第36話 勇気爆発
「お姉ちゃん!」
『エイルさんっ!』
エミルが杖を振ると同時に、シュガーとスノーベルは白い光に変化します。
そして……チョコングと渡り合っているエイルの左手ににぎられた白銀の剣と合体し……
「『完成! 《アイスキャディバー!》』」
巨大な一本のバニラアイスキャンディとなりました!
『な……なんだそりゃあ!? ふざけてんのか!?』
チョコングの言い分も、もっともです。
いちおうこちらの味方である白い大妖精も、同じ感想をいだきながら、あぜんとして固まっていました。
「ふざけてるかどうか……たしかめてみろっ!」
エイルは、カチンときたような怒りの表情で、両手で巨大アイスキャンディを振り上げました。
この《アイスキャディバー》を通じて、シュガーがおびえながらも勇気をふりしぼってくれていることが、熱いほど伝わってきます。
それをバカにしたようなチョコングの態度が、エイルにはどうしても許せなかったのです。
『アイスだけに、なめんじゃねーっ!』
高く跳び上がり、チョコングの脳天へアイスキャンディをたたきこもうとするエイルを迎え撃つべく、チョコングも腰をひねります。
そして──巨大アイスキャンディと漆黒の右拳が、真正面から激突しました!
バキィィィン!
そのとき──信じられないことが起こりました。
『な……なんだとおォォォォ!?』
チョコングと、見守っていた白い大妖精の絶叫が重なりました。
それほどまでに、驚愕の光景だったのです。
巨大アイスキャンディを打ち抜かんとしたチョコングの黒い右腕が……まるでかみ砕かれた板チョコレートのように、バラバラに砕け散ってしまったのですから。
『し……信じられん! まさか、こんなことが!』
これは、白い大妖精の言葉です。いっぽうのチョコングは、右腕を失った衝撃と痛みに、あえぐことしかできません。
たしかに、シュガーにハッパをかけたのは自分です。ですが、まさか、あの巨体の右腕を文字どおり粉砕するほどの爆発力を発揮するなんて、想像もしていなかったのです。
『すっご……』
シロンも、完全に言葉を失っていました。
ただひとり、エミルだけが、この結果を確信していたかのように、不敵にほほえんでいました。
(こ……こいつ〜!)
痛みにもだえながら、チョコングはいまいましげにエイルを……そして、その手ににぎられたアイスキャンディをにらみつけました。
自分の右腕を破壊したのは、まぎれもなく、あの小さな妖精の"甘味のチカラ"です。あの、ふざけているとしか思えない風体に、そのチカラが最大限に凝縮されていたのです。
さらに、それを使いこなし、たやすく振り回してしまえるマントの娘……
(こいつら、100パーセントまちがいなく、魔王サマの脅威となる!)
そう完全に確信したチョコングは、カッと目を見開きました。
遊びはおしまいです。全力をもって、このムスメと妖精を排除せねば──
「……本気出すの、遅いっつーの!」
バリィィーン!
次の瞬間、チョコングの視界が、ぐるりと360度回転しました。
『え……?』
あまりのことに、自分の身に何が起きたのか気づくのも遅れます。
チョコングの右腕を破壊した直後……着地したエイルは、さらにアイスキャンディを大きく振りかぶりました。
そして――横なぎの一撃を、チョコングの胴体へとたたきこみ……その一撃によって、チョコングの巨体は上下まっぷたつに割れてしまったのです。
チョコングの視界が回転した理由は……その上半身が、上空をくるくると舞っていたからなのでした。
ズズーン……
割れたチョコングの上半身と下半身は、ほぼ同時に塩砂の上へ落下しました。
『ちく……しょ……』
自分の敗北と、これからおとずれる最期のときを理解したチョコングが、くやしげにつぶやいた瞬間。
その砕けた体は黒い光の粒子となって、さらさらとほどけていき……紺とマゼンタのグラデーションに染まった夜空へ、吸い込まれるように昇っていきました。
「……死んだらすぐに天へ還るっていう、この妖精界のことわり……外から来た生きものにも適用されるんだね」
エミルは杖を下ろすと、冷静に分析しました。
『……それってやっぱり、シロンたちもやられたら、ああなってたってことだよね?』
シロンはぞっとしたように、自分の小さな体を抱きしめ、ぶるぶると震え上がりました。
『……』
白い大妖精は、なにか思うところがあるのか、無言のまま黒い光の粒子を見送っていました。
「ふうっ」
エイルが大きく息を吐くと、《アイスキャディバー》は解除され、もとの二本の剣に戻りました。
合体していたシュガーとスノーベルも、白い光とともに、もとの妖精の姿へ戻ります。
『やったわね!』
スノーベルがグータッチを求めると、
『……うん!』
シュガーは汗びっしょりになりながらも、晴れやかな笑顔でこたえました。
そこに──
がばっ!
『『きゃあっ!?』』
エイルが、ふたりの妖精を両手で包み込んだのです。
「よくやったね、ふたりとも! おかげで、あいつをやっつけられたよ。ありがとう!」
エイルは、おひさまのような満面の笑顔で、妖精たちにお礼を言いました。
『あ……あつい……溶けるぅ……』
『く……苦しいです、エイルさん……』
妖精たちは、汗ばんだエイルの両手にぎゅうぎゅうにされて、もだえています。
「ああ、ごめんごめん」
エイルは、あわててぱっと両手を開きました。
「『おねえちゃーん!』」
そこへ、エミルとシロンも駆け寄ってきました。
「おお、エミルもありがとうね。ナイスアシストだったよ」
「わたしは、ちょっとマナを分けてあげただけだよ。がんばったのは、シュガー!」
『ちょっと、私もがんばってたんだけど?』
スノーベルは、ぷんすかと口をとがらせます。
「ああ、ごめん。もちろん、スノーベルもがんばってたよ!」
『まったく……あなたたちは、姉妹そろって……』
スノーベルは不満げに、ぶつくさとつぶやき続けるのでした。
「さあーて! 思わぬジャマが入ったけど、あらためておやすみしようか!」
エイルは、ぐいーっと伸びをして宣言しました。
どうやら、大元のチョコングを倒したためか、これまで体をむしばんでいた苦味の影響は、もうすっかり消えているようです。
「そうだね。わたしも、どっと疲れちゃった」
『シロンも、もうねむた〜い!』
妹たちも、妖精たちも、ようやくおやすみモードに切り替えようとしていた、そのときでした。
『……しかたがない。休むんなら、俺の家に泊めてやる。外にいるよりは、ずっと体が休まるだろう』
どういう風の吹き回しか……白い大妖精が、そんな思いがけない提案をするのでした。
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