我儘狐の居候 4
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本日4回目の投稿です。
料理の乗った配膳台を受け取り、シャハラはえっちらおっちらと階段を上ると、自分の部屋――すなわち、アズラクの間に到着した。
配膳台を一度床に置き、扉を軽く開くと隙間に爪先を入れる。
配膳台を持ち直して背中で押して扉を開けたシャハラは、そこで、ふと違和感を覚えた。
嗅いだことのない香りが部屋の中に漂っている。
シャハラは香炉なんて焚いた覚えはないが、香りは香炉から立ち上っているようだ。
白い煙が部屋の中を白く濁らせている。
釣鐘の形の窓からは月明かりが入り込み、部屋を淡白く染めていた。
バルコニーに続く掃き出し窓は帳が下ろされているが、それが不自然に揺れている。
シャハラが散歩している間に運び込まれたのだろう。部屋にはいくつもの箱が積み上がっていた。
入り口に多く積み上がっているのは、運んで来た宦官がこの部屋を恐れて、手前に手早く積み込んでそそくさと退散したからだろうと思われる。
明日から箱の中身を出して選別し、片付けなければならないのかと思うとちょっと憂鬱になった。手伝ってくれる女官がいればいいが、怪異の部屋を恐れる女官たちが手伝ってくれるとは思えない。近寄りもしないはずだ。
宦官は女官に用があるときはベルを鳴らせと言っていたが、きっと、鳴らしたところで来ないだろう。食事の配膳すらされないのだから。
シャハラは積み上がっている木箱の上に配膳台を置くと、部屋の一点に視線を止めた。
部屋の中に、異国情緒あふれる二胡の音が響いている。
釣鐘の形をした窓の前。
薄く開いた窓枠に、一人の青年が浅く腰を掛けていた。
手には二胡があり、シャハラに気づいているのかいないのか、視線を一切こちらへは向けず、どこか気だるげに二胡を奏でている。
深みのある音色が空気を震わせる。
その音に合わせるように、部屋の中に充満していた煙がゆらゆらと揺れた。雲を作るように集まったり、霧散したり、花の形になったり、魚の形になったり、実に面白い。
シャハラは目を細めてそっと息を吐き出した。
こちらに気づかないふりを続けるのならば構わない。シャハラから話しかけるだけだ。
「こんばんは。いい夜ね。狐さん?」
ぴたりと、二胡の音がやんだ。
狐さんと呼びかけたのには理由がある。
青年の頭には狐のような金色のふわふわした耳が一対。そして腰の下からは同じくふわふわした金色の尻尾が覗いている。長い髪も金色だ。
銀糸で緻密な刺繍が施された青い衣をまとっているが、その衣はこの国で見ない形をしていた。母詩夏が持っていた古い服にどことなく形が似ている。きっと、母と同じ国、もしくは近し文化の国の服だろうと思われた。つまり、この青年も母と同じか似た文化の国出身なのだろう。
髪と同じく金色をした瞳が、ひた、とシャハラを捕らえた。
(あら、ずいぶん整った顔ね。そして、やはりこのあたりでは見ない顔だわ)
青年の顔立ちはひどく整っていた。だが、この国の男性とは雰囲気を異にしている。
いい意味で男臭くないと言うか、中性的というか、神秘的な顔だ。
座っているからはっきりとはわからないが、背は高そうだ。
全体的に線は細いだろう。
すっきりとした逆三角形の顔に切れ長の瞳。細くも太くもない眉。すっと通った鼻筋、薄い唇。
この国の男はがっしりした輪郭に太めの鼻筋、太い眉に分厚い唇を持った人が多いからか、シャハラは素直に青年を綺麗だと思った。
青年はじっとシャハラを見つめた後で、やおら立ち上がった。
彼は体重を感じさせない軽やかな足取りでシャハラの前までやって来ると、頭上からシャハラを見下ろして来た。やはり背が高い。
そして、不思議そうに首をひねる。
「見えている?」
「見えているわよ。狐さん?」
「本当に?」
疑り深い狐である。
男は二胡をぽいっと後ろに投げた。
するとどうだろう。投げたはずの二胡はしかし、床にぶつかることなく、ふわふわと宙に浮く。妖術だろうか。母から聞いたことはあるが、実に興味深い。
彼は腕を組んだ。
「俺の髪の色は?」
「金色」
「耳と尻尾は?」
「金色」
「俺の服は?」
「青に銀糸の刺繍」
「……本当に見えているな」
納得したらしい彼は、次の瞬間、全身から不穏な空気を漂わせはじめた。
シャハラの肩を軽く押す。
壁にとん、と背中が当たったシャハラの左右にそれぞれ手をつき、息がかかるほど顔を近づけて来た。薄く開いた口元から犬歯が覗く。
「俺を見て悲鳴を上げないのは褒めてやる。だが、好奇心は身を亡ぼすぞ。俺に食い殺されたくないだろう? 十数えてやるから、とっとと出ていけ」
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