第26話 完成!アイスキャディバー!
エイルは【神鳥シルフムルグ】の返事を聞くまもなく、ダッと駆け出しました。
『む、速いな!』
その踏みこみの速さたるや、神の名を持つ神鳥でさえ舌を巻くほどです。気がつけば、エイルの金の剣が、その首めがけて振り下ろされていました。
スカッ!
しかし、神鳥はすばやく首を引き、エイルの攻撃を紙一重でかわします。
すかさず左の銀の剣で二撃目を加えようとしますが、それもひらりとかわされてしまいました。
さすがは神の獣です。大きな図体のわりに動きは軽く、高い柔軟性もかねそなえているようです。
『フッ!』
神鳥は引いた首を勢いよく戻し、その反動を利用して、頭にある王冠状のトサカを空中のエイルへたたきこみました!
ドゴーン!
エイルは強烈な衝撃で吹き飛ばされ、いきおいよく屋上にたたきつけられます。
「お姉ちゃんっ!」
エミルは思わず声をあげ、エイルのもとへ駆け寄りました。
いつだって無敵だと信じているお姉ちゃんが、こんなにあっさりやられたことに、とまどいを隠せないようです。
「へーきっ! エミルは離れて、作戦とかサポートおねがいっ!」
ところがエイルは、笑顔でひょいっと跳ね起きると、ふたたび神鳥に向かって突っこんでいきました。
目立ったケガも見当たらず、どうやら大したダメージではないようです。
『ほんっと、あきれるほどの体力バカね……』
スノーベルも、やれやれと肩をすくめました。
『……でも、そうは言われても正直、私たちにできることってある?』
たしかに、スノーベルの言う通りかもしれません。
こうしているあいだにも、エイルと神鳥の攻防は激しく続いています。けれど、感じる二人との実力差はあまりにも大きく、とてもエミルたちが割って入れるような状況ではありません。
シュガーも、せっかくやる気になってきたものの、胸の中にともった勇気の灯が、激闘の風圧で吹き消されてしまいそうな状態でした。
それは、シロンも同じでした。あの中に得意の火炎の息を吐き出したところで、激しい風にかき消されてしまうのは、まさに火を見るよりあきらかです。
それでもエミルは、まっすぐにお姉ちゃんのすがたを見すえながら言いました。
「そうだね。わたしたちのチカラじゃ、神鳥をどうすることもできない。……でも、お姉ちゃんを助けることはできるよ。シュガー、スノーベル」
そう言って、エミルは妖精ふたりに協力を呼びかけました。
『なにか、考えがあるのね?』
スノーベルが神妙な面持ちでたずねます。
彼女は前の冒険で知っているのです。エミルのとんでもない発想が、とんでもないピンチを何度も救ってきたことを。
「うん。わたしね、アイスクリームが大好きなんだ!」
『『はい??』』
満面の笑顔で、いきなりそんな場ちがいなことを宣言するエミル。
妖精ふたりは、そろってぽかーんとするのでした。
キン! キン! ガキィーン!
『ははは! 楽しいぞ! 巨獣狩りの剣星!』
――こっちはぜんぜん、楽しくなんかないっつーの!
戦闘中はムダな声をあげないエイルは、そんなことを言いたげな顔をしながら、猛攻を続けていました。
しかし、そのどれもが神鳥のツメやクチバシでいなされ、決定打にはいたりません。
指輪を通じて《風刃》をはじめとしたシロの魔法を使おうにも、彼は走りつかれて指輪の中でぐったりしています。いまのエイルには、自分の剣技だけで戦うしかありません。
『……だが、このような単調な小競り合いにも、少々飽きてきたなっ!』
神鳥は翼でエイルをはじき飛ばし、距離を取ったところで、クチバシのまわりにうずまく緑の風をまとわせました。
風の属性を持つ鳥型魔法生物が得意とする、《スパイラルビーク》という攻撃魔法です。
「!」
エイルはとっさに胸の前で剣を交差させ、身を守ろうとします。
しかし、本能的に察知していました。風をまとい、ドリルのようになったクチバシの一撃。この程度の構えでは、とても防ぎきれません。
致命傷は避けられたとしても、大ダメージはまぬがれないでしょう。
「《クリスタルシールド》!」
ドガキィイーーーン!
空間が切り裂かれたかのような、するどい音が響きわたります。
クチバシが炸裂し、その衝撃でエイルはまた吹き飛ばされ、流れ星のように屋上の床へ激突しました。
「いつつ……ナイスだよ、エミル」
エイルは黄金の剣を杖代わりにして、よろりと立ち上がりました。
思ったよりも、ダメージは少ないようです。どうしてかというと……
『……なんとか、守れたみたいね……』
後方では、スノーベルが両手をつき出して、ほっとひと息ついていました。
そのわきでは、エミルが杖をつきつけています。
そうです。クチバシが当たる直前、スノーベルがエイルの目の前に氷の盾を出す魔法を使い、その威力を殺したのです。
「うん、うまくいった。ありがとう……」
エミルは目を細めて、左手の薬指の指輪に向かってお礼を言いました。
《クリスタルシールド》は、エミルがとてもよく知っている、氷の属性の防御魔法です。
スノーベルは本来、雪の妖精にもかかわらず習得していない魔法でしたが、エミルはその魔法をずっとそばで見ていたおかげで、彼女に使わせることができたのです。
『ほう、さすがは姉妹。なんとも息の合ったことよ』
神鳥も、ぷはっと息を吐いて、ナイスタイミングの防御に感心していました。
「さあ! 今度はこっちが大技を見せる番だよ! ふたりとも、準備はいい?」
エミルは、シュガーとスノーベルに呼びかけます。
ふたりの妖精は、とまどいぎみではありましたが、覚悟を決めた表情でうなずくのでした。
「お姉ちゃん!」
エミルは、今度はエイルを呼びます。
さすがは姉妹というべきか、エイルはエミルの声と表情だけで、その意図を察したようでした。
『はてさて、今度はいったいどんなおもしろいものを見せてくれるのかな?』
神鳥も、完全に遊び気分です。
――たしかに、おもしろいものを見せてやるけど、そんなこと言ってられるのも、いまのうちだよ!
姉妹の心の声は、一致していました。
「シュガー! スノーベル!」
エミルが、くいくいっと杖を振ります。
すると、シュガーとスノーベルの姿が、白い光の球へと変わっていきました。
そして、そのままビューンと、エイルに向かって飛んでいきます!
光の球と化した妖精たちは、エイルの左手ににぎられた白銀の剣と合体し――
カッ!
まばゆいばかりの白い光が、塔の屋上いっぱいにひろがりました!
『まぶしーっ!』
これにはシロンも、神鳥ですら目がくらみ、身をよじらせます。
やがて光が弱まり、エイルの姿があらわになりました。
その両手ににぎられているのは――
「できた! 名づけて、《アイスキャディバー》! ……なんてね!」
それは、とてもひとりでは食べきれそうもないほど大きな、一本のバニラアイスキャンディだったのです!
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