第57話 溶岩風呂はいい湯だな?
姉妹は、火山の中を進んでいました。
ゴゴゴゴゴ……!
すると、目の前の地面が大きく盛り上がり、巨大ななにかが姿をあらわします。
『でたあーっ!』
シロンはびっくりして叫びました。
地中から現れたのは、【マグマゴーレム】。体が溶岩でできた、石人形の魔法生物です。
雪と氷の妖精界シュネージアでも、似たような存在……女王を守る【アイスゴーレム】に襲われたことがあります。
これもまた、同じ役割を与えられたゴーレムなのでしょう。
「まかせろ!」
エイルは剣を抜くと、ゴーレムが襲いかかってくるよりも早く、地面を蹴って跳びかかっていきました。
シャキーン!
ズズーン!
勝負は一瞬でした。
エイルはあっという間に、ゴーレムの体を真っ二つに斬り裂いてしまいました。
『おねえちゃん、すごいすごーい!』
シロンもくるくる飛び回って大はしゃぎ。
そんなかわいい妹に、エイルは笑顔でVサインを送ります。
「……」
しかし、血を分けた妹のエミルは、ぼーっと立ちつくしていました。
いつものように、最愛の姉エイルの活躍に見とれていたわけではないようです。
「どうしたの? エミル。なんか、気になるところでもあった?」
エイルは剣についたゴーレムの破片を払い落とし、腰におさめながらたずねました。
「う……うん。前から思ってたけど、お姉ちゃん……ゴーレムを、まるで粘土かバターみたいに斬っちゃうよね」
塩の妖精界の岩塩生物もそうでしたし、エイルは前の冒険でも、石造りの【ストーンゴーレム】をバッタバッタと斬り倒していました。
いくら剣の精霊たちのチカラも借りているとはいえ……簡単に斬れるものじゃないと、エミルは考えていたのです。
エイルは自分の剣をじーっと見つめながら、こたえます。
「んー、そうだね。ふだん石を斬ってるのと変わんないかな。なんか、スパスパ斬れちゃうんだよ」
剣を使わないエミルとシロンには、なんともよくわからない感覚です。
というか、ふつうの石だって、スパスパ斬るものではないと思いますけれど。
「私ね、いかにも硬そうだなーってやつが相手でも、なんとなく、"あ、斬れそうだな"って思うことがあるんだよ。それで、そういうときは決まって斬れちゃう。自分でも、よくわかんないんだ」
「そう、なんだ……」
いつものお姉ちゃんの突拍子もない言葉にも聞こえます。
けれど、エミルはなにかが気になったようで、うーんと考えこみました。
「……でもね。最近は、なんでそうなるのかなっていうのが、わかりかけてきた気がするんだ。エミルと再会してからね」
「え?」
エミルは目を丸くします。
「もう少し。もう少しで、それが完全にわかる気がする。だから、エミルにも協力してほしいんだ」
エイルのやまぶき色のまなざしが、真剣な光を帯びているのが伝わってきます。
エミルは、思わず胸が熱くなりました。
お姉ちゃんの言っていることは、あいかわらずよくわかりません。
けれど、大好きなお姉ちゃんの力になれるのなら……こんなにうれしいことはありません。
「……わかった。わたしになにができるのかわからないけど、協力するよ」
『シロンも!』
「ありがと!」
エイルはにかっと、満面の笑顔を妹たちに向けるのでした。
☆ ☆ ☆
その後も姉妹は、溶岩に落っこちないように気をつけながら、次々と出現するマグマゴーレムを倒し、火山を下へ下へと進んでいました。
『ゴーレムばっかり! つまんない!』
シロンは、ぶーぶー不満を叫びます。
どこまで進んでも、景色もあまり変わりませんし、あきっぽいシロンにとっては、おもしろくないのです。
「妖精は基本的に、戦いを好まないからね。魔法で作り出せて、自由にあやつれるゴーレムは、警備兵として使い勝手がいいんだろうね。強いし」
魔法生物の生態にくわしいエミルが説明してあげました。
「でも、食べらんないし、狩りがいがないよ。あー、石ころを食べられるような体になればいいのになー」
こんなときでも食い意地の張っているエイルが、ぼやきながら歩いていると――
「おっ」
突然、目の前が大きく開けました。
そこには、広い広い溶岩の湖がひろがっていたのです。
「わあ……!」
エミルも思わず息をのみました。
赤く燃える溶岩が、湖いっぱいにたたえられています。ボコボコ、グツグツと煮えたぎるその様子は、まるで巨大な生きものが、ゆっくりと脈打っているかのようでした。
熱気が一気に押し寄せてきて、三人の顔をなでます。
「ここが、この火山の火口……」
エミルが、目の前の溶岩湖を見つめながら言いました。
「そうだね。ここがゴールって感じだ」
エイルも目を細めながら、赤々と燃える湖を見つめます。
しかし――そのとき。
溶岩湖の向こう側で、なにかが動きました。
ボコ……ボコボコ……
『……ん?』
シロンが首をかしげます。
「どうしたの?」
『ねえ、あれ……みて!』
エミルがたずねると、シロンは火口の中心を指差しました。
そこには、なんと……人影が見えます。
煙に包まれていて、その姿はよくわかりません。
いちばん視力の高いエイルが、じっと目をこらして見てみると……
「……だれかが、溶岩のおフロで鼻歌歌ってる」
「『は??』」
エミルとシロンは、思わずスットンキョーな声をあげてしまいました。
だって、ふだんからよくわからないお姉ちゃんの発言以上に、わけがわからないんですもの。
だれかが、溶岩のおフロで、鼻歌を歌ってる?
そんなこと、ありえるわけが……
『……あ~……いい湯だァ~♪ っはあ♪』
……ありました。
エミルとシロンの耳にも、はっきり聞こえてきたのです。
それはもう、気持ちよさそうな大音量の鼻歌が。
煙のすき間から姿が見えたので、三人が注目してみると……
そこには、赤い短髪とオレンジ色の肌をした男性が、ほんとうに溶岩の中に気持ちよさそうにつかっていました。
『……あれ、きもちいいのかな』
シロンはぽかんとしながら、ぽつりとつぶやきました。
「……気持ちいいように見える?」
エミルは、あきれながらツッコみます。
「私は溶岩、おいしそうだと思ったことはあるよ。プリンみたいでさ」
……まさか、本気で食べようとしたんじゃないだろうな。
エミルは、冷ややかな目でエイルお姉ちゃんを見つめました。
すると――
『んんっ!?』
ザバァッ!
姉妹の存在に気づいた男性が、溶岩しぶきをあげて立ち上がりました。
「ひゃあっ!?」
エミルは思わず目をおおいます。
野生児のエイルとドラゴンのシロンは、けろっとしたものですけれど。
『やあ! 人間の客人とは、なんとめずらしい! わが領域に、ようこそ!』
男性は両手をひろげて、姉妹を歓迎してくれました。歓迎してくれているのですが……
「その前に……なにか服を着てくれませんかー?」
エミルは目をそらしながら、大きな声で呼びかけました。
『服? ……ああ、これは失礼した!』
男性はひとことあやまると、その全身に炎を集めはじめました。
炎はみるみるうちに、彼の身にまとわれる服へと変化していきます。
そして最後に、背中へ炎が集まったかと思うと――
ボウッ!
大きな妖精の翼が、炎をほとばしらせながらひろがりました。
(やっぱり……このヒトが、この妖精界の王様!)
エミルは目をおおっていた手をどけ、驚きました。
炎の妖精王は、フワーッと浮かび上がって溶岩の中から出てくると、そのまま姉妹のもとまで飛んできました。
『あらためて、わが領域へようこそ! 人間の客人たちよ! オレ様は、キミたちを歓迎する!』
なんとさわやかで、豪快な雰囲気なのでしょう。これまで出会ってきた、どの大妖精とも違うタイプです。
エミルとシロンは、思わず面食らってしまいました。
『して、どんな用でわざわざここに来たのかな? オレ様といっしょに、溶岩風呂を楽しみに来たのかな?』
「ちがいます」
エミルは即答しました。
『ハッハッハッ! そうだな! すまない! オレ様のように炎の妖精にでも生まれていなければ、オススメできないシロモノだったな!』
炎の妖精王は、そっくり返って、これまた豪快に笑い飛ばしました。
これはもう、さっさと要件を伝えて、この場を去ったほうがよさそうです。エミルは、そう判断しました。
「実は、これこれしかじかで……わたしたちはシュクレーヌに行かなくちゃいけないんです」
『なるほど、かくかくうまうまで……その導きの光が差したのが、この火山だと』
炎の妖精王は、事情を飲み込んでくれたようでした。
『ふむ……ところちがえど、同じ妖精界のピンチ。オレ様も、なにか力になりたいところだな……』
炎の妖精王は、腕を組んで少し考えます。
そして――
『よし! ここはひと肌、脱ごうじゃないか!』
「『えっ?』」
炎の妖精王の提案に、エミルとシロンはギョッとしました。
まさか"ひと肌脱ぐ"って、また服を脱ぐつもりじゃないだろうな。とくにエミルは、気が気ではありません。
しかし、安心してください。その内容は、エミルが思っていたのとはちがう、まっとうなものでした。
炎の妖精王が、パチンと指を鳴らします。
すると――
ゴゴゴゴゴ……!
地鳴りとともに、溶岩の中から岩でできた円形の舞台が、ゆっくりとせり上がってきたのです。
『さあ! その舞台に上がれ! 炎の妖精流の魔法を、披露してやろうじゃないか!』
炎の妖精王は、大きく両手をひろげ、やっぱり豪快に宣言しました。
「えっ……?」
エミルとシロンはとまどい、炎の妖精王は、ニヤリと笑います。
どうやら……自分と戦え、と言っているのだと、姉妹は雰囲気で理解するのでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、
ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




