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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 妖精の国のSOS  作者: 稲葉トキオ


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第11話 ふたりの白い妖精

『ム、ム、ム、ムリです! わたしなんかが、魔王をやっつけるなんて、ムリムリムリ!』


 まっしろな妖精はエミルの背中に隠れ、小さな体をブルブルと震わせながら言いました。


 ロウランはつづけます。


「だが、苦味をあやつる魔王に対抗し、シュクレーヌを救うには、お菓子の国出身の妖精であるキミのチカラと……妹ちゃんの浄化のチカラが必要なんだよ」


「わたしの……ですか?」


 浄化のチカラというのは、呪いや怨念などといった"悪いモノ"をはらうチカラのことです。暴走して我を忘れた魔法生物(ワンダー)を元に戻すこともできます。


 これをあつかえる魔法つかい(ウィザード)はそれほど多くないといわれ、エミルもそのひとりというわけなのです。


「魔術というのは、魔法つかい(ウィザード)と魔法生物(ワンダー)のかけ算だ。甘味のチカラと浄化のチカラをかけ合わせれば、魔王の苦味オーラを打ち破ることができるだろう」


『そこをおねえちゃんが、ズバーってするわけだね!』


「その通り!」


 ロウランにビシッと指さされ、正解したシロンは上機嫌です。


「なるほどね。あのニガニガさえなければ、私がやっつけられるよ。まかせろ」


 エイルも自信マンマンに胸を張りました。


「さらに、妹ちゃんの浄化魔術で、シュクレーヌ自体も元の大地に戻せるはずだ。前にファーブリアの町をまるごと浄化したんだから、できるだろう?」


 ファーブリアの町というのは、少し前にエミルがおとずれた、王国の南にある少し大きな町です。


 とある大きな事件で町はメチャクチャにされかけたのですが、エミルとシロンの浄化魔術によって、みごと元通りになりました。もっとも、それは居合わせた仲間たちの協力あってのことでしたけれど。


「わたしと妖精さんが組めば、シュクレーヌを救えるんだって!」


 エミルも期待に満ちたまなざしで、まっしろな妖精をはげまします。


 それでも妖精はうつむいたまま、しょんぼりとしていました。


 もともと気弱な性格で、さらに姉妹には話していない"友だちを見捨てて逃げた"という過去が、彼女から勇気と自信をうばってしまっていたのです。


 救世主を探しに行くことは承諾できましたが、いざ自分が救世主になるとなると、とてもそんな勇気はありませんでした。


「う~ん、これはなかなか難題ッスね……」


 そんな妖精の弱気を感じ取って、デックスは頭をかきました。


「だが、コトは一刻を争う。こうしているあいだにも王国から甘味はどんどん失われ、もしかしたら魔王が直接こっちの世界に乗りこんでくる可能性だってある。悪いけど、キミにやってもらうしかないんだ」


 ロウランはけわしい表情で、きびしく告げました。


 妖精にだって、それはわかっています。魔王をどうにかしなければ、シュクレーヌも仲間たちも救えないということは。


『だいじょーぶだって、シロンたちがついてるもん!』


 シロンや姉妹のはげましも、効果はありませんでした。


 なぜなら、救世主と期待して連れてきた彼女たちでさえ、魔王には手も足も出ず、故郷を救うことができなかったのですから。恩人ではありますが、その言葉を心から信じることは、もうできなくなっていたのです。


 希望の灯が消えつつある、そんなときでした。


「わっ!?」


 エイルがきゅうに肩をびくっと震わせ、何かに気づいたように目を見開いたのです。


「ど、どうしたの、お姉ちゃん?」


「いや、いま腰のあたりが、ブルっと震えて……」


 エイルはそう言うと、おもむろにショートパンツのポケットの中をまさぐりました。すると……


「なにこれ? 赤い……アメ玉?」


 そこには、そうとしか言いようのない、赤くツルッとした小さな球体が入っていました。


 エイルたちがそれをのぞきこむと、まるで水晶のような美しい透明感をおぼえます。


『あ……! それは、女王さまが占いで使うアメ玉!』


 まっしろな妖精が声をあげました。


「え、そうなの?」


「シュクレーヌの妖精は、占いにアメ玉を使うのか! なるほど、興味深いねえ!」


 ロウランも話にノッてきました。


『でも、それがどうしておねえちゃんのポッケからでてくるの?』


「あー、きっとあのときだ。エミルたちを追いかけようとしたときに、あの赤い髪のヒトが入れてくれたんだ」


 エイルはシュクレーヌ脱出のときのことを思い出し、ポンと手をたたきました。


「ってことは……マスター!」


「うん。これにはきっと、シュクレーヌ救済のための手がかりがあるにちがいない!」


 デックスとロウランも色めき立ちます。


 妖精の中で消えかけていた希望の灯も、ふたたび少しずつ強まっていきました。


 ロウランはさっそくエイルからアメ玉を受け取ると、ルーペでじっくりとのぞきこんでみます。


「んー……表面でなにかチカチカ光ってるねえ。ひい、ふう、みい……全部で四つか」


『どーゆーこと!? シロンにもわかるようにおしえてよー!』


 ロウランはさわぐシロンを軽く受け流し、姉妹にたずねます。


「ちょっとこのアメを預からせてもらっていいかな? 拠点(ホーム)に戻って、じっくり解析したいんだ」


「いいよね、お姉ちゃん?」


「べつにいいよ。私にはさっぱりわからないし、わかる人が持ってたほうがいいでしょ」


 姉妹はあっさり承諾しました。


「よし、善は急げだ。帰るよ、デックス!」


「アイアイサー!」


 そして二人は立ち上がり、今度こそ家を出ようとします。


「妖精ちゃん」


『は……はい』


「明日、解析の結果を伝えにもう一度来る。それまでに覚悟を決めておいてくれるかな」


『……』


 妖精はうつむいたまま返事をせず、ロウランたちはギルドへ帰っていくのでした。


「ふあ~あ……じゃあ、私たちも寝ようか」


 エイルは大きなあくびをして言いました。


 口には出しませんが、戦いのダメージも残っており、疲れがたまっているのでしょう。


『シロンも、ねむたくなってきちゃった……』


「そうだね。明日からがんばるために、きょうはもう休もう。妖精さんも、いっしょに寝ようね」


 エミルの言葉に妖精はこくりとうなずき、一同は寝室へ移動するのでした。



 ☆ ☆ ☆



 寝室の二人用ベッドの上では、すでにエイルとシロンが大きないびきをかいていました。


 まっしろな妖精は、いびきのせいなのか、それとも故郷のピンチを思う悲しみのせいなのか、眠れない様子で窓辺からお月さまを見上げています。


「……」


 そんな彼女を、パジャマに着替えたエミルは、学習机のイスに腰かけながら静かに見つめていました。


 なんとか妖精さんを元気づけてあげたい。けれど、魔王に負けたわたしたちの言葉や態度には、その力がない。そんな思いで、胸がいっぱいになっていました。


(……やっぱり、妖精のことなら、妖精にたのむのがいちばんだよね)


 そう考えたエミルは、小さく決意すると、一枚の手紙をしたためるのでした。



 ☆ ☆ ☆



 そして夜が明け、新しい朝がやってきました。


 姉妹は朝ごはんを食べ終わり、エミルはきょうの新聞をチェックします。


「"三ツ星菓子店グレープキャッスル、一時閉店へ……原因は最近ウワサされる、味の低下か?"……わたしたちが思ってる以上に、事態が加速しはじめてる……」


 エミルはぎゅっと新聞紙をにぎりしめました。


『しんぶんでさわぎになるって、まずくない?』


「うん、かなりまずいよ……なんとかしなくちゃ」


 シロンとエミルの言葉に、テーブルの上へちょこんと座っていた妖精は、またうつむいてしまいます。


 このままでは、ロウランの言った通り、アストライト王国も大変なことになってしまうでしょう。


 ですが……その危機の足音が聞こえてきても、妖精は勇気を持てませんでした。


 友だちを見捨てて逃げたおくびょう者に、魔王と戦うなんてできるわけがない――そう自分を責め続けるばかりです。


 エイルも何も言わず、食卓の上でぼーっとしていました。本人がやりたくないことを、無理強いしたくない、そんな考えなのでしょう。


 まったく事態が好転しない中、姉妹がもんもんとしていると……


 チリンチリーン!


 玄関から、呼び鈴の音が聞こえてきたのです。


「はいはーい」


 エミルとシロンが出むかえに行き、玄関のドアを開けると、そこには……


『ひさしぶり……でもないわね。元気そう……でもないか』


 雪のように白く美しい髪とドレスをまとった、小さくてかわいらしい妖精が飛んでいました。


「いらっしゃい、スノーベル!」


『えー! ベルじゃん! どうしたの!?』


 妖精の名はスノーベル。数日前の冒険で友だちになった、ある少女のパートナーです。


「手紙、受け取ったわよ。大変なことになってるみたいね」


 エミルは、ゆうべしたためたスノーベルのパートナーあての手紙を、探知されない能力を持つ伝書コウモリ【ステルスバット】に託し、夜のうちに届けさせていたのです。


「わざわざ来てくれて、ありがとう」


『……あなたたちには、大きすぎる借りがあるからね。いつでもどこでも来てあげるわよ。さすがに、あのコはムリだけど』


 あのコというのは、スノーベルのパートナーのことです。ちょっとやんごとない身分の少女なので、おいそれと外を出歩くことはできないのです。


 エミルとシロンは、スノーベルを家の中へと招き入れました。


 そして、エイルと妖精の待つダイニングへ移動すると……


『……えっ!?』


『……あっ!?』


 スノーベルとまっしろな妖精は、顔を合わせるなりびっくり仰天。両者とも、羽がピンと張るほどおどろいていました。


 エミルたちもおどろきです。いくら妖精同士、同族が出会ったからといって、ここまでおどろくのはおかしな話です。


 まるで……生き別れた姉妹か、それとも――よほど深い関係でないかぎり、ここまでの反応にはならないでしょう。


 沈黙が場をつつみこむなか、最初に反応をしめしたのは、まっしろな妖精のほうでした。


 まっしろで大きな瞳から、ぽろぽろと涙をこぼしはじめ、両手で口をおおっています。


『……雪の……妖精……無事……だったの……』


 その言葉に、スノーベルの表情もみるみるくもっていきました。


『え? え? どういうこと? ふたりとも、しりあいなの??』


 シロンはきょろきょろと、ふたりをかわりばんこに見つめます。


 スノーベルとまっしろな妖精――はたして、その関係はいったい……?

お読みいただき、ありがとうございました。

しばらくは毎日12時、21時の一日二回更新となります。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、

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