第55話 ヌシさまに会いたい!
「はじめまして、モグラさん。わたしはエミル。よろしくね」
『うん、よろしく、エミル』
モグラ型妖精は、にこやかにあいさつを返してくれました。
気をよくしたエミルは、目の前にそびえる、深いガケにかこまれた火山を指差してたずねます。
「さっそく聞きたいことがあるんだけど、わたしたち、あの火山の中に入りたいの。もし入り方を知ってるなら、教えてほしいな」
『うん、いいよ。教えてあげるー』
モグラ型妖精は、にこやかにあっさりと教えてくれました。
『即答ですか……』
スノーベルも、あきれたようにつぶやきます。
『まえからおもってたんだけど、ようせいって、ニンゲンをぜんぜんこわがらないよね。けーかいしんがつよいんじゃなかったの?』
シロンが、じとっとした半目で疑問を口にしました。
正確には、シュネージアの村の妖精たちは警戒心を持っていましたが……それでもすぐに、姉妹のことを悪人ではないと認めてくれていました。
スノーベルは、はあとためいきをつくと、あきれ半分にこたえます。
『べつに、怖がってないわけじゃない。ただ、エイルとエミルが、あからさまに悪いヤツには見えないからよ。妖精はマナの流れが見えるから、そういうのがすぐにわかるの。すがたかたちは関係ない。私たち妖精も、ひとくちでは言い表せないほど、多種多様な外見のコがいるみたいにね』
『そーなんだ』
スノーベルは、エミルの肩の上で眠るシュガーをちらりと見ると、表情をくもらせます。
『……でも、そうは言っても正直、私も人間すべてが怖いと思ったことはある。シュガーだって、きっとそう。植え付けられた圧倒的な恐怖や絶望は、そんな澄んだ目だってにごらせてしまうってこと、おぼえておきなさい』
『……うん』
実体験のともなったスノーベルの重い言葉は、シロンの心に深く刻まれたようでした。
ふたりがそんな会話を交わしているあいだに、モグラ妖精は説明をはじめてくれていました。
『あのねー、火山に入るためには、ジャングルのヌシさまに認められないといけないのー』
「ヌシさま?」
『ジャングルのどこかに住んでる、とってもおっきな妖精だよ。王様の使いなんだってー』
「どこに住んでるか、わからない?」
『どこに住んでるか知ってたら、どこかに住んでるなんて言わないよー』
「そ……そうだね……」
ビミョーに腹立つ返事だな、とエミルは心の中でツッコみました。教えてもらっている立場なので、もちろん表に出したりはしません。
『ヌシさまがどこにいるかは知らないけど、手がかりのある場所は知ってるよー』
「ほんとうに? なら、その場所を教えてもらえないかな?」
『こっちだよ。ついてきてー』
モグラは一度地面にもぐると、モコモコと地中を掘り進んでいきました。
「行こう、お姉ちゃん、シロン、スノーベル!」
エミルは三人に呼びかけると、まだ眠り続けるシュガーを肩に乗せたまま、モグラを追いかけるのでした。
☆ ☆ ☆
モグラ妖精に連れられてきたのは、あたり一面にひろがるお花畑でした。
色とりどりの、ふしぎな形をした花が咲き誇り、その上空を小さな人型の妖精たちが、楽しそうに飛び回っています。
『なんか、むしさんみたい』
『そういうこと言うなッ!』
妖精の尊厳をそこなうようなシロンの問題発言を、スノーベルはこづいてたしなめました。
きっとシロンの目には、妖精たちは花に止まるちょうちょやハチのように見えていたのでしょう。
『あ、ニンゲンだ』『めずらしー』
お花畑の妖精たちは、姉妹に気づくと、そろって興味深そうな視線を向けてきました。
どうやら彼女たちも、姉妹への警戒心は持っていないみたいです。
「それで、このお花畑が、どうヌシさまの手がかりにつながってるの?」
『あれを見て』
モグラが指差した先……お花畑の奥には、台座に乗った石像が置かれていました。
姉妹たちは石像に近づき、よく観察してみます。
『おー、かっこいい!』
シロンは感激に目をきらきらと輝かせました。
石像にかたどられているのは、大きな翼をひろげた、それはそれはりっぱな鳥の像でした。
「これが……ヌシさま?」
『そうだよ。ヌシさまの像』
『なんか、ほかの妖精とくらべて、雰囲気がちがいすぎる気がするけど……』
スノーベルは、じーっと像を見つめて、いぶかしんでいました。
「それに、どこかで見たことあるような気がする……」
エミルもまた、目を細めます。
この威厳のあるたたずまいを、つい最近どこかで見たような記憶があります。けれど、いくら思い出そうとしても、すぐには思い出せませんでした。
『その台座に、ヌシさまに会うためのヒントが書かれてるんだ』
モグラにうながされるまま、姉妹とスノーベルは、台座に書かれた文字に視線を集めます。
「……って、読めないんだけど」
エイルがぶーっと言いました。
彼女はもともと文字には弱いのですが、台座に書かれているものは、あきらかに人間が使っている文字ではありませんでした。
「これ、精霊文字だね。えーと……"わが像に、力を示せ。さすれば道は開かれん"……だって」
『え? エミル、あなた、精霊文字が読めるの?』
「まあね」
やっぱりこの子、ただものじゃない。
スノーベルは、またまたそう思うのでした。
『でも、チカラをしめせって、どうすればいいの?』
「この像を、ぶっこわせばいいのかな?」
『やめなさい』
今度は剣を抜こうとしたエイルを、スノーベルがたしなめました。
「像をこわすのは、わたしも反対だけど……お姉ちゃんの発想は、ある意味正しいかもしれないよ」
「ほんとに!?」
かしこくてかわいい妹に肯定されて、エイルはうれしそうに振り向きました。
『ひょっとして、姉びいきでそんなこと言ってるわけじゃないでしょうね?』
スノーベルは、あきれ顔で言います。
「そういうわけじゃないよ。台座のまわりの土を見てみて」
『土を?』
『いいいろだね!』
「うん、おいしい果物がなりそう!」
「質の話じゃないよ! もっとわかりやすいちがいがあるでしょ!」
くいしんぼうコンビに、エミルは思わずツッコみました。
姉妹は村で畑仕事を手伝ったりしていたので、エイルもシロンも土にはわりとくわしいのです。
そんなふたりが、今度はマジメに土を観察します。
すると、台座から少し奥にかけての土が、不自然なくらい平らになっていることに気がつきました。
『たしかに、ちょっとヘンなきがするけど……これは、どういうことなの?』
シロンとエイルが首をかしげると、エミルは少し得意そうに答えます。
「わからない? この像、奥に動かせるんだよ」
『なるほど。土が平らになってるのは、像が移動された跡ってことね』
スノーベルは、手をポンとたたきました。
「つまり、"力を示せ"っていうのは、そのまんま、この像を押せってことなんだよ」
「そういうことなら、まかせろ!」
エミルが言うが早いか、エイルは腰を落として、自慢の怪力で石像を押しはじめました。
幸いなことに、像の大きさは彼女の身長と同じくらいで、動かすのはそれほどむずかしくなさそうです。なるほど体の小さい妖精では、とてもムリでしょう。
ズズッ……
石像がゆっくりと奥へ押し込まれていきます。
すると――
像の下から、地下へと続く階段が現れたではありませんか!
『おお! かくしつうろ!』
「ここを通れば、ヌシさまのところに行けるはずだよ!」
姉妹とスノーベルは、顔を見合わせてよろこびました。
『へー、まさか、こうなってたとはね~』
モグラ妖精も、感心したようすです。
「道案内ありがとう、モグラさん」
エミルは振り返って、お礼を言います。
『いいよ、いいよ。ぼくも楽しかったし。ヌシさまに、会えるといいね』
『うん! またあそびにくるね!』
姉妹たちは、モグラとお花畑の妖精たちに別れを告げると、地下へと続く階段を下りていくのでした。
☆ ☆ ☆
「うーん、まだ出られないのかなあ」
先頭を進むエイルが、ぼやきました。
なにしろ、この隠し地下通路は妖精サイズで作られているためか、やたらとせまいのです。天井も低く、人間のエイルとエミルが通るためには、這って進むしかありません。まったく、きゅうくつでしかたありませんでした。
『こーゆーとき、ちっちゃいってべんりだね! むふー!』
「そうだね。うらやましいよ」
大いばりのチビドラゴン・シロンに、エミルはからかいまじりの苦笑いで返しました。
『でも、暗いし、ジメジメしてるし、早く外に出たいわ』
スノーベルは、ぐったりしたようすで、ふよふよ浮かんでいました。
美しさが身上の雪の妖精である彼女にとっては、たしかに耐えがたい空間なのでしょう。
シュガーは、あいかわらずエミルの肩の上で眠ったままです。
「もう、シュガーったら……」
エミルはまた苦笑しながら、眠り続けるシュガーが落ちないよう、そっと手を添えました。
「あ! 見て! あかり!」
突然、エイルが指を差して声をあげます。
ですが、なにしろ道幅がぎゅうぎゅうなので、うしろにいるエミルたちからは、前のようすを見ることができません。
「お姉ちゃん、ほんと!?」
「うん! もう少しだよ!」
なんにせよ、ようやく見えた希望の光です。
光にひかれるように、エイルは進むスピードをあげました。
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん! 待ってよ!」
『はやいってばー!』
『もう、せまいんだから、急がないでよ!』
エミルたちは文句を言いながらも、必死でエイルについていきます。
そして――
ついに姉妹たちは、長く暗い隠し地下通路を抜けました。
その先にひろがっている――"ヌシさま"のすみかに飛び出したのです。
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