第54話 火山に行きたい!
妖精界トロピコルノ――そこにひろがるジャングルを、姉妹はトラ型妖精の背中に乗って進んでいました。
めざすは、導きの光が示した、火山です。
「ごめんなさい、乗せてもらっちゃって」
エイルのうしろに座るエミルが、申し訳なさそうに言いました。
『いいってことよ。あんなにうまいモノを食べさせてもらったんだ。木の実の代わりにしちゃ、おつりがくるってもんだ』
トラは上機嫌で、ジャングルをのっしのっしと歩いています。
スイートポテトのあまりのおいしさに感動して、火山までの足代わりを買って出てくれたのでした。
『それにしても、人間がここに来るのもめずらしいのに、王様に会いに火山に行きたいなんて、もの好きだなあ』
「私たちは魔王退治に来たんだ。キケンな場所も、どんとこいだよ」
前側に座るエイルが、どんと胸をたたきました。
「うーむ……」
すると、エミルはうつむいて考え込み、うなり声をあげます。
「『どうしたの?』」
エイルが振り向き、トラの背中にちょこんと乗ったシロンとスノーベルも顔を向けます。
「いや、いままでシュガーの導きの光にしたがって、わたしたちはここまで来たけど……その行き先が、どれもその妖精界を作った大妖精のもとだなんて、偶然なのかな……って思って」
スノーベルも、あごに手を当てて考えはじめます。
『たしかに……言われてみれば、そうね……。ただ《妖精の抜け道》をつなげる場所を示すなら、もっといい場所があったと思うわ。私だって、女王さまの目を盗んでほかの妖精界に遊びに行ってたわけだし……』
「あのアメ玉水晶は、人間界では神獣の居場所を示してたりしてた。そう考えると……いままでの導きの光も、本当の目的は、シュガーを成長させるためだったんじゃないかな?」
『それ……ありえるかも!』
シロンが声をあげました。
「じゃあ今度は、火山にいる王様から、なにかチカラをもらえってわけだ?」
エイルが声をはずませます。
「たぶん、そうだと思う」
『また、たいへんなことになるよかん……』
シロンは、エミルのベレー帽の上で、へなへなっとなりました。
『火山に入るって時点で、私にとっては、すでに大変よ』
スノーベルは、ふきげんそうにくちびるをとがらせます。
「まあまあ。なにがあっても、みーんな私がなんとかしちゃうから!」
「ふふふっ、たよりにしてるね、お姉ちゃん」
姉妹とスノーベルが、トラの背中の上でほほえましく談笑しているなかで――
『すぅ……すぅ……』
ただひとり、シュガーはエミルの肩の上で眠り続けていました。
『シュガー、ぜんぜんおきないね』
シロンはパタパタと宙に浮かび、シュガーの寝顔の前で手を振ったりしてみます。
「うん。ただ疲れてるってわけじゃないみたい」
『そうね。もしかして……チカラをたくわえているんじゃないかしら』
エミルとスノーベルは、うなずき合いました。
『どーゆーこと?』
『たぶんだけど、ここまでの冒険で、この子は神鳥との戦いや、大妖精からの羽の継承で、大幅なパワーアップを遂げた。けれど、まだそのチカラが体になじんでないのよ。だからこうして、深い眠りについて体を休ませてるんじゃないか、ってこと』
『でもベルは、ねむってないじゃん。じょおーさまからハネももらったのにさ』
『私はもともと強いからね』
スノーベルは、むん! と得意げに胸を張りました。
『でもこの子は、ちょっと前まで戦いとは無縁だったのよ。魔法もふだんから、あまり使わなかったでしょうし……反動が大きすぎて、体がついていけてないんだと思う』
『きんにくつーみたいなかんじだ』
「まあ……そういうたとえでいいんじゃないかしら」
シロンの身もフタもないひとことに、スノーベルは半目で肩をすくめるのでした。
「じゃあさ、次にシュガーが起きたときは、もっとパワーアップしてるってことだ!」
エイルは両手をぱっとひろげて、うれしそうに言いました。
エミルはやわらかくほほえみ、指でシュガーの頭をそっとなでます。
「かもしれないね。そのときまで、ゆっくりおやすみ……」
そんなふたりの姿を見て、スノーベルはまた、含みのあるほほえみを浮かべるのでした。
☆ ☆ ☆
『オレが案内できるのは、ここまでだ』
姉妹は火山の手前で、トラから降ろされました。
「ここまで、ありがとう」
『いいってことよ。次に会ったら、またうまいもん食わせてくれよな』
姉妹とスノーベルは手を振って、のしのしと去っていくトラを見送るのでした。
「……さてと」
エミルは振り返り、目の前にそびえる火山を見上げます。
火口からは白い噴煙が吹き上がり、まっかな溶岩が流れています。
さらに、ふもとの周囲は深い崖になっており、その下には、これまたあつあつの溶岩の川が流れていました。
極めつけは、火山内部への入口が、歩いてはいけないほど高い位置にあることです。
つまり……空を飛べないかぎり、中に入ることはできそうにありません。
「……どうやって、中に入ろうか?」
エミルはみんなに振り向き、困ったように苦笑しながら、疑問を投げかけました。
『レッディに乗っていけば、いいんじゃない?』
シロンが提案します。
炎の体を持つ【ソルフェニックス】のレッディなら、この熱さをものともせず、火山の入口までたどり着くことができるでしょう。
「……それは、ちょっとむずかしいかも」
『そうね。私もそう思うわ』
しかし、エイルとスノーベルに、すぐさま否定されてしまいます。
『え? どうしてー! こんどこそナイスアイデアだとおもったのにぃー!』
『アナタ、感じないの? あの火山の山肌から……』
『へ?』
スノーベルに指摘され、シロンは火山のほうに意識を集中させてみます。
すると――なにか生きもののような、そう、なにかがこちらをうかがっているような気配を、かすかに感じたのです。それも、いくつも。
『なんかいる!』
『たぶん、ゴーレムのたぐいね。シュネージアでも、お城の前で襲われたでしょ』
シロンはスノーベルの言う通り、雪の巨人【スノーギガス】や、氷の巨人【アイスゴーレム】のことを思い出しました。
たしかに、飛んでいる最中にあんなのに襲われたら、たいへんです。
「レッディは、まだ人を乗せての安定飛行はむずかしいし、そのうえ王様を守る役目を与えられるくらい強力な魔法生物に襲われるとなると……あっという間に撃ち落とされちゃうね」
エミルはそう分析し、残念ながらシロンの案は却下されることになったのでした。
「さすがのシロでも、このガケは飛び越えられそうにないからな~」
エイルも腕を組んでうなります。
ちなみに、ガケの幅は目算で40メートル近く。とてもジャンプでは越えられない距離です。
「『う~ん……』」
四人のうなり声が重なり合いました。
「こういうときは、やっぱり聞きこみだよね」
エミルが人差し指を立てて提案します。
ほかの三人も、それしかないとうんうんうなずきました。
『あのトラさんなら、なにか知ってたかもしれないねー』
シロンは、トラ型妖精の去っていった方向をながめながら、残念そうに言いました。
『そうかしら? あのトラ、見かけによらず親切だったし、入り方を知ってたなら、教えてくれたんじゃない?』
スノーベルは肩をすくめました。
「ほかの妖精、探そうよ」
エイルは、さっさとジャングルの中へ戻ろうとします。
「そうだね。火山の近くに住んでる子たちなら、なにか知ってるかもしれない……」
エミルが同調しようとした、そのとき――
モコモコモコ……
足もとの地面が、やわらかく盛り上がっていきました。
「えっ?」
姉妹が驚いて見つめるなか、土の盛り上がりはどんどん大きくなっていきます。
そして、姉妹の目の前でピタリと止まると――
ボコッ!
大きな音を立てて、なにかが地面から飛び出してきました!
『やあ! 人間のお客さんなんて、めずらしい!』
陽気な声でそう言ったのは、くりくりした目をした、かわいらしいモグラ……型の妖精でした。
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