第58話 続々・招かれざる来訪者たち
姉妹は、炎の妖精王にまねかれるまま、溶岩の湖に浮かぶ岩の舞台へと飛び移ります。
「おっと……」
舞台の上に着地したエミルは、バランスをくずしそうになりますが……
「気をつけなよ、エミル」
エイルに支えてもらったおかげで、転ばずにすみました。
肩の上でまだ眠ったままのシュガーも、無事です。
『さてと……手っ取り早い修行法といえば、やっぱり実戦にかぎる!』
炎の妖精王は、準備体操をしながら言いました。
「そういうことなら……」
エイルは、了解したとばかりに腰に下げた剣を引き抜くと……
『ちょ……待った待った! 戦うのはキミじゃない! いくらオレ様が強いって言っても、正直、キミに勝てる気はまったくしない!』
炎の妖精王は、首と両手をぶんぶん振って拒否します。
エイルの強さは、先のシュネージアの女王すら圧倒するほどのもの。ふだん、めったに戦いをすることのない大妖精の力では、つねに危険に身を置く冒険家である彼女とは、勝負にならないでしょう。
『戦うのは……キミだよ、小さいほうのお嬢さん』
炎の妖精王に指差されると、エミルも「そりゃそうだよね」とばかりに前へ出ました。
舞台がせり上がった時点で、心の準備はできているのです。
『そのちっこい子が、例のお砂糖の妖精なんだろう? そのまんまで、だいじょうぶなのか?』
炎の妖精王は、今度はエミルの肩で眠るシュガーを指差しました。
「だいじょうぶです。この子はいま、チカラをたくわえている最中ですから。修行なら、わたしが受けます!」
エミルは、キリッとした自信満々の表情で杖をかまえました。
当然です。極星魔法つかいのロウランは言っていました。【魔王ビターダム】を倒し、シュクレーヌを救うためには、シュガーとエミルがチカラを合わせる必要があると。
だからこそ、エミル自身のレベルアップも欠かしてはならない、大事なことなのです。
となりでは、相棒のシロンがパタパタと宙に浮かびながら、鼻息をふいています。
これまであまり活躍できなかったぶん、おもいっきり暴れてやるぞ――とばかりに、やる気満々です。
「お姉ちゃん、そういうわけだから、今回は手出し無用でおねがいね」
「うん。がんばれ。応援してるぞ」
エイルは腕を組んで、笑顔でうなずきました。
お姉ちゃんとしては、かわいい妹たちのがんばりを見るのが楽しみでしかたない、という感じです。
炎の妖精王は、バサッと燃えさかる羽をひろげて言いました。
『それでは、さっそくはじめようか! ルールは単純明快! どちらかが"まいった"と言うまで続けよう! それでいいな!』
「はい!」
『いいよっ!』
エミルとシロンは、張り切ってこたえます。
『いい返事だ! 行くぞッ!』
炎の妖精王はニッと笑うと、燃えさかる翼から無数の火の粉を発射しました。
ヒュヒュヒュヒュッ!
「シロン!」
『おまかせ!』
エミルが杖を振ると、シロンは口からごおーっと火炎を吐き出し、飛んできた無数の火の粉を飲み込みました。
みごとに攻撃を防いだ――と思いきや!
それは、ただの牽制でした。
こっちが本命だと言わんばかりに、いつの間にか接近していた炎の妖精王が、シロンに向かって燃えさかるこぶしを振りかぶっていたのです!
スカッ!
しかし、シロンはひょいと後ろへ飛びすさり、パンチを回避してみせました。
この程度のフェイントなら、エミルの目にはバッチリ見えています。
だからこそエミルは、その動きも予測したうえで、あらかじめ杖で指揮をしていたのです。
「《ドラゴンフリーズ》!」
エミルが魔法を唱えると――
シロンの口から、今度はすさまじい冷気が放たれました!
ゴォォォッ!
至近距離から吹き荒れる冷気が、炎の妖精王の真っ赤に燃える体へ、まともに直撃します!
『んむっ……ああっ!』
炎の妖精王は、たまらず後ろへ飛びすさりました。
炎と氷……正反対の性質を持つ二つのチカラがぶつかり合い、ジュワァァッ! と激しい蒸気が立ちこめます。
熱気と冷気は相反する属性……たがいに苦手とし合うものなので、かなり効いたようです。
「やるなあ、シロン!」
エイルは感心しました。
エイルが知っているシロンは、炎しか吐けないちっちゃなドラゴンのはずでした。
それが、別れてからの4年で、ちがう属性の息吹まで吐けるようになっていることに、おどろいているのです。
(《ドラゴンフリーズ》……前より強くなってる?)
意外にも、おどろいているのはエミルも同じでした。
冷気の威力が上がっている……考えられるとすれば、雪の妖精スノーベルとつきあうようになったり、彼女の故郷である雪と氷の妖精界シュネージアを冒険したりしたおかげでしょうか。そうすることで、シロンが冷気のあつかい方を学習したのかもしれません。
シロンは、言葉づかいは幼く、ちょっぴりおバカに見えるところもありますが……ちっちゃくても、やっぱりドラゴン。知能と学習能力は、バツグンに高いのです。
『ちっこいのに、やるじゃないか! だったら、これならどうだッ!』
炎の妖精王は、燃えたぎるオーラで凍った体を溶かすと、両手を高く上げました。
すると、両手のあいだに巨大な火球が生まれます。
それを――エミルに向かって投げつけてきました!
「!」
エミルとシロン、そしてうしろで見守っていたエイルは、目をむきます。
エイルは反射的に、エミルを守ろうと身構えかけました。
ですが――「手出ししないで」という妹の言葉を思い出し、なんとか踏みとどまります。
しかし、それはつまり、エイルが思わず動いてしまうほどの攻撃だということ。
あの火球には、それだけの威力が秘められている……エイルの知るエミルには、手にあまるほどの攻撃だということにほかなりません。
けれど、エミルのまなざしは、火球に負けないぐらい熱く燃えていました。
「《スイッチ》!」
エミルが杖を振って叫ぶと――
クルリンッ!
なんと、シロンの姿が一瞬で、水でできた体を持つ大きな女性の姿へと変わったではありませんか。
彼女は、水の精霊【プルンディーネ】のマリン。
前の冒険で、新たにエミルのパートナーとなった魔法生物です。
『ぷうーっ!』
マリンは、その水の体を大きくふくらませます。
そして、迫りくる巨大な火球を全身で受け止めました!
ドッパアーーーン!
火球がマリンの体にぶつかり、あたり一面に水蒸気が吹き上がります。
結果――マリンの体は蒸発して、すっかり縮んでしまいました。
それでも、火球を防ぐこと自体には成功したのです。
『なんだ!? 急にパートナーが入れ替わった!?』
炎の妖精王は、あぜんとして固まりました。
これには、見守っていたエイルもびっくりです。
エミルは、おもに自分自身の身体能力で戦うエイルとはちがって、パートナーの魔法生物を指揮し、自分の代わりに戦わせるタイプの魔法つかいです。
そのタイプの魔法つかいは、基本的に一度に一体のパートナーしか指揮できません。
複数を同時に指揮しようとすると、自分のマナを受け渡すための"絆の糸"が混線したり、マナが分散したりして、うまくチカラが伝わらないからだといわれています。
そのため、状況に合わせて指揮するパートナーを、指輪から出したり、指輪へ戻したりして入れ替えるのですが……それには数秒の時間がかかります。とくに戦闘中では、そのわずかなスキが命取りになりかねません。
《スイッチ》は、それを解消するための高等な技術です。指揮しているパートナーと、指輪の中で待機しているパートナーを瞬時に入れ替えることができます。
こうすることで、戦況に応じてムダなくパートナーを切り替え、複数のパートナーのチカラを次々と借りることができるというわけなのです。
「反撃だよ! 《スパイラルジェット》!」
エミルが杖を振ると、縮んだマリンは両手から二発の水流を発射しました。
ゴオオオッ!
二発の水流は螺旋の軌道を描きながら、一直線に炎の妖精王へ向かっていきます。
ドパアーーーン!
『ぐわーーーっ!』
大技の直後で無防備だった炎の妖精王に、水流がまともに直撃!
その勢いで、あわや場外というところまで、舞台の端へ吹き飛ばしました。
さらに、炎の妖精王が苦手とする水属性の攻撃だったため、またもや大ダメージを受けたようです。
「すごいぞ、エミル!」
エイルも、妹に惜しみない賛辞を送ります。
エミルが成長した姿を見ることができて、ほんとうにうれしそうです。
『ふ……ふふふ……おみごとだ、小さいお嬢さん! だが、まだまだこれからだ!』
炎の妖精王は、楽しそうに笑いながら起き上がりました。
エミルも気を引きしめ直した、そのときでした。
『あははははっ! おもしろいことやってるね! ボクさまもまぜてよ!』
そんな、もっと楽しそうに笑う声が、火口じゅうに響きわたったのでした。
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