第20話 一階二階をいったりきたり
『あ……そっちはダメです。さっきみたいに魔法生物が、たくさんいます』
『チカラの強さも、さっきの鳥たちに近い感じだわ。やっかいそうよ』
「うん、わかった。じゃあ、いちばん安全そうな道を教えてくれる? 魔法生物がいても、勝てそうな数なら問題ないからさ」
『わ、わかりましたっ』
先頭を歩くエイルは、シュガーとスノーベル、二体の妖精をともなって迷路を進んでいました。
スノーベルの言う通り、魔力の波長を合わせての感知は効果てきめんです。エイル自身の野生のカンも合わせれば、危険な道を選ぶことはほとんどありません。
それでも、どうしても戦いを避けられない魔法生物と出会うことはありました。ですが、そんなときもエイルがすぐさまノックアウト。
ここまでの道のりは、いたって順調でした。
『シロンたち、ぜんぜんでばんないねー』
シロンはちょっぴり不満そうに口をとがらせますが、
「いいじゃない。わたしたちの魔法は消耗が大きいから、温存できるのは助かるよ。いざってときに活躍できるようにね」
エミルがそうなだめるのでした。
そして迷路を進み続けること、およそ一時間半。
ついに姉妹は、上の階へ進むための階段を発見したのです。
『ごめんなさい……ずいぶん遠回りになっちゃいました……』
シュガーは、ほっとひと息ついてから、申し訳なさそうにあやまりました。
「気にしなくていいよ。無傷でここまで来られたんだから、はなまるものだよ。ありがとうね」
エイルはにかっと笑って、シュガーの労をねぎらいます。
『私にも、感謝の言葉がほしいものだけど?』
するとスノーベルが、半目になりながら胸を張りました。
「あー、そーだね。ベルもありがとねー」
『そのついでみたいな言い方、腹立つ!』
などと、ほほえましいやりとりを交わしながら、姉妹は二階へ続く階段をのぼっていくのでした。
☆ ☆ ☆
ゴオオオッ……!
「わあっ!」
螺旋状の階段をのぼり終えると、エミルはおどろきの声をあげました。
次のフロアはなんと、床がほとんど存在せず、巨大な吹き抜けになっていたのです。
途切れた道のずっと先――いちばん奥には、次の階へとのぼるための階段が見えます。その距離は数百メートル。空を飛べないかぎり、とても届きそうにありません。
しかも、ただ遠いだけではありません。吹き抜けになった階下からは、ゴオオオッと強い気流が吹き上げています。たとえ空を飛べたとしても、この乱気流の中では、まともに飛ぶことさえ難しそうです。
「で、どうやって渡ろうか?」
エイルはさっそく、妹のエミルにアイデアを求めました。どうやら、自分で考える気はあまりないようです。
「うむむむ……」
エミルは顔をしかめ、腕を組んで頭を悩ませます。これは、さっき以上の難問です。
空を飛べるパートナーは持っています。しかし、この激しい風の中を飛んで渡るのは、まず不可能でしょう。
『そうだ! シロン、エミルといっしょにほんでよんだことあるよ! こういうときは、こおりであしばをつくっちゃえばいいんだよ!』
シロンは、またもナイスアイデアとばかりに手をたたきます。ちなみに本といっても、冒険物語ですけれど。
『ムリよ。あの風には、とても耐えきれないわ。それに距離が遠すぎて、私のマナじゃ、あそこまでつなぎきれない』
氷の魔法を持つ雪の妖精スノーベルに、案の定、却下されてしまいました。
何度も自分の考えを否定されて、シロンはがっくりと肩を落としてしまいます。
『さっきの鳥さんなら、こんな風の中でもすいすい飛んでいっちゃうんでしょうね……』
シュガーがぽつりとつぶやくと、エミルも前に読んだ魔法生物図鑑の内容を思い出しました。
【ストームバード】は、どんな強風の中でも、風を切って飛んでいく――
「……ああっ!」
エミルはピーンとひらめいて、思わず声をあげました。
エイル以外のみんなは、その声にびくっとして身をよじります。
「そうだよ! そうすればいいんだよ! またまたシュガーのおかげで、思いついちゃった!」
『え、え??』
エミルにずいっと顔を寄せられて、シュガーはたじたじになりました。
そしてエミルは、はりきって宣言します。
「さあ、みんな! さっきの階にもどるよ!」
エイル以外のみんなはもちろん――
『ええ~~~っ!?』
おどろきの声を重ねるのでした。
☆ ☆ ☆
姉妹は一階に降りると、ふたたび迷路を走りだしました。
そして、エイルと妖精たちの探知によって、単独で行動しているストームバードを発見します。
『キイイッ!』
ストームバードはもちろん、姉妹を見るなり襲いかかってきました。
群れをなしているときは、逃げの一手しか打てないほどやっかいな相手でしたが、一体だけならエイルの敵ではありません。
ガツーン!
エイルは剣の平たい部分を、突っこんできたストームバードの頭にたたきつけました。
まともに攻撃を受けたストームバードは、そのまま床へと墜落します。
「よし、お前! 私の子分になれ!」
エイルは動けなくなったストームバードを見下ろして、堂々と言いました。
しかし、ストームバードは首を縦に振りません。
「ダメだよ、お姉ちゃん。そんなやりかたじゃ。ストームバードは知能も誇りも高いんだから。勝った者に従うなんてルールは、通用しないんだよ」
そんなエイルお姉ちゃんを、妹のエミルはたしなめました。
「レッディ!」
そしてエミルは指輪から、オレンジ色の不死鳥――【ソルフェニックス】のレッディを呼び出します。
レッディが大きく羽ばたくと、同時にあたたかな光が放たれました。
やさしい光に包まれたストームバードの傷が、みるみるうちに癒えていきます。これこそ、不死鳥の持つ癒しの魔法です。
『キィ……?』
ストームバードはゆっくりと体を起こしながら、どういうつもりだ、とばかりにエミルをにらみます。
「きゅうにごめんなさい。でも、わたしたち、あなたの力が必要なの。この塔を攻略するまででいいから、わたしのパートナーになってくれないかな?」
エミルは、エイルお姉ちゃんのような威圧的な態度とは正反対に、温和でやさしい口調でお願いしました。
それが功を奏したのか、ストームバードの目から、少しずつ反抗心が消えていくように見えました。
そして――
『キィ、キィ』
『いちじてきなら、かまわない……って、いってるよ!』
同族のドラゴンだけでなく、あらゆる魔法生物の言葉を理解できるシロンが、ストームバードの言葉を翻訳してくれました。
「ありがとう! それじゃ、すこしのあいだ、よろしくね!」
エミルは、ぱあっと笑顔を咲かせて、お礼を言います。
ストームバードはぶっきらぼうに目を閉じました。
けれど、それが肯定のサインだということは、みんなにも伝わりました。
こうして、一時的に新たな協力者を得た姉妹は、吹き抜けを越えるべく、二階へと取って返すのでした。
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