第13話 新たなる冒険へ
「よしよし。どうやら妖精ちゃんも覚悟を決めたようだねえ」
気がつくと、いつのまにか家の中に、極星魔法つかいロウランと、その副官のデックスが入ってきていました。
「また……今度はしっかりカギをかけたのを確認したのに……」
せっかくいい雰囲気だったのに、エミルは苦虫をかみつぶしたような顔になりました。
「ちっちっちっ。妹ちゃん、あんなカギ、私にとっちゃあ、ついてないのといっしょだよ!」
「まあ、ゆうべもいまも、開けたのはジブンッスけど」
ロウランもデックスも得意げな顔をしていますが、正直どっちでもいいです。そもそも犯罪行為を自慢するなと、エミルは強く思いました。
「それじゃ、ホイ。これを渡しておくよ」
ロウランはローブの中から一枚の紙を取り出し、エミルへ手渡しました。
紙をひろげると、そこには王都アストリアを中心とした、王国中央地帯の地図が描かれていました。
「これ……この王国の地図ですか?」
「そのとおり。でも、注目すべきはそこじゃないぞ」
『あ! なんかバツしるしが、よっつついてる!』
シロンが指摘した通り、地図の北東、北西、南東、南西に、それぞれ四つの×印が書き足されていました。
「ゆうべ預かったアメ玉を調べた結果、灯っていた四つの光は、このアストライト中央地帯の地図に当てはめられるものだとわかった。その印は、アメ玉の展開図から割り出した光が示す地点、というわけさ」
「この四か所には、いったい何があるんですか?」
「聞いておどろけ。この四か所は泣く子もだまる"絶対危険区域"だ!」
「『ぜったいきけんくいき??』」
姉妹たちはそろって首をかしげました。
デックスが解説します。
「その名の通り、高濃度のマナが満ちる、めちゃくちゃやばい地帯のことッス。マナは生命の、自然のエネルギーそのもの。その濃度が高いってことは、とても人間が生きられる環境じゃないってことッス」
『つまり……どういうこと?』
今度はロウランが説明します。
「人間が洗濯機みたいに回されるほどの強風が吹き荒れたり、大瀑布のような勢いで雨が降り続いたり、間欠泉のごとくマグマが噴き出したりと、いろいろやばいところさ。結界に守られた聖域以上に、人が立ち入らない場所と言えるだろう。自慢じゃないが、私も入ったことはない」
エイル以外の全員が、ぞっとしました。
『そ……そんなところに行かなくちゃいけないんですか……?』
せっかくやる気になったまっしろな妖精シュガーも、また心をくじかれた思いです。
「私はそう解釈してる。光がともった四か所すべてが超危険区域を指してるなんて、それらを全部回れと言ってるとしか思えないだろう? 魔王に勝つ自信がない、力が足りないと感じるなら、いい修行になるんじゃないかな?」
ロウランにそう言われると、エミルたちも「たしかに」と納得するしかありませんでした。
『だ……だいじょうぶだよ。シロンたちには、おねえちゃんがついてるもん!』
シロンは期待のまなざしで、われらが"巨獣狩りの剣星"エイルの顔を見ます。
「いや、私もそういうところ、一回行ったことあるけど、すぐにギブしちゃったな」
『ガーン!』
シロンは一転、がっくりとうなだれました。
王国最強の冒険者と言っても過言ではないエイルお姉ちゃんですら踏破できない危険地帯。お先真っ暗だと言わざるを得ません。
「でも……シュクレーヌと、ついでにこの国のためには、行かなくっちゃね?」
エミルは引きつったようなほほえみを浮かべました。とどのつまり、ほとんどやけくそです。
「そうだ。我々に選択肢はない。なあに、”神は乗り越えられない試練は与えない”というじゃないか。今回だって、きっとなんとかなるさ」
『それ、前にもだれかさんが言ってたわよね』
スノーベルはあきれ笑いを浮かべながら、じろりとエミルを見ました。
それから、不安げにうつむくシュガーの手を取り、やさしくはげまします。
『試練なら、私たちはスペシャリストよ。心配いらない』
『……うん……』
完全に不安をぬぐうことはできません。それでも友だちの言葉は確かに胸へ届いたようで、シュガーはほんのり元気を取り戻しました。
ロウランはエミルの前に立ち、今度は赤いアメ玉を取り出して手渡します。
「妹ちゃん。アメ玉はキミに返しておく。私のカンだが、これはまだきっと役に立つぞ。甘いからって、なめたりしないように」
「……なめたんですね」
エミルは半目でじっと見つめました。
「あくまで解析のために味を確かめただけだ! 私をなめないでくれたまえ!」
「はいはい」
エミルはあきれ笑いを浮かべました。極星魔法つかいの中でも、この人はエイルと似たような自由奔放タイプなのかもしれません。
「私もついていきたいのはやまやまだが、甘味消失がらみのトラブルへの対応や、魔王がこっちの世界へ侵攻してきた場合についても考えなくちゃならない。そういうわけだから、キミたちは安心して危険区域に全力投球したまえ」
「安心して危険な場所に行けって、矛盾してるような……」
「お子ちゃまのくせに、細かいことは気にしなさんな。それじゃ、健闘を祈るよ」
そう言って、見た目お子ちゃまなロウランとデックスは、さっさと帰っていってしまいました。
『……あいかわらず、自分勝手な人ねえ』
そんな彼女たちの後ろ姿を見送りながら、スノーベルはため息をもらします。
「話は終わったね? それじゃ、私たちも行くよ」
エイルは食卓のイスから立ち上がり、マントを羽織りました。
「それと、シュガー」
『は……はい』
「これから私たちは仲間だから。いっしょにがんばろうね」
その言葉は、もうシュガーを救助対象として扱うものではなく、対等な仲間として認めてのものでした。
そのひと言は、シュガーの胸に姉妹への新たな信頼の灯をともします。
エミルも、シロンも、スノーベルも、同じ熱量のまなざしを向けてきます。言葉にしなくても、みんながエイルと同じ思いでいてくれることが伝わってきました。
『……はい!』
シュガーは目つきをキリッとさせ、力強くうなずきました。
まだ勇気も自信も、ぜんぜん持てません。それでも、もう仲間たちの思いに応えられない自分ではいたくない――そう強く思ったのです。
『エミル、出発前に、私のパートナーから伝言』
スノーベルがエミルを呼び止めました。
「なあに?」
『"シュクレーヌの存亡、あなたたちを信じておまかせします。あなたたちはいつも通り、自分のやるべきことを成してください"……ってさ!』
その言葉を聞いて、姉妹の胸がじんと熱くなりました。
いまは離れていても、彼女はともに命を預け合った大切な仲間であり、友人です。その言葉で奮い立たないはずがありません。
「「『はーい!』」」
元気いっぱいに返事をすると、姉妹たちは顔を見合わせます。
そして――いざ、新たなる冒険の旅へと出かけるのでした。
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