↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 妖精の国のSOS  作者: 稲葉トキオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/84

第51話 新たなる女王

 女王はゆっくりと立ち上がると、エイルに斬られた杖を魔法で元通りに直しました。


 それから、シャリンと床を打ち鳴らし、しずかに口を開きます。


『雪の妖精……スノーベル』


『は……はいっ!』


 スノーベルは、ふいに名前を呼ばれて、緊張でびくっと背筋を伸ばしました。


 それがおかしくって、うしろでシロンがくすくす笑いますが、エミルにたしなめられています。


『スノーベル……その名は、貴女のパートナーに与えられたものですね?』


『え……ええ。雪を意味するスノーと、彼女が好きな絵本に出てくる妖精の名前を合わせたものです』


「『そーだったんだ……』」


 エイルとシロンが、ちいさく声を合わせました。


『……愛されているのですね。そのパートナーにも、彼女たちにも』


『……そうみたい、です』


 スノーベルは顔を真っ赤にして、露骨に目をそらします。


 うしろでは姉妹とシロンが、にこにこしながら見守っていました。


 そして女王は、キリッとした表情で、おごそかに宣言します。


『スノーベル。のぞみ通り、貴女への処罰は不問とします。そのかわり……』


 スノーベルは、きゅっと口を引き結びました。


 女王候補の撤回、国外永久追放……そんな重い処分を想像しているのでしょう。


 ですが、次に放たれた女王の言葉は……


『……貴女には候補ではなく、正式に次期女王となってもらいます』


『……え?』


 あまりに予想外の言葉だったので、スノーベルはあっけにとられてしまいました。


『次期女王ってことは……ベルはお姫さまになるってこと!?』


 シロンはおおいにびっくりして、氷の広間に大声を響かせました。


『妖精界には王族っていう概念はないから、そういうわけじゃないと思うよ……』


 シュガーが苦笑いしながら、シロンの疑問に答えてくれました。


「でも、次期女王ってことは、スノーベルはこの国に残らなきゃいけないってことなんじゃ……」


『そういうわけでもありません』


 エミルの疑問を、女王があっさり否定しました。


『スノーベル、貴女はひきつづき彼女たちに同行し、シュクレーヌの救済に力を注ぎなさい。その後は本来のパートナーとともに、人間界で修行を積むのです』


『で、でも……いいのですか? 無断外出の常習犯で、人間界で罪も犯した私を、次期女王に任命するなんて……?』


 女王は、ちらりとエイルに視線を向けます。


『……今回、私はその少女と戦い、敗北して、痛感しました。私にはチカラはあっても、強さが足りないと。今後、この国を守っていくためには、そういった強さというものが、きっと必要になります。それを託すことができるのは、人間界で強さを学んだ、貴女だけなのです』


『私が……』


 スノーベルはハッとして、胸に手を当てました。


 たしかに、妖精界にこもっていては得がたい経験を、これまでにたくさんしてきました。


 そして、それらの経験が、いまの自分を形作っている。そんな自覚もあります。


 女王の言うことは、納得のいくものでした。


『ですから、約束してください。いまのパートナーが生命をまっとうしたとき、この国に戻り、女王の座を継ぐと。それが貴女の罪を許し、行動の自由を認める条件です』


 パートナーの生命――そのひとことに、姉妹は顔を見合わせ、苦笑いしました。


 スノーベルも、心の中ですこしあきれましたが……答え自体は、迷いなく言い切りました。


『わかりました。お約束します。私が次の女王となり、このシュネージアを、よりよい国にすると』


 その返事を聞くと、女王はやさしくほほえみました。


 思えば、彼女のそんな顔を見たのは、これがはじめてです。


 女王はカツンと杖を打ち鳴らすと、床に落ちたままになっていた、エイルに斬り落とされた二枚の羽を浮かび上がらせました。


 それらはさらに、青白い光の球へと変わっていきます。


 塩の大妖精シオが、自分の羽をもぎ取ったときと同じように。


『これは、継承の……』


『ええ。私の羽を取りこむことで、貴女の妖精としての格は高まります。また戻ってくるときは、りっぱな大妖精になっていることを期待していますよ』


『……はい。ありがとうございます』


『お砂糖の妖精。もう一枚は貴女に。少しでもチカラの足しにしてください』


『え? ……あ、はい! あ、ありがとうございますっ』


 スノーベルとシュガーは、それぞれ光の球となった女王の羽を受け入れました。


 その瞬間、体の内側からすさまじい冷気がほとばしります。


 ふたりは、自分の中に新たなチカラが宿り、大幅にパワーが高まったことを実感しました。


『……おそろい、だね。スノーベル』


 シュガーがとなりに飛んできて、にっこりと笑顔を向けます。


『そうね。アナタみたいに、新しいチカラが使えるのは楽しみだわ』


 スノーベルは、ふだんのクールな笑みで返しました。


 この妖精界に来てから、ずっと浮かない顔をしていたスノーベルでしたが、ようやく元通り……いえ、それ以上に自信満々になったことを、エミルとシロンはうれしく思いました。


 そして女王は、エミルの手からバスケットを受け取ると、言いました。


『この手みやげは、ありがたく受け取らせていただきます。その礼に、貴女たちは今後も我が城……いえ、このシュネージアに自由に出入りすることを許可しましょう。また、いつでもおいでなさい』


「はい、ありがとうございました!」


 エミルとシロン、そしてエイルはそろって、ぺこりと頭を下げました。


『さあ、お砂糖の妖精・シュガー。シュクレーヌへの道を開くといいでしょう。私はここで、貴女たちの幸運を祈るとします』


『は……はい! い、いろいろ、ありがとうございましたっ!』


 今度はシュガーが、背すじをピンと伸ばしました。


『あー、そういえば、そういう目的で来たんだっけ』


『忘れてんじゃないわよっ!』


 おとぼけシロンに、スノーベルがかみつかんばかりにツッコミます。


 もう、すっかり平常運転です。


「じゃ、出発進行だ!」


 エイルの号令で、シュガーはうなずき、《妖精の抜け道(フェアリートレイル)》を開きます。


 謁見の間に空間の穴が開き、異空間トンネルがスムーズに姿を現しました。


『では、女王さま。行ってまいります!』


 スノーベルは、今度は堂々と故郷を出ようと、女王を振り返りました。


『ええ、行ってらっしゃい。愛しい我が娘よ』


 女王はにこやかに手を振って、こたえました。


『そのむすめを、さっきはころそうとしてたよね?』


「そういうこと、言わない」


 チビドラゴンの姿に戻ったシロンのぼやきを、エミルはまたたしなめました。


 こうして姉妹は、異空間トンネルを通って、雪と氷の妖精界シュネージアをあとにするのでした。


『……妖精の神よ。かの者たちに祝福を……』


 ひとりきりになった謁見の間で、女王は静かに祈りをささげるのでした……

お読みいただき、ありがとうございました。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、

ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。