第61話 逆襲の時は来たり
『ふあぁ……おはようございます、エミルさん……』
シュガーは、かわいらしくまぶたをこすりながら、のんきにあいさつをしました。
「シュガー……!」
エミルは苦味に苦しみながらも、思わず歓喜の声をあげました。
これがエイルやシロンなら、「そんなこと言ってる場合か」としばき倒しているところですが、シュガーはそういうキャラではありません。そのため、エミルもそんな気は起こりませんでした。
「魔王の手先が来た! なんでもいいから、いますぐあまあまオーラをおねがい!」
エミルの必死な顔と声におどろいて、シュガーの眠気は完全に吹き飛びました。
『わ……わかりましたっ!』
シュガーはおっかなびっくりしながらも、気合いを入れて全身から《パウダーシュガー》を放射しました。
すると……
「……えっ?」
エミルは、思わずおどろきの声をあげます。
シュガーの放った白い光の粒子は、あっというまに火口一帯へとひろがっていったのです。
こんなこと、以前のシュガーにはとてもできることではありません。まさか、これこそが大妖精のチカラが彼女の体になじんだ効果なのでしょうか。
「……んにゃ? 体がいっきに、楽になった!」
ぐったりしていたエイルも、あっというまにシャキッとしました。
かたわらのシロも、元気にとおぼえをしています。
妖精たちも、火山の活動までもが、もとの元気をとりもどしていました。
これは、苦味のオーラの効果が完全に消え去った証拠です。
『ア……ア?』
変身ミノパイアは、わけがわからないといった様子でした。
ですが、それも一瞬のこと。すぐにシュガーのしわざと察した彼は、さらに苦味のオーラを放射しはじめたのです。
『くうっ……!』
それは《パウダーシュガー》とのチカラのぶつかり合いとなりました。
押されぎみになったシュガーは、苦しそうに表情をくもらせます。
そこに、エミルが杖を振ってはげましました。
「がんばって、シュガー! わたしがついてる!」
指輪を通じてエミルのマナを分け与えられ、シュガーは元気も勇気も全開です。
『んんん……えーいっ!』
シュワアーッ!
シュガーの《パウダーシュガー》が、苦味のオーラをぐいぐいと押し返していきます。
そしてついには、ふたたび苦味のオーラを吹き飛ばしてしまいました。
『コノ……ムシケラガアアア!』
怒りくるったミノパイアは、咆哮とともに苦味のオーラをまとい、シュガーを直接攻撃しようと襲いかかってきました!
『……!』
シュガーは、恐怖で目を見開きます。
いくらチカラが増したとはいっても、この体格差による直接攻撃を受けては、ひとたまりもありません。
すると、エミルがシュガーをかばおうと立ちはだかりました。
ミノパイアの右腕が、ふたりに向かって振り下ろされようとした……そのとき!
シャキーン!
すんでのところで、エイルの黄金の大剣がひらめきました。
次の瞬間、悪魔の太い首が、見事に斬り飛ばされます。
「……私の妹に、手ぇ出すなっつーの」
エイルの本気の怒りがこもった言葉とともに……吹き飛んだミノパイアの頭部は、そのまま溶岩の中へと落下し、大爆発を起こしました。
残った筋骨隆々の胴体も黒い光の粒子へと変わり、天へとのぼっていったのでした。
「『はあ〜……』」
ピンチを脱したエミルとシュガーは、安堵のため息をもらし、その場にへたりこみました。
「ふたりとも、ケガしてない?」
エイルは、さっきまでの怒りとはうってかわって、やさしいお姉ちゃんの顔に早変わりし、妹たちに声をかけました。
「うん、だいじょうぶ。ありがとう、お姉ちゃん」
『わたしも……平気です。ごめんなさい、ずっと眠ってて……』
安心しきった顔のエミルとは逆に、シュガーはしゅんとしてしまいました。
「ありがとうは、こっちのセリフ。ごめんなさいも、いらないよ。ふたりのおかげで、あいつをやっつけられたんだからね!」
エイルは腰に両手を当てて、にかっと笑い飛ばしました。
そのおひさまみたいな笑顔に照らされて、シュガーの心にあったどんよりした気持ちも、少しずつ吹き飛んでいくようでした。
『なにやら、よくわからないが……キミたちのおかげで、我々も助かったようだな! 礼を言うよ!』
炎の妖精王が、人質にされていた妖精たちをともなって、さわやかにお礼を言いました。
トラ妖精も、モグラ妖精たちも、つぎつぎに姉妹への感謝を口にします。
「い……いえいえ。もとはといえば、あの敵もわたしたちを追ってきたようなものですから……」
エミルは、もうしわけなさそうに両手を振りました。
『いや……キミたちは、このトロピコルノの危機を救ってくれたんだ。キミたちが来なかったとしても、ヤツらがほかの妖精界に侵攻してこないともかぎらなかったわけだしね』
「たしかに……そうかもしれませんね……」
エミルは、一理あるとばかりにつぶやきました。
正直、いまはホッとするばかりで……責任のありかについて、これ以上考える気にはなれませんでした。
『そこで……その礼と、キミたちの今後の健闘を祈る印として、オレ様から、これを授けよう!』
炎の妖精王が右手をかざすと、その手のひらからメラメラと赤く燃える火球が生まれました。
しかし、その火球からは戦いのときのような荒々しさは感じられません。ただ、おだやかであたたかなチカラだけが感じられました。たとえるなら、とても小さな太陽のようにも見えます。
『これは、オレ様のチカラのほんの一部。さすがに羽をやるわけにはいかないが、これでもじゅうぶんにチカラの足しにはなるはずだ』
炎の妖精王がそう言うと、火球はゆっくりとこちらへ飛んできました。
そして、そのままシュガーの胸の中へと吸い込まれていきます。
『ふわっ……』
シュガーはおどろきの声をもらし、体の内側から熱く燃えるような感覚をおぼえました。
炎の妖精王のチカラの、わずかなカケラ。それがいま、彼女の一部となったのです。
『さあ! 行くがいい! シュクレーヌはもう目と鼻の先だ! オレ様たちはここで、キミたちの幸運を祈らせてもらう!』
炎の妖精王が両手をひろげて言うと、まわりの妖精たちも、どっと歓声をあげました。
みんな、姉妹たちのことを応援してくれているのです。
「みんな……ほんとうに、いろいろありがとう!」
エミルは、ぱあっと笑顔を咲かせて、妖精たちに手を振りました。
ここに来てからずっと寝ていたシュガーも、わけもわからずぺこぺこと頭を下げています。
「行くぞ、シュガー、エミル! 準備はいい?」
エイルはバサッとマントをひろげると、妹たちに最後の意思確認をします。
今度こそ、いよいよシュクレーヌへ……【魔王ビターダム】との最終決戦にいどむのです。これまで以上の覚悟が必要になりますから。
「……うん!」
エミルはもちろん、力強くうなずきます。
いっぽう、最初は弱気な性格だったシュガーは……
『……はい! 行きましょう! 今度こそ、わたしたちの手でシュクレーヌを救いましょう!』
ぎゅっと両手のこぶしをにぎりしめ、勇ましく宣言するのでした。
エイルもエミルも、ほほえみます。
もう、あの弱気でおくびょうだった小さな妖精シュガーは、どこにもいません。
……いや、ほんとうは、こわさを押し隠しているのでしょう。
それでも、それを乗り越えて前へ進めるだけの勇気と自信を、シュガーはたしかに手にしていたのです。
ここまで、魔王の妨害のせいでずいぶん遠回りをさせられました。
ですが、結果的には、そのおかげでシュガーが成長するための時間をじゅうぶんに得ることができました。
エミルの推測どおり、これこそが女王のアメ玉の真の導きだったのかもしれません。
さあ、これですべての準備はととのいました。
姉妹とトロピコルノの妖精たちが見守るなか……シュガーは、故郷シュクレーヌへつながる《妖精の抜け道》を開きます!
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