第45話 雪原を駆け抜けて
「へえ〜、これがサムマイモで作ったスイートポテトかあ〜……」
エイルは、妖精たちに見せてもらったスイートポテトを前に、よだれをたらしながら感心していました。
ふつうのサツマイモで作られたスイートポテトは黄金色ですが、このサムマイモのスイートポテトは、なんと白銀色。まさに、この雪と氷の銀世界を象徴するスイーツと言えます。
『ねえ! まずシロンたちであじみしてみようよ! おいしいかどうかたしかめないと、じょおうさまにしつれいだもん!』
シロンはりっぱな大義名分を口にしますが、そんなによだれをだらだら流していては、説得力がありません。
『たくさん作りましたから、みなさんもどうぞ!』
妖精たちはにこにこと笑顔を浮かべながら、姉妹たちにスイートポテトを差し出します。
「そ、それじゃあ、おことばに甘えて……」
エミルは口調こそ遠慮がちですが、ごくりとのどを鳴らしていました。
大の甘いもの好きとしては、未知のスイーツを見逃すことなんてできないのです。
姉妹とシュガー、それにエミルの影に隠れているスノーベルが、一個ずつスイートポテトを手に取り……
「『いただきまーす!』」
いっせいにほおばりました。
「『〜〜〜!』」
そして、これまたいっせいに、声にならない声をあげます。
「なにこれ! 外はあつあつなのに、中はひんやりしてて、すごくおいしい!」
エミルも興奮を隠しきれません。
『はいっ! こんなの、お菓子の国にだってありません!』
シュガーもしあわせそうに声をはずませました。
『ひさびさに食べたけど……やっぱりいいわね、この味』
スノーベルも、なつかしそうにほほえみました。
いっぽうで、エイルとシロンのくいしんぼうコンビは、一心不乱に二個目、三個目と、つぎつぎスイートポテトに手を出していきました。
さいわいなことに、たくさん用意されているので、女王さまへのおみやげの分がなくなることはなさそうですが……
「甘いものには、生きものをしあわせにするチカラがある……やっぱり、なくすわけにはいかないね、シュガー!」
『はいっ、エミルさんっ!』
エミルとシュガーは、ぜったいにシュクレーヌを救うんだという気持ちを、より強くするのでした。
☆ ☆ ☆
「妖精のみんな、ありがとー!」
「またいつか、遊びにくるねー!」
姉妹は妖精たちと手を振り合い、村をあとにしました。
「さーて! はりきって女王さまに会いに行こう!」
エイルは意気揚々と、スイートポテトがたっぷり詰まったバスケットをかかげて歩き出しました。
このバスケットには妖精たちの魔法がかかっており、数日は保温が効くというすぐれもの。雪原を歩いても、ほかほかのままおとどけすることができるのです。
『う~……またこのさむいなかあるくの~……?』
シロンはエミルのローブの中で、ブルブル震えながらぼやきました。
「だから、指輪の中に入ってなさいって言ったのに」
『そうだけど~……そーゆーエミルは、さむくないの?』
「そりゃ、寒いけど……」
エミルは一行の中ではいちばん厚着をしていますが、それでもローブの下はミニスカート。凍えるような銀世界の中では、薄着も同然の服装です。
それでもなんとか平気でいられるのは、指輪に宿るパートナーたちの加護のたまものなのでした。
『わたしも、さすがにこれはちょっとこたえます……』
シュガーも白い息をはあっと吐きながら言いました。
自然が具現化した存在ともいえる妖精は、環境への適応力が高いはずなのですが、それでも寒いものは寒いようです。
そんな仲間たちを見かねたスノーベルは、肩をすくめて言いました。
『エイル、ここからはシロに乗って移動しましょう』
「え? でも、野生のコたちをおどかしちゃうよ?」
塩の妖精界でも、同じ理由で徒歩での移動となりました。魔法生物のナワバリをむやみにおびやかすことは、冒険家のマナーに反するのです。
『このシュネージアにかぎっては平気よ。外の環境がきびしいぶん、オオカミ一頭にビビるような軟弱な魔法生物なんていやしないわ』
『さすが、くわしいね、ベル』
シロンは、ニヤリとからかいまじりに感心しました。
『やかましい。アナタたちがこの程度で寒い寒いわめくから、提案してあげたのよ』
雪の妖精であるスノーベルは、寒さを感じません。ふんと胸を張って言いました。
「うん、ありがとう。じゃあ、ここでの道案内はスノーベルにおねがいするね」
『わたしも、それがいいと思う。寒さのせいか、わたしも感覚がにぶっちゃってるみたいで……』
エミルとシュガーは、うれしそうに言いました。
さっきまで様子のおかしかったスノーベルが、すっかりもとの調子にもどってくれたからです。
『し……しかたないわね。まったく、アナタたちには、私がいないとダメだもんね!』
スノーベルは、照れ笑いしながらそっくり返りました。
『ベルってば、ちょーしのってるー』
「いまはそういうこと、言わないの」
茶化すシロンを、エミルがたしなめたあと……
「よーし、じゃあ、出てこい、シロ!」
エイルは高らかに右手をかかげ、指輪から大オオカミのシロを呼び出しました。
雲のように白い体は、この銀世界にとけこみ、まるで保護色のようになっています。
「シロは雪の中を走るの、得意だもんね。たよりにしてるよ」
エミルがそっと毛並みをなでると、シロは『ワンッ!』とうれしそうに鳴きました。
「さあー! みんな、乗った乗った!」
エイルの号令に合わせ、姉妹はつぎつぎとシロの背に乗りこみます。
『じゃ、私たちも』
『……うん!』
いつもどおり差しのべられたスノーベルの手を、シュガーはぎゅっとにぎりしめます。
そして、全員が乗ったことを確認すると、シロはまっしろな雪原を駆け出したのでした。
☆ ☆ ☆
姉妹を乗せたシロは、一直線に、アメ玉が放つ導きの光がしめす場所――雪と氷の女王の居城をめざして走りつづけました。
途中、何体かの魔法生物を見かけましたが……大きなオオカミが走る姿を見ても、こちらに害意がないことがわかったのか、とくに反応を返したりはしませんでした。
まるで、いつもの風景を見ているかのような落ちつきぶりだったのです。中には、逆に一礼をしてくるものもいました。
「ほんとうに、だれもおどろかないんだね」
エミルは目を丸くしていました。
「なんか、はりあいがないなあ。もっとぴりぴりしたものを感じないと、気持ち悪いや」
感覚が野生動物のそれに近いエイルは、わずかな不満を口にしました。
『安心なさい。イヤでもそんな気は味わえるから。ここから先はね』
スノーベルはけわしい顔で、意味深なことをつぶやきます。
その答えは、数分もしないうちにわかりました。
ズズズ……ゴゴゴ……
なんと、シロの数十メートル先で、地面の雪が大きく盛り上がったのです。
そして、その雪の中から――雪でできた巨人と、氷でできた巨人が姿を現しました!
『ひゃあ!』
シロンは、あわててエミルのローブの中に引っこんでしまいました。
巨人たちの威容もおそろしいですが、ただでさえ寒いというのに、なおさら寒そうなやつらが出てきたので、たまらなくなったのです。
「【スノーギガス】に、【アイスゴーレム】……銀世界の番人って呼ばれてる魔法生物たちだ!」
魔法生物にくわしいエミルが、すぐさま解説しました。
『あんなのが出てきたってことは……』
シュガーは不安げに手をにぎりながらつぶやきました。
『……ええ。ここはもう、女王さまの領域。あいつらは、それを守るガーディアンってわけ!』
スノーベルはキッと目を細めました。
エイルとシロも、目の前に立ちはだかる番人たちをにらみます。
雪原を吹き抜ける冷たい風が、四人と一匹のあいだを駆け抜けていきました。
はたして姉妹は、この雪と氷の巨壁を、どう突破するのでしょうか?
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