第48話 続・招かれざる来訪者たち
『人間の少女……邪魔立てするのであれば、貴女も容赦しませんよ』
雪と氷の女王は冷たく言い放つと、つきつけた杖の先から、さらに無数のつららを作り出し、発射してきました!
その威力も速さも、すさまじいの一言です。こんなものをまともに受けたら、ただではすみそうにありません。串刺しどころか、体がチーズのように穴だらけになってしまいそうです。
『エイル! 逃げてっ!』
スノーベルは叫びます。
しかし――
キンキンキンキンキンッ!
エイルは、さらにそれを上回る二刀流の剣さばきで、飛んでくるつららをすべてたたき落としてしまいました。
『……!』
これには、女王もスノーベルも言葉を失います。
後方では、シロンとシュガーも、おくちをあんぐりと開けたまま固まっていました。
「……遅っそ。こんなんじゃ、何百万発撃っても当たらないよ」
エイルは、はあ、とあきれたように言い捨てました。
そして、氷の床を思いっきり踏みこむと、一気に女王めがけて駆け出したのです!
『ちょ、待ちなさい、エイル!』
スノーベルは制止しようとしました。
処罰されそうになったとはいえ、いくらなんでも、自分の主である女王に斬りかかろうというのには、同意しかねるからです。
「待って、スノーベル」
そんな彼女を、今度はエミルが制止しました。
「悪いけど、止めたってムダだよ。……わたしも正直、あれはがまんできない!」
その表情と声には、はっきりと怒りがこもっていました。
スノーベルは、ハッとします。
この姉妹は、自分の命が奪われそうになったことに……自分のために本気で怒ってくれているのだと。
『私に剣を向けるとは。貴女にも失望しました』
女王は杖をひと振りしました。
すると、その足もとから地鳴りとともに、一体の氷の巨人がせり上がってきました。
「【アイスゴーレム】!」
それは、この城に来るまでの道中で何度も見た魔法生物。しかし、その姿は以前とはまるでちがっていました。
全身に氷の鎧をまとったような姿へと変化しており、放たれるオーラも、はるかに強くなっています。
言うなれば――"近衛兵仕様"とでも呼ぶべきでしょうか。
「シロ!」
エイルは走りながら、指輪から大オオカミ【ニュードウルフ】のシロを呼び出します。
ちょうど足もとに現れたシロに、そのまま飛び乗るようにして背中へまたがりました。
「よけてばっかで、うっぷん溜まってるだろ! 今度はぶっ壊していいぞ!」
『ワンッ!』
エイルの許しを得たシロは、待ってましたとばかりに、うれしそうな声をあげます。
そして、アイスゴーレムに向かって走り出したシロの全身が、まばゆい白いオーラにつつまれていきました。
やがて、その体は四倍近くまで大きくふくらみ、光り輝く巨大なオオカミへと変身したのです!
「出た!」
『《フェンリルストライク》だあ!』
エミルとシロンも、満面の笑顔で歓声をあげました。
これこそ、妹たちにとってはおなじみの、エイルとシロの必殺技。
全身全霊のエネルギーをまとって巨大化したシロが、すさまじい勢いで相手へ突撃する、最強の魔法です。
ドグシャアァーーーン!!!
巨大化したシロの突撃が、アイスゴーレムを一撃で打ち砕きました。
アイスゴーレムは、無数の氷のカケラとなって、床へと散らばります。
『……!』
これには、さすがの女王も目を見開き、驚愕しました。
『ガルオオ!』
そして勢いのまま、光の巨狼と化したシロは、無防備な女王へと襲いかかります!
『神狼もどきめ、こざかしい!』
すると、女王の眼光が、まるでビームのようにほとばしりました!
光はシロをまともにとらえ、その巨体をつらぬきます!
『ガ……!』
シロは、もとの大オオカミの姿へと戻りました。
さらに、その全身がみるみるうちに凍りついていきます。
そして――
ガシャン!
シロは氷の床へ倒れ、そのまま動かなくなってしまいました。
「『シロ!』」
妹たちも、悲痛な叫びをあげました。
シュガーも、両手で口をおおっています。
あっけなく決着かと思われた状況……しかし、スノーベルと女王は気づいていました。
『エイルは……どこ!?』
そう。シロの背中にまたがっていたはずの、エイルの姿がどこにもないのです。
女王も妖精の感知能力を使い、彼女の居場所を探知しようとします。
しかし――
「……だから、遅いっつーの!」
ズバンッ!
『あっ……!』
気づいたときには、エイルの黄金の剣のひと振りによって、女王の杖もろとも、右側の二枚の羽が斬り落とされていました。
女王は力を失い、ひざからその場にくずれ落ちます。
「……こんな単純な手に引っかかるなんて。やっぱりチカラは強くても、実戦経験が足りないんだね」
エミルは、ぽつりと分析するように冷たくつぶやきました。
シュガーは両手で口をおおったまま、今度はおどろきに目を見開いています。
スノーベルは、女王が傷つけられたことに悲しみを感じていました。
けれど同時に、それ以上に、胸のすくような思いを感じている自分にも気づきました。
エイルは、ひざをつく女王に剣をつきつけ、見下ろしながら言いました。
「羽、痛い? スノーベルは、その痛みに耐えて、がんばって生きて、ちゃんとここに帰ってきたんだよ。それを殺そうって言うんなら、その前に私があんたを殺す」
その、あまりにもまっすぐな言葉に、この場の全員がぞくっとしました。
まっすぐすぎるからこそ、これがおどしではなく、本気なのだと、だれもが理解できたのです。
とくに妹のエミルは、よく知っています。
エイルは、困っている人を放っておけない善人ですが、大切な人をキズつけるような相手には、ほんとうに容赦がないということを。
『……』
女王は、羽を失った右肩に手を当てながら、なにかを考えていました。
エイルの、そしてスノーベルの気持ちを、少しは理解してくれたのか。
エミルたちが、そう期待していた――そのときでした。
『おーっほっほっほっほっほ!』
どこからともなく、妖艶な女性の古風な高笑いが響いてきたのです。
「だ、だれっ!?」
全員が謁見の間を見回し、声の主を探しはじめました。
すると、さらに広間じゅうが、モクモクモクと白い煙に包まれはじめたのです。
『なに!? このケムリ!?』
シロンは思わず口をおさえながら、声をあげました。
視界が白一色に染まっていくなか……エイルの直感は、その気配を見逃しませんでした。
シャキーン!
くずれ落ちた女王の背後――玉座の裏へ向かって、エイルは剣を振り抜いたのです。
『うそ!? 一発でワタクシの居場所をつきとめるなんて……さすが、【チョコング】を倒しただけのコトはあるわねぇ』
その声を聞いたエイルと女王以外の全員が、ハッとしました。
黒腕のチョコング――塩の妖精界で戦ったものの、最後まで名乗らなかったため、姉妹にとっては知らない名前です。
しかし、倒した、というひとことで気がつきました。
声の主も、煙の発生源も……これもまた、【魔王ビターダム】の手先だということに!
やがて煙は晴れていき、もとの青白い氷の謁見の間が姿を取り戻していきます。
霧散していた煙は、一ヶ所へと集まっていきました。
それは、エイルが斬った玉座の裏。白い煙はそこで渦を巻きながら、少しずつ人の形を成していきます。
そして――現れたのは、脚まで届くほど長い、ふわふわとした巻き毛の白髪。ビターチョコレートのような褐色の肌。そして、煙でできているかのような、白く妖しいドレス。口にはシガレットのような小さな筒をくわえています。
その姿は、人間の女性によく似ていましたが――もちろん、人間ではありません。女性の姿をした魔法生物だったのです。
『ワタクシは魔王ビターダム様の四天王の一人、【妖煙のシガレッタ】よ。よろしくねぇ、お菓子の国の残党ちゃんたち』
シガレッタは、くわえたシガレットをゆっくりとくゆらせながら、妖しい瞳でエイルたちを見つめるのでした。
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