第53話 密林と火山の妖精界の冒険
『いやっ! いやあっ! あそこだけはダメッ!!!』
さっきまで自信たっぷりだったスノーベルが、きゅうに泣きわめきだしました。
「ど、どうしたの?」
エミルは心配になってたずねますが……
『どうしたの、じゃないわよ! だって、火山よ、火山! 私は雪の妖精なのよ! あんなところに行ったら、一瞬で溶けて消えちゃうわよッ!』
と、もっともな理由を返されてしまいました。
『えー? さっきは、"このくにはすごしやすい"とかいってたじゃん』
シロンは、じとっとした半目でぼやきます。
スノーベルは、さらにカッとなって反論しました。
『そりゃ、この密林はね! 火山は別なの! あそこには、この国の妖精王が居をかまえてるの! だから、カンタンに入ってこられないようになってるのよ! とどのつまり、あそこはフツーに超熱い!』
「ふーん。それじゃ、また王様に会うことになるのかー」
エイルはスノーベルの熱弁を受け流し、どこかわくわくしたような顔で言いました。
「でもね、スノーベル。導きの光はあの火山を指しているんだから、行かないわけにはいかないよ。イヤだったら、指輪に入ってくれればいいから、ね?」
エミルがさとすように言うと、となりでシュガーがうんうんとうなずきました。
『う~~~っ。わかってる! わかってるわよっ! 行けばいいんでしょ、行けばっ!』
スノーベルは、またもヤケクソぎみに叫びました。
こうして、めでたく意見の一致をみた姉妹たちは、ジャングルの奥にそびえる火山をめざして、歩き出すのでした。
☆ ☆ ☆
「ふあ~あ……なんか気分がよすぎて、眠くなってきちゃった……」
『シロンも~……』
エイルとシロンは、うっそうとした密林を歩きながら、大あくびをかましました。
『わたしも、ですぅ……』
シュガーもうつらうつらして、飛ぶ力がおぼつかなくなっていました。
そんなシュガーを、エミルは眠い目をこすりながら、自分の肩の上にそっと寝かせてあげます。
『ちょっと、その子、寝かせちゃってだいじょうぶなの?』
スノーベルが疑問を口にしました。
シュガーが眠ってしまっては、"導きの光"を出すことができませんから。
「だいじょうぶだよ。目的地は火山だってわかってるわけだしね」
『うっ……』
からかいまじりのエミルの答えに、スノーベルはぎくっとするのでした。
「シュガー、シュクレーヌを出てから、ずっと大変で、ろくに眠れてなかったみたいだからね。休めるときは、いっぱい休ませてあげたいんだ」
『……そうね』
すやすやと寝息を立てる、安心しきったシュガーの顔を見て、スノーベルはやわらかくほほえみました。
「それにしても……ジャングルって、はじめて入ったけど……ふしぎな植物ばっかりだねー……」
エミルは、あたりを見回しながら感心していました。
明るい色の木々には、ぷるっとした葉が茂っています。
そのあいだには、先端がくるくると巻いている、大きなゼンマイのような植物。
うちわ代わりになりそうな、まるっとしたシダ植物。
そして、水玉もようのぷにっとした、色とりどりの花々……
人間界では、とてもお目にかかれないような、ふしぎな植物ばかりです。
「あ! エミル! シロン! 見て見て! あっちの木に、おいしそうな実がなってるよ!」
エイルが、前方にそびえる高い木を指差して、うれしそうな声をあげました。
その木のてっぺんには、まるまるっとした黄色い果実が、いくつも実っています。
『ホントだ! おいしそー!』
シロンも眠気がふっとんだようで、瞳をきらきらと輝かせました。
しっかり者だけど、甘いものに目がないエミルも、思わず目を見張ります。
「よーし……」
エイルはぺろりと舌を出してはりきると、腰の剣に手をかけました。
食べたそうにしているかわいい妹たちのために、木の実を落としてあげようと思っているのです。
エイルの右手中指にある、大オオカミのシロが宿った指輪が、緑色の光を放ちます。
同時に、エイルが引き抜いた剣へ、同じ色の風が渦巻いていきました。
びゅおおっ!
風が剣身を包み込み、鋭い刃のように形を変えていきます。
そしてエイルは、カッと目を見開くと、シュッとすばやく剣を振るいました!
スパッ!
風をまとった斬撃――《風刃》が、はるか高い位置にある木の実を見事に斬り落としました!
『おねえちゃん、すっごーい!』
シロンは、さらに瞳をきらきらと輝かせます。
「よっと!」
エイルは落ちてきた木の実を、ひょいっと両手でキャッチしました。
「おっきい実だなあ。これなら、みんなでいっしょに食べられるよ!」
エイルの言う通り、その両手に抱かれた、まるまるっとした黄色い木の実は、直径50センチほどもある大きなものでした。
「『おお~っ……』」
妹たちは、木の実のみずみずしさに目を輝かせます。
甘~い、いいにおいもただよってきて、もう食欲をおさえきれない様子です。
一歩引いて見ていたスノーベルでさえ、思わずごくりとのどを鳴らすほどでした。
彼女はこの妖精界をよくおとずれていましたが、その小さな体のためか、自分の体よりも大きな木の実は、これまで食べたことがないのです。
「よーし、それじゃ、みんなで……」
「『いっただっきまーす!』」
エイルの音頭に合わせて、エミルとシロン、スノーベルは、四人同時に木の実にかぶりつきました。
「『お~いし~い!』」
木の実は、においから想像した通り、とっても甘くて、ほんのりとした酸味がいいアクセントになった、とてもおいしいものでした。
しかも、一個でこれだけの大きさがあるので、みんなでたっぷり食べられて、お得感もあります。
「シュガーが起きたら、分けてあげよう!」
エミルは、肩の上ですやすやと眠るシュガーを見ながら言いました。
姉妹とスノーベルが木の実の味にメロメロになっていた、そのときです。
『コラーーーッ!』
近くの茂みから、なにかが勢いよく飛び出し、大きなどなり声を上げてきたのです。
姉妹はいっせいにびくっと身をすくませ、エイルはうっかり木の実を取り落としそうになりました。
なにかの正体は、大きなトラ型の魔法生物でした。
といっても、シュネージアで出会ったシロクマたちと同じく、野性味があまり感じられない、ぬいぐるみのような親しみやすい見た目です。
このトラもまた、あくまでトラ型の妖精、ということなのでしょう。
『この木は、オレの目印がつけてある、オレの木だぞ! そこから勝手に実を取るんじゃない!』
トラは、ビシッと果実のなった木を指差して叫びました。
よく見ると、木の幹には大きな肉球のマーキングがされています。これが、トラのつけた目印ということなのでしょう。
「ご……ごめんなさい」
意外にも、まっさきにあやまったのはエイルでした。
エイルだって、小さいころから両親に"人のものを盗んではいけない"と教わってきたのです。自由奔放で、ちょっぴりおバカではありますが、そういう分別はちゃんとあります。
『取っただけなら、あやまれば許せる。だが、もう食べちまってる以上、そういうわけにはいかん! 覚悟はできてるんだろうな!?』
エイルの手の中にある食べかけの木の実を見た瞬間、トラは全身の毛を逆立て、はげしい怒りをあらわにしました。
見た目は愛嬌がありますが、ほとばしる殺気はホンモノです。
『ガアーッ!』
姉妹がさらなる弁明をする間もなく、トラはエイルめがけて襲いかかってきました。
完全に自分たちが悪いとわかっていても、こんなところでむざむざと倒されるわけにもいきません。
ガキィーン!
エイルは腰に差した二本の剣をすばやく引き抜き、トラの牙を受け止めました!
しかし、相手のパワーは強力です。エイルは二本の剣を交差させてこらえますが、足もとの土を削りながら、その体は数メートル先まで押し出されていきます。
なりゆきを見ていたエミルは、直感しました。
このまま本格的な戦いになれば、取り返しのつかないことになる――と。
「待って! 木の実の代わりになるものをあげるから、許して!」
エミルがあわてて呼びかけると、エイルの剣にかみついていたトラは、ぴくりと反応しました。
そして、ゆっくりとエミルのほうを向きます。
エミルは、ごそごそとカバンの中から、紙につつまれたものを取り出しました。
それは、サムマイモのスイートポテト。シュネージアの村で、妖精たちに作ってもらったとき、いくつかおやつにしようと取っておいたものです。
トラは、すんすんと鼻を動かしました。
そして、スイートポテトからただよう甘いにおいを感じ取った瞬間――逆立っていた毛が、ふっと元に戻りました。それと同時に、ただよっていた殺気も、すうっと消えていきます。
そしてそのまま、トコトコとエミルのもとまで歩いてきました。
エミルは、ごくりと息を飲み、おそるおそるスイートポテトをトラの顔に近づけます。
ぱくり。
エミルの手の中にあったスイートポテトは、一瞬でトラの口の中へと消えていきました。
トラは、もぐもぐと口を動かして、ごくんとそれを飲み込むと――
『なんだこれ! めちゃくちゃうまい!』
目と口を大きく開いて、歓喜の声をあげるのでした。
「これで……許してもらえない?」
エミルは、またおそるおそる首をかしげてたずねます。
『……しょうがないな。これ一個で、許してやるよ』
「ほんと!?」
『ああ。こんなにうまいものを食わせてもらったんだ。もういいよ』
さわやかなトラのひとことに、一行はほっと胸をなでおろすのでした。
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