第15話 風の中へ
ブゥーン……
なんと、エミルたちのまわりに、赤い半透明の球形バリアが発生しました。まるで赤いアメ玉が大きくなって、一行を包みこんでくれているかのようです。
『すごーい! これなら、あのビュービューのかぜのなかにもはいれるね!』
シロンは大よろこびではしゃぎます。しかし、ほかのみんなは……
「ど、どうかなあ……」
『なんかちょっと、たよりない感じね……』
『ほ、ほんとうに、これでだいじょうぶなんでしょうか?』
アメ玉をにぎっているエミルもふくめて、みんな不安げな表情を浮かべています。
『うっ……たしかに、シロンもなんかふあんになってきた……』
シロンも、さっきとは一転して白い顔を青ざめさせました。
この半透明のバリアに、はたしてあの暴風から身を守ってくれるほどの防御力があるのか、だれにもわかりません。ぶっつけ本番で風の中へ進めば、そのままアウト――ということになりかねないのです。
いっぽうエイルは、バリアへそっと手を伸ばしてみますが……
すかっ、すかっ……
赤い壁は、そのまま手をすり抜けていきました。どうやら、物理的な防御力はゼロのようです。
『ひえ~! やっぱムリだよ! なんにもふせいでくれないじゃん!』
シロンは、すっかり絶望してしまうのでした。
『で……でも、もしかしたら、風だけを都合よく防いでくれる……とか、そういうタイプかもしれないし!』
スノーベルが、希望的観測全開のフォローを入れます。
シュガーにいたっては、涙目でガタガタと震えるばかりです。いくら尊敬する女王さまが授けてくださったものでも、とにかく気弱な彼女を安心させるには至らないようでした。
「あーもー! どいつもこいつも、ごちゃごちゃうるさい! さっさと行くぞ!」
「お、お姉ちゃ~ん……」
しびれを切らしたエイルは鼻息を鳴らし、こわがるエミルの腕をつかむと、そのまま風の壁へ向かってずかずかと歩いていきました。
どうやら、この頼りなさそうなバリアはエミルを中心に発生しているらしく、エミルが移動すると、バリアもいっしょに移動しています。
つまり――置いてけぼりにされては絶対にいけない。シロンと妖精たちは、それを本能的に察しました。
『ま、まってよ~!』
だから、あわててふたりのもとへ飛んでいくのでした。
そしてエイルは、バリアを展開しているエミルの手をしっかり握ったまま、吹き荒れる強風の中へ突入します!
すると……
「なんとも……ない?」
エミルは、おそるおそる閉じていた目を開きました。
目の前では恐ろしいほどの暴風が吹き荒れているというのに、その風はバリアの外側を流れるだけで、中にいる姉妹たちにはいっさい届きません。
どうやらスノーベルの推測どおり、このバリアは風だけを防いでくれるもののようです。
『ふ……ふふーん! わ、私の言ったとおりだったでしょ!』
スノーベルは得意げに胸を張りました。……とはいえ、その顔からは冷や汗がだらだら流れています。
『ホントかなー?』
シロンは、いぶかしげな顔でからかうように言いました。
「なんだっていいよ! 入れたんだから! さあ、ガンガン進むぞー!」
エイルはこぶしを突き上げると、そのままずんずん歩いていきました。
もちろん、エミルの手を引くことも忘れません。エミルから離れすぎればバリアの外へ出てしまい、たちまち強風にさらされる――そのことを、エイルはちゃんと理解していたのです。
(お姉ちゃん……やっぱり、かなわないな)
エイルに手を引かれながら、エミルはうれしそうにはにかみました。
エイルお姉ちゃんは、いつだってこうしてエミルを引っぱってくれるのです。そのおかげで、たくさんの見たことのない景色を見てきました。
そして……これからも。
「シュガーも、がんばろう」
エミルは、自分のそばを飛ぶシュガーを励ましました。
エイルが自分にしてくれたように、自分が恋人にしてあげたように、今度は自分がシュガーの背中を押してあげたい――そんな思いを込めての言葉でした。
『……は、はい……』
シュガーはまだまだ弱気でしたが、小さくうなずいてくれました。
エミルが女王のアメ玉のチカラを使いこなし、さらにエイルのともすれば無鉄砲ともいえるような勇気のおかげで道が開けたことで、姉妹への信頼はさらに深まったようです。
バリアの中は風の影響を受けませんが、ごうごうと吹き荒れる音だけは、わずかに聞こえてきます。それはまるで、台風の日に家の中から外の嵐を見聞きしているようだと、エミルとシロンは思いました。
『……でも、かぜのなかにはいれたのはいいけど、どこにいけばいいのかなあ?』
シロンの言葉は、もっともな意見でした。
強風吹き荒れる荒野には、目印になるものはなにもなく、どこを目指して進めばいいのかさっぱりです。
『エミル、アメ玉占いっていうの、やってみなさいよ。行くべき道を探すなら、うってつけだわ』
スノーベルが、「ピーン!」とひらめいたようなポーズで言いました。さっき自分の推測が当たったことで、すっかり気分をよくしているみたいです。
「さすがに、それはムリだよ。スノーベルだって知ってるでしょ? 占いっていうのは、感知や予知能力にすぐれたパートナーがいて、さらに専門の技術を学んでいないと使えない、高等な魔術なんだよ。わたしじゃ、こうしてバリアを張るので精いっぱいだよ」
『んむむむむ……』
エミルの説明を聞き、スノーベルは一転して、くやしそうに口を結びました。
シロンはシュガーの顔を見て、たずねます。
『シュガーはなにか、わからない?』
『……そういえば……ほんとうにかすかですけど……妖精の気配を感じるような……』
「『ほんとうに!?』」
エミルとシロンに身を乗り出して詰め寄られ、シュガーはびくっと肩を震わせました。
『ベルは、なにもかんじないの?』
『う……くやしいけど、まったく』
スノーベルは、さらにくやしそうな顔になりました。せっかく最初の推測が当たって得意になっていたのに、これでは帳消しです。
「すごいね、シュガー。スノーベルはこの国じゃ有名な人のパートナーなんだよ。その子より感知能力が高いなんて」
エミルは素直にほめました。引き合いに出されたスノーベルは、ぷうっとほおをふくらませます。その様子を見ていたシロンは、くすくすと笑っていました。
『で、でも……ほんとうにかすかですから……どこにいるかもわかりませんし……』
シュガーはうつむき、もじもじと指をいじります。けれど、顔をほんのり赤らめているあたり、少しはうれしく思ってくれているようでした。
「なんかがいるってわかっただけでじゅうぶんだよ。あとはテキトーに歩いてれば会えるって!」
エイルは、ますますやる気がわいてきたとばかりに、歩くスピードを速めました。
『テ、テキトーって……』
シュガーはまた不安そうな表情になります。
「だいじょうぶだよ。こういうときのお姉ちゃんのカンは、とくに冴えてるから!」
世界じゅうのだれよりもエイルのことを理解しているエミルが、ぱちんと目くばせを送りました。
その言葉に、シュガーも少しだけ表情をやわらげます。
こうして姉妹と妖精たちは、エイルの直感とシュガーの小さな感覚を信じて、強風吹き荒れる荒野を進んでいくのでした……
お読みいただき、ありがとうございました。
連載開始から一週間を過ぎたので、一日二話更新はきょうで終わり、次回からは「毎日21時更新」とさせていただきます。
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