第22話 飛べないけど、跳んでゆく
「うげっ」
三階フロアに足を踏み入れるなり、エイルは引いたような声をもらしました。
あとにつづくエミルとシロン、シュガーとスノーベルも、同じように顔をしかめます。
三階もまた、二階と同じく、床が吹き抜けの空洞になっていました。とぎれた道の奥に、次の階段があるのも同じです。
ただし今回は、ところどころに、宙にぷかぷかと浮かぶ円形の足場が点在していました。大きさは、人間ふたりなら、なんとか乗れそうなほどです。
どうやら、あれらを乗り継いで先へ進め、ということらしいです。二階より、さらに難易度が上がっています。
ですが、さいわいというべきか……
「……今回は、それほど風は強くないね。これならレッディに乗って、飛んで渡れそう!」
エミルは明るい声で言いました。
この階も二階と同じく、階下から上昇気流が吹き上げてきています。とはいえ、飛行をさまたげるほどの強さではありません。これならムリに足場を渡らずとも、一気に空を飛んで攻略できます。
「それじゃレッディ、出ておいで……」
エミルは指輪から、【ソルフェニックス】のレッディを呼び出そうとします……
が、反応がありません。
「あ、あれ? レッディ、どうしたの?」
エミルは指輪の宝石をのぞきこんでたずねてみますが、やっぱり反応がありませんでした。
『あの……レッディも同じ鳥だから、神鳥を恐れているんじゃ……?』
シュガーが、わずかに声を震わせながら推測を口にしました。人一倍おくびょうな彼女の言うことだけに、妙な説得力があります。
たしかに、二階で出会った【ストームバード】も、頂上にいるであろう【神獣シルフムルグ】を恐れて、引き返していきました。
不死鳥とはいえ、同じ鳥であるレッディもまた、鳥の頂点ともいえる存在におびえるのは、ムリのないことかもしれません。
「じゃあ、シロンに乗っていけばいいよ。シロンもおっきくなったら、乗れるでしょ?」
エイルが提案しました。
シロンはチビドラゴンですが、エミルの生命エネルギーをもらえば、魔法で人型や大きなドラゴンに変身できます。
しかし……
『ううん。むりだよ。シロン、エミルひとりしかのせられないもん』
シロンは、かぶりを振りました。
魔法生物が人間を安全に乗せて移動する《騎乗》の魔法は、高い技術を必要とします。ふだんチビドラゴンの姿ですごしているシロンは、そんな訓練をしていません。エミルひとりを乗せて、短時間飛ぶのがせいいっぱいなのです。
しかも、けっして安全とはいえません。この部屋の上昇気流の中では、エミルを振り落としてしまうおそれがあります。
『それに、それだけじゃない。階を登って神鳥とやらの威圧感が強まったせいか、私たちも羽をうまく動かせない。こうして宙に浮いてはいられるけど、気流の吹く中での飛行はムリよ』
スノーベルが、わずかに顔をしかめて言うと、シロンもうんうんとうなずきました。
どうやら、神鳥の威圧感は、羽や翼を持つものには、とくに強く影響するみたいです。
「じゃあ、しょうがないな。だったら、あの足場をジャンプで乗り継いでいくっきゃないね」
エイルはキリッと、点在する足場を見すえると――
助走をつけて、いきなり大ジャンプ!
「『わあっ!?』」
取り残されたエミルたちは、いっせいに声をあげます。
宙に浮かぶエイルは、上昇気流にも助けられ、ふわふわと浮かびながら、最初の足場へと無事に着地しました。
「『ふう~……』」
見守っていたエミルたちは、いっせいに安堵のため息をつきました。
「ほらー! エミルたちも早くおいでよー!」
向こう側で、エイルが元気に手を振って呼びかけてきます。
ムリだよ。
そう言いたい言葉を、エミルたちは飲みこみました。だって、言ってもきっとムダですもの。
なにしろ、いまいる階段前から、エイルのいる足場までの距離は、十数メートル以上はあります。走り幅跳びの記録保持者だって、あんなに遠くには跳べません。それができるのは、エイルの超人的な身体能力と、強力すぎるパートナーたちの加護があってこそです。
そんなとき、シロンが自信ありげに言いました。
『じゃあ、シロンがエミルをつれてとぶよ』
「え? でも、いまのシロンはうまく飛べないんでしょ?」
『とぶんじゃないよ。とぶんだよ』
『いや、なにがちがうのよ。意味わかんないんだけど』
スノーベルも、あきれ顔でツッコミを入れます。
『だからー……』
すると、シロンの体が光に包まれ、その姿がみるみる変わっていきました。
それは、身長160センチ前後で、白いボブカットの髪とワンピース、クリーム色の肌に金の瞳。そして、ぷにっとしたツノとしっぽ、さらに翼を生やした、かわいらしい少女の姿でした。
はじめて見るシュガーは、びっくり仰天です。
『私がエミルをかかえて、お姉ちゃんみたいにジャンプであっちにわたるってこと!』
その言葉づかいからは、ふだんのシロンの幼さが薄れており、シュガーはさらにびっくりしました。
『あー、そういえば、あんた、人型になれるんだっけ』
スノーベルは思い出したように言いました。まったく感心した様子はありません。
『そうだよ。いまの私なら、ひとっとび!』
シロンは胸を張って言うと、さっそくエミルを抱えようとします。
「ちょ、ちょっと待って、シロン。本当にできるの?」
エミルはあわてた様子で、いぶかしげにたずねました。
『う、うん。たぶんできる……と、思う……』
そのトーンはだんだん落ちていき、自信のなさがにじみ出ていました。
『ちょっと! さっきのドヤ顔は、なんだったのよっ!』
スノーベルは、くわっとシロンにつめ寄りました。
『いや、きゅうになんかこわくなっちゃって』
『早すぎでしょ、日和るの!』
スノーベルは、ただあきれるばかりです。
エミルとシュガーも、苦笑いを浮かべました。
たしかに少女の姿でも、ドラゴンのシロンの身体能力は高いです。ですが、それでもエイルにはおよびません。さらにエミルを抱えてとなると、まず不可能でしょう。跳ぶ前に、それをちゃんと判断できたのは、りっぱと言えるかもしれません。
しかし……またも八方ふさがりであるという事実は、変わりませんでした。
『そういえば、ベルもおっきくなれるんじゃないの?』
シロンは以前、スノーベルが人型に変身しているところを見たことがあるのです。
『ザンネンだけど、あのチカラはもう使えないわ。浄化されて、なくなっちゃったからね』
『これが真の姿だー、とか言ってたくせに?』
『うるさいわね! いまはそんなことどうでもいいでしょ! それより、ここをどうくぐり抜けるかが重要でしょ!』
シロンとスノーベルが、不毛な言い合いをしているときでした。
『あの……わ、わたしにひとつ、考えがあるんですけど……』
シュガーが小さく手をあげるのでした。
この塔の攻略において、冴えに冴えている彼女の提案に、エミルたちは耳をかたむけます。
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