第24話 神鳥とのご対面
シュガーは、ついに自分自身の持つふしぎなチカラ――魔法に目覚めました。
全身から放つ甘いお砂糖のにおいによって、魔法つかいと魔法生物の心をしあわせな気持ちで満たし、その魔法の効果を限界以上にまで高める――まさに、お菓子の国の妖精にふさわしいチカラです。
それにより、シロンの飛行魔法はエミルの持つ浄化のチカラと合わさることで、三階フロアを満たしていた神鳥の"羽封じ"の威圧を打ち破ることができたのでした。
というわけで、姉妹は吹き抜けに点々と浮かぶ足場を乗り継ぐ三階フロアを、あっさりと飛んでクリアし、次なる四階へと進んだのでした。
四階は、ただまっすぐ長い通路が伸びているだけの、言ってしまえばおもしろみのないフロアでした。
けれど、その長さは果てが見えず、外観から目算した塔の面積をゆうに超えているように感じられます。二階、三階の吹き抜けといい、さすがダンジョンらしい、なんでもありの空間です。
しかし、例によってというべきか、こちらの進行をはばむための……今回は強烈な向かい風が吹いていました。
一階でも遭遇した【ストームバード】の群れによるものではなさそうですが……どちらにしろ、やっかい……とは、今回の姉妹は思っていませんでした。
「シロ!」
エイルは大オオカミのシロを呼び出します。
エミルはシロンと妖精ふたりをともなって、その背中にまたがりました。
「行けっ!」
『ワオーン!』
エイルの号令とともに、シロはひと吠えすると、ダッと通路を駆け出しました。
強烈な向かい風をものともせず、まっすぐ突き進んでいきます。
「うっく……!」
しかし、強風にさらされたことで、背中のエミルは身をすくませました。
シロンもシュガーもスノーベルも、飛ばされまいと必死にエミルのローブをつかんでいます。本来なら、指輪の中に入っているべきなのでしょうが……そうしないのには、もちろん理由があります。
「ちっ……」
前に乗るエイルも、顔をしかめ、舌打ちしながら、ぎゅっとシロの毛をつかんで耐えていました。
シロ自身も強風に押され、減速をはじめています。このままでは、背中の姉妹もろとも吹き飛ばされてしまうでしょう。
そこで――
「シュガー! おねがい!」
『は、はい!』
シュガーの魔法――《パウダーシュガー》の出番です。
シュガーはぎゅっと全身に力を入れると、全身から白い光の粒子を放ちました。
それはまるで粉砂糖をまぶすかのように、エイルとシロの体へ降りかかっていきます。
「うっひゃあ! いいにおい! 元気出る!」
『ワンッ!』
すると、嗅覚の鋭いエイルとシロは、甘いにおいに包まれて元気いっぱい。
騎乗魔法の効果も強化され、向かい風に負けないスピードとパワーを発揮しました!
『いいぞー! シロー! いけいけー!』
シロンはエミルの肩につかまりながら、ノリノリで声援を送ります。
シロンも、シロにとってはかわいい妹。いいところを見せてやろうと張りきり、さらにスピードを増しました。
そして――
「見えた! 階段っ!」
エミルが声をあげました。
果てのない通路の奥に、ついに階段が見えるところまでやってきたのです。
「よーし、シロ、ラストスパートだ!」
『いっちゃえー!』
エイルとシロンのさらなる声援を受け、シロは一気に加速します。
そして、次の階への階段を、勢いよく駆けのぼっていきました。
☆ ☆ ☆
『ワフ……』
姉妹を乗せたシロは、道幅の広い螺旋階段を少し上ったところで、その場にへたりこんでしまいます。
「どうしたー? シロ? まだ走れるだろー?」
エイルはそんな相棒の頭をぺちぺちたたきますが、シロはぐったりしたまま、動く気配がありません。
「シュガーの魔法、限界以上の力を引き出すみたいだから……体が持たなくなっちゃうんだね」
エミルは、そう分析しました。
『ご、ごめんなさい。わたしのせいで……』
シュガーは、ぺこぺこと頭を下げました。
『あやまる必要なんてないでしょ。アナタのチカラがなかったら、そもそもここまで来られなかったわ』
スノーベルは、そうなぐさめてくれました。
『そうだよ! シュガーがいなかったら、さんかいでシロンもエミルもおっこちちゃってたもん!』
シロンもいっしょになって言いました。
『そ……そう? あ、ありがとう……』
シュガーは照れくさそうにうつむいて、お礼を言いました。
お礼を言われたのなんて、はたして何十年ぶりのことでしょう。あまりにごぶさたすぎて、まるではじめて経験することのようです。
「ま、そういうことならしょうがないか。おつかれ、シロ」
エイルは労をねぎらいながら、シロを指輪の中に戻してあげました。
そして、上へ上へと続く螺旋階段を見上げます。
「この階段、長そうだけど、みんな歩けるよね?」
エイルがニッと笑って意思を確認すると、
「『もちろん!』」
エミルとシロンは、声をそろえて自信満々に言いました。
『アナタは、エミルの肩に乗っかってるだけでしょうが』
スノーベルがシロンに、あきれ顔でツッコミを入れます。
『むきー! そっちだって、ずっととんでるだけのくせにー!』
『おあいにくさま。妖精だって、飛ぶのはラクじゃないのよー!』
『ふ、ふたりとも、ケンカしないで……』
などと、ほほえましいやりとりをはさみながら、一行は階段を上っていきます。
はたして、何分歩いたことでしょうか。
やがて、差し込むようなまぶしい光が見えてきました。
「あれって……外からの光?」
エミルが言いました。
どうやら、この階段の先は最上階どころか、そのまま塔の屋上まで続いているようです。
姉妹と妖精たちは顔を見合わせ、うなずき合うと、上る足を早めていきました。
そして――ついに、塔の屋上へと到達したのです。
☆ ☆ ☆
「うーん、気持ちいい風!」
エイルは両手をがばっとひろげて、屋上に吹く風を感じていました。やまぶき色の長い髪とペールオレンジのマントが、風を受けて大きくゆらめきます。
屋上は、半径数十メートルほどの円形になっています。
とても、これまで進んできた塔の広いフロアからは考えられないほどの面積です。やはり内部は空間が拡張された、ふしぎな空間になっていたのでしょう。
外周を強風から守るための緑色のバリアがおおっていること以外は、なんということはない場所に思えます。
しかし――姉妹は、この空間にただならぬ雰囲気を感じ、すぐに真剣な面持ちになっていました。
この整備された円形のフィールド……まるで闘技場のように、戦うためにあつらえた場所のような気がしてならないからです。
そして、くしくもその予感は、当たっていたことになります。
「『!』」
その瞬間――
上空から、まるでこの場の重力が増したかのような、強烈なプレッシャーを感じました。
魔法生物であるシロンとシュガー、スノーベルは、目をむいて激しく身ぶるいするほどです。
「来る……!」
エミルが冷や汗をたらし、そうつぶやいた瞬間――
バサッ、バサッ……
大きな羽音とともに、それは空から舞い降りました。
全長20メートルはくだらない巨体。
風そのものを思わせる、あざやかな緑の翼。
凛々しくも雄々しく、なにより神々しい輝きをたたえた、金色の瞳。
その姿だけで、そこにいる者すべてを圧倒するほどの威厳を放っています。
『人間が、それもこのような子供が来るとはめずらしい。して、何用で参った?』
直接、頭に響くような、おごそかな声。
その声を聞いた瞬間、姉妹は思わず息をのみました。
【神鳥シルフムルグ】――ついに、対面のときがおとずれたのです。
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