第56話 続・火山に行きたい!
「おお〜……」
地下を出て、姉妹の目に飛びこんできたのは、小高い丘の景色でした。
あたりを見回してみれば、ジャングルや火山が一望できます。まさに、ヌシさまだけに許された光景、といったところでしょう。
『おやおや、よくきたね。いらっしゃい』
すると、まるで親戚のような親しみのある、大きな声が響いてきました。
姉妹たちが声のしたほうに目を向けると、そこにはなんと……直径20メートルはある巨大な巣に鎮座する、まるまるコロコロとした、それはそれは巨大な鳥の姿がありました。
「うわっ!」
姉妹たちはぎょっとして、思わず後ずさりました。
まさか、このトリが"ヌシさま"なのでしょうか。
ですが、お花畑で見た石像のりりしい姿とは、似ても似つかない体つきです。
そんな姉妹の考えを見透かしたように、目の前のトリはつぶらな瞳をくりくりさせながら、言いました。
『ワタシが、このジャングルのヌシ、【ムクムクルグ】。よろしく、ニンゲンのお嬢さんたち』
やっぱりー!
姉妹たちは、衝撃を受けました。
『せきぞうと、ぜんぜんちがうじゃん!』
こういうとき、聞きづらいことでもズバッと聞ける、シロンの空気の読めなさはありがたいと、エミルはいつも思っています。
『あれはね、ワタシの若いころの像だ。妖精界で暮らすようになってから、ごはんはおいしいわ、運動不足になるわで、こんな体型になってしまったんだな』
「そ……そうですか……」
エミルとスノーベルは、苦笑いするしかありませんでした。
『ところでキミたち、シルフムルグのやつに会っただろう。あいつの祝福を感じるよ』
「え? そうですけど……ごぞんじなんですか?」
意外な名前が飛び出したので、エミルはおどろきます。
【神鳥シルフムルグ】――人間界の危険地帯の中にそびえる塔で、姉妹とシュガーに修行をつけ、祝福を与えてくれた恩人です。
そうか、ヌシさまの石像に感じた既視感は、シルフムルグに似ていたからなんだ。
エミルはようやく腑に落ちて、すっきりしました。
『あいつとは、人間界の幼なじみなんだ。争いを好まないワタシは、この妖精界を作った大妖精の誘いを受けて、こっちに来たから、それ以来会ってないけどね』
『そーだったんだ……』
シロンがぽかーんとしているあいだに、エミルは深呼吸をして、話を切り出します。
「大妖精……そうだ、ヌシさま。わたしたちは、その大妖精――この妖精界の王様がいる火山に行きたいんです。ヌシさまなら、行き方を知っていると聞いたので、ここまできました」
ヌシさまは、つぶらな目を細めて答えました。
『いいとも、いいですとも。実を言うとね、キミたちがここに来ることは知っていたのよ。ワタシ、ちょっと先の未来が見えるから』
「それって……予知能力!?」
エミルは興奮ぎみに身を乗り出しました。
物語が好きなエミルは、そういった特殊能力に目がないのでしょう。
『まあね。すごいだろう。えっへん』
『すごい、すごーい!』
シロンも大はしゃぎです。
ただひとり、スノーベルだけは冷めた視線を送っていましたけど。
『ついでに、シュクレーヌが大変なことになってるのも知ってるよ。魔王とやらをなんとかしないと、人間界だけじゃなく、妖精界もとんでもないことになっちゃうかもってこともね。というわけで、おのぞみ通り、キミたちに力を貸してあげよう』
ヌシさまはカッとつぶらな瞳を大きく見開きました。
すると、その瞳から紫色の光が放たれ――
「ふわっ!?」
姉妹たちの体が、ふわふわと宙に浮かびました。
「これはもしかして……念動力!?」
エミルは、またも興奮ぎみに声を上げます。
念動力とは、その名の通り、念じるだけで物を動かす力。予知能力と同じ系統のチカラです。
『そうだよ。すごいだろー。おかげでじっとしていても、ごはんを取るのに事欠かないんだな』
……だから、そんな体型になったんじゃないか?
だれもがその答えにたどりつきましたが、だれもが口には出しませんでした。
『このままキミたちを、火山の入口まで送りとどけてあげよう。中はきびしいダンジョンだが、がんばるんだよ。そーれ!』
「待って! まだ聞きたいことが……」
エミルが言い終わる間もなく、一行の体はビューンと火山に向かって飛ばされていきました。
そのスピードときたら、シロに乗っているときより速いかもしれません。
「きゃああああっ!」
『うひゃーーーっ!』
『ちょっと、ヌシさま! もう少しゆっくり――』
スノーベルの抗議もむなしく、姉妹たちは風を切って飛んでいきます。
こうして姉妹たちは、あっという間に深いガケを飛び越え、高所にある火山の入口前へとたどりついたのでした。
「なんか、あっさりしてるな~」
エイルは、ぽりぽりと頭をかきながら言いました。
たしかに、話も早すぎ、あっさりしすぎで、情緒もなにもあったものではない移動方法でした。
冒険好きの彼女が、そんな感想を抱くのもムリはないかもしれません。
『あっつっ! ……ねえ、私は指輪の中に入ってていい?』
スノーベルはびくっと跳ねると、エミルの背中にしがみつきました。
「いいよ。雪の妖精には、つらいだろうしね」
『……いっぽうで、この子はまだおねむ、か……』
スノーベルは、いまだエミルの肩の上で眠っているシュガーのほっぺを、つんつんとつつきました。
「チカラを体になじませようとしてるっていう、あなたの予想は当たってるのかもね。さあ、指輪にお戻り」
エミルはいとおしそうにほほえむと、左手の指輪にスノーベルを収納するのでした。
『シュガーは、このままにしとくの?』
「そうだね……指輪の中のほうが安全だけど……わたしは、このままにしておいたほうがいいと思う」
『どうして?』
「こうして外に出していれば、妖精界の新鮮なマナが感じられる。きっと、指輪の中より、いまはいごこちがいいにちがいないよ」
『いごこちがいいって……かざんのなかだよ?』
「それは、スノーベルみたいな苦手な属性を持ってるから危険なのであって、妖精はそもそも、あらゆる自然環境に適応できる生きものだからね」
『ふーん。まあ、エミルがいいっていうなら、いいや』
「わかればよろしい」
「よーし! それじゃ、いざ、火山へレッツゴー!」
「『おー!』」
エイルの音頭に合わせ、姉妹は火山の中へと突入するのでした。
☆ ☆ ☆
火山の中は、まさに地獄を絵に描いたような景観でした。
まっかに煮えたぎる溶岩の海、吹き上がる火柱、不安定な石の足場……
ちょっとした油断が命取りになりそうな、エミルがこれまでに経験したことのない難関です。
「やっぱ、あついな~」
「そうだね……」
そんな、とても人間が立ち入れないような環境の中でも、姉妹がわりと平然と歩くことができているのは、ここが妖精界だからでした。
見た目ほどは過酷な環境ではないうえに、パートナーたちの加護や、神鳥シルフムルグから受けた祝福も、姉妹の体を守ってくれています。
ゴオオッ!
『うひゃあ!?』
突然、溶岩の川から水しぶきのような火の玉が飛び出してきて、シロンはおどろき、のけぞりました。
「気をつけてね、シロン。いくら熱さが平気だからって、溶岩に飲みこまれたら、ただじゃすまないよ」
エミルは、おどかし半分で注意しました。
『うう~……ベルじゃないけど、シロンもかざんキライ!』
「ドラゴンって基本、火山に棲んでるものだと思うけどなあ」
『シロンは、そんじょそこらのドラゴンとはちがうの! せれぶりてぃなの!』
「あはははは」
妹たちのほほえましいやりとりに、先頭を歩くエイルは笑い飛ばします。
「それで、上をめざしていけばいいんだよね? ほら、えらい人って、高いところとか好きじゃん」
「ううん。逆だよ。下へ下へと進んでいくのが、正解だと思う」
エミルは、かぶりを振りました。
『どーゆーこと?』
「妖精の王さまなら、いちばんマナの濃い場所に居をかまえると思うんだよね。だから、いちばん下の火口付近にいるんじゃないかなーって」
「なるほど! よくわかんないけど、エミルが言うなら、そうなんだね!」
妹に全幅の信頼を置くエイルは、にこやかに即決しました。
「よーし、それじゃあ、下へレッツゴー!」
「『おー!』」
こうして姉妹は、火山の最下層をめざして、さらに奥へと進んでいくのでした。
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