↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 妖精の国のSOS  作者: 稲葉トキオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/84

第32話 塩と妖精と塩対応

 姉妹たちは、塩でできた砂浜――というか、ほぼ砂漠みたいなものですが――を歩き続けていました。


 しかし、行けども行けども塩ばかり。遭遇する魔法生物(ワンダー)も、岩塩でできた生きものや石人形(ゴーレム)ばかり……というか、ぜんぶゴーレムと形容してもいいんじゃないでしょうか。とにかく"ふつうのケモノ"を、まったく見かけないのです。


 そんな景色がどこまでも続いていたので、姉妹たちは体力以上に、精神的な疲れを感じはじめていました。


『ねえ! シロにのっていこうよ。あるいてたら、もくてきちにつくまで、どれだけかかるかわかんないもん!』


 シロンが、うんざりした顔で提案しました。


「うーん、そういうわけにはいかないでしょ。ねえエミル、ベル?」


 エイルはバツが悪そうに頭をかきながら、エミルとスノーベルにたずねました。


「うん、そうだね。よくはないね」


『なんだ、おバカさんかと思ってたら、案外わかってるじゃない』


『え? どういうこと? シロンにもわかるようにおしえてよー!』


 シロンは、だだをこねました。


 エミルと出会って8年になりますが、こういうところは、いつまでもまったく変わっていません。


『妖精はねえ、基本的におくびょうな生きものなのよ。シロみたいにおっきくて強いオオカミの姿なんか見たら、ビビり散らかすか、最悪、気絶しちゃうわ! 私は人間界暮らしが長いから、平気だったけど!』


 スノーベルは解説しながら、とくいげに胸を張りました。


「魔法生物(ワンダー)のナワバリで、彼らをびっくりさせることはしないようにって、むかし教わったでしょ?」


『むー、そっか。そうだよね。ざんねん……』


 シロンはしゅんとしてしまいましたが、納得はしてくれたようでした。


『わたしも、はじめて見たときはびっくりしちゃいましたけど……シロさんって、いいオオカミさんですよね』


 エミルの肩の上で休んでいる、お砂糖の妖精シュガーが、ぽつりとそうつぶやくと――


「『だよね!』」


 エミルとシロンが、ぐいっと顔を近づけてきました。


「ひゃっ!」


 突然のことに、シュガーはびくっと肩をすくめます。


「シロって、ちっちゃなころからいい子なんだよ!」


『シロンにとっては、じまんのおにいちゃんなの!』


 ふたりとも、とてもうれしそうに話します。


 ひかえめなシュガーは、その勢いに圧倒されてしまいます。


 けれど、ふたりとシロが、とても強い絆で結ばれているということは、よく伝わってきました。


『いいなあ……』


 気がつくと、シュガーは、ぼそっとそんなことをつぶやいていました。


 人間と魔法生物(ワンダー)とのあいだに結ばれる絆。それが、うらやましいと感じるようになったのです。


 エミルとのパートナー契約は、あくまで魔王ビターダムを倒し、シュクレーヌを救うまでのこと。それが終われば、お別れです。


 今回の冒険を経て、エミルの人となりは、よくわかりました。


 心やさしく、魔法生物(ワンダー)を愛していて、困っているものを放っておけず、それを助けるためなら命をかけられる……シュガーにとってエミルは、とてもステキな人でした。


 もし許されるのなら、使命を終えたあとも、エミルのパートナーでいたい……そんな気持ちが、シュガーの心の中に芽生えはじめていたのでした。


『……』


 そんなシュガーの顔を見て、スノーベルは、どこか含みのあるほほえみを浮かべていました。


「あ! エミル! みんな! あれ見て!」


 すると、先頭を歩いていたエイルが、前方を指さしました。


 見ると、数百メートル先の塩砂が、こんもりと盛り上がっています。規模的には砂丘というより、砂山といったほうがよさそうです。


「シュガー!」


 エミルは、肩の上のシュガーに呼びかけました。


「はいっ!」


 シュガーは一瞬おどろいたあと、アメ玉に念じます。


 すると、アメ玉から道しるべの光が放たれました。


 赤い光は、はっきりと、この先に見える塩砂の山のてっぺんを指しています。


 つまり、あそここそが、目的の場所――シュクレーヌへとつながる異空間トンネルを、つなげられるかもしれない場所なのです。


「よーし、エミル、走るよっ!」


 そうとわかると、エイルはまっさきに駆け出しました。


「待ってよー! お姉ちゃーん!」


 エミルも、あわててそのあとを追いかけます。


 肩の上のシュガー、空を飛んでいるシロンとスノーベルをともなって――塩の砂浜に、姉妹たちの足音が軽快に響いていきました。



 ☆ ☆ ☆



 塩砂山のふもとにたどり着いた姉妹は、いきおいこんで山をのぼっていきます。


 傾斜のうえ、足もとの塩砂はたいへんサラサラしていて、のぼりにくいことこの上ないのですが、エイルはもちろん、エミルもパートナーたちの加護によって強化された身体能力で、なんなく進んでいきます。


 シロンと妖精ふたりは空を飛べるので、もちろん関係ありません。


 そして、姉妹たちが山のてっぺんへたどり着くと、そこには――


「なんだこりゃ!」


 エイルも思わず、目を丸くしました。


 姉妹の目の前には、塩砂で作られた、かまくらのような建築物(?)があったのです。


 よく見ると、入口らしきドアや窓、煙突まであります。


 どうやら、誰かの家のようですが……


『大きいですね……』


『ええ、少なくとも、一般妖精のものじゃないわ』


 シュガーとスノーベルの言う通り、このかまくらハウスは、ふつうの人間サイズの家です。


 妖精界でこんな家に住むのは、人間と変わらない大きさを持つ、大妖精くらいのものです。


「とりあえず、おじゃましてみようよ」


 エイルはノックをしようと、ドアに近づきました。


「うーん、シュクレーヌへの《妖精の抜け道》を開けるにしても、ここのお庭を使わせてもらうことになるわけだし……あいさつしておいたほうがいい、よね」


 エミルの常識的な結論を聞くが早いか、エイルはコンコンとドアをたたきました。


「ごめんくさーい」


「ごめんください、でしょ」


 姉妹でそんなボケとツッコミをくりひろげていると、ガチャッという音とともに、ドアが開かれました。


『……誰だ』


 消え入りそうで、けだるげな声とともに出迎えたのは、シュガーに負けず劣らずまっしろずくめの、男性の大妖精でした。


 しかし、その外見は、大妖精というにはあまりにもみすぼらしいものでした。


 頬は痩せこけ、服もボロボロ。そして、妖精のトレードマークである羽も、力なくしなだれています。


 姉妹は、その容貌に一瞬面くらいましたが、気を取り直して話を切り出しました。


「急におたずねしてしまって、もうしわけありません。はじめまして。わたし、魔法つかい(ウィザード)のエミル・スターリングといいます。こっちは姉のエイルで、パートナーのシロン、シュガーとスノーベルです」


 エミルに紹介されたエイルとパートナーたちは、そろってぺこりと頭を下げました。


 すると、シュガーとスノーベルの姿を見るなり、白い大妖精は、くぼんだ目を大きく見開いたのです。


『お前たち……人間に……妖精か?』


『ええ、そうよ。見ればわかるでしょ?』


 スノーベルは勝ち気に答えると、その場でくるりと一回転しました。


 白い大妖精は、わなわなとこぶしをふるわせます。


 そして、キッとエミルをにらみつけると、たずねました。


『……何の用で来た』


 そのけわしい態度に、エミルはまた面くらいます。


 それでも、ものおじすることなく、こたえました。


「わたしたち、ちょっとした手ちがいで、この世界に来ちゃって……それで、本来の目的地に行くためには、ここから《妖精の抜け道》を開けるしかないらしいので、ほんの少しのあいだ、お庭を使わせてもらえませんか?」


 白い大妖精は、しばらくエミルを見つめたあと、ぶっきらぼうに言いました。


『そういうことなら、勝手にしろ。さっさと出て行ってくれるなら、いい』


 そして、ドアを力強くバタン! と閉めて、家の中へと戻っていったのでした。


『なに、あのひと! かんじわるーい!』


 シロンは白い顔を真っ赤にして、ぷんすかしました。


「まあ、出て行けっていうなら、言われた通りにしてやればいいじゃない」


 エイルもくちびるをとがらせながら言いました。


『まさに、塩対応ってやつね。塩の世界の大妖精には、お似合いだわ!』


 スノーベルもカンカンのようです。


『でも……あの大妖精さま、まるで妖精をきらってるみたいだった……』


 ただひとり、シュガーだけは、あの大妖精の態度の理由が気になっているようでした。


 大妖精がシュガーたちを見たときの、あの驚いた表情。そして、怒りに満ちたような目。


 シュガーには、ただの"塩対応"とは思えなかったのです。


「……考えても、しかたないよ。たしかに、わたしも気にならないわけじゃないけど、いまはわたしたちのやるべきことをやろう。おねがいできる?」


 そんなシュガーに、気持ちを切り替えるよう、エミルがたずねます。


『……はい、やってみます……!』


 シュガーは小さくうなずくと、両手を前に突き出し、意識を集中させました。


 これから開くのは、別の場所へとつながる異空間トンネル――《妖精の抜け道(フェアリートレイル)》。


 はたして、推測通りにシュクレーヌへつなげることができるのでしょうか?

お読みいただき、ありがとうございました。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、

ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。