺客とか言ってるし、ほかとは一線を画しているのは、当然よ』
スノーベルは、引きつった苦笑いを浮かべながら異論をはさみます。
しかし、エミルはかぶりを振って反論しました。
「ううん。あれは、そういうレベルじゃないよ。スノーベルなら、わかるでしょ? ノラの魔法生物と、パートナーと組んだ魔法生物の強さのちがいが」
そう、エミルの言うとおり、魔法つかいとパートナー契約を結んだ魔法生物のほうが、人間からマナを与えられるぶん、ノラの魔法生物より強いチカラを発揮できるのです。
エイルのようなスゴウデの魔法つかいならば、なおさらです。これまで彼女が、自分のパートナーたちより格上の魔法生物である大妖精を圧倒したり、神鳥と渡り合ったりすることができたのも、そのためといえます。
「あのビターエッガーの強さは、まるでパートナーのいる魔法生物に近いような気がするんだよ」
『い……いやいや、なに言ってるのよ。あいつは魔王の手下なのよ。人間のパートナーなんて、いるわけ……あ!』
スノーベルは、とんでもない事実に気づいたように、目と口を大きく開けて驚愕しました。
『……え? どういうこと? シロンにもわかるようにおしえてよー!』
『わ、わたしも、気になりますっ!』
シロンとシュガーは、エミルに詰め寄ってきますが……
「……いまは、この戦いに集中しよう。次が来るよ!」
そのとき、ビターエッガーがカラをぱかっと開けて、みたび火炎を吐いてきました。
今度の炎は二方向に分かれ、対峙するエイルと、後方にいるエミルへ同時に襲いかかってきます!
かわいい妹のピンチだというのに、エイルはいちべつも、ひとこともくれません。
――これくらいなら、なんとかできるよね。
それは、自慢の妹に対する信頼のあらわれでした。
エミルは、その期待にこたえるように――
「《ドラゴンフレイム》!」
杖を振り、シロンの吐く火炎でビターエッガーの炎を相殺してみせました。
威力が二方向に分散していたぶん、たしかにエミルでもなんとかできるレベルです。
いっぽう、エイルも剣で火炎を軽く斬り払いながら、同時に《風刃》を放ち、ビターエッガーを狙います!
バシュッ!
『フンギャッ!』
今度はさすがにカラにこもるのも間に合わず、ビターエッガーは風の刃の直撃を受け、ひっくり返りました。
『これなら、どうだっ!』
シロンは口から残り火を吐きながら、自信満々に言いました。
が……期待もむなしく、ビターエッガーはすぐに、ひょいと起き上がったのです。
『ヘ……ヘン! 軽い攻撃だな! こんなの、いちいちカラにこもるまでもないぜ!』
まったく気にしていないような態度を見せていますが、命中する直前までめちゃくちゃあせっていたことは、エミルたちにはバレバレでした。
それでも、エイルはけわしい顔を崩していません。
なぜなら、事実として、《風刃》が直撃したはずのビターエッガーの体には、傷ひとつついていなかったからです。
『だが、そろそろ同じような攻防にもあきてきた。そこで、バトルをもっと盛り上げるために、オレちゃんからプレゼントを贈ろうじゃないか!』
ビターエッガーは、パチンと指を鳴らしました。
すると……ヒューッと上空から、新たな三つのたまごが降ってきました。
『まさか……仲間を呼んだの?』
スノーベルは、おののきました。
ただでさえビターエッガー一体に手こずっているのに、この上さらに三体も敵が増えるだなんて、とてもやっていられません。
『仲間……? そいつはちょっとちがうなあ。見せてやるぜ! オレちゃんがなぜ、"核卵"なんて二つ名を与えられたのか、その理由をな!』
ビターエッガーは、もう一度指を鳴らしました。
すると、三つのたまごにピシピシと縦にヒビが入っていき……
パカッ!
中から、三体の魔法生物が誕生したのです。
そして、そのおどろくべき中身は……
『あ……!』
『あいつらは!』
シュガーは口をおおい、シロンとスノーベルは大声をあげました。
エイルとエミルも、驚愕に目を見張っています。
たまごから現れた三体の魔法生物は……これまでの冒険で姉妹たちによって倒されたはずの、チョコング、シガレッタ、ミノパイア――
そう、魔王四天王の一員たちだったのです。
お読みいただき、ありがとうございました。
完結まで残り20話となり、ラストスパートといきたいところですが……勝手ながら、次回から一日一回、毎日21時更新に戻させていただきます。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、
ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




